第三百二十九話 古代文明の端末と要塞の分解と正体の告白
宝箱から取り出したのは、透明な感じだが中に金色の回線と、不思議な光を発している部分があった。中が金色なので、透明な部分も金色に見えて来る。
「これは……」
「どうでしょうか? 関係がありそうでしょうか?」
俺がそれをじっと見ると、アイドナが解析を開始する。
《セラミックです。そして、それに守られた内部の回線類は、明らかにコロニーの技術の可能性が高い。技術的には、金盤に近いものがあります》
俺は、セラミックのようなもので出来ている本を取る。
これは、なんだ?
《説明書です》
説明書?
《これが端末であることが確認できました。ページをめくってください》
さらさらと、ページをめくると、アイドナが全てを記憶した。
《使用方法です》
何に使う?
《金盤との受信の可能性。もしくは、あの光との受信》
使える……かもな。
《はい》
俺がシュトローマンに言う。
「これは、家宝では?」
「代々守ってはきましたが、私の勘では、これはコハク卿が持っていた方が良い気がします」
「殿下もそれで?」
「私も、シュトローマン卿と同じ意見だ。コハクが持ってた方が良い」
「わかった。預ろう」
そして俺達は、書庫を出て上に上がり、玄関から外に出た。
「待たせた」
するとウィルリッヒが聞いて来る。
「なにかあったのかい?」
「今はまだわからない」
プルシオスも、俺に言う。
「今は、一刻も早くあれをどうにかしないと。敵が来るかもしれないんだ」
「そうだ。行こう」
俺達の一団は、真っすぐに放棄していた要塞に向かって歩き出した。都市にいる魔獣は、俺達の集団に恐れをなして隠れている。小型の魔獣ばかりなので、処理はいつでも出来るだろう。
それから、三十分も歩くと、あの要塞が見えてきた。
「よし! まずは、中に侵入する! ドワーフは道具を手に!」
アーンが言う。
「もう、準備は出来てるっぺ!」
「どんどん持ち出すぞ!」
「「「「「わかったっぺ!」」」」」
「ワイアンヌ!」
「はい!」
アイドナが覚え込み、このドームの構造を全て書き込んだ紙。それを、ワイアンヌに十枚ほど複製してもらっていたのである。
「分解隊長たちは、内容を見て、分解していくんだ。他の青備えと人間達でどんどん運び出してくれ!」
「「「「「おおーーー!」」」」」
俺がレーザー剣でこじ開けた穴を通り、皆が内部に入り込んだ。それぞれが鑿や高周波ソードを手に、あちこちを分解し始める。流石は、ドワーフだった。全ての構造を、勘とスキルで判断し分解していく。取れた部品を、次々に人間達が運び出して行った。
アーンが聞いて来る。
「ここはどうするっぺ?」
「そこは、一番最後に俺がやる」
「わかったっぺ」
それは、この要塞の心臓部である、生体動力だ。ここを不用意に触って、爆発でもされたら全滅する。だから、ここは最後に手を入れる事にした。大工が逆に分解していく行程で、要塞をばらして行った。
俺は、あちこちを確認しながら、どうしても切り出せない所をレーザー剣で斬る。
「お館様! こっちも!」
「わかった!」
「そこが終わったら、こっちも頼むっぺ!」
「ああ!」
次々に分解し、見つけた予備のパワードスーツも全て書き換えて運び出す。更に四つ足のドローンと飛行ドローンも発見した。医療器具や、光の壁をはる部品も、破壊しないように次々に取り出して行く。
どんどん、空になっていく要塞内を見てクルエルが言う。
「まるで……白アリだ」
「ああ。持ちだせるものは殆ど持って行く。と言うか、余すところはない」
「そうなのか!?」
「ああ」
そして次々に分解し、作業は深夜になっても終わらなかった。
《作業効率が低下してきました》
わかった。
「よし! 今日の作業はいったん中断する! 交代制で休みながら、分担でやっていくぞ!」
「「「「わかったっぺ!」」」」
「運び出す人間達は、一旦休んでくれ。ここからは一旦、細かい作業になる」
オーバースが言う。
「わかった! みんな! 一旦、休みを取ろう」
「「「「は!」」」」
そうして、休みを取るものと、まだ続ける物に分かれた。俺には、集中力などと言う概念も無いので、皆が作業に戻った時に、分解しやすいように解体作業を続ける。
そして、ドワーフが交代する時に、俺も休みを取る事にした。
