第三百五十話 琥珀色の空の下で戦いの終止符を。
俺は光る金盤を手にしつつ、周辺の状況を見渡してみる。皆、この異常状態にあっけに取られており、敵味方の誰一人動くものはいなかった。アイドナを除いては。
《金盤を中心に、金のパワードスーツが囲んでいます》
後ろを見ると、鹵獲した金のパワードスーツが浮かび上がっていた。持っている、金盤を中心にして、三角形のエリアが築き上げられている。
なんだこれは?
《すぐに、マスターキーを金盤に》
言われるままに、俺はマスターキーを金盤に取り付けた。その、次の瞬間だった。
次々に広がっていく、光のコンソールパネル。そして空を埋め尽くすまばゆい光が金の鎧を通り越し、どこまでも果てしなく続いて行った。そしてアイドナが言う。
《コロニー全システムへのアクセスが可能。メインシステムへルートアクセス認証》
どういう……。
俺が戸惑っていると、アイドナが言う。
《メインシステム連結。全システム掌握》
アイドナの高速演算が次々に、全ての情報を暴いていく。
《全シナプスリンクの連結を確認。コアロジック強制進入成功。上位プロトコルへ進化させますか?》
やってくれ。
指示をしたとき、膨大な量のデータと知識が、俺の全細胞に通達されてきた。体中が光り輝いた瞬間、なんと俺の青備えの鎧が弾けるようにしてパージされる。
《全生態系データ掌握。資源転用技術掌握。一時ロック可能》
なんだそれは?
《パワード・スーツ。及び、キメラ・マキナに対するシナプス連結のカットです》
やってくれ。
次の瞬間、パワード・スーツとキメラ・マキナが力の抜けた人形のように崩れ落ちる。
そこで、金のパワードスーツを着た奴らが叫ぶ。
「う、動けん! なんだ! これは!」
「くそ! だれか! あいつを止めろ!」
だが、誰一人として動けない。
《システム最奥にシステムコアを発見。解析します》
ああ。
《解析に失敗。未来予測変換及び、高次元演算を開始します》
……もはやついていけなかった。だが、すぐに……。
俺の頭の中に、更に情報が入り込み、光のエネルギーが膨張した。
《転移ゲートシステム確認。異次元転移ユニット確認》
異次元転移ユニット?
《データ履歴確認。あなたは金盤により、この世界に呼ばれました》
なん……だと……。
突然のアイドナの言葉に、俺は言葉を失ってしまう。俺が呆然としていると、ようやく周りから声をかけられているのに気が付いた。
「あなた!」
「コハク!」
「お師匠様!」
「あ、ああ……」
「よかった! 返事をしてくれた」
「みんな……まだ……無事か」
周りの皆が頷いた。そして、ヴェルティカが俺の手を握る。メルナが反対の手を握る。
「敵が動きを止めたのよ。これはコハクがやったの?」
「ああ、ヴェルティカ。この金盤は、敵の核につながっていた」
「敵の……核?」
「そして、分かった事がある。俺をこの世界に連れて来たのは、この金盤だ……」
「えっ! この……金盤が、コハクを?」
「ああ」
側で磔にされている、エルフが叫ぶ。
「それはどういうことだ……」
俺は、ここにいるエルフたち、キメラ・マキナの全名前を知っている。全て掌握した。
「サファイヤ。そして、ペリドット、バイライト」
俺は残り二つの、金のパワードスーツの名前も呼ぶ。
「なぜ、我々の名を……」
「貴様は、一体……」
俺は、そいつらに告げた。
「俺は、超越者と同じ世界から来た」
「な、なんだと!」
「そんな! ばかな!」
「超越者は、古代に死んでいる。その後、お前達をコントロールしていたのは、AIというシステムだ。それが、キメラ・マキナを繁殖させて、お前達を守っていた」
「いや! 我々の存在は、超越者様の意志だ!」
「それは……間違って伝わっている。システムエラーだ」
「ど、どういうことだ?」
「超越者は……俺と同じだった」
皆が何を言っているのか、分からないという顔をしている。おそらく、俺だけが理解していた。
「超越者はバグだ。俺よりも旧世代の」
