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バグの遺伝子 ~AIの奴隷だった俺は異世界で辺境伯令嬢に買われ、AIチートを駆使して覇王になる~  作者: 緑豆空
第二章 男爵編

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第三百二十二話 市民の乗り物と敵の偵察機

  山に登り三時間後、太陽が上がりきり、あたりはすっかり明るくなった。皆が、疲弊しきっており、これ以上の無理な行軍は不可能だと知る。そんな時に、ベントゥラが木の上から言う。


「コハク! 森が、燃やされてるぞ!」


「なに?」


 俺も木に飛び上がり、麓の森を見るとモウモウと煙が上がっていた。


「あそこにいたら、大勢死んでたな」


「ああ。そして、のんびりもしていられない事もわかった」


 俺が下に降りて、ウィルリッヒと三人の将軍に伝えた。


 すると、オーバースが言う。


「足跡を追われたのだろう」


 クルエルが答えた。


「だろうな。森に火を放ったのは、あの空飛ぶ奴かもな」


 そして、ウィルリッヒが二人の言葉を聞いて言う。


「人が、逃げた事は伝わったということだね。じきに、こちらにも気が付くんじゃないだろうか?」


 皆が頷いている。


 脳内でアイドナが、俺に言う。


《気づいた確率は百パーセントでしょうが、直ぐに追手が来るかどうかは分かりません》


 なぜだ?


《敵は、侵略者との戦いに備えねばならないからです》


 たしかにな。


 俺は、ウィルリッヒ達に言う。


「そうだな。だが、既に市民は疲弊しきっており、これ以上の行軍の継続は不可能なようだ」


「そうだね……」


「すぐに、いかだを作ってしまおう」


「音が響くけど」


「奴らも、侵略者に備えねばならないはずだ。戦力を大きく割く事はない」


「その通りだね」


「それに、敵が森を燃やしてくれたのは好都合だ。煙が立ち上り、こちらの位置を把握できないだろう」


「なるほど、それもその通りだ」


 俺はすぐに、アーンとメルナとワイアンヌを呼んだ。


「すぐに、彼らを乗せるいかだを作るぞ!」


「分かったっぺ!」

「うん!」

「わかりました」


「ドワーフたちも、全員手伝ってくれ!」


「「「「んだっぺ!」」」」


 そしてアーンとメルナの大型鎧の斧が、大木に振り下ろされる。強大なパワーで、あっという間に木が切り落とされて行った。倒れた木々にドワーフが群がり、ナイフや高周波ソードを使ってカヌーのような物を作りはじめる。そしてワイアンヌの持っている、金属のワイヤーで一台一台を繋いでいく。


 そこに、食糧確保のため周囲に魔獣狩りに出ていた、風来燕が帰ってきた。


「だめだ。コハク」


「だめか?」


「大型の魔獣はどこにもいない」


「それだと、肉の確保が出来ないな」


 アイドナが俺に言う。


《古代遺跡のシステム発動は、どうやら魔獣を追いやる機能があるようです》


 なるほどな。龍などが来れば危険だから、何らかの方法で魔獣除けをしているか。


《その上で、コロニーから降りて来たのでしょう。邪魔な人間も排除して、自分達の場所を確保した上で侵略者と戦う》


 以前、パルダーシュと王都が魔獣に襲われたが、あの魔獣はどこから?


《コロニーで製造されたものと推定。あれは、地上のものとは違ったようです》


 そういうことか。確かに、ステルス機能の蜘蛛もいたしな。


《はい。そしてワームホールの技術と、今回の技術はどこか似通っています》


 そうなのか?


《いずれも、魔獣などを送り込む、退けるという機能があるようです》


 確かに……。金盤を稼働して、調べた方が良さそうだが。


《すぐに敵に察知されます。位置を特定されれば、追手がくるかと》


 なぜそう思う。


《敵は、金盤を必要としているからです》


 ……敵が欲しがっている物を、俺達が所有しているという事か……。


《はい。敵を全て殲滅し捕獲しているため、金盤の所有は特定できません。ただし神殿都市での使用で、この周辺の人間が持っていると想定して来るでしょう》


 だが、あれは敵には渡せん。


《それが妥当です》


 俺達が放している間にも、ドワーフは、次々と人を乗せるいかだを作り、ワイヤーで固定していった。二時間が経過したころで、ある程度の数のいかだが列になって繋がれる。


「お師匠様! これで足腰の弱い人を乗せられるっぺ」


「よし!」


 そこで、メルナが聞いて来る。


「コハク! こいつらは、どうするの?」


 四つ足のドローンに乗せて運んできた、キメラ・マキナ。ヘルシャフトとアンヘルのことだ。


「持って行く。もう一回、四つ足に括り付けろ。闇魔法をしっかりかけてな」


 するとヴァイゼルが言う。


「なら、メルナ嬢ちゃんよ。わしが、きつーい、魔法を何重にもかけてやるわい」


「何重にも?」


「こう見えても、わし。帝国魔導師長、あんがい凄いんじゃよ」


「うん。わかった」


 そしてヴァイゼルが、見た事も無いような魔力の精度で、行く重にもキメラ・マキナに魔法をかけた。


「よしっと」


「すごいね」


「闇魔法だけじゃもの足りんからの、聴覚遮断、精神防核、神経麻痺。ありったけをかけてやったわい。こやつら、人間じゃないのであろう? 普通の人間ならとっくにあの世行きじゃ」


