第三百四十七話 リンセコートの都市を囲む軍勢
結界牢に来た俺達は、もう一度、捕えた緑髪のエルフを目覚めさせた。流動食を流し込んでいるので、コイツの意志とは関係なく生命を維持している。
「私は……まだ死んでいないのか?」
「まだだ。お前にもう一度だけ聞く、お前の仲間が群れを成してやってきた。目的はお前か?」
「だから、答えられない。仲間を危険にさらす真似はできん」
変わらない答えだった。どうあっても仲間を守りたいらしいが、いまは俺もその気持ちが良く分かる。俺がコイツであれば、同じことを言っていただろう。
「お前をあちらに返して、軍を引いてもらえる可能性は?」
「無い。お前達は、超越継承者に手を出したのだ」
《多少精神が弱っているのでしょう。ようやく情報らしき情報を吐きました》
「お前は、超越継承者と言う者なのか。超越者と何か関係があるようだな?」
「私は、超越者の子孫。代々受け継がれた、血を持っている」
《大きな情報です》
「特別という事か……」
エルフは自分がしゃべり過ぎた事に気が付いて、口をつぐんだ。
「あと、何人いる?」
「……」
そいつは、もう、答えなかった。そこで、ヴァイゼルが言う。
「非情ではあるが、盾にするしかないかのう。この者を貼りつけにして、殺さぬ代わりに軍を引けと」
すると、エルフが高笑いした。
「くはははは! そんな事をしても、引かぬ。侵略者を退けるためにはな!」
「ふむ」
だが俺が、みんなに言う。
「いや。使おう。どうせダメであるなら、コイツを盾にしようがどうしようが同じだ。同族がダメでも、何かが反応する可能性も否定できん」
「じゃ、な……。非情ではあるがの」
「関係ない、フィリウスコイツを連れて行こう」
「分かった」
俺とビルスタークとアランが、縛り付けたエルフを運び出した。牢獄を出て、市壁に向かっていると、こちらに向かってベントゥラが走って来る。
「コハク! 奴らが動いた!」
俺は冷静に答える。
「砲塔の弱点を見抜かれたな」
「コハクが言った通りだ」
「奴らには、判断するための機械の助言がある」
それを聞いて担いでいた、エルフが驚いて言う。
「なに! お前は、なぜそれを知っている!!」
「お前らの、システムなど旧式すぎて話にならんからだ」
「ど、どういうことだ……」
「はて、どういうことか? 我々は、それの上を行く。それよりも、敵の前でしゃべられたらかなわん。ベントゥラ、コイツの口をがんじがらめにしてくれ」
「あいよ」
そいつの口元を完全にふさぎ、話が出来ないようにした。もはや、貼りつけられた人質でしかない。
市壁の上に登ると、オーバースが言う。
「コハク。あれを見て見ろ」
都市から近い草原に、次々に現れる敵。どうやら射線を掻い潜って来るように、指示をされている。
「敵は恐らく、大砲とシールドの仕組みを読み切っている。攻撃をするなら、解かなければならない事。そして、この大型砲塔が近距離の攻撃に向かない事。既に、敵には悟られている」
「本当に、コハクが言った通りになるんだな」
「そうだ」
「そいつは、人質……ってことか」
「まあ、あまり役には立たん」
するとその時、アイドナがガイドマーカーを表示した。草原の一角に、それを表示させる。
《金の鎧を、二体確認北西に一体、東北に一体》
いよいよか……。
そこで俺は、次の指示を出した。
「決戦の時が近づいた! 戦えぬ者は地下施設へと非難! 戦える者は、地下施設の入り口付近へ配置! 青備えは、一番前に出て構えろ!」
「「「「「「おう!!!」」」」」」
伝令が走り、皆が所定の位置に付こうと動き出した時だった。ワイアンヌが、駆け込んで来る。
「お館様!」
「どうした?」
「金の鎧と! 金盤が共鳴しております!」
「なに!!」
《想定外です。敵から、ここにある事を特定されるでしょう》
どうするか?
