第三百四十一話 敵の大規模侵攻を確認する
高速飛翔により、シュトローマン伯爵領の手前で、アイドナが警告音を上げる。
《緊急停止》
「止まれ!」
全員が急停止した。オーバースが聞いて来る。
「どうした?」
「かなりの数がいる。全員一度、着地してくれ」
全員が地上に降り、そしてマージが言った。
「想定外だね」
「ああ。捜索隊レベルが来ているかと思った」
それを聞いて、フィリウスが言う。
「恐らくは……金の鎧を着たエルフじゃないか」
俺達が捕えた、緑髪のエルフの事だった。
《フィリウスの言う通りでしょう》
あれが、どうかしたか。
《あれが敵にとって、特別な存在である可能性があります》
……殺しておけばよかったか。
《まだ、わかりません。交渉の材料になる可能性もあります》
交渉の可能性か。やつらが、家畜の話にのるだろうか?
《わかりません》
アイドナでも予測演算ができないようだ。そして俺達は、草むらに潜り込んでヴァイゼルに言う。
「全員の鎧の温度を、草の温度にまで下げてくれ」
「分かったのじゃ」
魔法を発動させて、オリハルコンの魔導装甲をあたりの温度と同化させた。
「目視が出来ないように、草の中を進むぞ」
オーバースが言う。
「隊列を組め!」
その役割ごとに隊列を組む。先端を俺とフロストが務め、その後ろにレイたち四人、その左に将軍達、反対側に風来燕の三人が来る。レイたちの後ろにアーンとワイアンヌ、ヴァイゼルたち四人の魔導士隊、フィリウスとビルスタークとアランが殿を務める。
背の高い草むらをかきわけるように、急がず進んでいくと俺の目に移ったのは、巨大な飛行艇だった。それはシュトローマン伯爵領全体を覆い尽くすような大きさで、空中に浮かぶ。
ベントゥラが言う。
「なんだありゃ。バカでかいぞ」
「恐らくは、母艦。地上部隊の旗艦の可能性が高いな」
そしてクルエルが唸る。
「あれを……墜とせるのか? 龍なんてもんじゃない」
《想定外ですね。まさか、重力を操っているとは》
どうやって浮いてる?
《恐らくは反重力》
どうやって墜とす?
《装甲が不明です。磁場などを利用したフィールドなどが、存在する可能性があります》
装甲が厚いという事か。
《単純には》
さらに、大型飛行艇の周辺には、俺達が撃墜したのと同型の飛行艇がいくつも浮いていた。
オーバースが言う。
「いくら、この鎧が堅牢だとは言え、あれに突っ込むのは愚行だな」
「その通りだ。恐らくかなりの数の軌道鎧と、キメラ・マキナがいる可能性がある」
ボルトが言う。
「あれじゃ、仕込んだ魔獣なんか全滅してるだろうな」
「ああ。それと、金盤がニセモノだという事も、もう分ってるだろう」
どうするか……。
《あの旗艦を破壊しなければ、勝率はかなり低いと判断します》
あれを、どうやって鎮める?
《可能性があるとすれば、魔導レールガンの集中砲火》
それをあてるには、リンセコートにおびき寄せなければらなない。
《そうなります。市民の、生存確率が著しく低下します》
生存確率は?
《七コンマ三八パーセント》
十パーセントを、きるか。
《はい》
そこで、俺は皆に言った。
「あのデカ物を落とさねば、我々に勝利はない。手立てはひとつしかない」
「なんだ?」
「リンセコート領におびき寄せて、魔導レールガンで集中砲火を浴びせる」
そこで、皆が絶句した。慌ててフィリウスが言う。
「コハク! あれを、リンセコート国までおびき寄せるだと?」
「いま、考えられるのはその方法だけだ」
「そんな事をして、奴らを招き入れれば、大勢の市民が死ぬ」
「……その可能性は否定できない」
「承服できない! 我々は人類最後の希望だぞ」
「ああ……」
すると、オーバースが言う。
「まあまて、フィリウス。コハク、そうやったとして、人類が生き残れるのか?」
「生存確率は一割を切る」
「……そうか」
「オーバース様。なので、私は反対です」
だがそこで、ヴァイゼルが言った。
「ふむ……じゃが、あれを墜とさねば、いずれにせよ……ではないじゃろうか?」
「それは……」
今まで、あまり話をしなかったオブティスマが言う。
「そうだ。あれを墜とせねば、どうなるかを考えるべきだ」
オーバースが言う。
「あれを放置すれば、どうなると考える?」
《数ヵ月の延命。そして全滅、家畜化の道を歩みます》
俺は、アイドナの演算の通りを話す。
「生き延びられるのは数ヵ月。その後、人類は家畜になり果てて終わる」
全員が更に沈黙する。
ヴェルティカが、フィリウスに言った。
「お兄様。これは、私個人の意見です」
「ああ」
「家畜に成り下がって、奴らの養分になって死ぬくらいならば、私は人として死にたいです」
「ヴェル……」
そこで、クルエルが言った。
「しかしだな、お嬢ちゃん。生きていれば、いつか反撃の時が訪れるかもしれん」
