第三百十九話 最後の古代遺跡システムを稼働させる
俺は改造エルフを担いで、ダンジョンの深層へと潜り込んでいた。既にエクバドル王都の古代遺跡で、システムを稼働させると、どうなるかを知っていた。ワイヤーでがんじがらめにした改造エルフを担ぎ、一人で地下最奥に降りる事にしたのだ。
改造エルフは、やはり全く同じ形状で、女の形をしていた。
「忌々しい家畜め」
「なんとでも言え。お前を、生体動力に連れて行くだけだ」
「私が起動させて、侵略者を防いだ後は、いずれ家畜たちは管理される運命だ」
「どうかな。思いどおりに行くかな?」
「お前も、深部に行ったら助からん」
「俺には、お前達すら予測できない力がある」
「ふん」
《問題ありません。最短脱出ラインと、空間歪曲加速で問題なく抜けられます》
わかった。
だが、ここは魔獣がいる事を知っている。だから俺は奴らのレーザー剣と光鞭、炎剣を装備していた。 背負っている改造エルフは、それを使っているのに対して、嫌悪感を感じているようだ。
「それは、イラ、エクステリア、アヴァリだ。お前が使っていいものではない。なぜ、ロック解除できているのだ?」
「俺が、お前達の技術を凌駕しているからだ」
「下等生物が、そんな事を出来るわけがない」
「いや、実際こうやって使えているがな」
そう言いつつ、俺が大型の魔獣を、炎剣で焼きレーザー剣で真っ二つにする。
「忌々しい……」
最下層の前の三十四階層には、あの機械式の多頭の龍がいた。既にアイドナが、管理者権限を書き換えているので、攻撃してくる事は無い。それを見て、改造エルフが不思議そうな顔をしている。
「なぜ……攻撃してこない? 守護の意味がないではいか?」
「俺が、管理者権限を書き換えたからだ」
「……貴様は、一体何者だ。脅威でしかない……何者なんだ……」
「さあな。隣の国の男爵だ」
「……」
地下三十五階層に入ると、ようやく生体動力に辿り着く。
すると、突然、改造エルフが恍惚とした表情を浮かべ始めた。
「ああ……あの方の、使命を果たす事が出来る……」
《意識を乗っ取られているのでしょう。あの時と同じ反応で、自ら望んでやるようになっています》
まるで、AIに乗っ取られているようだな。
《その可能性も否定できません》
それではまるで、前世のヒューマンのようだった。前の世界では、素粒子AIDNAがヒューマン全てに組み込まれて、完全にコントロールされていたからだ。ノントリートメントは、ほぼ絶滅し素粒子AIが完全支配する世界。なぜか俺は、素粒子AIにコントロールされなかったのだ。
それを、前世ではバグ。と言った。
エルフの鉄のワイヤーを切ってやると、恍惚とした表情のまま、生体動力のコアに歩いて行く。
「いま! 使命を果たします!」
コアに体を押し付けた瞬間、光が包み込み始めた。
《脱出してください》
よし。
俺は空間歪曲加速を使って、次々に階層を昇っていく。すると、下の方から地響きが起きた。
はじまったか。
《そのようです》
ひたすら登りつめて、ようやく地上に出る事が出来た。
ゴゴゴゴゴゴゴ!
まるで地震でも起きたかのような振動。
《高エネルギー反応》
ドウドウドウ!!!
神殿から白い光が飛び出してきた、それがあっという間に天井を吹き飛ばし、白い光の柱が伸びる。
バシュッ! バシュッ! バシュッ!
俺が空間歪曲加速を連続して使い、神殿都市の門を飛び出る。
《高速で離脱してください》
避難所まで走っていくと、皆の視線は神殿都市に向いていた。メルナとアーンが駆け寄って来る。
「コハク! 無事!?」
「無事だっぺか! お師匠様!」
「問題ない」
レイたちや、フィリウス、風来燕も走り寄って来た。
「ご無事で!」
「ああ」
皆の視線が、また神殿都市の方に向かう。
フィリウスが言う。
「あれは、全く同じだ。エクバドルの王都の時と」
都市は、ドーム状に白い光で包まれている。市民達も、冒険者達もその光景に呆然としていた。
ウィルリッヒが言う。
「帝都と同じだ……これで、どうなるんだ?」
「このシステムが最後のはずだが……」
ワイアンヌが、俺に大声で言った。
「お館様! 円盤が動いています!」
置いてあった、超越者の金盤が振動し光を輝かせてきた。
「念のため離れろ」
俺以外が、金の円盤から距離を取っていく。
これはなんだ?
《明らかに連動してます。これは通信の準備です》
通信?
金盤から光が立ち上り始め、それが天空に伸びていった。
これは。
《その先は宇宙空間》
コロニーか衛星か?
《高確率でコロニーです》
何を通信している?
《全システムが稼働したことを知らせている可能性があります》
光の柱は線のように細くなり、光の膜のようなものが発生し、それが下に向かって降りて来る。
《ホログラムの、操作パネルです》
確かに、何かキーボードのようなものや、ボタンが見えてきた。
何の操作だろう?
《防衛システムでしょうが、解析が必要です》
俺が皆に言う。
「どうやら、近寄っても大丈夫な物のようだ」
皆が周りに集まってきて、金盤が映し出すホログラムを眺めている。
「これは、なんだい?」
「わからない。何かの、操作盤になるようだ」
「触れるのかい?」
ウィルリッヒに言われ、アイドナが言う。
《ひとまず触れない事です》
「危ないかもしれん。触れて何が起きるか分からん」
「そうか」
アイドナにも解析できていないようで、俺たちはそれを眺める事しかできなかった。いずれにせよ……このホログラムと、侵略者は何らかの関係をしている。
《防衛システムに関係する何かですが》
触ってみるか?
《念のため、オリハルコンの籠手をはめたままで》
俺が オリハルコンの籠手をはめたままホログラムを触る。すると、光のパネルを通過してしまった。
触れられないようだ。
《いえ、今ので分かりました。これは、生体でないと触れられません》
素手でか?
《そのようです》
ウィルリッヒが、聞いて来る。
「その前に、天幕の数も足りていないし、市民をこのままには出来ない」
「非難するしかないだろう」
ウィルリッヒが、周りに向かって言う。
「騎士達よ! 市民を、近隣の村々へと連れて行ってほしい! ウィルリッヒ・フォン・リンデンブルグの命であると伝えよ! 編成を急ぎ、それぞれを連れて行け!」
「「「「「「は!」」」」」」」
ボロボロだった帝国騎士団たちも、回復薬で動けるようになっていた。だが疲労は積み重なっていて、動きに精彩を欠いている。それでも、市民達をまとめはじめ、少しずつ編成を始めていた。
そして、ウィルリッヒがまた聞いて来る。
「敵はこれで、侵略者を防ぐと言っていたのだったな?」
「そうだ。奴らの要塞でもそのような情報を見た」
「侵略者とは、何なのだろうな……」
「わからない」
その時だった。誰かが声を上げる。
「あれ! なに!」
皆が、空を見上げる。
「まさか……」
その空には、数えきれないほどの流星が流れていたのだった。
「あ、あんなに……」
《コロニーからです》
防衛と何か、関係があるのだろうか?
《その可能性は高いですが、予測不能です》
騎士や市民達は、ただそれを呆然と見上げて、絶望の表情を浮かべ始めるのだった。