 マージが言う。


「そうだね。メルナ、この爺様に魔法を習うと良いかもね」


「そうなの?」


「こやつは、教えるのが上手い」


「わかった」


 するとヴァイゼルが笑う。


「ふぉっふぉふぉ! こんな小さな弟子を持つことになるとはのう」


「よろしくね!」


「こちらこそじゃ!」


 それから、すぐに乗る人を選別をして、体の弱い者、老人や子供、疲労している者をいかだに乗せた。カヌーは滑るような底になっており、長い列は蛇のようだった。


「配置は、メルナとアーンの巨大鎧が前でいかだをけん引し、四つ足ゴーレムで左右を支えて引っ張る。その周辺を歩ける市民が交代で乗りながら、歩いて行くんだ。青備えを着ていない騎士と、帝国魔導師団も交代で乗せるようにしよう」


 皆が頷いて、配置についた。


「行ってくれ。俺と風来燕が殿をつとめる。レイたちは、四機のゴーレムの護衛。将軍は全体の護衛に、フィリウスとウィルリッヒ殿下は、市民達と一緒に進んで欲しい」


 すると、フロストが言う。


「なら、私はコハク卿と共に居よう。敵が来たら、迎撃するつもりなのだろう?」


「そうだ。遊撃隊のような形になる」


「なら、私の剣も使ってほしい」


「わかった。剣聖がいるならば、こちらも心強い」


 そうして、長い列になった蛇のようないかだが、重機ロボットと四足ドローンにひかれて進んでいく。俺は金盤をワイアンヌに託し、カヌーに乗せて送り出してやった。


 最後にオーバースが言う。


「市民は任せておけ」


「ああ。よろしく頼む」


 カヌーの列を先に行かせ、俺と風来燕がゆっくりと離れて後をついて行く。ベントゥラが索敵をして、逐一、木の上から報告してきた。


「だいぶ離れたな。かなり盛大に森を焼いているぜ」


 俺が木に登ってみると、遠くに、のろしのように黒煙が上がっていた。火の明かりが、午後の日の光の下でも見える。


「森に人が逃げ込んだと思っているのだろう。燃やし尽くして、あとから調べるつもりだ」


「まさか、こんなところまで逃げてるとは思わねえかもな」


「その通りだ。敵には大型鎧と四つ足ゴーレム、青備えの知識はない。だが、追手がくる可能性は高い」


 ボルトが答える。


「分かってるよ。追手が来たら、俺達がオトリになるつもりなんだろ?」


「そうだ。俺達だけなら、敵を撃退してすぐに逃げれる。とにかく本隊を、どれだけ遠くまでやれるか、それが俺達の仕事だ」


「「「「おう!」」」」


 フロストがにやりと笑って言う。


「神殿都市では市民を守りながらだったが、守る者がいなければ、力を存分に発揮できるというものだ。皇帝の仇をとらねば、死んでも死にきれない」


「ああ」


 そして、ベントゥラが俺を呼んだ。


「コハク。なーんか来たぜ」


 木に登ってみると、小さな飛行艇のようなものが飛んで来ていた。俺はすぐに、カヌーのところに行って全隊を停め、ヴァイゼルに言う。


「ここの人間達を、氷魔法を使って覆うか、体温を下げるようにしてほしい」


「わかったのじゃ」


 ヴァイゼルが、帝国魔導士団に命じ、氷魔法で人々の周りの温度を下げていった。


「少し寒いが! しばらく我慢してくれ!」


 市民達はガチガチに歯を慣らしながら、身を寄せ合って耐えている。


 すると、この山の上空を過ぎて飛行艇が飛んで行った。


《サーモセンサーには、引っかからなかったようです》


 また戻って来るかな?


《偵察であれば》


 まずは、警戒して進むか。


「ヴァイゼル。敵が空から探している。つど、氷魔法で体温を気づかせないようにするしかない」


「わかったのじゃ。市民らはしんどいだろうが、我慢するしかないのう」


 俺はすぐに、オーバースに言う。


「先を急いでくれ。次は、俺達が引き付ける」


 頷いて、オーバースが全体に指示を出した。


「急ぐぞ! 市民達の体力はそうもたん! 総司令が、敵の注意をひきつける間に距離を稼ぐ」


「「「「「は! 」」」」」


 俺は再び、風来燕とフロストのところに行って説明した。


 フロストが言う。


「では、次に来た時には、例の魔道具でおびき寄せましょう」


「そうしよう」


 本隊が過ぎ去っていき、俺達はだいぶ距離をとって進み始めた。そして一時間後、想定していた通り、飛行艇が戻ってきたのだった。

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