三百三十六話 高機動魔装大隊は伯爵領にブービートラップを設置する
全ての高機動魔導装甲が完成し、数日の訓練後に作戦に移る事にした。皆が並び、俺がその前に立つ。俺の両脇に、ヴェルティカとフィリウスが立っていた。
「高機動魔装大隊の初の任務となる。第一目標は、シュトローマン伯爵領での罠の設置。第二目標は中型魔獣の確保。第三目標はシュトローマン伯爵領を魔獣の巣にする事。開発に数日を使ってしまったから、急いで作戦を開始する必要がある。それぞれの役割をきっちり果たすために、作戦の確認を行う」
皆が黙って聞いている。それぞれの役割と作戦の時間、そして敵が来ると推測される日時を伝える。
「「「「了解」」」」
それを、はたで見ていたウィルリッヒが言う。
「コハク。余り、じいに無理をさせないでやってくれ」
「そのつもりだ。だが、どうしてもヴァイゼルの魔法が必要なんだ」
「分かってるさ」
ヴァイゼルが笑う。
「なんですかな殿下。年寄り扱いして、わしゃまだまだ現役ですじゃ。それに、この高機動魔導装甲は、魔力の精度が高いほど性能を最大限に発揮するらしいのじゃ」
「まったく、喜んじゃって」
「現役に戻ったかのようですな」
そこでマージが言う。
「身体強化が出来ない爺さんには、出来すぎたおもちゃさね」
「そういってくださいますな、プレディア様。わしは、血が滾って仕方がない」
「まあ、あんたは、この作戦の要になるだろうからね」
俺が言う。
「心配するな。何があっても、簡単にやらせるような真似はしない」
そこで、フロストが言った。
「殿下。ヴァイゼルさまは私にお任せください」
「ああ、フロストがいるなら間違いない」
俺が二人の王子に言う。
「では、ウィルリッヒ、プルシオス。ちょっと行って来る」
「もちろんだよ」
「気を付けて」
アーンがプルシオスに言う。
「ウチが帰って来るのを、ちゃーんと、まってるっぺ!」
「あ、ああ。わかったよ……」
「想定ではそれほど時間はかからないがな……。行って来る」
「よろしく頼む」
「浮上!」
全員が空中に浮かぶと、王子たちの後ろに控えていた兵団から歓声が上がった。
「「「「「おおおおおお」」」」」
「水平飛行」
そそれから俺達がドワーフの里上空に差し掛かると、ドワーフたちが手を振っている。そこを過ぎて、市街地を飛ぶと市民達が割れんばかりの歓声が上がった。俺達はあえて、ゆっくりと低空飛行をした。
「コハク聞こえてる?」
「ああ」
ヴァイゼルが教えてくれた、近い場所ならば話ができる魔法を解析し、アーンが魔法陣を刻んだのだ。この二十人は離れていなければ、会話ができるようになっている。
「凄い歓声だったわ」
「そうだな」
それに対し、フィリウスが言った。
「我々は、彼らにとって最後の希望だ。彼らの生きる希望だからな」
「ウィルリッヒに言われたとおりにやって、良かったという事だな」
それを聞いてオーバースが言う。
「彼の御方は、人心掌握に長けている。リンデンブルグの国民は、彼が率いていたから、たぶらかされる事が無かった。人々の心をどう掴むかを良く知っているんだ」
「凄いものだな」
「本来、あれが王の器と言うものだ。コハクも見習うといい」
「わかった。それでは! 高度を上げろ! 最高速!」
ドシュッ! 俺達は一気にスピードを上げる。
ベントゥラが、感情を昂ぶらせて言う。
「おいおい! 森が勢いよく後ろに流れてくぜ」
森は瞬く間に終わり、あっという間に後方へと過ぎ去ってしまった。
「なんと、なんとすばらしい! なんということじゃ!」
ヴァイゼルが感極まっている。
あっという間に、草原を飛び越えて行った。
ボルトが言う。
「本当なら一日以上かかる距離だぜ」
「見えた」
あっという間に、シュトローマン伯爵領が見える。
「はっええええええ!」
ボルトが興奮していた。そして俺は、冷静に言う。
「都市に降りる」
俺達が真っすぐに都市に降りると、グレーウルフが驚いたように逃げて行った。
その状態を見て、クルエルが言う。
「よりいっそう、都市が野生化してるな」
「食い物もあるが、巣になりやすい建物があるからな」
「人間がすごしやすいという事は、小型の魔獣もすごしやすいって事か」
「それが好都合だ。よし! 例の罠を設置していくぞ!」
「「「「「「おう!」」」」」」
まずはドワーフが作った、ダミーの端末と金色に塗った円の鉄板を用意した。それを皆で、あちこちに隠し、鍵をかけたりしながら偽装していく。
「よし、次は罠だ」
ミスリルの内部に爆炎魔法の魔法陣と、貫通魔法を刻んだ魔導手榴弾を、ブービートラップとして仕掛けていく。シュトローマン伯爵邸、ギルド、教会、兵士の宿舎など、大型の建物の内部のあちこちに仕掛けて行った。
「間違って抜くなよ」
