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バグの遺伝子 ~AIの奴隷だった俺は異世界で辺境伯令嬢に買われ、AIチートを駆使して覇王になる~  作者: 緑豆空
第二章 男爵編

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第三百二十三話 敵の追跡と攪乱作戦

 本隊を先に進め、俺達は息を潜めて空を見上げていた。どうやら敵の飛行艇は何かの違和感を感じて、このあたりの哨戒行動を繰り返しているようだ。


「やはり。逃げた足跡などを、見つけたんだろう」


 ベントゥラが言うと、ボルトが腕組みをして頷く。


「あれだけ盛大に森を燃やして、更に追って来たか」

 

 それに対して、俺が答える。


「おそらく、敵の狙いが金盤だからだ。あれが無いと、侵略者を防げないのかもしれん」


「あれは……森を焼き払っても、燃え残るだろうからな。俺達を燃やして、手に入れようとしたか?」


 ガロロが言う。


「じゃが、見つからなかった。だから、追手が出たのじゃろうな」


 そして、フィラミウスが俺に聞いて来る。


「金盤は、勝手に動かないのかしら?」


 俺の脳内で、アイドナが言った。


《勝手には、動きません。既に、こちら側で動作確認を終えてます》


「大丈夫だ。あれは動かない」


「コハク。あれを動かせば、敵に察知されるんだろ?」


「そうなるだろう」


 それを聞いた、フロストが言う。


「侵略者を防げないとなると、躍起になって探すだろうね。それこそ、血まなこになって」


「そのとおりだ。だから、捜索を諦める事はないだろう」


「ならば、むしろ鍵はこちらが握っていると考えられるね」


「確かにそうだ」


「ある意味、人質のようなものじゃないかな?」


「奴らは、簡単に奪えると思っているだろうがな」


「それでも、我々の手にある。なおの事、本隊を追わせるわけにはいかない」


 その通りだ。本隊が見つかれば、市民達を守りながらの戦いとなる。ならば、俺達がオトリとなって、敵の意識をひきつけようという、フロストの意見が正しい。


「敵は恐らく、空からの攻撃をしてくるだろう」


 俺が言うと、ボルトが答える。


「なるほどな。また燃やすつもりか」


「幸いにも、この六人は、青備えを来ている」


「火は通さないからな。すぐにやられる事は無いか」


 その時、ベントゥラが言った。


「なら、敵を攪乱しよう」


「攪乱か」


「そうだ、魔獣狩りと一緒だよ。相手をおびき寄せて、混乱させてしまおう」


 バラバラに分かれて、魔獣をおびき寄せ俺が仕留める。その方法を言っているのだ。


「だが、ばらけるのは危険だ」


「違うぜ。あの、合図の魔道具あるだろ、あれを使うんだよ」


「どうする?」


 そしてベントゥラが、俺達に説明をして来た。


「それなら、時間が稼げそうだ」


「んじゃ、やろうぜ。紐もあるしよ」


 そう言って、ベントゥラがバックから巻いた糸を取り出して見せた。


「よし」


 俺達はすぐに、二手に分かれた。ボルトとベントゥラとガロロ、そして俺とフロストとフィラミウス。山を走り回って、あちこちにワイアンヌ特性の魔導筒を木に固定していく。山の反対にボルト達が回り、俺達が反対側のいくつかの木に仕掛けていった。そして筒から、紐を伸ばして離れていく。


 一時間後に再び合流した時、再び飛行艇が飛んできた。


「きたきた!」


 ボルトが面白そうに言うと、フロストが笑う。


「面白いな。これが、冒険者か」


「そうそう。んじゃ、コハク! やろうぜ」


「了解だ」


 そして、速やかに紐をグイっと引っ張った。すると、百メートル先の魔導筒が、赤い光を打ち上げる。俺達はすぐに、逆方向に向かって最高速で走った。


 ボワァァァァァ!


 振り返れば、上空から俺達が筒を撃った場所に、火が降り注がれていた。燃え始めて、黒煙が上がる。


「引っかかった」


「それじゃあ、次だ」


 そして、そこから一キロほど離れた所に設置した魔導筒を打ち上げた。今度は、青い光が撃ち上がる。しばらくすると、飛行艇がやってきて上空から火を放った。


「次だ!」


 俺達は、次々に魔導筒を打ち上げていく。それを繰り返したら、次々に飛行艇が飛んできた。ここに、人が逃げ込んでいるのだと思っているのだろう。だが、俺達は既に隣山の峰まで走り込んできていた。


