第三百三十九話 敵の情報とわずかな休息
ミスリルの網にくるまれた金のパワードスーツは、言葉を発する事が無かった。ただ黙って、ダンジョン牢獄で結界に囲まれている。だが、このままでは埒があかない。
「さて、そろそろ、顔を見せてもらおうか」
そう言って近づいて行くと、そのパワードスーツはエルフ語で話し始める。俺とマージしか話が分からないと思っていたら、ヴァイゼルがぽつりと言う。
「皆が分かった方が良いじゃろうか?」
「どういうことだ?」
「こんな事もあろうかと、帝都の禁書庫から禁断の所を盗みましてな……」
「なるほど、ウィルリッヒには黙っておこう」
「助かりますのじゃ。古代語を言葉として聞けるようにする魔法があるのですじゃ」
「なるほど。じゃあやってみてくれ」
ヴァイゼルは、鎧から小さな本を取り出した。それをパラパラとめくり、魔法の詠唱をはじめた。
「終わったのですじゃ」
「変わったようには見えないが」
「あとは、話し出せばわかるでしょうな」
「なるほど」
俺がしゃがみ込み、金のパワードスーツに触れた時だった。
「無駄だ」
口を開いた。
「無駄?」
「勝手にマキナ・ユニットを開ける事は出来ん」
「ああ、心配しなくてもいい。認証が無いと開かないんだろう?」
「そうだ」
俺は外部の一部を開けて、モニターパネルを操作していく。
ピッピピピ!
バシュー! と空気を吐き出すように、パワードスーツがパージされた。
「バカな!認証コードを知っているのは、コロニーメインシステムみのはずだぞ!?」
「だから、心配しなくてもいいと言った」
「貴様……養分の分際で何故このような事を」
「お前が知る必要はない」
俺はヴァイゼルに向かって言う。
「ミスリル網の結界を緩めてくれ」
「わかったのじゃ」
バシュッ。と緩んだところで、俺は緑色の髪をしたエルフの首根っこを掴んで引きずり出す。
「うっ!」
ドサリ。
白い服を着ていて、いかにも高貴そうな雰囲気をしている。自由にした途端に、突然俺に飛びかかってきた。しかし完全な身体強化と、高機動魔装甲によってびくともしない。
「エルフは優れていると思ったか?」
「なぜ、この技術を持っているんだ!」
「質問はこちらからだけだ」
「……」
周りを三将軍が囲み、俺が質問を始める。
「お前はコロニーから降下して来たんだな」
「そ、そんな事を知っているのか?」
「お前の仲間達が、大量に降りて来たからな」
すると、エルフは暗い目をして言う。
「お前達が……仲間を全員殺した」
「逆に聞くが、そうしなかった場合、お前達はどうするだろうな?」
「……」
俺は、すぐに質問を変えた。
「あそこの領地で何をしていた」
「……家畜に教えることはない」
「なら殺すが」
「殺されても話す事はない。それは、仲間達の安全にかかわる事だ」
《志が高いようです。キメラ・マキナのように、黒曜のヴェリタスは効かないかもしれません》
俺は、おもむろにレーザー剣を取り出した。あえてエルフの前に出して、レーザーを射出してみせる。
「それは……」
「これの所有権は俺にある」
「馬鹿な!……それは生体……」
そこで、エルフは口を閉じた。だが、もはやアイドナが解析している事だった。
「キメラ・マキナの生体とリンクしている。だから、他の人間には操作できないと言いたいんだろう?」
「……」
「管理者権限ごと上書きして、俺が操作できるようにした」
「そんな……下等生物が……なぜ……」
シュオン! レーザー剣を、そいつの鼻先に向ける。
「下等生物……に、一方的に蹂躙された気分はどうだ?」
「まさか……地上は……我々が思うよりも、文明が発達していたのか?」
「さてな」
シュン! とレーザー剣を引っ込める。そしてさらに言う。
「我々の鎧は、お前らのマキナ・ユニットよりも性能が良い」
「そんな……」
「以前に回収した、マキナユニットの技術を参考に、新たな技術とこの星の魔法を加えて、全く違うものに生まれ変わった。お前達の銃器は俺達には効かない。それにお前達は、フライングボードに乗らねば飛べないが、これは単独飛行を可能としている」
エルフはただ絶句していた。俺達の技術力に対し、理解が追い付いていないのだろう。
「もう一度聞く。あの領地で何をしていた」
「同じだ。殺されても言わん」
やはり埒が明かなかった。
《この者は、ある程度の地位があるのでしょう。その発言で、広く被害が出る事を本気で拒んでいます》
そこで俺はすぐに質問を変えた。
「侵略者はどうした?」
「なぜ……それを……」
「既に情報を得ている。お前達は、その侵略者と戦うために、あるものを探している」
