第三百三十七話 敵SIDE 家畜の知能を侮るサファイア隊の失態
敵SIDE エルフ族 サファイアの視点
初めての惑星降下だった。コロニーから見下ろす青い大地は、危険と言われるバケモノである魔獣や、キメラマキナの原料と養分になる、人間という種族が生息している。その人間が進化し、サイオニック・パルスを操るようになって、魔獣と戦う術を身に着けたのだとか。その大地に降り、初めての任務。
「なんとも不浄な空気だ。変なにおいがする」
副官のヘリオドールが、私の気持ちを代弁してくれるかのように呟く。
「そう言うなヘリオドール、コロニーは限界なのだ。我々は、古のデータに基づいて侵略者を退けつつ、この世界を居住区にしなければならないのだ」
「生体動力が、バケモノを退けてくれるようになってるんだったか」
「そうだ。あとは、キメラ・マキナ達がいるからな。彼らが、何とかしてくれるだろう」
「そうだな。地上には、養分が山ほどあるらしいしな」
「そう言う事だ。データによれば、原始人たちは大量繁殖しているはずだ」
「原始人が使う、サイオニック・パルスは危なくないのか?」
「マキナ・ユニットで十分防げるらしい」
「そうか。まあ、家畜など恐るるに足らんな」
「そう言う事だ」
惑星突入艇へ乗り込み、各隊が近隣都市へと飛び立って行った。だが我々はこのエネルギー源である、光のドーム、グリッド・ゲインからあまり遠くへは行くなと言われていた。これは強力な磁場によって、バケモノが近づかないようになっている。だから、一番近い都市へと向かっていたのだ。それは自分の、家系によるもので、身分が高いものは安全圏での調査となったのだ。
そして、目的の場所に到着する。
「あの都市だ」
「あそこか」
ビービービー!
通信が入る。
「何だ?」
「都市に生体反応」
「よし。家畜がいるな。キメラ・マキナたちが喜ぶぞ」
「はい!」
通信を追えて、惑星突入艇がゆっくりと高度を下げた。
「ドローン射出!」
突入前に、都市内部をドローンで確認する。しかし、おかしな報告が入って来た。
「報告! 家畜の人間が見当たらず、四つ足の生物がうろついています」
「どういうことだ?」
パネルに映しだされた映像では、人間と呼ばれる家畜が一切写っていない。
ヘリオドールが言う。
「本部に確認を取る」
通信を繋ぐと、指令部のエルフが出る。
「こちら本部」
「家畜がいない。なぜか、四つ足の生き物だらけだ」
「確認します」
しばらく待つと、返事が来る。
「グリッド・ゲインによる魔獣の隔離膜で、スタンピードが起こり都市が壊滅したと推測されています。マキナ・ユニットの着用と、キメラ・マキナの投入を許可します」
「了解だ」
そして、ヘリオドールは私を見た。
「聞いた通りだ」
「キメラ・マキナは、扱いづらくて嫌なんだがな」
「だが、彼らに脅威を取り除いてもらわねばならん」
「そのとおりだ」
俺とヘリオドールが後部のキメラ・マキナ保管室に入り、カプセルに入ったキメラ・マキナを起こす。カプセルが開き、白い煙と共に二体のキメラ・マキナが出て来る。
「ハーオス! エクストレモ! 起きろ」
「おっ! 出番か!」
「楽しみね、地上の家畜!」
「いや。魔獣が相手だ」
「おお、いいじゃねえか! 俺が全部もらうぜ」
「あたしがやるわ!」
やはり、好戦的で扱いづらい。彼らは魔獣対応のために、超越者が作られた存在。彼らがいなければ、この惑星に降りて来ることは出来なかっただろう。
惑星突入艇が着陸し、私は指示を出す。
「総員、マキナ・ユニットを装着!」
エルフ全員が、マキナ・ユニットに身を包む。となりで、ヘリオドールが言う。
「サファイアの、金のマキナ・ユニット。憧れるねえ」
「まあ、たまたま、家系が良かっただけだ」
「選ばれた者だからさ。その美しい機体は、権力の象徴だ」
ハッチが開き、我々は外に出た。
「門がある。パルスレーザーの準備だ」
「は!」
惑星突入艇の砲身が門に向かい、エネルギーが溜まっていく。
「てー!」
ドン! ドゴン!