《あなたが金盤を所持してください。金の鎧は、レイたちに守らせてください》
「レイの部隊は、金の鎧を守ってくれ!」
「「「「は!」」」」
アイドナが更に言う。
《一度、全軍の指揮を、一度ウィルリッヒに譲るのが効率的です。まだ敵は来ません》
俺が、ウィルリッヒに告げる。
「俺は確認せねばならない事がある! ウィルリッヒが、一時、指揮を変わってくれ!」
「わかった。その重大な任務を受けよう」
俺はワイアンヌと共に、一目散に金盤の下へと走った。その後ろを、ヴェルティカがついて来る。
「ヴェルティカ! みんなといろ!」
「嫌よ。コハクといるわ」
どうやら説得は出来ないようだ。俺は妻を連れて、金盤が保管されている地下倉庫へときた。
「本当だ……」
金盤が共鳴している。俺はそれをケースに入れて、背中に背負う。
「次は鎧の部屋だ」
金色の鎧の保管場所に行くと、レイたちがそこを守っていた。
「お館様! 鎧が光っております」
「本当だ……」
《何らかの理由があります。これも持ちだしましょう》
「運び出す!」
「「「「は!」」」」
金の鎧も持ち出して、俺達は皆の下へと走る。
ドン! ドン! ドン!
轟音と共に、先から叫び声が聞こえる。
「撃って来た!!」
正面のシールドを見ると、どうやら砲撃を受けているようだった。
「あれは、シールドの能力を探っているんだ!」
アランが、しかめっ面をして言った。
「こっちから手を出せないのが辛いところだ」
「敵には、青備えを貫く兵器がある。今は、我慢だ」
ドン! ドン! と次々に砲撃の音が鳴り響き、シールドの向こうでは、いくつも爆発が起きていた。あちらの技術だけではなく、結界魔法技術を加えているため、簡単には破られないだろう。見上げれば、幾つもの監視ドローンが飛び回り、都市の周りを回っているようだった。
「こちらの状況を調べているようだな」
俺達が市壁の上に登ると、正面にもドローンが浮かんでいる。
「監視されている。そして……コイツを見ている」
それは、拘束されたエルフを見ている。皆が武器を構え、攻撃に備えているのも見えているだろう。
その時だった。突然、目の前のドローンが声を上げた。
「愚かな地上の家畜どもよ! よく聞け! そこにとらえている同朋サファイアに、危害を加えた場合、既に養分にする権利も与えない。一斉攻撃による殲滅のみになると心得よ!」
なるほど、やはりコイツが一つの目当てらしい。
《もう一つ情報を得る事が出来ました》
だな。コイツの言っている事は真実だと分った。
《シールドはいずれ破られるでしょう》
徹底抗戦だ。
《では、次の指示を》
「このシールドはいずれ破られる。市街戦に突入したら、最初の計画通りに遂行してくれ」
「「「「「了」」」」」
そして、大型鎧二機が俺の側に来た。
「メルナ、アーン。例の件は……頼んだ」
「わかった」「任せるっぺ」
だめな時は、ヴェルティカを連れて逃せという約束だ。ヴェルティカは、逃げろと言っても逃げない。だからメルナが闇魔法をかけて、大型鎧で連れ出すという事になっている。
《まるで、ノントリートメントのような価値観です》
彼女だけは……どうしても生き延びさせたい。何故かは分からん。
《愛と呼ばれる感情でしょう。制御も可能ですが?》
それはやめてくれ。俺が、存在する理由が無くなる。
《はい》
アイドナは俺のDNAに存在するAIだ。だが、俺の全てを奪われない。それは俺が、バグだからだ。AIにコントロールされない遺伝子を持つ、そう言う人間だからだ。
ドン! ドン!
その間も、連続で砲撃が繰り返された。おそらくシールド破るのは、あの金色であると想定している。奴が動いた時に、この均衡が破られるだろう。
俺は市壁の上から、後ろ側に振り向いて下にいるレイに言う。
「それは何かの鍵だ! 敵が来たらそれも奪いに来るだろう」
「は! 絶対に死守してみせます」
「最悪は逃げ回れ」
「は!」
次々に軍勢があふれ出し、都市の周辺にはパワードスーツとキメラ・マキナであふれかえるのだった。




