④勝てなくても負けません……!
そして暫く経ち。
知識の偉大さを痛感するも、それより、このところの私は『自分のポンコツさ』を痛感せざるを得なくなっていた。
(うう……近付けないわぁ~!)
誰にって、フェリシアさんにである。
美少女なだけでなく聡明で明るく性格もいいフェリシアさんは、すぐに皆の人気者になってしまい、いつも人の輪の中心にいるので全然近寄れない。
それどころか私は完全にぼっち。
前世では目立つタイプでこそなかったものの、割と誰とでも仲良くなれる方だった気がする私だが、所詮は記憶。
残念ながら現世の経験が、ここでも上回っていた。
(仲良くなって、転生者かどうか確かめたかったのにぃ……)
一方で『やはり乙女ゲームでは』という疑いは増している。
彼女の正統派ヒロインみが。
男子より女子と話している方が多く、今のところ攻略対象との接触はないどころか話題にも出さない上、授業態度は真面目で所作は徐々に洗練されてきている。
ビッチヒロイン要素がない。弁えている。
ぼっちの私にも彼女は挨拶をしてくれるし、たまに話し掛けてもくれるのだが、ロビン様のことを聞かれたことはない。
ロビン様はたまに教室まで送り迎えをしてくれるので、必然的に何度か顔を合わせる機会もあったのに、特に興味を示した様子も見られなかった。
むしろ──
「ジリアンさん」
「! も、モニーク様……」
「うふふ、ちょっとよろしいかしら?」
ロビン様を気にしているのは他の女子達。
特に、以前から私に敵意を向けてきたモニーク・キルロー伯爵令嬢とその取り巻き。
モニーク様は伯爵令嬢なので勿論、別クラス。なのにわざわざ来るあたり、嫌な予感しかしない。
しかし今の私のコミュニケーションスキルでは上手く断ることはできず、従うより選択肢はなかった。
連れて行かれたのは学舎裏。
まるで古き良き少女漫画のテンプレのような展開に、自身の顔面評価も相まって『あら私昔の少女漫画にヒロイン転生したのかしら?』とかが頭に過ぎる。
余裕ではなく、現実逃避的に。
「ジリアンさんたら、随分寂しそうでなくて? 貴女、相変わらず内気でらっしゃるのねぇ……エリカから『クラスで浮いてる』と聞いて、あたくし心配していたのよ?」
優しく声を掛けてくれているようだが、これはいつものパターン。
茶会やパーティーに呼び、わざと周囲に外させて、彼女がそれを執り成す。指示しておきながら、救いの手を差し伸べるというマッチポンプが彼女のやり方なのだ。
(今までも薄々疑ってはいたけれど、悪い人だと思う自分の心が穢れてる気がして、考えないようにしてたのよね。 思えば純真無垢だったわ……)
現実から目を逸らして自責に転化するのは愚かかもしれないが、弱者の苦い処世術でもある、と前世知識が言っている。
抗うハードルは高い。それを超えても、大概はより酷い目に遭う。その経験が更に自尊心を傷付けハードルを高くする。
それなら目を逸らし、せめて不満を抱かないようにする方がまだいい。目は逸らしても選択をしてないワケではなく、他の選択肢より幾分マシなのがそれだ、というだけなのだ。
……あら? 案外人間関係で苦労してたのかしら、前世の私。
とはいえ、自責はもうやめる。
前世の記憶を思い出してから今後の具体的改善案を考えていた際、これまでの失敗や自身の悪いところを振り返ったのだが。
考えてみれば、そんなことは今までも嫌になる程やっていた。今までだって、上手くいかなかっただけで『変わりたい』とは思っていたのだから。
なので、その『原因はなにか』を把握し理解する方向にアプローチを変えた末、私は『彼女達から受けた仕打ちが、一番の原因である』と既に結論づけている。
ぼっちなのもこの人のせいだ、と今確信した。
馴染めないのは私の臆病さのせいだけではなかったことに、少しだけ安堵する。
「ご心配お掛けして申し訳ございません……」
いつものように謝ると、モニーク様は満足気に微笑む。
でも、これで終わらせない。
依然として弱く、抗うハードルは高いまま。
だが、『勝てなくても負けない』ともう決めていた。
「で、ですがご厚意に甘えてばかりではいけないので、これからは自分でなんとかしようと思います……ッ」
「……あら、そう?」
私の返しが予想外だったらしく、モニーク様は僅かに間を空けてそう言う。
変わらず笑顔だが、一瞬眉が不機嫌そうにピクリと上がったのを見た。怖い。
空気がヒリついてすぐ、すかさず取り巻き達が前に出る。
「ねぇジリアン、アナタちょっと勘違いしてるんじゃなくて? お優しいモニーク様がこう仰るから、折角私達も仲良くしてあげようって思ったのに……」
「……」
「そうよ。 そうじゃなかったら陰気で面白みのないアナタなんて、誰も構ってくれないのよ? 今までだってそうだったじゃない」
今ならわかる。
こういう風に言われ続けて、どんどん自分に自信がなくなって『私なんか』と思うようになっていったのが。
でもそれを理解した今だって、やっぱり責められると怖いし惨めだ。
逃げ出したくても足が震えるし、反論したくても声が出ない。
「まあまあ皆様、あまりキツいことを言ってはよくないわ。 ジリアンさんだって頑張ってらっしゃるんだから」
「モニーク様はお優し過ぎますわ! この子はだから甘えてしまうのです、私達にお任せくださいませ」
「そう……?」とさも心配そうに、モニーク様は首を傾げて私をチラリと見る。
俯き震えながら、それでもその様子を視線の端に捉えた私は、自分に言い聞かせた。
(ほら、思った通りの展開でしょう?)
これは茶番だ。
大丈夫、展開はわかっている。
ここからはロビン様のことを出して『分不相応だ』という旨のことを言ってくる筈。
「いいこと、ジリアン。 私達が厳しく言うのはアナタの為なのよ。 身の丈を知らないと、色々な方にご迷惑がかかるでしょう?」
「実際アナタ、ホルブルック様にご迷惑をお掛けしてるじゃない! 嫌だわ~、男性には頼って私達には頼れないってワケ?」
「そうよ! 大体、ホルブルック様だって嫌がっていらっしゃるのよ」
「『ただの幼馴染みなのに、婚約者気取りでウザい女だ』って仰ってたわ」
「私も聞いたことあるわ! 『両親が仲が良いから粗雑に扱えなくて大変だ』って」
「やだぁ、お気の毒~」と取り巻きが囃し立てる。
いつもならこのあたりでモニーク様が、それらがさも事実であるように匂わせながら、やんわりと止めるのだけど──
「……言ってません」
「!」
「「「えっ?」」」
この時だけは否定すると決めている。
勇気を振り絞って、顔を上げた。