「はあはあはあ」

「いやー、走った走った。はあはあ」

「そうね。凄く」

「じゃな!」


 だが俺とフロストは、息を切らしていなかった。ボルトが言う。


「コハクはいつもだが、流石も剣聖だね。息ひとつきらしてない」


「この鎧のおかげさ。使い方によっては、かなりの体力消耗を削減できる」


「ははは……俺達の方が、長く着てるんだけどなあ」


「そうだな、コツみたいなものかな」


 アイドナが言う。


《ステータスが、数倍も違うからです。元より、技術力が格段に高いのです》


 素粒子AIの補助も無く、使いこなせるとはな。


《そこが、剣聖と呼ばれる所以なのでしょう》


 だな。


 隣の山の上空には、数機の飛行艇が集まって飛んでおり、山中に火を放っていた。


「あははは、騙されてる」


 ゴウゴウと燃える山を監視するように、周りをぐるぐる回っていた。


「見ろ」


 すると飛行艇から、エルフのパワードスーツが次々に降下していくのが見えた。


「なるほどな。焼き殺してから、探そうって魂胆だな」


「そうらしい」


「ご苦労さんだな。何も無いのに」


「時間稼ぎにはなる」


 フロストも頷いた。


「多少は、攪乱できただろうね」


「まあ、探している間は留まるだろう」


「どうする?」


 ボルトに聞かれて、俺は地図を取り出す。ワイアンヌが、写してくれたもう一枚。


「次は、こっちだな」


「なるほどな。南下するんじゃなくて、更に東にか」


「そうだ。違う方向に向かっていると、勘違いさせよう」


「よし」


 フロストの返事と共に、東に向かって走り始めた。仲間達から放れて、更に山脈の奥に入る事になる。谷を降りて、一気に山を駆けのぼり、また山を下っていく。


「おや?」


 ベントゥラが言う。


「どうした?」


「魔獣の気配がするなあ。どうやら、こっちに逃げて来たみたいだぜ」


「やはり、あのシステムは、魔獣を追い払う効果があるらしいな」


 フロストが頷きながら言った。


「奴らも、居住権を獲得するために、魔獣は邪魔だと言う事か」


「だろうな。いくら、キメラ・マキナとやらが強くても、エルフはあの鎧を着たまま生活できないんだ。冒険者ギルドのように、人数がいるわけでもないだろうからな」


「そう言う事だな」


 俺が皆に言った。


「ひとまず、魔獣を狩ろう。食料の確保と、魔石を確保する」


「いいね」


「そして、次の作戦を練るぞ」


「「「「おう!」」」」


「いいねえ。剣聖になって、こんなワクワクしたのは、コハク卿に初めて出会った時以来だよ」


 すると、ボルトが笑って言う。


「そうでしょう? ほんと、コハクといると飽きないっていうか、冒険してるって思える」


「そうだね。これぞ、本当の冒険なのだろうね。世界を救う為の」


 そして俺達は、魔獣の気配のする山へと駆けあがっていくのだった。すぐに、魔獣の群れに遭遇した。そこでは、角の生えた鹿のような魔獣が群れをなして、こちらを見ていたのだ。


「フロストと俺が迎え撃つ。四人が、魔獣を追いだしてくれ」


「「「「おう」」」」


 俺達が、さんざんやってきたパターンだった。四人が分かれて、魔獣を驚かせてこちらに向けて来る。案の定、物凄い勢いで角の生えた鹿の群れが突進してきた。


「フロスト、足を斬れるか?」


「もちろんだ」


 俺が舞うように鹿の間を移動し、次々に足を斬る。フロストも同じように、斬り落とし動きを封じた。


「これくらいでいい」


「なるほど」


 十頭の魔獣を行動不能にし、魔石を回収していく。袋に詰め込んで、予備として持ち歩く事にする。


「洞窟を探そう」


「だな」


 素早く歩き回って、洞窟を見つけた。このあたりも風来燕は、探すのが上手いのだ。


「あった。ここなら、煙もあがらねえ」

「飯だ! 飯だ!」


 俺達はすぐにそこに入り込み、焚火を焚く。魔獣の肉をさばいて、棒にさし火の回りに並べていった。焼けた肉を齧るが、塩が無いので味気なかった。それでも、俺に魔力が流れ込むのが分かる。


 そして、ボルトが俺に聞いて来る。


「どれくらいしたら動く?」


「すぐだと、こちらの機動力がバレる。少し、休んでから動くといい。まだ、火も消えていないようだ」


「では、交代で見張りにつくとしよう。君らは休んでくれ」


「わかった。フロストさん。交代しながらにしよう」


「ああ」


 そうして俺達は、次のかく乱作戦に向けて、しばしの休息をとるのだった。

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