三百三十三話 リンセコート王による演説
俺達が外に出ると、物凄い数の人間が通りを埋め尽くしていた。来た時よりさらに増えているようで、どうやら騎士達が駆け回って民を集めたようだ。
「凄い数だ」
すると、ウィルリッヒが言う。
「リンデンブルグ帝都の人口より多いように感じる」
それを聞いて、プルシオスも頷いた。
「エクバドルの王都よりも……多いみたいだ」
「改めて人を集めると、こんなにいたんだって思うね」
「確かに」
《土地が狭いので、そうみているのでしょう》
確かにそう思える。まるで前世の大都市のような混雑具合だ。広場にも路地にも建物の二階の窓にも、ありとあらゆるところに人がごった返している。
《かなりの騒音です。声が通りません。数万の人間がいます》
だな。
俺が王子たちに言う。
「数万はいるぞ。この大人数のすべてに声を届ける事は出来ない」
だが、それを聞いていたヴァイゼルが、ニヤリと笑って言った。
「大丈夫じゃ。ワシの魔法で聞けるようになりますのじゃ」
「そうなのか」
シュトローマンが俺を手招きして、壇上へと誘導した。
「ささ! こちらへ」
「わかった」
俺が階段を上ると、ヴァイゼルが魔法で、何やら黒い球状の影を空に浮かべていく。そして俺の前に、小さな黒い渦を置いた。
「これに話せば皆に聞こえますのじゃ」
俺が壇上から民を見ると、不安そうな顔や、怒りのような表情も見て取れた。
《かなりの不満が蓄積されているようです》
そうか……。
そしてウィルリッヒとプルシオスが、俺の両脇に立って、ヴァイゼルが二人の前にも黒い渦を置いた。ざわめきが最大に大きくなり、皆がこちらを向いてなにか話している。
「では」
プルシオスが言う。
「集まってくれてありがとう! 辛い状況が続いており、不平もある事だろうと思う! だが、今日は特別な日になるだろう! 今日この日が、人類にとっての新たな一歩である事を宣言する」
次に、ウィルリッヒが話し始める。
「皆も違う国に来て、どうなる事かと不安だと思う。帝国を離れ、隣国の辺境に来ざるを得なかった事は誠に不甲斐ない。しかし幸いにも、人類で一番生き残れる可能性の高い場所にいる事を知ってほしい!」
二人の王子が話したことで、数万の人間が静かになった。
「では」
二人の王子が俺を見る。
《人心掌握のために、トークスクリプトを展開します》
いや……俺が話す。
《ではどうぞ》
そして俺は、一歩前に出て言う。
「この世界で我々はお互いを尊重し、そして争いを避けながらもバランスを取って生きてきた。もちろん小さな争いはいっぱいあっただろう、皆がこの件で痛い思いをしているのも分ってる。だがその中でも、ささやかな幸せを感じながら生きてきた。子供を産み育て、仲間とはぐくみあい、そしてより良い暮らしをする為に必死に頑張ってきた」
静まり返っていた。ヴァイゼルの魔法が無くても、話が届くんじゃないかと言うほどに。
「だが、奴らは来た。空の上に浮かぶ、人工の船に住んでいる者達だ。奴らの一部の者達は、人間の血や体液を養分にして体を形成している。だから、この世界から人間がいなくなるのは困るようだ。しかし、だからと言って、俺達を仲間だと思っているわけでは無い。俺達の事は、家畜という呼び方をしていた。今回は新たな敵と戦うために、地上へ下りて来たらしい」
少しざわつくが、周りの奴が制する。
「そしてヤツらは、俺達がいる場所だけに降りて来たのではない。この大陸の他の国々にも降りて来て、大都市を蹂躙し人々を消し去ってしまったと考えられる。世界にはもう逃げ場など、どこにもないと言って間違いないだろう」
ざわめきが大きくなるが、俺はそのまま続けた。
「ここに安全圏を作り上げ、世界を我がものにしようとする者達を叩き潰すための準備をする事にした。よって、俺はここにリンセコート公国を建国することにする! 既に、プルシオス殿下とウィルリッヒ殿下の承認を得ている! 我々だけがこの世界の人間の希望だ。俺達が最後の砦であり、世界で待っている人間達の生命線なんだ。全員がこの世界を生き抜くための同士となり、これからは目的を全て一緒にせねばならない。皆で力を合わせて、俺達を養分なんて呼ぶ者達から、一緒にこの世界を取り戻してほしい」
