第三百四十九話 破滅していくリンセコートの都市
南門の側には、車両のような物を囲むようにして、パワードスーツとキメラ・マキナがいた。
なんだあれは。
《恐らくは、何らかの兵器です》
どうするか。
《まずは、邪魔な兵士を一掃するべきです》
ドン! 俺はその場に降下し、敵の数人を吹き飛ばす。
「車両を守れ!」
パワードスーツとキメラ・マキナが飛びかかって来たので、俺はそれを斬り殺して、一気に車両に向かって突き進んだ。近くによると、アイドナがエックス線透過を映し出す。
これは、なんだ?
《恐らくは爆弾の類かと思われます》
都市で爆発させるつもりか。
《そのようです。ですが好都合です。いま市民は、地下壕へ逃げています》
なるほどな。敵が襲い掛かって来る。
「引きはがせ!」
俺は一旦、高速飛翔で上空へと逃げた。
《爆裂斧を換装してください》
俺が爆裂斧を持つと、一気に推進力が噴き出して、回転しながら車両に堕ちていく。
ガガン!
熱い装甲に亀裂が入り、俺はそこに爆雷を墜とす。
《高速離脱》
ドシュッ! その車両が大爆発を起こし、周辺のパワードスーツや、キメラ・マキナを吹き飛ばした。パワードスーツが、蜘蛛の子を散らすようにして退散し、逆に、キメラ・マキナが雪崩れ込んで来る。
俺は、超高周波ブレードに持ち替え、片っ端から斬り捨てて行った。
「そいつを、止めろ!」
パワードスーツが、キメラ・マキナたちに叫び、俺はそのことごとくを斬り捨てていく。
だが、俺のところに一斉に通信が入ってくる。
オーバースが言う。
「すまん! 軍勢の侵入を許してしまった! 兵がやられて行く! クルエルが重症だ!」
そして、風来燕のボルトが言う。
「こっちも、だめだ! 北側からも、進入し始めている! もはや、ガロロと俺だけでは止められねえ! 兵士達がやられ始めた!」
今度は、フィリウスだった。
「フライングボードの、新しい部隊に急襲されている。フロストとビルとアランだけでは、もたない! さらに都市上空への侵入を許した! アランが満身創痍!」
さらに、ヴァイゼルが言う。
「その、フライングボードが、こっちに迫ってきおったのじゃ! この、エルフを奪取するつもりじゃ! 結界が破られれば、メルナ嬢とアーン嬢の大型鎧だけが頼みじゃ!」
くそ!
俺は、戦いながらも激昂していた。アイドナが精神を感知して言う。
《ノントリートメントのような、非効率的感情です》
ギリリと奥歯を噛み、俺は自分の無力さを呪った。
ドン!
南門を諦めて飛ぶと、北門と西門で大爆発が起きた。
《先ほどの爆弾のようです》
都市が大規模に破壊され、都市入り口やドワーフの里の一部が吹き飛んだ。大きな爆炎が舞い上がり、敵の軍勢が雪崩れ込んで来る。都市内には、青備えとミスリル兵が横たわり壊滅の二文字が頭をよぎる。
これでは……ヴェルティカも、市民も逃げられない。
《生存確率は、降伏して家畜になった場合だけです》
何パーセント生き残る?
《五パーセントかと》
なぜだ?
《ですが、ここで消耗した、キメラ・マキナの補修の為です》
少しの延命か……。
《魔装機動大隊だけ、逃亡してください。生存確率は高い》
だめだ。
《あなただけでも》
ダメだ!
