第三百三十五話 高機動魔導装甲
俺の視界には、要塞から奪取して来た、パワードスーツやドローンや他機器の設計図が浮かんでいた。 アイドナが敵のパワードスーツやドローン、兵器の生体動力伝導方式などを、徹底解析したのだ。
そして俺の開発のためにドワーフが用意した工場には、オリハルコンのカルデラ湖で生成した同じような部品が並んでいた。結合部に使われる部品や可動部の部品が、ミスリル鉱石によって生成されている。そのうえで、三十数体のオリハルコンの青い鎧がばらして置いてあった。それは、俺達が今まで着ていたもので、それに手を加えて改良をしていく予定だった。
「では、組み上げていく」
「わかった」
「うん」
「わかったぺ!」
「はい!」
ドワーフの技術を用いて加工された、ミスリルの細かな部品たちが分類されており、それを俺とアーンがひとつひとつつまみ上げて、設計図通りに組み上げていく
「ワイアンヌ。この出来上がった奴を、稼働させて違和感が無いかを見てくれ。設計図通りではあるが、人間が触った場合どうなるかを知りたい」
「はい」
そして、俺とアーンは次の工程へと移った。それは、生体動力を動力へ伝えるための新しい魔法陣と、魔石を精巧に加工した伝達媒介を融合させる工程だった。
「お師匠様。これでいいっぺか」
「ああ。かなり精度が高い。メルナ、これに魔力を注いでみてくれ」
「うん」
メルナが魔法を注ぐと、その機械に動力が伝わっていく。
「間違いなく伝達できている」
「流石はお師匠様だっぺ! なんで、こんなの最初っから分かるっぺか」
「さてな」
それはアイドナが完全解析し、生体動力と魔法陣の限界までの調査を行ったからだ。敵が持つ技術と、この世界で生態系としてある魔法、それに素粒子AIの高次元設計能力を加味して作っている。
部品が組み上がり、俺がワイアンヌに聞く。
「違和感は?」
「いまのところありません」
「よし、設計通りだ」
次々に組みつけられて行く部品を、青備えの鎧に魔法生成を活用して組み込んでいく。
最初の一体の九十五パーセントが組み上がる。
「ここは、俺がやる。危険だからな」
そして俺は、解体した四つ足のドローンの動力部に手を入れた。アイドナが位置を確認しているので、危険が無いように平行に保ち、それを台座に置く。
「外してみる。ワイアンヌ、特製の鉗子を」
ワイアンヌから受け取った、ミスリルで出来た鉗子を生体動力に突っ込んでみる。生体動力核の見た目は、シナプスのように球体から外に向かって、触手が伸びたような状態のものだった。鉗子を差し入れて固定し、また鉗子を差し込んで固定していく。
「フレームを取り除く」
慎重にフレームを取り除き、生体動力核が脈動しているのが分かる。
「移植する」
俺達が作った、青備えのコアとなる部分にゆっくりと移動させる。
「メルナ。魔力を切らすな」
「大丈夫」
魔法陣が光り、そこにゆっくりと生体動力核が入っていく。
《連結させます。ガイド通りに》
ガイドが設定され、アイドナが俺の手の主導権を変わる。ロボットより正確にシナプスのような物を、魔法陣へと連結していった。次々に連結して、元の箱と同じようにそこに根を張っていく。
すると、それが一気に動力を発動させ始める。
ガシャン!
青備え鎧が立ち上がり、青い表面が黒くなってきた。
「黒くなったっぺ」
「想定内だ。性格には黒じゃなく、魔力伝達で色が濃くなっただけだ」
「凄いっぺ」
そして生体動力核が、より一層赤く輝き始める。
「よし。完全に結合した」
「では、生体動力の蓋を締めるっぺよ」
「ああ」
ガパン! と蓋が締まり、そこの継ぎ目が無くなっていく。それは新しい生成魔法陣のおかげだった。その上に、オリハルコンの鎧をかぶせて結合する。
「出来た」
「どうだっぺ?」
「一度試してみるしかあるまい」
俺が青備えを着こみ、ゆっくりと動き出してみる。
「軽い」
「ほんとだっぺか」
「着ている気がしない」
そして俺達は、新兵器を試すために外に出る。外は晴れていて、これを試すには丁度いい日だった。
「どうだっぺか?」
「やってみる」
《音声認識をする魔法を組みこんでます。言葉で指示を》
「浮遊」
シュオオオオオ! 動力が動き出し、バーニアからエネルギーが放出されて俺の体が浮かび上がった。
メルナが喜ぶ。
「う、ういた! 浮いたよ!」
「ここまではまだ想定内だ」
「うん」
そして俺は浮上しながらも、自分の体がきちんと動くかを調べる。どうやら問題なく動けるようだ。
「上空に飛べ」
シュオオオオオ!
