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バグの遺伝子 ~AIの奴隷だった俺は異世界で辺境伯令嬢に買われ、AIチートを駆使して覇王になる~  作者: 緑豆空
第二章 男爵編

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第三百二十八話 滅びそうな世界を前に出来る事

 ここはリンセコート迎賓館の会議室、俺とプルシオスとウィルリッヒ、そしてマージとメルナがいた。話し合うにしても、まずトップで方針を決めるべきだという話になったのだ。世界の破滅という現実が、市民達の心に重くのしかかっている状況もさることながら、急激に人工が増加したリンセコート領では、いろいろな問題があるのだとプルシオスが俺に言う。


「ドワーフの建築技術は、もちろん素晴らしい。だけど増え過ぎた人口に対応できるだけの都市機能が、リンセコートにはないんだよ。更に、流通が途絶えた今、自給自足がこの領地の課題になってるんだ」


「自給自足の食料と医療品、あとは防衛機能が足りてないという事だな」


「そうだね。市壁も出来てないし」


「分かった」


 アイドナが脳内で言う。


《高速演算の結果、全て対応可能かと》


 どうすればいい?


《敵の慎重さから考えて、未開の地に進軍して来る確率は極めて低いです》


 それはそうだ。


《森と山に囲まれた、辺境のリンセコートならば、まだ少しの時間はあります》


 では、どうする?


《シュトローマン領まで、まだ敵は来ないと推測。放棄して来た、要塞を分解してここまで運びます》


 分解?


《はい、分解可能です。あれは全て活用できます》


 敵が来る可能性は?


《二か月なら、百パーセント。十日ならば確率は一パーセント未満になると、予測演算では出ています。分解して運ぶのに必要な大勢で行けば、一週間かからずに戻って来れます》


 それで、何をする?


《医療、食料、防衛を全て解決できます》


 本当か?


《はい》 


 わかった。詳細のスケジュールをくれ。


 そして俺の中に、アイドナがスケジュールを出してくる。それを確認した俺は、三人とマージに話す。メルナは、ちんぷんかんぷんらしい。


「食料、医療、防衛に関して、打開できる可能性がある」


 ウィルリッヒが目を見開く。


「おもしろい! 本当かい?」


「ああ。敵の技術を使えばいい」


「あの、大型鎧と四つ足?」


「違う。実はシュトローマン伯爵領に、大型の要塞がまだ残っている」


「要塞が?」


「あれが、俺達の突破口になる」


 ウィルリッヒだけじゃなく、プルシオスも目を丸くする。そこで、マージが言った。


「なるほどねえ。だけど、敵が来ているんじゃないのかい?」


「いや。敵はかなり慎重に動いている。未開の地へ入る前に、絶対に足固めをしてくる」


 それを聞いていた、ウィルリッヒが頷いた。


「僕もそう思うね。あれは、何かに怯えていた」


「敵も凄い戦闘力ではあるが、警戒していた事からみて、すぐは来ない」


「だね。たぶん、侵略者とやらを警戒しているんだろうね」


「そのとおりだ。だから、動くなら今だ」


「だね。あれが、どう使えるかは分からないけどね」


 プルシオスが、不安な声で言う。


「本当に、敵は来ない?」


《偵察くらいは来るかもしれませんが、拠点から離れた場所でむやみに攻撃してこないです》


「拠点から離れては来ない。時間が経てば話は別だが、大陸中を探すのは広範囲すぎだ」


「そのとおり!」


 ウィルリッヒと俺の意見があった。そこでプルシオスは、渋々それに賛同する。


「急ぐぞ! 招集をかけて、将軍と青備え、ドワーフ達と、力仕事の出来る人間の男らも全て動員する」


「よし!」

「わ、わかった」


 俺達はすぐに三将軍の下にやってきて、決まった事を説明した。俺達の言葉に、三将軍は異論も無く、俺達が決めた事であれば、それが最善だろうと答えてくれた。


「いつだ?」


「すぐ出立する」


「よし!」


 帰ってきたばかりだが、リンセコートにふんだんにある回復薬と、魔法薬のおかげで、あっという間に全員が回復したのだった。たらふく酒を飲んだであろう、三将軍も剣聖フロストもぴんぴんしている。

 

