<第三章:死と呪いの花嫁> 【12】
【12】
連行され城の地下牢に入れられた。
格子越しで尋問が行われる。当然、武器は全部没収された。
「57名以上の冒険者。7名のウルス氏族。あと、最近揉めていたエッジブレンドさん。以上の方々への殺人の容疑をかけられています。フィロさん、申し開きはあります?」
俺の担当は、触手と両手で資料を捲りながらそう言った。
「何かって言われてもな。ウルス氏族って誰だ?」
「銀髪のエルフの方々です」
「ああそれか。襲ってきたのは向こうが先だ。俗に言う『抜いたのは向こうが先』ってやつだ」
この国の殺し合いは、『先に武器を抜いたほうが悪い』となっている。法というより喧嘩のルールみたいなもんだけど。
「証明できる方は?」
「あーいない。逆に聞くが、俺がやったと証明できる奴は?」
「証拠が沢山出ています。最近、魔法使いの杖を売りましたよね?」
「………な、何のことかなぁ」
冷や汗が出た。
「知り合いのエルフさんが、あなたから買ったと証言しています」
あのエルフ、簡単に俺を売りやがった。
「魔法に使う触媒って、一点物しかないのですよ。裏でも表でも売ればすぐ足が付きます。ルミル鋼の剣なんかも一点物ですよね」
「せやな」
「その剣を持って出迎えてくれましたよねぇ」
間抜けなことに、その通り。
だが、
「そこまで堂々としていると、逆に怪しさがなくならないか?」
「そんなことないです。滅茶苦茶怪しいです」
ぐふ。
「弁解があるならどうぞ」
「杖は、死体を漁って回収した」
「遺失物は、まず冒険者組合に預けますよね。パーティの生き残りがいて、まだ活動しているのなら彼らに返す。発見者は冒険者組合から報酬を得る。パーティが解散、全滅していた場合は発見者の物ですが、当然なことに税金は支払っていただきます。何故、その当然の手続きを無視したのですか?」
「冒険者組合の管理外だと判断したからだ」
「管理外?」
「ダンジョンを歩いていたら、転移して知らない場所に飛ばされた。放置された死体や、回収されてない武具の量を見て管理外と判断した」
「その場所の報告、してませんよね?」
「してません」
あ、うん。駄目だ。
嘘に嘘を重ねても面倒になるだけ。
「カツ丼頼みます? 正直に全部吐いちゃいましょうよ?」
「カツ丼あるのか」
カツ丼以前に、米を随分と食べてない。
「【冒険の暇亭】の隠しメニューですけど、出前頼めますよ? 食べられるのは、ぜ~んぶ白状した後ですけどね」
「はぁ、まー」
どこまで言っていいものか、一番困るのはライガンの爺の悪行が“今”バレることだ。他の奴に倒されたんじゃ俺の名声にならない。俺があいつを倒した後なら、どれだけバレても困らない。
「話は変わるが」
「変えないで、質問に答えてください」
「何でお前が尋問してんの?」
衛兵の仕事じゃないのか?
「担当している冒険者が重大な罪を犯したら、ロージーちゃんの責任問題になるからです。うぐぅ、またお給料が下がる」
「んじゃ見逃してくれ」
「そっちの方が後々大問題になるじゃないですか! いい加減怒りますよ!」
荒ぶった触手が格子を叩いた。
いつものふざけた態度じゃない感じが、事態の重さを表している。
「フィロさん、いいですか、次は除名じゃすみませんよ? 最悪、死刑。良くても国外退去。聖女様もただではすみません」
「ハティは関係ないだろ」
「あなたを釈放しろと王女に掴みかかったので、別室で監禁中です」
「おふっ」
なんてことを。
まて、アリステールは?