「わかってるわ。慎重にでしょ」
「そうだ」
仕掛けた後で鉄線を利用し、火炎魔法が放出される単筒を仕掛けていく。驚いて避ければ、ミスリルの魔導手榴弾が爆発して、貫通魔法が作動した破片が、パワードスーツや敵の体にめり込む仕掛けだ。
そして建物のあちこちに、魔獣が侵入しないような結界の魔法陣を刻んでいく。増幅魔法陣を重ねて、ヴァイゼルが遅延性の結界魔法を付与した。
「これで、いいですじゃ」
「よし。これで、各拠点が守られているような状態になった」
「ですな。さぞ、大事なものが隠されてると思うでしょう。よくこんなことを考えたのじゃ」
もちろん、アイドナが考えた事だが。
「とにかく、魔獣にトラップを起動されたら意味がないからな」
「分ってますのじゃ。小さな結界石を置いてまいりましょう」
そして各拠点に仕掛けを施し、俺達は最後の扉を締めて結界をはる。
「よし、次は大型魔獣をつかまえに行く」
「何体くらいだ?」
「三体で良いだろう。それ以下では弱いが、それ以上だとお互いに食い殺してしまう」
そこで、ベントゥラが言う。
「いいかんじだ。三分割すれば、それぞれを縄張りにするだろうからな」
ボルトが重ねて言った。
「それを餌にするような、もっと大型が一匹来たらいいんだがな」
「まずは、中型の三体だ。それでも、敵には脅威だろう」
「まあ、あの敵にはなんてことないだろうけどな」
「カモフラージュには、それぐらいがいい。行くぞ」
すぐ南の山脈に向かって飛んだ。すると俺のサーモグラフィーにジャングルリーパーが映し出される。
「中型のジャングルリーパーを見つけた。確保するぞ」
「「「「「おう!」」」」」
俺達は、ジャングルリーパーを囲い込むように着陸する。カマキリのような剣より鋭い鎌をもった、バッタの化物のような魔獣で三メートルほどの巨体だ。
「ワイアンヌ! 例のものを」
「はい!」
ワイアンヌの背中から、単筒のようなものが取り出されて、俺に手渡される。俺は無造作に、ジャングルリーパーに近づいた。ギチギチギチギチ! くちばしを鳴らしてこちらを向く。
「悪いが仕事をしてもらう」
バシュン!
その単筒から、魔法を付与したミスリルの鉄線が網となって放射された。ジャングルリーパーを包み、ギュっ! と網を絞り上げる。それによって、ジャングルリーパーはがんじがらめになった。
「一体確保」
「「「「了解」」」」
そして、あちこちの山を飛び回り、中型魔獣を三体確保した。ボルトが苦笑いしながら言う。
「昔、あんなに手こずった魔獣が、まるで赤ん坊のようだな」
「技術というのはそう言うものだ。そして、これが実戦でも使える事が証明された」
「ちがいない」
俺達は、三体をシュトローマン伯爵領に運び、更にそれの餌になる魔獣も運び込んだ。ここは完全に、魔獣の巣になり人が住むところではなくなった。
それを見て、フィリウスが言う。
「シュトローマン伯爵が泣くな」
「了承はもらっている」
全ての策を施したころ、既に日が落ちて暗くなっていた。俺達は市壁の外側に集まり、最後の仕上げとして、全ての門に結界を張り巡らせていった。
「後は、小さな穴を開けて終わりだ」
市壁のあちこちに穴をあけ、小さな魔獣が入りやすいようにしていく。そしてその穴にマージがアーンに教えた、魔獣寄せの魔法陣を掘っていく。小さな魔石を仕込んで、そこにそっと魔力を注いだ。
「これでよし。後は勝手に魔獣が入って来るんだっぺな?」
「そうさね。蜜に吸い寄せられるように、魔獣がここを住処にするだろうね」
「みんな! 作業は終わりだ」
すると、ベントゥラが言った。
「こんな作業、何か月もかかるぜ。と言うか、普通の人間にゃ無理か」
「そこが盲点だ。こんな罠を仕掛けているとは、絶対に分かるまい」
それを、聞いてオーバースが言った。
「こんなことは、世界で初めてだろう。都市を丸まる罠にするなど、前代未聞だ」
「これによって、更に警戒を強めてくれることを願う」
「ああ」
「では! 帰るぞ!」
俺達が再び浮上して、夜のシュトローマン伯爵領を見下ろせば、月に照らされて領内に蠢く魔獣の目が光っている。皆はそれを、複雑な気持ちで眺めていた。
「これが始まりだ。では、行くぞ! 水平飛行! 最高速!」
ドシュッ! ドシュッ! ドシュッ!
《作業効率、及び、罠の精度も高いです。これで、敵をおびき寄せる罠が完成しました》
言われた通りやったが、これでいいのか?
《かなりの効果を発揮するでしょう》
わかった。
アイドナの演算では、これによりいろんな恩恵があるという。
メルナが言った。
「ねえ、すっごく綺麗だよ!」
上空で見る星空は、殊更に美しかった。そこで俺が言う。
「全隊停止」
皆が草原に浮かび、美しい星空を眺めるのだった。