だが……門は半壊しただけだった。
「サファイア。多分あれは、サイオニック・パルスの影響だ」
「ごたいそうに、守っていると言う事か。パルスレーザー、出力上げよ! 撃て!」
バグン! と門が砕けて、都市の内部が見えるようになった。
「ドローンによる確認をしつつ、ハーオスと、エクストレモに続け」
「「「「は!」」」」
「嫌だねえ。原始の家畜の住居。臭って来る」
「ヘリオドール、作戦中だ。無駄口を叩くな」
「わかったよ」
すぐに、四つ足の小さな魔獣に囲まれる。
「ハーオス! エクストレモ! 排除せよ!」
「言われなくても」
「やっと出番!」
キメラ・マキナの二人はあっという間に、魔獣を排除した。俺は視界に映るドローンの映像を頼りに、大きな建物を目指す。家畜はそういうところに、大事なものを隠す習性があるらしい。
「ここか……」
大きな建物が見える。そこにも門があり、携帯式のパルス砲を撃った。
バグン!
「壊れないな」
「いよいよ怪しいな、低俗な奴らの考える事は単純でいい」
「ハーオス! 壁を破壊できるか?」
「わかったよ」
パルス砲をズレた壁のところに押し当てて、ハーオスが撃ち込んだ。反動で吹き飛ぶが見事に着地し、穴が広がる。
「エクストレモ! 中へ!」
「言われなくても入るわよ」
普通の薄着同然の女が、中を覗き込んでから、無造作に入って行った。
「ハーオスは、ここを見張ってくれ」
「なんだよ! 俺は戦えねえのかよ」
「内部に生体反応はない。来るとすれば、外だ」
「そうか! わかったよ!」
そして俺達は、穴から内部に侵入していく。玄関も壊れなかったので、ガラスを破って中に侵入した。あちこち探し回り、ヘリオドールが通信して来る。
「これかな?」
「今行く」
部屋に入って見てみれば、金の円盤がそこにあった。
「恐らくそれかもしれん。あとは、ロック解除キーだ」
そして、ヘリオドールがその円盤を取り上げた時だった。
ドゴン! 目の前が真っ白になり、俺達は勢いよく吹き飛ばされた。
「ぐあ!」
俺の前にいたヘリオドールが、苦痛の声を上げる。瓦礫から起き上がると、ヘリオドールが動かない。
「どうした?」
「ぐう、全身が痛む。それと、キメラ・マキナが動作不良だ」
「みんな! 来てくれ! ヘリオドールが負傷した」
だが通信で、思わぬ言葉が返って来る。
「ハーオスが大きな魔獣と交戦中! 音により、大型魔獣がこちらに寄って来たようです」
「なんだと! くそ! こんなところに!」
すると、負傷したヘリオドールが言う。
「なあ……はあはあ……サファイヤ。これ、罠じゃないのか?」
「我々が来ることを見越してか?」
「まさかとは思うが、家畜が仕組んだんじゃないのか?」
「知能など無い奴らだぞ?」
「だが、おかしくないか?」
ヘリオドールの言う通りだった。我々が金盤を取ると同時に、爆発するなんて罠としか考えられない。
「は!? 金盤は?」
ぐちゃぐちゃに壊れた、金盤が散らばっていた。
「壊れた?」
「はあ……はあ……あのくらいの爆発で壊れるものじゃないはずだが」
そこにエクストレモがやって来たので、ヘリオドールを運ぶように頼む。だが、従う事は無かった。
「ハーオスが戦ってるじゃない! 私も行くわ!」
そう言って、飛び出して行ってしまった。
私はマキナ・ユニットの出力を上げて、ヘリオドールを運び出す。すると、外では丁度、昆虫のような大きな魔獣を、ハーオスとエクストレモがとどめを刺したところだった。




