第三百四十三話 敵艦隊の戦力観測
プルシオスとウィルリッヒが、国民をまとめてくれたおかげで、既に皆は決戦に挑む覚悟をしていた。老人から子供に至るまで全員が、敵を迎え撃つ覚悟ができている。家々には、回復薬や盾などが配られ、戦えるものは皆が参戦するつもりでいた。
《外壁シールドを突破された場合は、青備えで迎え撃ちます。また、ミスリルの鎧にも高周波のシールドの魔法陣が施されていますので、短銃程度であれば防げます》
だが、突破されれば、多くの人が死ぬという事だな。
《シールドを突破される前に、敵軍をどれだけ減らす事が出来るかが、ポイントになります》
あの、大型の飛行艇が墜とせればな。
《魔装機動大隊でどこまで通用するか、敵戦力を測ります》
分っている。
アイドナのシミュレーションでは、良くても一割の生存率となっている。大型飛行艇を撃破する前に、小型飛行艇が邪魔をしてくるだろう。あの大軍勢に対して、突破口を開くのはかなり厳しい状況だった。
俺が街を歩くと、あの闇の賭場を仕切っていた男が声をかけて来る。
「コハク王よ! 俺達を救ってくれた恩は必ず返します! 敵など恐れてません」
俺が答える。
「わかった。だが、出来るだけ生き延びる事だけを考えてくれ」
「わかりました! 市民一同、精一杯生き延びます!」
更に、俺を闇の賭場まで案内してくれた子供が言う。
「わたしたちも、最後まで一緒に戦います」
子供達が盾を持って、気迫のこもった表情を見せて来る。
「いざとなったら、結界の施された地下へ逃げろ。わかったな」
「「「「うん!」」」」
俺は格納庫へと向かい、皆と合流した。
オーバースが言う。
「コハクよ。もはや一蓮托生だ。ここに居る人類は、みな覚悟を決めている」
「凄いものだ。皆の生き延びたいという思いは、絶対に無駄には出来ない」
「ふふ。おまえも、そんな事を言うんだな」
「そうだ。俺は一人では生きられない。皆がいてこそだ」
「ああ」
アイドナが言う。
《あなただけ逃げた場合の生存確率は、九十パーセント以上です》
逃げない。俺は、皆を守る。
《非効率です》
いや。効率などどうでも良い。俺は、この人達と生き延びる。
《分かりました。演算は変わりません》
その時だった。ヴァイゼルが水晶を見つめて言う。
「どうやら、リンセコート領に仕掛けた、魔導感知が作動しましたな」
そこに揃っていた、魔装機動大隊の面々に号令をかける。
「今日、俺達は死ぬかもしれん。だが、ヴェルティカが言うように、最後は人間らしくという言葉通り、最後まで戦い抜く事を誓う。その命をかけて、人類を守るぞ」
「「「「「「おう!」」」」」」
「全員装着!」
すると、その時だった。ヴェルティカが俺に抱き着いて、唇を重ねてきた。
「コハク。私達は死なないわ」
なぜか、心臓のあたりに血が通うような気がした。すると、ボルトもフィラミウスに近づく。だがフィラミウスが、ふいっと顔を背けて言う。
「生き延びたらよ。あなたは、すぐ突っ走るから」
「分かったよ。絶対生き延びる」
それから全員が、魔導装甲を装着し武器を身につけた。全ての準備が整った時、ヴァイゼルが言う。
「では、殿下。行って来るのじゃ」
「頼んだよ。君らなら絶対に勝てる」
「ですな!」
俺が二人の王子に言う。
「魔導砲の指揮は任せた」
「任せてくれ」
「必ず墜とす」
さらに水晶の色が、黄色に変わった。
「森まで来たようですじゃ」
「よし! 出撃する!」
扉が開いて、慌ただしく全員が外に飛び出した。そこで俺は、皆に聞こえぬよう、小さな声で言う。
「メルナ、アーン」
「なあに?」
「なんだっぺか?」
「俺達は、もちろん勝つつもりだ。だが、どうしても……どうしても及ばない時は……ヴェルティカを連れて逃げてはくれないだろうか」
すると二人が顔を合わせる。
マージが言った。
「この子らに託すのかい? それは厳しい道だよ?」
だが俺は言った。
「わからない。だけど、なぜか気持ちがそうなってる。俺にも分からない。だから頼む」
すると、メルナが言う。
「うん。わかった。ヴェルを連れてく」
アーンが首をかしげている。
「だけんどお師匠様、奥方様から恨まれるっぺよ。連れて行かんかったって」
「それでもいい。頼めるのは二人しかいない」
「……わかったっぺ。お師匠様の頼みとあっちゃ断れねえっぺ」
アーンの返事を聞いて、俺達は遅れて外に出た。
「待たせた! 行くぞ! 飛翔!」
「「「「おう!」」」」
全員が空に浮かび上がっていく。
「攻撃を仕掛けつつ、敵の力量を確認した後で、リンセコートまでおびき寄せる」
「「「「「了」」」」」
「最高速!」
ドン!