「そ……」
エルフは咄嗟に目を伏せる。いきなり真実を告げられて、動揺しているようだった。
「その上で聞くが、侵略者とは戦っているのか?」
苦渋に歪んだ顔で、俺を睨みつけるように見る。
「それを聞いてどうする?」
「対策をうって、侵略者も倒さねばならん」
「侵略者を……?」
「侵略者には会ったのか? 強さはどうだった?」
「知らん」
「知らん?」
「それは本当に知らない。私は見ていないし、誰も遭遇していない」
ようやく情報が出てきた。
《真実です》
そうか……。
それからもいろいろと聞いてみるが、一つも口を割らなかった。仕方がないので、コイツも連れ帰って地下牢獄に入れるしかないだろう。
「ヴァイゼル。闇魔法を」
「うむ」
シュゥゥゥゥ! エルフは暗闇に堕ちた。
そこでマージが言う。
「だけどコハク。キメラ・マキナと違って、こやつは食わねば死ぬ」
「まあ、何かを食わせてみよう。自らの意志で食わずに死ぬのなら仕方がない」
「そうするしかないだろうねえ」
オーバースが言った。
「しかしみあげたものだ。何の感情も無い敵だとだとばかり思っていたが、上に立つ者の矜持をもって、最後まで口を割らなかった」
「それで、どう見る?」
「さらに怖くなったって事だ。ただ、臆病な警戒心の強いだけの種族ではない」
「そう判断するのか? 並列では無く、縦の構造があるからか?」
「そうだ。コイツは民衆のために死ねるらしい」
「そうか……」
「とりあえず、どうする?」
「また一つ生体動力を手に入れたから、もう一体の高機動魔導装甲の予備を作る」
「なるほどな」
そして俺達は、むき出しのエルフとパワードスーツを洞窟から連れ出して、飛翔してリンセコート領へと戻ってきた。すぐに新しく作られた結界牢に連れて行き、そのエルフを投獄する。
フィリウスが俺に向かって言った。
「さっき、オーバース様が言った事から考えても。もう一度、戦略を練り直した方が良い」
「どういうふうに?」
「縦社会だという事は、敵にも王、もしくは管理者や、統治する者がいるという事だ」
「そう言う事か……末端と無限に戦うよりも、やり方はあるという事だな?」
「確かに、志としては怖さを感じるが、敵の弱点を突くことも出来るかもしれないという事だ」
《フィリウスのいう通りでしょう。ただし、その敵の弱点を知るのが難しいです》
だな。だが、大きな情報ではある。
《はい》
ほんの些細な情報ではあるが、何も知らなかった時とは違う。敵は理性的で、計画性を持ってこの大地に降りて来たという怖さ。それと縦社会があるという事は、そのトップを攻略すれば、また新しい道が切り開けるという事だ。
そしてクルエルが言った。
「こいつらが帰って来ないとみるや、救出部隊や増援が来るだろうな。コハクはどのぐらいとみる?」
《敵の余力があれば一日、避ける人員が少なければ三日となります》
「敵が多ければ一日で来るだろう。だが、少なければ三日だ」
それを聞いて、クルエルが言う。
「ならば、この二十人は大急ぎで休息を取った方が良い。替えが効かないからな」
「わかった。全員! すぐに食事をとり、休息をとってくれ。明朝、日の出前に戦略室に集合」
「「「「了解」」」」
皆で格納庫に入り、鎧をパージして休憩する事になる。
ビルスタークが言う。
「では、フィリウス様。私とアランと共に食事を」
「いや……私はヴェルと……」
それを聞いて、アランが言う。
「彼らは、新婚ですよ」
「そ、それは」
「さっ、いきましょ!」
そしてフィリウスは、二人に連れられて行ってしまった。
そしてアーンが言う。
「ウチは、プルシオスに会ってくるっぺ! 待っててっていったっぺ!」
「ああ」
「ワイアンヌも来るっぺ」
「はい」
二人は、王子たちが寝泊まりしている、宿泊施設へと向かった。
次にヴァイゼルが言う。
「では、フロスト。わしらは、殿下のところに」
「そうしましょう」
次々にいなくなり、いつの間にか風来燕もレイたちも居なくなっていた。
そして俺が言う。
「ヴェル、メルナ。家に帰ろう」
ヴェルティカが目を輝かせて、大きな声で返事をした。
「はい! 旦那様!」
そういえば、本当に久しぶりかもしれない。この三人で家に帰るのは。
メルナが言う。
「お腹減ったー」
「そうねメルナ。メイドにお願いして、美味しいの作ってもらいましょ」
「うん!」
何か不思議な気分だった。なんと言うか、温かい何かが流れるというのだろうか? 心の奥に熱を帯びた何かが流れるのが分かる。そして俺達は、馬車に乗り込み自分らの家へと向かったのだった。