それを聞いて、ビルスタークが首を振る。
「怖れながらクルエル様。奴らは、全てを奪って行きます。そのなかで、生き延びて反撃をするのはかなり難しいでしょう」
「……そうか」
ヴァイゼルが髭を撫でながら言った。。
「どうでしょうかな? 奴らに、一泡吹かせてみるというのは? ワシはもう、老い先短い老人じゃし、無責任な事を言うようで悪いがのう。やらねば、死んでも死に切れん」
そこでレイが言う。
「潜伏できは、しないですかね?」
そこで……反対していた、逆にフィリウスが言う。
「潜伏は……無理だろう。それは、私もビルスタークもアランも知っている。そしてばあやも」
「そうさね。奴らは、いとも簡単に根絶やしにしてくる。余力のあるうち、出来る事を精一杯やるのが、生き延びる道だと思うがね。まあ、体を無くしてしまった、魂だけの存在が言う事じゃないんだけどね。だけどあの時あたしは、そうやってこの未来を繋いだよ。コハクを見いだせていなかったら、あたしらは完全に崩壊していたさね。どうするかは、王であるコハクが決める事じゃないのかね」
「ばあや……」
俺が言う。
「いずれにせよ。一時撤退だ。帰って王子たちに話をして、迎え撃つ準備をした方が良い」
オーバースが言う。
「ってことは、おびき寄せて迎撃するということか?」
「生存するためにはそれしかないが、その判断を、ウィルリッヒにも聞いてみたい」
そう言うと、フロストが言う。
「殿下に……まあ、答えは既にみえてますがね」
「そうじゃな……」
「一旦退却だ」
俺達は草原を戻り、敵の範囲から離れた所で飛んで帰る。戻ってきた俺達を、二人の王子が出迎えた。
「早いね。もう戻ってきたんだ?」
「いや。話をしたい」
俺達は、シュトローマン伯爵領で見て来た事を全て話した。
するとウィルリッヒは、意外な答えを返して来る。
「そのくらいの軍がくるのは、分かって居たさ。だからこその、あの壁と砲台なんでしょ? 人類の未来をかけた戦いなんだから、それくらいの事は、あるだろうと覚悟していたけど?」
プルシオスがそれに答える。
「えっ! 私は全然、想定してませんでした。ここに、敵をおびき寄せる?」
「ああ。プルシオス、コハクがそれしかないって言ったら、それしかないよ」
「まあ……それは、そうだろうけど……」
「それに、この砦意外に、人間達が生き延びる場所なんてないよ。潜伏なんてもってのほか」
「逃げれないと?」
「逃げたところで、奴らに狩られるのがオチだ」
《流石は頭脳明晰のウィルリッヒです。それしかない事を分かっています》
そのようだ。
するとウィルリッヒが続けた。
「ねえ。大賢者様。大賢者様も、それしかないと思っているでしょう?」
マージが答える。
「分かって居たさね。だけどね、私は死んだも同然の身だ。生きている、あんたらのことは、あんたらが決めるべきだと思ってねえ」
「まあ、僕はもう選択の余地はないと思ってるけどね」
そこで、ヴェルティカが言った。
「では! どうでしょうか? ここで、多数決を取り、逃げる人と迎え撃つ人を分けては?」
その言葉を受けて、フィリウスが言った。
「いや、ヴェル。その必要はないよ。さっきは、混乱していたけど、もう整理が付いた」
「では、お兄様はどう思います?」
「迎え撃つ」
「それでも皆さんに聞きたいです。ここまできて、臆病だの勇気があるだの言う人はいないと思います。潜伏して生き延びる道もあるでしょうし、人の意見を聞いては揺らぐでしょうから、目をつぶって挙手をお願いします。あなた。私も目をつぶりますから、声がけを」
ヴェルティカが言うと、全員が目を閉じた。
「わかった。迎え撃つ者は?」
すると、なんと全員が手を上げた。次を聞くまでも無かった。
「……全員だ」
それを聞いて、オーバースが言う。
「満場一致。ならば善は急げだ。奴らを徹底的にやる為の、戦術を立てよう。奴らがこちらに来る前に、出来る限りの抵抗が出来るようにしようじゃないか」
皆が頷いた。
そして俺が言う。
「みんなすまない。みんなの命を、俺に預けてくれ」
「「「「「「「「おう!!!」」」」」」」」
「この地が、最終決戦の地になるだろう。市民も全員を動員して、迎撃する為の仕組みを作っていくぞ。 人類は必ず生き残る。一割以下だろうが、可能性があるならば、その勝率を上げる努力をすればいい」
皆が拳を突き上げた。敵の軍勢が攻めてくる前に、俺達はやらねばならない事がある。
そして、マージが言う。
「まずは、あの捕らえたエルフだろう。無理を承知で、敵との交渉が可能か尋問すべきさね」
「ああ」
「まあ、望みは薄いだろうけどね。やれることは、全てやっておくべきさ」
そして俺達はすぐさま、牢獄へと向かうのだった。




