第三百十四話 神殿都市の中でリンデンブルグの三傑と邂逅
緊迫した状況、仲間達が戦っている。俺達は、オーバースからの合図を待っていた。
パシュゥゥゥ! パン!
青い輝きが空に上がる。
「行くぞ!」
二機の大型重機ロボットが、ビルスタークとアランを乗せて下っていく。四つ足ドローンにまたがり、レイたち四人がそれについて行った。
「今だ!」
俺とフィリウス、ワイアンヌ、風来燕の四人がフライングボードに乗り、都市に向かって降りていく。
「市壁の上に!」
俺達を乗せたフライングボードが、市壁の上に差し掛かり、そこに飛び降りた。すぐにワイアンヌが、鉄のワイヤーを取り出し、壁の縁にかけて垂れ下げる。
「登ってこい!」
市壁の下に、四機の四つ足のドローンが待機していた。鉄のワイヤーを、ドローンに巻き付けて伝い、レイたちが市壁を駆けあがってくる。重機ロボットは、壁にズボズボと足を突っ込んで登って来た。
《あの二人は、すっかり使いこなしているようです》
そのようだ。おかげで、格段に機動力が上がったな。
全員が揃ったところで、神殿都市の内部を見渡す。
「魔導士隊が、南側に集中しているな。向こう側の壁が光っている、あれは結界だ」
「敵の進入を防いでいたのかもな」
「降りるぞ」
俺達はワイヤーを引き上げ、反対側にワイヤーを垂らして降りていく。都市には人間がいるようだが、それには構わずに神殿都市を走った。
「ウィルリッヒが、どこかにいるはずだ」
マージが言う。
「ヴァイゼルも、市壁の南側にいるはずさね」
「よし」
俺達は、高速で南側に向けて移動した。先に進むにつれ、都市の南側の建物がほとんど破損しており、瓦礫があちこちに積み上げられている。あちこちに鎧を着た人間や、ローブを着た人間が倒れている。
「侵入されたか?」
「エクバドル王都と同じだな、空飛ぶ奴から焼かれたんだ」
散り散りになった騎士の、最後尾が見えてきた。
ガシュンガシュン! とメルナとアーンの、重機ロボットの音が鳴る。
「て、敵だ! 後方から敵!」
「陣形を! 整えろ!!」
俺が両手を上げると、仲間達が同じように手を上げる。
「敵ではない! 我は、エクバドル国のコハク・リンセコートである!」
「なっ!」
「今、外で戦っているのは! エクバドルの王宮から援軍に来た部隊だ!」
俺達が止まると、騎士の中から一人が出て来る。
「そのような、鉄の騎士や、鉄の四つ足は! 敵の物だ!」
「これは! 敵から奪ったものだ! ウィルリッヒ・フォン・リンデンブルグ殿下にお目通りを願う!」
「「「「「……」」」」」
かなり混乱しているようで、誰も身動きを取る事が出来ないでいる。
「一刻を争う! 我が国の騎士が戦っている!!」
すると、ようやく一人の騎士が言う。
「しばしまて!」
すぐに駆けて行ったが、ここから正門までは距離があるだろう。早くしなければ、被害が出てしまう。
「早く……」
フィリウスがこぶしを握り、今にも飛び出しそうだった。
「ワイアンヌ! 外の部隊に、退却の合図を上げろ!」
キュゥゥゥゥと、魔道具から光が上がりそれが空中で赤色に輝く。それに騎士達がざわめいているが、その中から先ほど走って行った騎士が戻ってきた。
「来てください!」
その騎士について、更に先に進む。
「壁が、ボロボロだな」
ボルトが言う通り、市壁のあちこちに穴が開き、裂け目が出来ているところがある。
「あそこから攻撃されたか?」
更に多くの騎士と、魔導士達が集まっているところにでた。その中央あたりに、櫓が組まれている。
「櫓の中へ!」
俺とフィリウスが急ぎ中に入ると、そこにウィルリッヒがいた。兜は脱いでおり、力なく座っている。立ち上がる事が出来ないようで、座ったままこちらを振り向いた。
「まさかね……コハク卿……来てくれるとはね……」
「遅くなった」
「とんでもない……もう、終わりだと思ってたよ」
青備えは着ているが、頭から血を流しており、深く疲労した顔をしていた。
「大丈夫なのか」
「この鎧……凄いよ。あの、銃とやらを防ぐ。だけど、強い打撃はやはり中に来る」
「治癒薬は」
「もう、すっかり使い果たしたよ」