シーンとする。そこで、プルシオスが言った。
「よって、私とリンデンブルグのウィルリッヒ殿下は、彼をこの国の王と認めた!」
「私も異議はない!」
俺が、最後に言った。
「この国では、貧富の差も階級も無い。ただ能力の高いものが、重要な要職についてもらうようにする。商人も農民も鍛冶屋も市場の女将も、関係なく有能なものが要職に就くようにして行こうと思っている。頑張れば報われる国であることを分かってほしい。今は、まだ非力な俺達だが、世界は必ず取り返せる。どうか……力を貸してほしい。君達が、世界の希望なんだ」
その言葉を言った後、沈黙が支配する。だが、どこからともなく拍手が起き、それが全体に広がって、大歓声に包まれる。
「「「「オオオオオオオオ!」」」」
どうやら、俺の言葉を理解してくれたようだった。
プルシオスとウィルリッヒが、俺を見て笑っている。
「メルナ! アーン! 皆! 巨大鎧と四つ足ゴーレムを連れて来てくれ」
俺達が待っていると、ガシャンガシャンと巨大鎧とゴーレムがやって来る。
「これは、本来は敵のものだった。だが俺には、敵の兵器を奪い返す力がある。巨大要塞も何機も壊し、そしてそいつらの技術を今回も奪ってきた」
フィリウスが操る、飛行ドローンが飛んで来る。
「こう言うのもある」
空を飛ぶものを見て、群衆が沸き上がる。
「アーン! 鉄を俺に投げてくれ!」
するとアーンが、鉄の鎧をひょいっと掴んで俺に投げてよこした。俺はレーザー剣で、細切れにする。
「この切れ味は、身体強化によるものではなく、武器がそうさせている。これから、こんな兵器の量産に入る事になっている。我こそはと言う力自慢は、是非俺達の下に来てほしい。鍛冶屋やものづくりに長けているものは、ドワーフの里に来てほしい」
俺の話が終わると、市民が手を上げる。
「何だ?」
「いつから?」
「いま、この後すぐからだ。話は以上だ!」
俺は壇上から降りて、プルシオスとウィルリッヒと共に元来た道を歩いて行った。市民が道を開けて、俺に頭を下げていく。
俺は、隣のウィルリッヒに言った。
「平等でありたいんだがな」
「仕方ないさ。コハク卿、我々だってどうしたらいいか分からないんだから」
「そうか……」
ガシュンガシュンと、メルナとアーンの巨大鎧もついて来て、ヴェルティカも合流した。
「旦那様……王様になっちゃったね」
「形式上だ」
「そんな事無いと思うけど」
それに、プルシオスも答える。
「そう、今はまだピンとこないだろう。だけど、じきに分って来ると思うよ。陛下」
「コハクだ」
「王だからね。陛下さ」
「コハクでいい」
「分かったよコハク卿」
そうして、俺達はドワーフの里の門を潜り抜けた。するとそこに、フィリウスやシュトローマン以下、貴族の面々が待ち受けていた。
「王よ! 何なりとご指示を下さい!」
シュトローマンがそう言って跪くと、他の貴族達も一斉に膝をつく。そこには、黒曜のヴェリタスで人が変わってしまった、ルドルフハイデン、セグルス・ハイデン、ゲラルド・ラングバイの姿もある。
「では、これから、国の編成を行う。全員に仕事が行き渡るように、そして十五歳未満の人間には教育を施せるようにしてほしい。貴族の子も農家の子も商人の子も分け隔てなくだ。どんな才能が眠っているか分からない。そこに、階級などの差別があってはならない。誰もが、能力を開花させるような制度をつくりあげ、国民の全てに仕事を振り分ける。いくつかの仕事に分類し、合理的に国を運用できるようにしていくので、そのつもりでいて欲しい!」
「「「「は!!!」」」」
そしてその先に、風来燕達が待っていた。
「とうとう王になんて、なっちまったな」
「なりゆきだ」
「いやいや。ついて来て良かったぜ! 未来の王様だったとはな」
「お前達には、沢山の仕事が待ってる。それでもいいのか?」
「こんな面白い人生が待ってるなんて、思わなかったさ」
「そうか」
するとベントゥラも言う。
「さてと、敵さんに一泡吹かせてやるか!」
「そうだな」
そこに、三将軍がやってきた。
「では、陛下。早速、軍の再編の話をお願いしたい」
「そうしよう」
俺は三将軍と共に、ヴェルティカのオフィスがある建物へと入っていくのだった。




