③変わってみせます!
「おうジル。 昨日は大丈夫だったか?」
(はわぁああぁぁぁぁ!!)
『変わってみせる』と固く決意した私だったが、三次元の破壊力は半端なかった。
それは再三再四に渡り反省したというのに、脳内で可愛く『はわわ』ではなく雄叫びを上げてしまう程。
更に言えば、恋愛感情を自覚したばかりなだけでなく、心配までされている。
つまり『もともとの麗しさ』+『前世の記憶による尊みの増幅』+『恋心フィルター』+『心配してくれている喜び』……そりゃあ目も眩む輝きにもなるというもの。(遠い目)
(ぐぬぬ……これは平静を保つのは無理だわ!)
「なんだ、まだ具合よくねぇのか。 休めば?」
「いえっ! この通り元気一杯ですわ!!」
「……ふ~ん」
素っ気ない態度だが、学園に着くと「チッ、しょうがねぇなぁ」と言いながら鞄を持ってくれ、私の教室まで送ってくれた。
お礼を言うと、「フン」と鼻を鳴らしながらも少し照れたように目を逸らし、去っていく。
(ふぉおぉぉぉぉ! ツンデレ最っ高!)
周囲からの羨望と嫉妬の眼差しを受けるも、私はそう悶えざるを得なかった。やっぱり今も他人の目は気になるのだが、尊みとトキメキが天元突破しているので、それどころじゃないのだ。
『幼馴染みで暫定婚約者』という特権を甘受した特別扱い──とはいえ、そこに彼からの嫌悪や忌避は感じられない。
恋愛ではなくとも、明らかに情は抱いてくれている、と今は自信を持って言える。
なぜなら、前世知識がイイ働きをしてくれたおかげで、萌えどころである表情変化を確認するタイミングはバッチリ。
今までは気まずくて俯いてしまったり、『嫌われる』という不安からちゃんと見れなかったのだ。
……勿体ないことをした。
活字じゃ表情を堪能しづらいところも、小説で『俺様』や『ツンデレ』が人気をなくした理由のひとつかもしれない──などとどうでもいい考察をしつつ、視覚に訴えかける三次元の圧倒的な力を感じずにはいられない。
しかし変わるどころか、慣れるので精一杯になりそうな予感がヒシヒシ。
そもそも、前世を思い出したからといって、私の性格が劇的に変わったとかではない。知識が増えたことにより多少の自信は得たが、依然として内向的なビビリのままである。
(ダメだわこれじゃ……関係改善の努力はするとして、フェリシアさんの動向を探ったりもした方がよさそうね……)
『お邪魔モブ』まっしぐらなのでは、という不安もあるのでできれば避けたかったが、関係改善より先に攻略に入られては元も子もない。たとえ『お邪魔モブ』だろうが『BSS』だけはなんとか阻止せねば。
幸い彼女は同じクラス。
初年度のクラスわけは伯爵家以上の高位貴族と子爵家以下の下位貴族及び平民とで別れているらしく、第二学年からは成績順らしい。
当然、攻略対象と思しき方々も、公爵令嬢も別クラス。
(初年度はチュートリアル・ステージなのかしら? それか先輩方の攻略をメインにしたステージなのかも……? 或いは──)
可能性はいくつもあるが、少なくとも同級生攻略対象への本格的な攻略が始まるのは『第二学年』と考えた方が良さそうだ。
ならばまだ時間はある。
色々考えた結果、ロビン様との関係改善を含めた、苦手な対外的な面に於いての目標設定は、敢えてしないことにした。
もちろん努力はするつもりだが、その成果については期待してはいけない。そのあたり、私は自身を信用していないし、すべきでないと思っている。
だって、人ってそんなに簡単に変われないし。
簡単に『努力で変われる』などと言う人は、上手くいかない辛い経験をしたことがないか、他人や結果に揺さぶられない強い心の持ち主のどちらか……と、前世の知識が言っている。負のループを経験した私も、大いに納得できるところだ。
何事にも努力は当然必要だけど、悪意で傷付いた人が悪意に敏感になるように、できない人程ハードルは高くなるモノ。だから必要な努力量と進捗が、どうしてもできる人の比ではなくなってしまう。
別に『努力で変われる』という理屈が間違っているとは全く思っていないが、強者のやり方では無理が生じるだけ。そんな自身の弱さから目を逸らしても仕方なく、むしろ自覚して弱い自分に合わせるべき。
私は弱い。きっと無理をしても失敗してガッカリし、それが更なるハードルになるのだから、目標は漠然としたままでいい。
それよりも第二学年に備え、できそうな勉強とか美容の努力を併せてしておいた方がいいだろう。目標を設定するならそっちだ。
(知識って偉大だわ……!)
今まで迷って迷って見えなかったことが、見えている感覚に感動する。
経験という重みを伴う前世知識には及ばなくとも、もっと本を読むとかすれば今までの悩みも少しは違っていたのかもしれない。




