第三百十五話 サイバネティック・ヒューマンとのバトル、再び
煙を上げる要塞の後ろに俺達が隠れていると、銃声が聞こえて来る。
《威嚇です。逃げるのを防ぐ為でしょう》
俺は、それを皆に告げた。
「威嚇だ。俺達が逃げないように」
声に皆が頷く。
俺の視界に、サーモグラフの状態で敵影が見えてくる。
《六体。パワードスーツ・四、キメラ・マキナ・二。改造エルフが見当たりません》
パラパラと、敵の位置が記される。
バシュッ。バシュッ。ドン! ドドン!
《榴弾による攻撃です》
「フィリウス!」
「ああ」
フィリウスが飛行ドローンを飛ばし、敵の上空からポロポロと筒をばら撒いて行く。落ちた順から、次々に煙がまき散らされ視界を奪っていった。
「よし。信号弾を上げるとともに、こちらからも攻撃を開始する」
皆が頷く。
「ワイアンヌ。次の信号弾!」
「はい」
シピューーっと、緑色の明かりが撃ちあがる。それと同時に、敵の攻撃が俺達のいる場所に集中した。だが、煙で視界を閉ざしているため、あてずっぽうの攻撃だった。
《今の合図で、オーバース達が戻ります》
これで、敵を逃がさない。
「出るぞ!」
完全に青備えの鎧を密封し、俺達は煙の漂う戦場へと飛び出していく。風来燕が左舷に回っていくと、高周波の盾を持ったレイたちが中央で止まり構える。後ろに、メルナとアーン巨大鎧を待機させた。
俺は単独で、右に走り始める。完全に敵を囲み、逃げ場所を無くしていく。
ダダダダダ! カカカカカン!
どうやら、レイたちの高周波の盾が銃弾を受けたようだ。次の瞬間、風来燕が次の信号弾を上げる。
ピューン! ただの黄色に光る照明弾だが、敵がそちらに向かったようだ。
《上手く翻弄できています》
キメラ・マキナの位置を。
煙の中で、二体のキメラマキナの位置を表示させる。ここまで全てアイドナの演算通りに動いており、敵を確実に追い詰めていく。
《武器の形状を確認》
あれは、巨大なハサミ? と、円盤か?
ほとんど体を露出させた下着のような恰好の女。銀色の髪をなびかせて、手の上で円盤を回していた。その円盤が光り出すと、手から離れて飛んでいく。
その先で、火花が散る。
《ブーメランのような武器です。ボルトとガロロが防いでます》
ボルトとガロロが必死にそれを防ぎ、フィラミウスが岩を飛ばして軌道を逸らす。
《防戦一方です。円盤の動きが速い、身体強化でギリギリ凌いでます》
その後方から、ベントゥラが銃を撃った。
バッバッバッ!
《阻止されました》
やはり敵の武器に対しては、無効にする機能があるか。
すると、メルナとアーンがいる方向から、ボウと炎が立ち上る。
新手か?
《飛行ドローンの火炎攻撃です》
要塞は死んでなかったか。
《そのようです》
バグゥン!
赤と黄色の炎のような髪をしてる、巨大なハサミを持っている男が攻撃していた。地面が割れており、どうやらあのハサミのような武器は、エネルギーを放出して物を裁断するらしかった。風来燕の二人は、ギリギリでそれを避けている。そして、パワードスーツが、榴弾砲で風来燕を追い詰めていく。
《敵の攻撃情報は得ました》
俺はアームカバーから、合図用の魔導筒を取り出した。
ピシュゥゥウウ! 甲高い音を立てて、紫色の光が上がる。
《空間歪曲加速》
ドシュン!
俺はすぐに、下着のような服装を着た女の側に出る。
「なっ……」
だが、その周りにキラキラとした、光る粒子が浮かんでいた。
パパパパパッ!