「じゃあ、アーン! 頼む」
「わかったっぺ!」
外に出て行くと、焚きだして料理が用意されていた。
「コハク!」
メルナが俺に、シチューが注がれた皿を渡してくる。
「ありがとう」
そして、それを食べているところに、ウィルリッヒとプルシオスが座った。
「面白いねこれは……国宝になりそうな雰囲気だけど、何が何だかも分からない」
「すべて利用できる。運べるものはすべて運ぶ」
そして、ウィルリッヒとプルシオスにも皿が渡される。
プルシオスが言った。
「まさか、敵の物を利用する事になるとはね」
「使える物は何でも使う」
ウィルリッヒが笑う。
「コハク卿は本当に面白い男だ。こう、なんていうか、超合理的というか」
プルシオスも頷いた。
「確かに。敵のものなど、忌み嫌いそうなものだが」
「忌み嫌う? 物には、何も問題はない。問題なのは、使っている者たちだ」
「まあ、そうなんだけどね。この、敵の要塞は、裏切ったりはしないのかい?」
「ああ、ウィルリッヒ。全て、こちらの意志に従うように書き換えている」
「なぜ、コハク卿がそれを出来るのかも疑問だけどね」
そんな話をしていると、ヴァイゼルとフロスト、オーバースもやって来る。
「見た事も無い物ばかりだ」
「ああ。だが、これは使える」
「しかし、不思議なのじゃ。なぜ、これが使えるとわかるのじゃろ?」
ヴァイゼルの声に、皆が静かになる。
するとそこで、メルナの鎧からマージが言った。
「コハクや。そろそろ、いいのではないだろうか? あたしとヴェルとメルナだけが知っている秘密を、皆に教えてやっても」
マージが言っているのは、俺が違う世界から来た人間だという事だ。確かに、隠し立てしたところで、影響がないところまで来ていた。
「わかった」
マージが言う。
「みんな。もっと耳を寄せな」
二人の王子、ヴァイゼル、フロスト、オーバースが耳を寄せた。
「小さい声で話しな。コハク」
「わかった」
そして俺は、ここに居る人間にだけ聞こえる大きさで言う。
「俺は、この世界の人間じゃない」
どんな反応が出るのだろうか? もしかしたら、驚かれるのではないか。だが、誰も何も言わないで、ただ次の言葉を待っているようだ。
「……それだけだ」
すると、ウィルリッヒが、えっ?という拍子抜けの顔をする。
「それだけ?」
「それだけだ」
「「「「「……」」」」」
皆が沈黙した。そこで、マージも不思議そうに言う。
「どうしたのさね? もっと、驚くところじゃないかね」
すると、ヴァイゼルが言う。
「いや、じゃろうな。くらいには、思うとったものですから」
プルシオスもうんうんと頷く。
「そうじゃないと、説明できない」
フロストもオーバースも、ただ黙ってうんうんと頷いていた。
マージが言う。
「なんだ。あんたら、知ってたんかね?」
ウィルリッヒが言う。
「いや。少しは驚きましたよ。でも、なんというか、やっぱりそうかみたいな」
皆が、まだうんうんと頷いている。
マージが不服なようで、もう一言いう。
「そうはいってもね、あの星の人達とは違う世界なんだよ」
ヴァイゼルが言った。
「プレディア様。それはそうじゃと思います」
ウィルリッヒが付け足した。
「そうでなければ、あの敵の技術の上をいけない。と言うか……」
皆が顔を合わせて、最後にオーバースが言う。
「大賢者様。やっと、教えてくれたかという気持ちですよ」
「そうか……もう気づいてたのかい」
「いや、確かに驚きもありますがね」
フロストが言った。
「でなければ、こんな要塞を分解などできますまい。我々が見ても、どこに何があって、何が利用できるのかすらわかりませんよ。まあ、うちの殿下くらいじゃないですか? なんとなく想像がつくのは?」
マージがウィルリッヒに聞く。
「そうなのかい?」
「まあ、形状や、その雰囲気、そしてそこにある器具や、位置などを考えるとね。何に使えるくらいは、朧気に見えてみるもので」
「天才か」
そして俺が、言う。
「もう一人いる」
「ん?」
「天工鍛冶師」
「「「「「ああ!」」」」」
そう。アーンはだいたい何がどうなっているのかを、スキルで把握する事が出来るのだ。だから今は、俺と交代をして、ドワーフたちに内部で指示を出している。
そうして俺の、正体ばらしは、まるで雑談のように終わってしまったのである。




