⑥尊いものを色々頂きました。
フェリシアさんによる、ロビン様攻略の心配はなくなった。
でもロビン様がモテるのには変わりない。
環境が変わり、ストレスなく勉強に身が入るようになったのだから、益々励まなければ、と気を引き締めている。
ようやくロビン様の眩しさにも慣れ、関係改善の方も『一言二言でも話す』『なるべく顔を見る』など小さな努力を続けている。まだ少し緊張してどもったりはするものの、以前より気軽な会話が成立するまでになった。
今まではどうしていたのかというと。
もともと彼の口数はそんなに多くないことや、彼の好きな魔道具や術式の研究・開発のことなどを聞けば割と一方的に語ってくれるので、そのことに助けられていた感じ。
魔術塔の研究室に顔も出しているくらい優秀なロビン様の知識は、学園で履修する範囲などとっくに超えている。
当然ながら、してくれる話は概ね難解であり、私は聞いてもあまりよくわからない。だから最後に添えてくれる『簡易一言まとめ』みたいので漠然と理解するだけなのだけれど、聞くのは以前も今も好き。
好きなことを話しているロビン様は眩しさ三割増しだし、なにより好きなことを話してくれること自体が、とても嬉しい。
でもその間にちょっと会話ができると、やっぱりもっと嬉しい。
(共有できたら更に嬉しいかも……難しいけど、術式や魔道具の勉強ももっとしてみようかな)
心配していた両親と兄も、私の様子を見て温かく見守ってくれるようになり、家族との関係も良くなった。
なんとなくだけど、ロビン様との距離も近くなった気がする今日この頃。
そんなある日の登校中。
「……ジル」
「はいっ!」
「ほら、コレやる」
「えっ! ええぇぇ~あっありがとうございます!」
「町に行ったついでに買っただけで、別に大したもんでもない」
「お前いつも大袈裟すぎるわ」と溜息混じりにそう言って顔を背け、長い脚を組み直し、馬車の窓枠に肘を掛け頬杖をつく。
これは明らかに、照れているツンデレ仕草……うむ、尊い。
(有り難や……今日は朝から素晴らしいツンデレを堪能したわ……これで三日は元気に頑張れる……)
「……おい、拝むな馬鹿」
「ヒェッ?! み見られてたぁぁぁぁ!」
「バッチリ窓に映ってたが?」
最近、なんだかロビン様に物を貰うことが増えている。
大体はお菓子などの消え物で、あとは文房具などの日用雑貨が多い。なんだって嬉しいが、やっぱり手元に残る物は嬉しさも一際。
まあ、お菓子も包み紙とかは綺麗にしてスクラップしているのだけれど。
(うふふ、この袋も取っておこうっと♡)
そんなことを考えながら、特になにも描かれていない茶色一色の袋を開ける。製紙技術がそれなりに発達し一般普及している、この世界にも感謝だ。
「……ひゃあぁぁぁぁぁぁぁぁ!?!?」
「なんだ、虫でも入ってたか?」
「リリリリリリリリリリリ」
「え、虫が乗り移ったのか?」
「リボンじゃないですかぁ~!!」
「そうだけど?!」
まさかの装飾品である。
あらヤダ、今日私死ぬんじゃない?
「うわああぁぁ……」
「……なんだよ」
「……このリボンは必ず私の棺桶に入れてください……」
「なんで死んでんだよ?!」
「嬉しすぎて……最早運を使い果たしたかもと……」
「いや……リボンくらいで嬉死ぬな、俺が酷い扱いしてるみたいで不名誉だろうが」
「ふぬぅううぅぅリボン嬉しいですぅぅ毎日着けますぅぅ!!」
「つーか泣くな、うぜぇ」
感動に涙する私に、ロビン様はハンカチを投げて寄越す。ツンデレ尊い。
「……このハンカチも貰ってもいいですか?」
「イキナリ図々しいな? まあいいけど」
「えへ」
「早速しまおうとすんな、なんのために渡したと思ってんだよ。 拭け、顔を」
「あ、自分のがあるので大丈夫です!」
「! ……あ」
「?」
『自分のがある』とウッカリ言ってしまい、てっきり『じゃあ返せよ』とツッコまれるかと思いきや。
ロビン様は変な間のあと「……あっそ」とだけ言って、また脚を組み直して頬杖をつき顔を背けた。
再びのツンデレ仕草。
いや、眼福だけども。
(なんで? ──あ)
思い出したのは、前世の記憶……ではなく、幼い頃のこと。
『また泣いてる……ほら、これで顔拭け。 みっともねぇ』
『いいぃぃ……』
『よくねえ。 俺が泣かしたと思われんだろ』
『だって、ロビンさまのハンカチが汚れちゃうもん……』
『ああ……そんだけ鼻水垂らしてればそうかもな。 でも拭け。 心配しなくても、俺は二枚持っている』
当時、私の着ていた服は既製品のワンピースドレスが多く、ポケットのついていない仕立てのものばかり。なので、ところ構わず良く泣く私の為に、ロビン様はハンカチを二枚持ち歩くようになっていた。
ちなみに、制服のジャケットには勿論ポケットがついている。
「もしかして、今もまだ二枚持ち歩いているのですか?」
「ッ!」
どうやら図星らしく、ビクリと肩を震わせたあとで、チッと舌打ちしながら短い髪の頭をガシガシとかくと、開き直ったように腕を組んだ。(眼福)
「……別にお前の為じゃねぇ。 癖になってるだけ──……はっ?! っていうかお前、自分のハンカチがあるなら返せよ!」
「あ」
気付いてしまったか。
しかし、ツンデレの『別にお前の為じゃない』は『お前の為だ』も同義であり、ツンデレスキーが一度は言われてみたいツンデレ台詞の中でも常に上位を誇る、名台詞中の名台詞に違いないのだ。
そんな言葉に加え、レア度の高いガチ照れツンデレ仕草まで頂け、テンションが爆上がりの今の私は無敵。
渡さぬ。絶対。
「嫌です! 『貰った物は僕の物』!!」
「子供か!!」
『貰った物は僕の物』とは。
こういう場合など、貰った物の返却をくれた相手が求めてきた時に『貰った物は~返せない~♪』『貰った物は~僕の物~♪』と歌いながら、その物自体を相手にヒラヒラさせ所有権を主張するという、喧嘩が勃発しがちな子供の煽りフレーズである。
「チッ……もういい」
舌打ちと共に、ロビン様は三度目のツンデレ仕草をする。
私は窓ガラスに自分のマヌケな姿が映るのを忘れ、ついまた拝んでしまい、ロビン様にしこたま怒られてしまった。
──しかし、翌日。
「はわぁああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
「はぁ……いちいちうっせぇな……」
『毎日つける』と言ったのを気にしたロビン様が袋一杯の様々なリボンをくれ、思わず雄叫びを挙げて号泣してしまうことになろうとは。
この時の私は、想像もしていなかったのである。
ロビンは「毎日つけたらすぐボロくなんだろうが。 そんなモン贈ったとか思われくねぇ」などと供述している。ツンデレ仕草つきで。
ちなみに袋の一番下にはハンカチも入っている模様。用意周到。