 そこに、二日酔いのヴァイゼルが現れた。


「す、すま……うっぷ。ガンガンするわい」


 ウィルリッヒが目頭を押さえて、頭を振る。


「なんで、じいは、自制が効かないかな」


「なんでって、あーんな美味い酒、我慢できるかいの」


「たしかに、あれは美味しいけどね」


「それに、ワシより三将軍やフロストの方が、飲んどったでしょうが」


「いや、彼らは全くぴんぴんしてますよ」


「わし、年寄りじゃもん」


「はあ……」


 するとそこにいた、ヴェルティカが言う。


「いいじゃありませんか殿下。命からがら逃げて来て、ご老体に鞭打って」


「おおおーーー! ヴェルちゃんは、ほーんと優しのう」


 すると、マージが言う。


「年寄りには優しく。家訓さね、パルダーシュの」


「ええ、家訓ですじゃ!」


 だがそこで、ウィルリッヒが言う。


「ま、いいか。で、じいもくるんだよ」


「あ、ああ……ですな。まいりましょう」


「頼むよ」


 話は決まり、シュトローマン伯爵にその事を伝えた。


「わ、私も連れて行ってはもらえませんか!」


「かまわない」


「恐れ入ります!」


 そしてプルシオスにも青備えの鎧を与えて、シュトローマンにも青備えを装備させる。日が昇る前に、四つ足に乗り、巨大鎧を着たメルナと一緒に、山頂のカルデラ湖からオリハルコンを採取して来たのだ。重機を鎧に改造したおかげで、より迅速にオリハルコンを採取する事が出来るようになった。


「出発!」


 先頭に大型鎧、青備えと鎧を着た馬で構成された部隊が、大型の馬車に屈強な男達を乗せて出発する。ドワーフたちが作った荷馬車に加えて、市民達が避難してきた時に持ってきた馬車も全て動員。


「魔獣だ!」


 その途中で、魔獣に出会う。大部隊で来ているため、あっという間に仕留めて全て回収した。


「こんなとこで、大型のミダックの群れとはな」


 ボルトが言い、俺が答えた。


「やはり、逃げて来たのが集まってきているんだろう」


「なるほどね。ちょっと、あぶねえって事だな。だけど、肉に事欠かねえぜ!」


 そこで、ベントゥラが言う。


「リンセコートには守り神がいるからなあ、多分領地には入って来ねえぞ」


「守り神……なるほど、エーテル・ドラコニアか」


「ああ。帰り道で、俺とコハクが見たからな」


「不思議なもんだな」


 以前なら、こんなところで魔獣に合う事は無かった。だが、あの光の影響のせいで魔獣が逃げてきて、跋扈し始めたらしい。もちろん俺達の装備と実力からして、全く脅威になりえない。


 そうして半日が過ぎ、俺達はシュトローマン伯爵領に到着した。


 ベントゥラが言う。


「市壁の中に、入り込んじまったなあ……」


 領地内にも、魔獣が入り込んできているようだった。


 シュトローマンが嘆く。


「おお、我が領が、魔獣に占拠されるなど……」


 そこで俺が、シュトローマンに言う。


「すなない。掃除している暇はない」


「い、いいんです! ただ、ちょっと館に寄りたいのです!」


「わかった。何かあるのか?」


「あの、コハク卿に、どうしても見ていただきたいものがあります!」


 要塞に行く前に、シュトローマン邸に立ち寄る事になる。魔獣を駆除し、シュトローマンが鍵を開け、プルシオス達に言う。


「お手間をとらせてすみません!」


「いや。私は別にいいよ」


 そうして俺と、プルシオスが入ろうとすると、シュトローマンが言う。


「あの、大賢者様も」


「わかったさね」


 俺達がシュトローマン邸に入ると、シュトローマンは急いで自室に入ってすぐに出てきた。手には、じゃらじゃらと鍵の束を持っている。


「こちらです」


 シュトローマンは、地下に続く石段を下りていき、俺達が後に続く。そして重厚な鉄の扉を開けると、そこは書物が並ぶ書庫だった。


「書庫?」


「は、はい。ですが……不思議なものと書物がありまして」


 そう言って奥に行くと、宝箱が出てきた。手元に持っている鍵の束から、鍵を選び差し込んで開ける。


 ガッシャン。


 それを見た俺が呟く。


「これは……」


「何か、関係があるのではないかと思ったのです」


「ある……だろうな」


 箱の中を見て、プルシオスが言った。


「これ、どうしたの?」


「は! 殿下、何世代か前の我が祖先が、王から預ったものだそうです」


「なるほど」


 しばし呆然としつつも、シュトローマンが俺に言う。


「なんでしょうか?」


「分らないが、触ってもいいのか?」


「殿下の前で誠に不敬ではございますが、これ、ちょっと気味が悪いのですよね」


「そうなの?」


「はい。時おり音がするというか……」


 そして俺はその宝箱に手を入れて、それを取り出してみるのだった。

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