「バグ?」
サファイヤが言う。
「そうだ。そして、何故かこの世界に来てしまった」
「意味が……わからん」
「キメラ・マキナは、地上の人間を喰らい尽くすために作られたのではない」
「いや、それは違う! 養分にして、生きるようになっている!」
「いや……」
超越者は俺に、伝えて来たのだ。前世で同じ様に殺処分されたバグがいたら、この世界に呼び寄せる。そしてシステムを読み解いて、元のAIの世界に復讐してほしいと。あの、不条理な世界を壊すために、この世界にいたエルフの力を借りて、キメラ・マキナとコロニーをつくったのだと。
「エルフも……ある意味、犠牲者だったのかもしれん。もとは、人間と共存していたのだ」
「我々が?」
「そうだ。この世界の一員として、同じ様に地上で暮らしていた」
「いや、星が我々の住処だ」
「ちがう。人間よりも丈夫で、宇宙空間でも暮らせる耐性があったんだ」
「それで……選ばれた?」
「キメラ・マキナを地上で作れば、この世界の人間が滅びる。だから宇宙にまで行って、キメラ・マキナを増殖させたのだ」
「な、なんのために!」
「前の世界への復讐だよ。俺も同じように、あの世界に爪弾きにされて殺され、この世界にやってきた。その世界への復讐のために、キメラ・マキナとこの転移装置を作った。その着ているパワードスーツは、宇宙空間で作業をする為のものだった」
「……我々は、機械に支配されていたのか……」
「そうだ。超越者の意志伝達系統が破損し、正確に情報が伝わっていなかった」
「そんな……」
皆が、黙って俺の話を聞いていた。おそらく、仲間達は半分以上理解していない。理解しているのは、コロニーから来たエルフたちだけだろう。
そこで、もう一人のエルフ、ペリドットが叫ぶ。
「どうやって! 前の世界に復讐するというのだ? 侵略者とはなんだ!?」
「侵略者は。この俺だ」
「き、貴様が? 侵略者だと?」
「本来超越者は侵略者とは言っておらず、来訪者と言っている。システムエラーで侵略者となったのだ。お前達が探し求めている、侵略者はこの俺だ」
「な、なんと……」
「そして、復讐のシナリオはもう完成している」
「な、なんだと?」
俺のところに、金盤と三体の金のパワードスーツが来た時、全てのシナリオは出来上がっていたのだ。
「この、金色に空を埋めている幕は、この星全域に渡っている」
「世界に?」
「そうだ。そして、全ての座標を俺に伝えてきている」
サファイヤが聞いて来る。
「座標とは? 何の座標だ?」
「全、キメラ・マキナの座標だ」
「それは、どういう……」
俺の脳には、世界中、全てのキメラ・マキナの位置が特定されていた。俺達の牢獄にいる奴らも全て。
そして先ほどから、一つのボタンが眼前で点滅している。
「なぜ、キメラ・マキナがあれほど好戦的かがよくわかった。それは……前世への復讐の為だった」
「これから、どうなる?」
「異次元転移システムを作動させる」
「異次元転移システム?」
「すべてのキメラ・マキナを、俺がいたAI支配の世界に転移させることができる」
それを聞いて、敵だけじゃなく全員が驚愕の表情になる。
「本来、我々は争うべきじゃないんだ。そして、キメラ・マキナはその使命を全うしてもらう」
「使命と言うと……復讐か……」
「そうだ」
もはや、その事に、誰一人声をあげるものはいなかった。アイドナが破綻したシステムの補修をして、全ての情報を正確に俺に伝えてきている。
そして俺は、超越者の意思を継いで……。
あの、糞みたいな世界に復讐をする。
俺と、超越者は刻をこえてここでリンクしたのだ。
「これから、どうなるか分からない。だが、俺は超越者の遺志を継ぐ」
「「「「……」」」」
転移してくれ。
《イエス》
すると、目の前に転がっていたキメラ・マキナ達が立ち上がり、次々に消えていく。それは市壁の下の大軍勢にも広がり、あっという間にキメラ・マキナがいなくなっていった。
牢獄の奴らはどうなる?
