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バグの遺伝子 ~AIの奴隷だった俺は異世界で辺境伯令嬢に買われ、AIチートを駆使して覇王になる~  作者: 緑豆空
第二章 男爵編

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三百三十二話 リンセコート公国の王

 俺達が都市に戻ると、ヴェルティカが俺に駆け寄って伝えてきた。


「あ、こっちよ! 早く! 早く! 旦那様!」


 慌て気味で、仲間達も一斉に俺を見る。


 フィリウスが言った。


「大変な話になっている。急いだ方が良い!」


 そして俺はヴェルティカに手を引かれ、ドワーフの里を抜けて都市の方へ連れていかれる。その先に、市民がわんさかと出ており、俺達はそこを足早に通り過ぎた。


「ここよ」


 そこに都市を統治する、公社が立てられていた。急激に発達したドワーフの技術によって建てられた、まるでビルのような建物が。


 中に入り、奥の部屋へと通される。


「あ。コハク卿!」

「まってたよ!」


 ウィルリッヒとプルシオス、プルシオスの母親や、シュトローマン他、貴族達が勢ぞろいしているところだった。


「どうしたんだ? みんな揃って……何か大変な事でもあったか?」


 皆が目を見合わせて、プルシオスが口を開く。


「ウィルリッヒ殿下とも話をしたんだが、あとはコハク卿の了承を待つだけなんだ」


「俺の了承?」


 そして、ウィルリッヒが話す。


「これはね、大陸全土の状態を考えて決めた事なんだよ」


「これ、とは?」


 プルシオスと、ウィルリッヒが目を合わせて頷いた。


 ウィルリッヒが続けて言う。


「ここに、新しい国を立国するべきだという事だよ」


「新しい国?」


「リンセコート公国とでも言ったところかな?」


「リンセコート男爵領だが?」


「そうじゃない。ここに、国を作ろうという話だよ」


 皆が曇りのない目で、俺をじっと見ている。どうやら、ノントリートメントの気まぐれと言う訳でもなさそうだ。


「それに意味が?」


「私が国を奪還した時は戻れるが、どうやらこのままでは、国と言うものの存続が危うい」


 その言葉に、プルシオスも頷いた。


「エクバドルなど、既に風前の灯だ」


「そして、ゴルドス王国も恐らくは、無くなっているかもしれない」


《確かにその通りですが、なぜ、立国する必要があるのでしょう?》


「国は、必要なのか?」


 すると、ウィルリッヒが大きく頷いた。


「そう言うだろうと思った。だけどね、一般の民には拠り所が必要なんだよ。今のままだと、宙ぶらりんで自分らが何のために、どう生きていくかを見失っているんだよ」


「戦いが終わったら、国に帰ればいい」


「コハク卿は、この状況で帰れる国が残ってると思うのかい?」


「……」


《希望は薄いでしょう》


「厳しいだろうな」


「滅びかけの国に、戻りたい国民など居るだろうか?」


「いない」


「そう言う事だ。だから、ここに国を作るんだよ」


 腑に落ちた。それで、市民達が納得するのなら、特に異議は無かった。


「じゃあ、ここに国を作って、市民達を安心させよう」


 皆が顔を合わせて、ウンウンと頷いた。


「よかった! 断られるんじゃないかと」

「そうだね。コハク卿の事だから……」


「合理的でいいと思う」


 そしてプルシオスが、ニッコリ笑って言う。


「じゃ、王様。次にどうしましょうか?」


「王は……死んだ」


「いやいや。リンセコート国の王様だよ」


「だれだ?」


「コハク王だよ」


「……」


《そうなるでしょう》


 俺はふと、ヴェルティカを見上げる。するとヴェルティカが困ったような顔で言う。


「ね。困ったでしょ?」


「困った」


「ね」


 シーンとなったところで、プルシオスの母親が言った。


「幸いにも各領地を統治していた、貴族がそろっています。だから王はただ指示をされれば良いのです」


 だが俺は、首を振る。


「実行部隊として、指揮を執るのが合理的だ。俺が、引っ込んではダメだ」


 それには、ウィルリッヒがウンウンと頷いた。


「そう言うと思ったよ。だけど、それでいいんじゃないかな? 騎士達も、王が率先して前線にいれば、士気もおのずと高くなるだろうし」


 だが俺が、もう一度首を振る。


「地位など必要ない。並列に動けばいい」


「っと、言うと思ってた。でも、それじゃダメかな」


 アイドナが言う。


《ノントリートメントですから、共有が図れません。組織がないと、動けないのです》


 いままで、それでやってきた。


《それは争いが、中規模だったからです。これからは、大陸中が敵になります。組織で対応しなければ、防衛は到底無理でしょう》


 そうなのか?


《はい》


 理解した。どうやら、俺は王にならなければならないらしい。


「わかった」


 俺の顔を見て、プルシオスが言う。


「では、各将軍と、リンデンブルグの重鎮、剣聖、も呼びます」


 騎士に声をかけると、オーバース、クルエル、オブティスマ、ヴァイゼル、フロストが、入って来る。


「ビルスタークとアラン、風来燕と、レイたちも呼んでほしい」


 ウィルリッヒが笑う。


「そう言うと思ったよ」 


 そうして皆が、その部屋に勢ぞろいした。


 するとプルシオスが声をかける。


「コハク・リンセコート王! 我々をお導き下さい!」


 ザッ!


 全員が床に跪いた。


 な?


《形式でしょう。謹んで、受けてください》


 俺は経ったまま、皆に言った。


「敵の力は未知数だ。力を合わせて、かならず倒そう」


「「「「「「は!」」」」」」


 どうやら誰もが、俺が王になる事に異議が無いらしい。


「リンセコートを、急ピッチで防衛都市にする為に全力を注いでいる。そして、新たな兵器開発にも取り組んでいる。それを使いこなし、敵を打ち砕いで人間の世界を勝ち取る」


「「「「「「は!」」」」」」」


 何か……やりずらい。


《思ったままを伝えていいかと》


「そして、そのかしこまった態度は嫌いだ。今まで通りにしてくれると、話しやすくていい」


 シーンとしていたが、オーバースが跪いたまま笑う。


「くっくっくっ!」


 次の瞬間、将軍達が大笑いした。


「「「あーはははっはっ!」」」


「なにか、おかしかったか?」


「いや、こんな王が居てもいいかと思ってな」


「そうだ。俺は、俺だ。とりあえず、立ってくれ。話しづらい」


 皆がゆっくりと立ち上がった。そしてプルシオスが言う。


「では、陛下。市民達が外で待っております。王としての挨拶をお願いします」


「えっ?」


 流石に驚いてしまう。

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