高速で飛翔すると、敵の艦隊が見えてきた。大型飛行艇を中心に、小型の飛行艇が周辺を飛んでいる。
「攪乱の為、俺とフロスト、風来燕でツッコむぞ! 戦術通りに!」
高速で動ける俺とフロストが、一気に突っこみ艦隊の間を抜けていく。そしてその後ろまで抜けると、小型飛行艇が旋回して砲塔を向けて来た。だがそいつらの腹のあたりで、次々に爆発が起きる。
「よし」
俺達に気を取られたスキに、風来燕が小型艇の腹を割いて、爆雷を突っ込んだのだ。
ドン! ドン! ドン!
爆発して煙を上げ、墜落はしなかったが煙が上がり、編隊が崩れていく。
ヴァイゼルら魔法使いの部隊が、肩の砲塔から次々に弾を射出していく。それが艦隊の周辺で炸裂し、深い煙が蔓延して行った。更に魔法でその煙を操り、蛇のように艦隊の中を走り抜けて行く。
「レイ隊!」
その上をレイたち四人が飛び、ポロポロと爆雷を墜としていった。
ボン! ボン! ボン!
それが炸裂した途端、キラキラとした粉末が広がった。
「いまじゃ!」
ヴァイゼルとヴェルティカ、メルナ、フィラミウスが魔法を発動させた。
ピカ! ドドン! ゴロゴロゴロ!
雷が鳴り響き、煙の中で稲光が光る。
どうだ?
《上空から大型飛行艇に向けて、魔導砲を放ってください》
俺が急上昇し、魔導砲を打ち込んでみる。
どうか……。
だが爆裂魔法が施された、魔導弾は大型飛行艇に触れる前に爆発して消えてしまう。
《シールドを確認》
やはりか。
そして、次の瞬間だった。煙の中から次々に飛行艇が出て来て、砲撃を開始した。
「全員回避!」
今度は、俺達の隊列が乱される。
「魔導隊! フィリウス隊! さがれ! レイたちは彼らを守りつつ後退!」
盾を前面にして、後ろに下がり魔導部隊とフィリウス達を下げる。
「オーバース隊! 行け!」
「「「了」」」
散っていく小型艇を尻目に、真下の森からオーバースと二将軍が、大型艇の腹に向かって突撃した。
だが、大型飛行艇の直前で、オーバース達の剣から火花が立つ。
「コハク! 見えない壁がある!」
「離脱!」
オーバース達が離れると、ぽろぽろと小型のドローンが射出されてきてオーバース達について行く。
「フロスト。あれを撃墜する」
「了」
オーバース達を追いかけているドローンを、俺たち二人が撃破した。
「すまない」
《緊急離脱してください》
「全員、敵艦隊から放れて森の中へ」
「「「「了」」」」
敵艦隊のいる領域から離脱し、俺達とオーバース達が森に降りて身を隠した。
《仲間が離脱する時間は稼げました》
しかし敵は、俺達を見失ってはいないようだった。大型飛行艇の前に、触手のような物が出て来る。
あれは、なんだ?
《高エネルギー反応。周辺の小型飛行艇が距離を取り始めました》
どういうものだ?
《森から出てください! 最高速!》
「全員森から出ろ!」
ドン! ドン! ドン!
俺達が飛び去るのと入れ違いで、その光の玉が急速に森に堕ちた。玉が、森に沈んだと同時だった。
ビカァ!
あたりが真っ白になるほどの、閃光が発せられたる。
ボゴゥ!!
するとその地上に降りた光の玉が、大爆発を起こしたように一気に膨らんで、物凄い衝撃波を生んだ。俺達はその衝撃波に巻き込まれるように吹き飛ばされ、姿勢を制御する事も出来なかった。住んでいる魔獣ごと、リンセコートの入り口の森は消え去ってしまったのだった。