「もう1人いただろ。どうした?」
「ああ、ライガンの孫娘と言われている方ですね。あの人、なーんか嫌な気配がするんですよね。ロージーちゃんの触手にピリピリするのです」
「どうした?」
格子を殴る。
「聖女様と一緒に監禁中です」
「護衛はいるんだろうな?」
「もちろん。ここよりも厳重です」
不安だ。
例の獣とやらが暴れ出したらハティが危ない。
「アリステールだけでも、俺と同じ牢に入れろ。このまま俺をここにぶち込んでおくならな」
「するわけないでしょ」
「だよな」
こいつらのためにも言っているんだが、無駄か。
「いい加減、白状しましょうよ。訳ありで、ライガンと揉めているのはよーくわかっていますから、悪いようにはしませんて」
「俺もライガンになる。アリステールと結婚してな」
「それはおめでとうございま――――――聖女様はどうするんですか!? あんなラブラブなのにフっちゃうの!?」
「別に、俺たちは付き合ってない。仕事上の付き合いだ」
表向きはな。
「ウッソだー、仕事上の付き合いだけで王女様に突っかかる人いませんて。あれ女の顔でしたよ。バレバレのバレテーラ」
「やかましい。聖女様に男がいるわけないだろ」
「あ、やば。話それちゃった。ぶっちゃけ、ロージーちゃんも他の方々も、フィロさんが殺したとは思ってませんよ。エッジブレンドさん以外は」
こいつの目の前でやろうとしたので言い逃れできないか。
「それは置いておいて、ライガンの表にバレたらマズい情報、フィロさん握ってますよね? それ話すのって無理なのですか? まさか、何かしらの方法で聖女様が人質になっているとか? ああだから、ライガンの孫娘さんから聖女様を放そうと」
「あたらずもがな、ってところ」
現時点では何とも言えない。蛇や他の連中が言うように、ハティの属してる組織をライガンが恐れているなら下手は打たない。ハティを人質にして、俺に何を要求するのかも不明だし。
「自分もライガンだから話せない。庇っている、と考えても?」
「それは違う。行きずりで結婚は決まったが、ギュスターヴ・ライガンは殺せるなら殺す」
「何故に?」
「名を売りたいからだ」
「今時殺しで名を上げるなんて………ああ、ギュスターヴ・ライガンなら上がりますね。王女様も喜ぶと思いますよ」
「喜ぶのか」
ライガンは王女とも因縁が?
「ギュスターヴ・ライガンには昔から黒い噂が絶えません。ライガンに消されたと思われる人間は、百を超えると言われています。フィロさんみたいに殺して名を上げようとした冒険者も多いですよ。一時期、懸賞金がかけられていましたから。支払い元が亡くなったので無効になりましたけど」
「支払い元? そいつは誰だ?」
「先王、レムリア王です」
なるほど、色々と納得がいった。
「先王が亡くなってから16年ですからね。懸賞金のことを覚えている人は少ないですが、恨みはまだまだ残っています。そういう恨みを買い漁っては、ライガンは人を消す。王女様も探りは入れているのですが、全く足を出さない用心深い野郎です。関わってまだ消えていない人間は、フィロさんだけですよ」
「俺は、貴重な生き証人ってところか」
「そゆことです」
「つまり、俺への殺人容疑は建前なんだな?」
「それはそれこれはこれ、正直フィロさんも怪しいですね。だって、ライガンの婿養子さんですから」
「………………」
あの爺を国側も消したいのは伝わってきた。
となると………となるだな。
「こういうのはどうだ? 俺とアリステールを一時的に釈放してくれ。ギュスターヴ・ライガンを殺してくる。殺した後でなら、お前らが聞きたいことを何でも話してやる」
「ご冗談を」
「ハティを人質にしていい」
「見捨てて逃げない保証は?」
「俺たちの関係は察しがついているんだろ?」
「いや、否定したじゃないですか。怪しさが増しただけですって、何故にアリステールさんは連れて行くので?」
「爺の居場所を知っている可能性があるからだ」
「うーん、それ聞いちゃったら彼女をちょっとキツメに尋問しちゃった方が――――――」
うなじに刺さる針に似た感触。
やっと来たか。あの金の蜘蛛は左の小指で呼び寄せることができるのだ。近くまで来たら、いつも通り俺の首に糸を繋いで意思を疎通させる。
「――――――へぶっ!」
ロージーが格子に巻き付けられた。
その全身をまさぐって、鍵を取り出し牢を開けた。
「ちょちょちょちょ! それは駄目ですって絶対に駄目なやーつ!」
「ちょっと爺を殺してくる。その後、全部話してやる。新しいライガンがな」
蜘蛛が持ってきた武器をベルトに挿し、マントを羽織る。
「フィロさん! 本当にギュスターヴ・ライガンを倒すのなら、権力を頼りましょうよ! 楽で確実ですってば!」
「はぁ? お前らに頼ったら王女の手柄になるだろ。あいつを倒した名声は俺1人のものだ」
「そういう考えの人たちが、何人負けたと思っています?」
「知らんが、その中に俺はいない」
「“まだ”いないだけでしょ! 馬鹿ですかあなた!」
「冒険者らしい冒険者としての行動だと思うが、組合員ならわかれよ」
「ふかー! このわからず屋!」
うるさいので、ロージーの口に糸をグルグル巻きにして黙らせた。
むー! とまだうるさい。さて、また城の連中に見つからないように逃げるか。二度目だから余裕だ。
が、
「あらあら~、どういう状況かしら?」
牢の薄闇に白銀のドレスと髪が映える。大胆に開いた胸元からこぼれそうな胸が見えた。狐のような獣耳と、ヴェールで隠れた顔。
こんなところに、王女様が現れた。




