三百二十四話 偽装のため見せしめにエルフを殺す
休息をとった俺達は、すぐさまこちらに敵を呼ぶ事にした。既に、合図の筒を使い果たしていたので、あちこちに薪を積んで火をつける。大きな火になったところで、生木を足すと、モウモウと煙を上げた。これは、のろしと言う通信方法らしい。
「これで、おびき寄せるのは終わりだ。仲間達も心配だからな」
俺の言葉を聞いて、フロストも頷いた。
「そうだな。市民の数が多いから、護衛は多い方が良いだろう」
「だが、ここで、少し殺していく。敵がこちらにいる事を偽装するために」
「その言葉を待っていた」
俺達は、火を付けなかった場所に潜み、敵がやって来るのを待っていた。
「来たぜ」
ベントゥラが、木の上から降りて来て告げる。
「少し離れよう」
俺達は、更にのろしを上げた所から距離を取って息をひそめる。敵の動きは、前の山と同じやり方で、火炎放射で山を焼いている。山火事が広がって行き、更に煙がたちこめていった。
「火が落ち着いたあたりで、機動鎧が降下して来るはずだ」
「ああ」
「動くぞ。面をして気密性を上げろ」
皆が鎧を調整し、燃えている森へ向かっていく。高台に登ると、焼けている森がはっきりと見渡せた。風の影響で、こちらの方に煙が向いているのが好都合だった。
ボルトが言う。
「しかし、随分と念入りに焼いてるな。ベントゥラ」
「確かに、そうとう警戒しているようだぜ」
すると、脳内でアイドナが言った。
《先発隊で消息を絶ったエルフとキメラ・マキナの情報が、コロニーのシステムに伝わったのでしょう》
いままでは、連絡手段が無かったようだが?
《あの古代システムを全て稼働させたことで、ネットワークが構築されたものと推測されます。そして、金盤がその情報を集約して、コロニーに送った形跡があります》
そうか、と言う事は、要塞のデータも通信が行われたという事だな。
《その通りです。どの程度の情報が伝わったか分かりませんが、危険であると伝わっているのでしょう。あの警戒ぶりは、その情報が伝わった結果です》
そして、俺が皆に言う。
「やつらは、俺達との戦いの履歴。死んだエルフ、行方不明のキメラ・マキナの情報を知っているんだ」
「なんでバレた?」
ボルトが言うと、皆が頷く。ネットワーク通信を知っているのは、俺だけなので仕方のない話だった。
「あの、古代遺跡の光。あれは、遠く離れても意思の疎通ができるようになったものだ。持ってきた金盤に情報が一瞬で集まり、それをコロニーと言う、空の上の星に伝達させたらしい」
フロストが驚く。
「コハク卿は、大賢者のようだね。剣の腕も経つ、物作りも頂点を極め、敵の様子まで手に取るようだ」
「あの金盤を触ってみて、分かった事だ」
「つくづく不思議な男だね。君は」
ベントゥラが言う。
「ってことは、いままで大陸で起きた事が、奴らに筒抜けになったって事だよな?」
「ある程度はな。だが、こちらがキメラ・マキナを捕えている事は知らんだろう。金盤が使用された事は認知しているだろうから、探し出すまでは諦める事はあるまいがな」
「なるほどな」
「見ろ」
山の火事が少し収まってきたころ、同じ様に飛行艇から、エルフのパワードスーツが数機降りてきた。そして山中に入り、焼けた山を探し始めている。
「行くぞ」
「「「「おう」」」」
「よし!」
俺達は、燃えていない森に入り、煙が漂う中を走り抜けていく。普通なら呼吸困難になるところだが、青備えを改良し酸素のフィルターを取り付けた。そのおかげで、呼吸はスムーズに行える。山の上から、燃えた森を見ると、パワードスーツたちが燃え落ちた木々をかきわけて、捜索をしているところだった。
「やっぱり、金盤を探してるみたいだな。どうする?」
「飛行艇に見えないように呼び寄せよう」
ベントゥラがアームカバーから、鏡を取り出した。それを朝日にあてるようにして、キラキラさせる。
「来たぜ」
俺達は更に、森の奥へと下がった。しばらくすると、パワードスーツたちが森に入り込んで来る。
「とんだ、素人だな」
ボルトが言うが、確かに慣れていないようだ。
アイドナが言った。
《恐らく、コロニーには森が無いのでしょう。戦闘も不慣れで、彼らを恐怖が支配しているはずです》
恐怖? 森がか?
