②どうやら転生先は乙女ゲームらしいです。
※二話同時投稿、こちらは二話目です。
前世の記憶は曖昧だが、私はおそらく非常に普遍的な、どこにでもいるような女だったように思う。仕事はなにかや、家族構成などは紗がかかって思い出せない。
ただ家事や仕事のちょっとの空き時間で手軽に読めるWeb小説はそれなりに読んでいた覚えがある。タイパがいいので短編ばかりだけど、『転生モノ』は結構好きだった。
その状況に酷似しているものの、『乙女ゲーム』と思ったのは、小説とは似ていない部分から。
私が読んでいた小説が概ね『転生モノ』でも特に『悪役令嬢モノ/短編』だったからもあるだろうが、イケメン達には婚約者がいた。
ピンク髪ヒロインは婚約者持ちに手を出す不届き者であり、メインヒーロー以外は誑かされたクズ男で、報復されるのが基本。
しかし、『乙女ゲーム』とはそもそも、イケメンを籠絡というか、攻略するゲームなのだ。
もし本当に乙女ゲームなら『悪役』はまだしも、『婚約者』というポジションはヒロインにヘイトが集まるのでノイズでしかない……と友達が言っていた気がする。
(もしかしたらこの世界に有用そうな記憶だけ思い出したのかしら?)
生憎私はゲームには詳しくないが、私もこの友達の家で乙女ゲーム数種類を何度かやったことくらいはあった。
ゲームの舞台は学園ではなかったけれど、学園にはフェリシアさんを含め、そのパッケージの構成によく似た一際目立つ方々が在籍している。
それだけでなく、皆様、揃いも揃って何故か婚約者がいないようなのだ。
考えてみれば、明らかにおかしい。
そしてその一際目立つ、攻略対象と思しき方々のタイプがそれぞれ個性的で、個性が被っていないあたり。
キラキラ王子様(先輩)、クールで影のある魔術師(先生)、俺様公爵令息(同級生)、オサレでチャラい侯爵令息(先輩)、マッチョで寡黙な伯爵令息(同級生)。
それぞれ将来有望なイケメンであるが、王子様以外なんとも癖が強い。
その辺がまた、攻略するのが前提であり、どの方もメインヒーローになり得るという乙女ゲームっぽさを醸している。
強いて乙女ゲームっぽくない部分を挙げるならショタ枠のキャラがいないところだが、ショタ枠だけに中等部とかで、私が把握してないだけかもしれない。
そして女子で目立つのはふたり。
可愛い系美少女のフェリシア・ロッド男爵令嬢と、怜悧な美少女イヴァンジェリン・ライツ公爵令嬢。
家格差も、実にヒロインとライバルキャラ感満載である。
しかもフェリシアさんはまだしも、公爵令嬢であるイヴァンジェリン様にも、まだ婚約者はいないらしい。
「ああ……っ!?」
また叫びそうになった私は、慌てて両手で口を塞いだ。
(ロビン様……攻略対象じゃない?!)
──ツンデレ枠の。
そう、Web小説だと最早嫌われがちなツンデレだが、乙女ゲームならむしろ必須キャラ。
他媒体はともかく、乙女ゲームのツンデレ枠は『恋愛を拗らせて相手にツンツンしちゃう人』というよりも『もともとツンツンしてる人』──デフォがツンなのだ。
攻略が進むにつれて、デレを出してくるのを楽しむモノであると言っていい。
ロビン様は美形で優秀、『皆にツンツンしている』が『本当は優しい』という、実に乙女ゲームのツンデレ枠っぽい方だ。
(となると……私は『お邪魔モブ』なのでは?!)
そんな役どころが乙女ゲームにあるかは知らないが、イベントにのみしゃしゃり出てくる程度の悪役令嬢なら、ゲームに無理なく組み込めそうではある。
私達の婚約は口約束のみの正式なモノではないとはいえ、一応距離感は他より近いと言っていいだろう。
だが結局のところ、婚約者でも恋人でもないただの幼馴染み。
そして中途半端な美少女。
攻略対象とヒロインの仲を盛り上げる為の『お邪魔モブ』……なかなかピッタリ。
「んぬぁあぁぁぁぁ!!」(※控えめ声量)
(──って『なかなかピッタリ』じゃないのよぉぉ!!!!)
私は脳内の冷静な私に「だからそこはヒロインなら『はわわ』でしょうが! それじゃ『お邪魔モブ』まっしぐらじゃないの!」とツッコミを入れられながら、ベッドの上で懊悩しゴロゴロ転がった。
(嫌だ! 取られたくない!!)
まだ単なる幼馴染み風情、『盗られる』と言うより『取られる』である。
「──はっ! たしかこういうの『BSS』って言うのよね!」
『BSS』とは『僕の方が先に好きだったのに』という、先越され失恋展開を指す略語。
今ハッキリ自覚した。
私はロビン様が好きなのだ。
幼馴染みではなく、ひとりの異性として。
前世知識、侮りがたし。なかなか役に立つ。
(そうよ……私には幼馴染みと暫定婚約者に加え、前世知識というアドバンテージがある……!)
『いや、幼馴染みと暫定婚約者のが普通に考えてアドバンテージだから』と言うならまあそうなんだけど、私にそれは違う。
なんせ私はロビン様の前だと『普通』じゃない……昔のようにはいられないので、アドバンテージとして充分に機能していないのだ。
「私……変わるわ!」
有効に活用するには、なかなか変われなくて、嫌いになっていた自分から脱却すること。
前世知識はきっと、その後押しになる筈。
事実、嫌いだった茶髪茶眼という平凡な色味の容姿の自認を『まあまあの美少女』まで引き上げてくれたのだから。