俺はワイアンヌを呼ぶ。
「治癒薬を」
「はい」
その瓶の蓋を開けて、ウィルリッヒにかける。音を立てて傷が治り、顔に血色が戻ってきた。
「すまない。もう、3日は寝ていない」
「フロストとヴァイゼルは?」
「何とか、魔導士部隊を使って、進入されては撃退してを繰り返しているが、敵は未だ無傷だ」
「わかった。もう、休んでくれ」
「そ、そう言う訳には、ゴホゴホゴホ!」
「まだ、生きてもらわねば困る事がある」
「……わかったよ」
俺はその櫓を出て、一気に市壁の裂け目のあたりに来た。するとそこに、ボロボロになった騎士達と、魔導士達が集まっている。
「フロスト・スラ―ベルは居るか!」
騎士達が振り向いた。騎士達をかきわけていくと、そこに青備えを着たフロストが座り込んでいた。
「フロスト!」
「まさか……来てくれた……のか……コハク卿」
「ワイアンヌ! 治癒薬だ!」
「はい!」
俺はすぐに、フロストに治癒薬をふりかける。治癒薬は光り輝きながら、体を直していく。
「蘇生魔法をかけてもらう代わりに、結界に集中してもらっている。魔導士達も……もう限界だろう」
「わかった」
市壁の先に行くと、ヴァイゼルが魔導士達と共に、必死に結界をはっていた。
「ヴァイゼル!」
「……まさか……コハク様ですかな……」
「そうだ」
「どうりで、外からの攻撃が止んだと思いました……わい……。
バサッ! と、ヴァイゼルが崩れ落ちた。
「大丈夫か!」
すると、魔導士の一人が言う。
「ヴァイゼルさまはもう、五日も寝ておりません。ほとんど魔力も残ってないのです」
「ワイアンヌ。魔法薬と治癒薬を」
そしてヴァイゼルにかけてやるが、目を開かない。
「ヴァイゼル!」
魔導士達が俺の叫びに、騒然となり集中力を研ぎらせた。
「ヴぁ、ヴァイゼルさま!!」
「あ。ああ……皆も、もう結界はるの……止めていいのじゃ……」
「えっ!」
死んだかと思った。
《心臓は動いてました》
「わしらの役目は……ここまでじゃ……救世主が来たのじゃからな」
「救世主……」
「そう……じゃ……」
ガクッ!
「魔導士長様!」
「グゴー! グガー!」
「ね、寝てる」
それを見た魔導士達が、次々へたへたと座り込み始める。俺が、魔導士と騎士達に叫んだ。
「我は! コハク・リンセコート! 皆! よく耐えた! あとは休んでくれ!」
騎士達も倒れ込む者が出て来て、どうやら精神力で立っていたらしい。
俺が仲間達に言う。
「仲間達が逃げきれたか分からん。すぐに出る」
「「「「は!」」」」
「「「「おう!」」」」
「「よし!」」
俺達は、そこを離れ門に行く。
「メルナ! アーン! 門を持ち上げろ!」
「うん」
「わかったっぺ!」
大型重機ロボットが、門を押し上げた。俺達が、その門を潜り外に出て行く。重機ロボが通過すると、ズズーンという音と共に門が締まる。するとその正面を塞ぐかのように、突入ポッドが鎮座している。
「こんなところに要塞か」
「まったく、邪魔なこった」
「足を上げたままだ。破壊するなら今だ」
「だな」
「メルナ! アーン! 大型高周波ソードで足を一つ切れ!」
二機の重機ロボットが、大きな高周波ソードをぐるぐると振り回して足を切りつける。
ガギン! と足が折れると、バランスを崩した要塞がこちらに傾いた。
「鉄杭!」
次に重機ロボットが、要塞の装甲に向けてパイルバンカーを打ち込む。
ズボン! ズボン!
「刺さった!」
「火炎!」
要塞に突っ込まれたパイルバンカーから、魔導の炎を噴射させる。
「鉄杭を抜け!」
ズボッ! と、抜かれると鉄に穴が空いた。
「魔導砲!」
その穴に、レイたちが魔導砲を突っこむ。
「全弾撃ち尽くせ!」
ボン! ボゴン! ボゴン! ボゴン!
内部爆発の影響で、鉄の装甲がボコボコと歪む。
《音で敵が気づきました。こちらに来ます》
「敵が気づいたぞ! 迎え撃つ!」
俺達は武器を構え、モウモウと煙を噴き出す要塞の後ろで、敵がやって来るのを待ち構えるのだった。どうやらオーバースの陽動が成功し、俺達の動きに気がついてなかったようだ。奇襲の第一弾は成功し、要塞を完全に足止めする事が出来たのだった。