《生き物は、見た事が無いものに恐怖するものです》
確かに身のこなしが悪く、連携もとれていなかった。
《ですが、通信が稼働している可能性があります。攻撃するなら、即死させてください》
そこで俺が、仲間達に言う。
「奴らはしゃべらなくても、離れた所から話し合える。殺すならば、一撃で殺す。森に入ったのは三体、左はフロスト、右は俺が行く。真ん中の奴は、風来燕四人で仕留めろ。奴らの弱点は俺達が調べた通り、背中の上の兜の結合部分だ。斜め下から、真っすぐに剣を入れろ」
俺が指示を出すと、すぐさま全員が動き始める。それぞれが、パワードスーツの死角に入って行った。森での戦いは俺も、風来燕も最も得意とするところ。面白いのは、慣れていないはずのフロストが妙に手慣れている事だった。
《空間歪曲加速》
シュッとパワードスーツの、すぐ後ろ五センチのところに立ち、鎧の結合部に向けて高周波ソードを突き上げるように入れる。
ドス。
《システム経路切断確認。頭蓋を抜けて脳を破壊しました》
よし。ボルト達のところに向かうぞ。
《空間歪曲加速》
一瞬でボルト達のところに行くと、氷魔法で凍り付いたパワードスーツの後ろから、ボルトが剣を突き上げていた。俺の取り越し苦労で、風来燕の連携精度はかなり上がっていた。
「フロストのところに行くぞ」
「「「「おう」」」」
フロストは、倒れたパワードスーツをまじまじと見ていた。
「倒したか?」
「コハク卿に、弱点を聞いていたからね。言った通り、理想的な角度で突き入れたよ」
「そうか」
「赤い血が剣に付いたが、生き物かい?」
「そうだ。耳の長い人間が入ってる」
「こんなに簡単に倒せるとはね……、あんなに苦戦していたのが嘘のようだ」
「いや。剣聖だから出来る事だ。普通は、そんな真似は出来ない」
「いやいや、分っていたとしても、キメラ・マキナとやらは、どうしようも無かった」
「あれは、人間じゃないからな」
「そうか」
そうしていると、ベントゥラが言う。
「また来たぜ」
「恐らくは、通信が途絶えたから、確認しに来たんだ」
「そう、いうのも分かるのかい?」
「そうだ。恐ろしいのは、この中身のエルフじゃない。この鎧の機能なんだ」
ボルトが言った。
「だが、倒し方が分かった以上、どうにかなるってもんだ」
「そうだ。残りも始末するぞ!」
「「「「おう」」」」
「では、私はまた一騎もらいましょう。倒し方をおさらいしないと」
「学習か……良いだろう」
そして俺達はまた散開し、後続のパワードスーツも破壊した。構造を知ったが故に、敵の弱点を知れたのは大きかった。すぐに、皆が集まって来る。
「離脱する」
「「「「了解」」」」
「わかった」
俺達は、反対側の斜面を下って行った。後ろを見れば、次々に飛行艇が集まってきており、どうやら仲間がやられた事を察知したらしい。今度は、まとまって大量に降下して来たようだ。
「飛ぶ奴が厄介だな」
「あれも、対処法はあるだろう」
それを聞いた、フロストが言う。
「ヴァイゼル様が言っていたのを聞いた事があるのだが、どこかに飛竜を使役する魔術師がいるらしい。生きているかは分からないがね」
「なるほど。ヴァイゼルに聞いてみよう」
俺達はすぐに南側の山に登り、魔石を新しいものに交換した。そのまま、仲間達に合流するための高速移動を始める。振り向けば、俺達がいた遠い山で、もくもくと黒煙が上がっていた。
「どうやら、山ごと焼く事にでもしたんだろうな」
「うまく引っかかってくれた」
フロストが言った。
「ウィルリッヒ殿下のいう通りだった」
「何がだ?」
「コハク卿とは戦わない事。戦ったら、リンデンブルグ帝国は終わると言っていた」
「買い被りすぎだ」
「いや、確信したよ。君は恐らく、今の世界のずっと先の世界から来たんだろうね」
「……さてな」
なぜわかったんだ?
《言葉の通りなのか、もしくは、想像の話なのか分かりません》
恐るべきはウィルリッヒか。
《そのようです》
足を止めて、地図を読み、アイドナが正確な方向をガイドマーカーで示す。
「こっちだ」
走り出せば、大きな牛の魔獣がいた。
「狩って皆の下に持って行こう」
「おっ! テリオスか! 美味そうだ!」
俺達は魔獣を狩り、首を斬り落として手足をバラバラにする。すぐフィラミウスが土魔法で穴をあけ、そこに頭と内臓を放り込んで埋めた。敵に、痕跡を見破られないようにするためだった。
「俺が胴体を背負っていく。それぞれ、足を持って行ってくれ」
「「「おう」」」
「了解だ」
それから一日ほど走り込むと、俺のサーモグラフィーに市民の列が見えて来たのだった。