一気に地上から離れていく。だが、それはだいぶ不安定で、姿勢制御に苦労した。
《姿勢制御のロジックに、狂いがあるのかもしれません》
「着陸」
俺の体は、静かに大地に降りる。
「飛んだっぺ!」
「いや。姿勢制御が難しい。魔法陣を書き足すべきだ」
「わかったっぺ!」
敵の技術だけでは、魔法に融合させることは難しかった。更に前世のデータも参照しているらしいが、それでもかなり高度な解析が必用らしい。何度も何度も実践し魔法陣を書き加え、アイドナが演算したロジックを加えていく。
「よし。これでやってみよう」
「今度こそだっぺ!」
そして、次に俺達が外に出た時には、もう次の日の朝になっていた。二十四時間以上もこれに没頭し、軽い食事だけで皆が熱中していた。魔法薬の瓶が転がり、ポーションの瓶が並ぶ。
「行くぞ」
皆が頷いた。
「浮遊。上昇!」
ドシュッ!
《適合率九十五パーセント》
いきなりの高確率となった。
そのせいか、物凄いスピードで上昇し始める。
「停止。浮遊」
するとそこにとどまり、地上を見渡す事が出来た。
《ここで、魔力を開放してみます》
よし。
ドン! 物凄い衝撃が来た。
《指示を》
「平行飛翔!」
ドゥ!
俺の体が水平に、高速で飛び始めた。
《適合率九十八パーセント。再度魔力解放》
ドオオオオオ!
凄い勢いて飛び始める。
《魔力解放! 適合率九十九パーセント》
ゴオオオオオ!
凄い音で飛び始め、アイドナが更に開放する。
《魔力解放! 適合率百》
シュッ……。
突然音が消え、ソニックブームが起きた。見れば、山脈の深い所まで飛んできている。もうリンセコート領は見えなかった。
《完成です。戻りましょう》
シュッ。
あっという間に、リンセコートに戻り皆のところに着陸する。
「いきなりみえなくなったっぺ!」
「成功だ。人体にも影響がない」
「やったっぺ!」
「やったあ!」
「やりました!」
「凄い物さね」
皆が尻餅をつき、その場で呆けたようになった。集中していたので、精神力が限界に来ていたらしい。そこで俺が言う。
「一体出来れば、後は同じことの繰り返しだ。そしてさらに、魔力伝達のための魔法陣の開発をすれば、これはかなり有力な武器になる」
皆が疲れた顔をしながらも、満足そうな顔をしている。
「一度、飯を食って寝るぞ。体力が回復次第、量産に入る」
「うん!」
「わかったっぺ」
「はい」
そして俺達は、一度食事をとって寝る事にした。食事をとったあと、皆がほとんどすぐに眠りに入り、六時間後に俺が動き出すと皆も目覚め始める。
「やるっぺか!」
「そうだね!」
「やりましょう!」
俺達は二日目の作業に入る。一度組み上がってしまえば、同じことの繰り返しなので、アーンが、天工鍛冶師の力を発揮して超効率が良くしていく。
それから三日後、俺達の下へヴェルティカがやってきた。
「そろそろ。食事が無くなるでしょ!」
「その通りだ」
「で、どうなの?」
「いま、丁度そろったところだ。食事が終わったら皆にお披露目しよう」
「あら。楽しみだわ」
俺達は食事をとり、俺はすぐに一号機を着る。ヴェルティカが興味津々に見ているので、デモンストレーションをした。
シュッ……。
自由に空を飛び戻って来ると、ヴェルティカが目を丸くしている。
「す、すごぉぉぉい!」
するとメルナが、ヴェルティカに言う。
「ヴェルのもあるよ!」
「私のも?」
「じゃあ、皆のところに行こう。全員で着るんだ」
俺、ヴェルティカ、アーン、メルナ、ワイアンヌが新型の起動鎧を着た。
「どうするの?」
「声で操作する。まずいきなり速度を出さないように。俺が言った通りに」
「わかったわ」
「浮遊」
「「「「浮遊」」」」
「微速全身」
「「「「微速前進」」」」
空に浮かんだ俺達は、ゆっくりと兵士達の訓練所に飛んでいく。ゆっくり着陸すると三将軍や風来燕、ビルスタークにアラン、レイたち四人が集まって来る。後ろに控えている訓練兵達は、しっかりと真っすぐに整列していた。
俺が言う。
「訓練がはかどっているようだな」
「ああ! それより! 飛んで来たのか?」
「そうだ。新型の鎧の性能を見せに来た」
そして再び浮遊した。
「最高速」
ドン! とソニックブームを起こしながら、一気に飛び去る。見えなくなったところで、再び皆の元に戻って着地した。フェイスを開けると、兵士達が一斉に喝采する。
「「「「「おおおおおおお!」」」」」
そしてオーバースが目を見開いて言う。
「凄すぎる! なんてこった!」
「生体動力核が、あの要塞にあった分と、ここにあった起動鎧の分だから、三十体しか作れなかった」
「それが……高機動遊撃制圧部隊と言う訳か」
「そうだ」
それを聞いて、ボルトが言う。
「まったく……鳥肌が立つぜ」
「あとはドワーフの技術と合わせた防御盾と、遠距離兵器の装備を予定している。その上に白兵専用の、高周波ソードを、超高周波に改造する。それで、この高機動魔導装甲兵器が完成する」
「おっかねえな」
「お前も着るんだからな。ボルト」
「わかってる。どこまでもお供しますよ、お館様」
《全員の心拍数が上がり、体温も上昇しています》
いよいよ反撃の時だからな、皆も待ちくたびれたろう。
《伯爵領への侵攻の前には、間に合いそうです》
ああ。
そして俺達は、また空に浮かび、工場へと飛び去るのだった。