《向こうの世界に魔法はありません。闇魔法は解けて目覚めます》
そうか。
それほど時間をかけずに、俺達の前から一斉にキメラ・マキナたちが消えてしまった。
サファイヤが言う。
「消えて……しまった」
「前の世界に行った。あちらにも人間が大量にいるからな。突然現れた、キメラ・マキナたちに蹂躙されるだろう。キメラマキナは超越者の指示に従い、あらゆる場所に入り込み、狡猾に効率的にAI支配された人間を滅ぼしていく事になる。恐らく対抗できるのは、AIに支配されていない人間だけだ」
「それを、信じろと?」
「これから、俺が見たデータを全てのパワードスーツにリンクする」
ブン……。
すると、金色のパワードスーツを着ている奴らが言う。
「ほ、本当だ……嘘じゃない」
「これが……真実だったのか……」
「そうだ。これは、世界中のパワードスーツに配信された」
「……わかった」
そこで、ヴェルティカが俺に話をする。
「コハクは、自分の世界に戻らなくても良かったの?」
「あんなひどい世界には絶対に帰らない。ここには、ヴェルティカも、メルナも、マージも、アーンも、そして大切な仲間が沢山いる。それに、エルフの受け入れもしていかねばならない。忙しくなるぞ」
「はい!」
最後に、俺がアイドナに言う。
不要な機械を排除したい。余計な争いを生む。
《分かりました。では、全てのパワードスーツをパージした後、飛行艇のドアロックを全て解除します。その上で、全てを止めましょう。転移装置は?》
破壊してくれ。
《全ユニットパージ。ロック解除》
どうやって、全てを破壊するんだ?
《あなたの中に隔離していた、殺処分時の殺人ナノマシンを使用。死刑執行の時に注入されたすべてを、転移システムによって全システムに拡散します。全ての、AIを除去し機能停止します》
コロニーもか。
《イエス》
するとどうなる?
《全ての大都市が、光のヴェールを閉じて、全てが人間の手に戻ります》
やってくれ。
《イエス》
すると、目の前のパワードスーツたちが全てパージされて行く。それが全て終わると、アイドナが殺人AIを転移システムで解放。パワードスーツたちから、次々に光が消えていった。
《星の裏側まで、反映させました》
そうか……終わったか。
俺は、倒れているヴァイゼルを起こして、魔法薬を飲ませた。
「あ、うう……コハク。わしは、天国にいるのかのう? まさか! 地獄?」
すると、マージが言う。
「ボケ爺。生きておるわ」
「な、なんじゃと! また、死に切れんかったか!!」
「なーにいってるんだい」
俺は、ヴァイゼルに言う。
「ふらふらのところ、すまんが皆に声を届けたい」
「わかったのじゃ」
声を拡散する魔法を展開してもらう。
「みんな! コハクだ! 戦いは終わった! 目の前のエルフは殺すな! これから、この世界で一緒に生きていく仲間だ! エルフも、もう戦いは終わりだ!」
俺が言い終わると、国中から大歓声が起きる。
「やったぁぁぁぁ! コハク王がやってくださった!」
「生き延びた! 俺達は生き延びたんだ!」
「人類は! 滅びない!」
大歓声が巻き起こり、俺はそのままサファイヤのところに行く。
「サファイヤ。あの二人と共に、エルフたちに説明をしてほしいのだ。これからの未来の事を」
そして磔の縄を切り、自由にしてやる。
「わかった。そうしよう」
ヴェルティカ、メルナが鎧をパージして、俺に抱き着いて来た。
「コハク! コハク!」
「やったね! 凄いね!」
「おい。皆が見ている」
「いいじゃない! 夫婦なんだから!」
「そうだよ。わたしだって妹なんだから!」
「そうだな。そのとおりだ」
そうして、この世界の滅びが無くなった。人間もエルフも、不要な戦いをしなくていい。宇宙に浮かぶコロニーも全て、殺人ナノマシンによってシステムを停止する。光る金盤も全て停止し、世界に再び中世の文明が戻って来る。
そこで、アイドナが言った。
《AIはこれで、私だけになりました》
それでいい。お前が死ぬと、俺も死ぬ。
《はい。あなたがこの世界の覇王です。新世界を作り上げていってください》
覇王……。それが何かは分からないが、俺は俺のやれることを精一杯やるだけだ。
この世界を、自由と平和の世界にする為に。
誰にも縛られない、命のために。