するとアイドナの、返答パターンが変わる。
《では。あなたが望む伴侶を、ヴェルティカを逃がすのならば、あなたが道を切り開いてください》
わかった。
おそらくアイドナは、どうあっても自分の生存確率を上げたようだ。俺がアーンとメルナの巨大鎧が、パワードスーツと戦っているところに降り立ち、市壁の上に上がった敵を、次々に斬り落としていく。
「コハク! どうするの?」
「そうだっぺ! 奥方様をどうするっぺ!」
「闇魔法を。そして、連れ去ってほしい。俺が、道を切り開く!」
だが、その時だった。ヴェルティカが、俺の隣りに来て魔法を撃ちだした。
「コハク……だめよ。私は、あなたを失ったら死んでしまうの。逃げるなんて、できないわ」
すると、メルナに仕込んでいるマージが言う。
「すまないねえ、コハクや。全部、教えちまったよ」
「……そうか……」
さらに、ヴァイゼルがやってきて叫ぶ。
「も、もうだめじゃ! 潔く玉砕覚悟で、極大魔法を放つのじゃ! 結界はもう終わりじゃ!」
マージが、更に言った。
「コハクや。もはや仕方ないよ! やれることはやるべきさね!」
「わかった! ヴァイゼル! 極大魔法を!」
「分かったのじゃ! 魔導士隊! ワシに魔力を!」
魔導士が集まり、残った魔力をヴァイゼルに渡していく。ヴァイゼルの髪の毛がばさりとたち上がり、髭がチリチリに尖る。何やら詠唱を始めると、市壁の前の広場に、バカでかい魔法陣が現れ出した。
「これは……」
するとその空間に、巨大な赤い球体が現れ始める。周りの空気を吸い込むかのような暴風が荒れ狂い、真っ赤に染まる球体が膨らみ始めた。
「生きとし生けるものを、全て狩り尽くし、灼熱の溶岩となり焼き尽くせ」
その真っ赤な球体は、敵の大軍勢の上に向かって飛び、そのまま真っ逆さまに落下した。落ちた所に、球体のクレーターを作り、血のような赤い液体がパワードスーツやキメラ・マキナを包み込んでいく。
「業火陽天!」
赤いくぼみを中心にして、物凄い業火が数百メートルにわたって広がっていった。その火に包まれたパワードスーツは溶け、キメラ・マキナは焼け死んでいく。
「凄い……」
皆があっけに取られているが、魔導士がバタバタと倒れはじめ、ヴァイゼルが膝をついてしまった。
「大丈夫か?」
「も、もう……わしゃ」
ばたりと倒れた。業火に包まれた奴らは死んだようだが、避けるようにして次々に雪崩れ込んで来る。
「数が……多すぎる……」
突然、俺達の目の前に、二体の金色のパワードスーツが現れた。
「サファイヤ! いま、助けてやるぞ!」
「家畜風情が!」
後から次々に登って来る、パワードスーツとキメラ・マキナ。逃げ場所は、もう塞がれてしまう。
ウィルリッヒが言った。
「命尽きるまで!」
プルシオスが言う。
「我も!」
「やめ……」
二人の王子が突っこんで、ドカンと吹き飛ばされて市壁の下へ落下していった。
「ウィルリッヒ! プルシオス!」
フィリウスとビルスタークとアランが、上空から突撃して来てパワードスーツの一群に体当たりした。
「コハク! ヴェルを連れて逃げろ! 我ら三人で食い止める!」
だが、ヴェルティカがフィリウスに言う。
「だめよ! お兄様! 市民も戦っているの! 王と王の妻が逃げるなんてだめ!」
「兄の! 兄の願いを聞いてくれ! ヴェル!」
それを聞いたのか、オーバースも通信して来る。
「奥方。もはや誰も責めない! コハクと逃げなさい!」
「ダメです。将軍!」
風来燕のボルトも言う。
「コハク! 面白い冒険をさせてくれて、ありがとな! でも、もう、逃げてくれ!」
ガロロも言う。
「そうじゃ。もう、充分じゃ! おもろかったわい!」
フロストも言った。
「偉大な剣士よ。あなたと、剣を交えられた事を、あの世で皆に自慢しますよ」
クルエルも言う。
「役に立たなくてすまんかったなあ。だが、もういい! 逃げろ。お前なら、生き延びられる!」
ベントゥラが言った。
「地獄に……会いに来てくれよコハク。先に行くからよう」
そして、オブティスマが言った。
「コハクよ、生き延びて、人の未来を作ってくれ!」
皆が通信を繋げて、俺に逃げろと言う。
その時。目の前の、二機の金のパワードスーツが、眩しいくらいに発光する。そして驚いているのは、その当人たちだった。
「な、なんだ! この光は!」
「あ、熱い」
すると、鹵獲した一体を守っているレイたちからも、通信が入る。
「お館様! 金の鎧が光っています! もう……守り切れません! サムスとジロンがやられました」
そこで俺の後ろにいる、ワイアンヌが言った。
「お館様の背中! 金盤が光っています!」
「なに?」
背中から熱を感じて、すぐに鎧を開けて金盤を取り出す。それは、金のパワードスーツと同じように、まばゆい光に包まれていたのだった。