俺の鎧に光る粒子が触れた途端に、フラッシュのように光輝く。俺が高周波ソードを振るった時には、そこに女の姿は無かった。するとガイドマーカーが光り、未来予測演算が発動する。
《回避》
俺がいた所を、あのハサミのような道具から放たれたエネルギーが斬る。
《敵も、策を講じていたようです》
奇襲が失敗したか。
《ですが、彼らの情報は引きだしました》
そのとき、ビュ! と突風が吹き、煙幕がサッと流された。これで、全員の位置がはっきりとわかる。メルナとアーンの重機ロボットの位置がはっきりすると、二体のパワードスーツが、突撃していく。
俺が、援護の為そちらに向かおうとした時、光の円盤が俺の行く手を遮る。
「いかせませんわ」
俺が振り向くと、下着のような女と、ハサミを持った炎のような男が立っていた。
「キッヒッヒッヒ! なんだなんだ! 青いのがまた出てきた」
「笑ってる場合ではありませんわ。あの、大きいの……マキナ・ユニットではありません?」
「たしかに、アンヘルのいう通りかぁ」
ガギキィィイ! と、アーンの重機ロボがパワードスーツを跳ね飛ばした。
「パワーがあるわ」
そう言いながら、アンヘルが何か笛のような物を慣らした。次の瞬間に、飛行ドローンがやってきて、ゴオッ! とアーンの巨大鎧に火炎を撒く。一本の腕が真上に盾を持ち上げ、上に火炎がまき散らされ、炎が粘着していた。
《ナパームのようなものです》
「キッヒッヒッヒ! なんだ、攻撃が読まれてるぜ、アンヘル」
「うるさいですわ! ヘルシャフト! とにかく、コイツを倒しますわ!」
「キッヒッヒッヒ! そうだな。こいつら、防御力はあるが、打撃には弱いようだ。遅いし」
《どうやら、オーバース達との戦いで、こちらの情報を分かっているようです》
そのようだ。攻撃を、避けるしかない。
光る円盤と、巨大ハサミの連携攻撃が始まった。素粒子AIが未来予測をし、攻撃の全ての軌道と次の攻撃までを俺の視界に映し出して来る。
シュッ! シュッ! シュッ!
どの方向からの攻撃も俺には当たらずに、敵の表情がみるみる変わって来る。
「な、なんだ? 一つもあたらねえ!」
「こいつは、今までの奴らと違うようだわ。避けられるはずないのに」
「アンヘル。コイツの足を止めろ」
「わかったわ」
すると、アンヘルと呼ばれた下着女の、手の周りに五枚ずつの光の円盤が出て来る。両手で合計十枚、それが一斉に俺に向かって飛んできた。超高速で四方から俺に攻撃をし始め、逃げ場所が全て絶たれたように見える。
《未来予測にプラス。無意識回避、超感覚予測、時間知覚最大拡張》
すると、その寸分の隙も無いような攻撃に、逃げ場所が見えて来る。
「な、なんだぁ! こいつ! 何人にも増えたぞぉぉぉ!」
「おかしいわ!」
俺が、増えた訳じゃない。高速移動と停止を繰り返して、アンヘルの円盤攻撃をかく乱しているのだ。残像が見えるために、何人も見えているに過ぎない。
「止めろおぉぉ!」
「やってますわ!」
《魔導砲を射出。爆裂斧を投擲し、アンヘルの足を止め、ヘルシャフトを高周波ソード》
全ての手順を、アイドナが計画し、すぐさま俺が実行した。
ドン!
ドワーフ製の魔導砲がアンヘルに飛んだと同時に、爆裂斧を外して投げた。その着弾を確認する前に、空間歪曲加速でヘルシャフトに肉薄する。
「うおっ!」
バシュン! 両腕でハサミを握る腕を斬り落とした。
「ぎゃあ!」
ガキン!
「きゃぁ!」
魔導砲を避けたアンヘルが着地したところに、爆裂斧が飛んで弾き飛ばした。それを耳にしながらも、高周波ソードをヘルシャフトの腹に突きさす。
「ぐえぇぇぇ! おい! 助けろ!」
パワードスーツに指示を出したらしいが、既に二機のパワードスーツは風来燕達に仕留められていた。メルナとアーンを襲っていたパワードスーツも、ビルスタークとアラン、レイたちに破壊されている。
「コハク!」
そこに、オーバース達の隊がやってきた。
「オーバース! クルエル! オブティスマ! これを押さえていてくれ!」
「「「おう!」」」
そして俺は、ダッシュで逃げようとしていた、アンヘルに空間歪曲加速で追いつく。
バシュッ!
両足を切ると、ゴロゴロと地面に転がった。
「きゃぁぁぁぁ!」
ドン! アンヘルの背中に足を降ろして、頭の先に剣を降ろす。
「逃げるな」
「くっ!」
《要塞に熱感知。何かが出てきます》
「メルナ!」
ドスドスとメルナの重機ロボが来る。
「鎧をパージして、これに闇魔法を」
「うん!」
重機ロボから出てきたメルナが、アンヘルに闇魔法をかける。
ストン! と眠りに落ちた。
「オーバース達のところに行って、もう一体も頼む」
「うん」
俺は、要塞から飛んできたフライングボードを見た。
《改造エルフと同じ形状です》
鍵だ。
《はい》
そして俺は高周波ソードを構え、そのフライングボードを迎えるのだった。




