第三百十三話 破壊された森林と敵陽動作戦
神殿都市までもう少しというところで、森の木々が大きく倒されている場所にさしかかる。手を上げ、皆に聞こえるように言う。
「あの要塞が通った後だ!」
するとオーバースが手を上げて、進軍を止める。
「止まれい!」
「まだ、そう時間は経っていないようだ」
「やはり、あれは、リンデンブルグにも落ちていたか」
「想定通りだ」
倒れた木々は、更に奥に向かっていた。それを見てボルトが言う。
「て、事は、ここを辿れば最短でいけるという事だな?」
「そう言う事になるが、監視されている可能性が高い」
「空飛ぶ、あれか……」
「そうだ」
皆が空を見上げて、飛行ドローンを警戒するが、その気配はない。
「木々が無い分、先に見つけられる可能性が高いだろう。その脇の木の下を、隠れながら進むべきだ」
「人の足跡が無い所を見ると、人はいないように見えるが」
オーバースが地面を探りながら言い、俺がそれに答える。
「あの王子は、それも見越していた」
「まあ、流石はウィルリッヒ殿下と言ったところか」
「そうだな。奴は頭がいい。だが、敵が強敵であることは間違いない」
そこでマージが言った。
「リンデンブルグ帝国が強いのは、騎士団ではない。ヴァイゼル率いる、魔導士軍団がいるからさね」
「そうなのか?」
「あのジジイは、魔法を教えるのが上手いのさ」
「だとしても、どこまで抵抗できるかわからん」
「そうだねえ。特に、あのキメラ・マキナとか呼ばれる、奴らは厄介だねえ」
「ああ」
俺が指示を出し、皆に森に潜るようにさせた。全員が森に入り、俺が上空を監視しながら進んでいく。それから二時間も進んだところで、俺が手を上げて皆を止めた。
《偵察です》
聴覚強化した俺の耳にも、飛行ドローンの音が微かに残る。
警戒しているという事か。
《分りません。ですが、キメラ・マキナが消息を絶ったことや、防衛システムが軌道していない事から、イレギュラーが起きた事を察知している可能性があります》
確かに、そうだ。
《夜間でも気づかれると思いますが、森を出れば草原地帯になります。すぐ、敵に発見されるでしょう》
どうするか……。
《部隊を分けて、陽動をかけることです。あなたの部隊を、丘陵地帯から駆け下ろします》
なるほど、奇襲か。
《敵が、本隊に集中しているうちに、壁を突破し神殿都市に突入しましょう》
全隊に伝えよう。
「オーバース。やはり、敵は警戒している。偵察を出して来た」
「まあ、想定内だろう」
「ここは、部隊を分けて陽動をかける必要がある」
「ああ。その為の部隊だ」
「だが、かなり危険を伴う」
俺がそう言うと、オーバースもクルエルもオブティスマも、ニヤリと笑った。
「コハクよ。戦争とは、そういうものだ。危険じゃない戦などない」
「しかし、オーバース。何処に未知の敵が現れるか分からん」
「お前の作ってくれたこの鎧。これは、決して張りぼてじゃない」
「それはそうだが」
次に、クルエルが口を挟んだ。
「とにかく、コハクが敵にとりつくまでの猶予を稼げばよいのだろう?」
「ああ」
「なら、問題はない。なあ、オブティスマ」
「そうだな。こんな立派な腕を作ってもらって、役に立たない訳にはいかん」
「オブティスマ……」
そして、オーバースが言う。
「青備えは、俺達に任せろ。とにかく、突破して敵本隊に辿り着いてくれ」
「わかった」
そして俺は振り向き、ワイアンヌを呼ぶ。
「ワイアンヌ!」
「はい」
「地図を」
ワイアンヌが、王都にあった要塞のシステムに投影された地図を、写したものを開いた。
「ここから、平地が続く。そして、その先に川があり、そこを超えると神殿都市が見える」
三人は地図をしっかりと、目に焼き付けている。
「俺達は、左から迂回して丘陵を登り、そこから一気に神殿都市に駆けおりていく」
そこで、オーバースが言う。
「なら、進軍のタイミングは、俺達の方から例の魔道具で合図を送ろう」
《時間計算で、こちらが丘陵を登り切るのが二時間後》
「二時間後が目安だ」
「よし。なら、そこまでに敵をひきつけられるかが勝負だな」
そういうと、クルエルが笑って言う。
「せいぜい派手に騒いでやるとするか」
オブティスマも頷く。
「コハクよ。こちらは、一切気にしなくていい。世界が終わらないように、お前に託す」
三人はまるでリラックスしたように、ただ笑顔を浮かべていた。
《将軍というのは、器が大きいようです》
これが……四代将軍か。
《そのようです》
俺が、自分の部隊に言う。
「皆が敵を、引き付けてくれる。その間に、丘陵に登り一気に神殿都市に攻め込むぞ」
「「「「は!」」」」
「「「「おう!」」」」
「うん!」
「わかったっぺ!」
「はい!」
そして、フィリウスがオーバース達に言う。
「将軍様がたの健闘を祈ります。ご武運を、そして兵をお願いします」
「任せておけ!」
「はい」
そして、ビルスタークとオーバースが腕を合わせた。
「では、後ほど」
「おう!」
俺が三人の将軍に言った。
「オーバース、クルエル、オブティスマ。死ぬな、そして青備え達を頼む」
「「「おう!」」」
「行くぞ!」
俺達は三人の将軍率いる部隊と分かれ、森を左側に向かって進軍し始めた。そして俺達が進んですぐ、本隊が先に進む音が聞こえて来る。
歩きながら、皆に言う。
「被害は最小限にとどめたい」
すると、フィリウスが言った。
「皆……死ぬかもしれないと分っていたな」
ボルトも頷く。
「覚悟、決まってましたね」
「ああ」
だがそこで、俺は首を振った。
「死なせないさ。絶対に敵本隊は潰せる」
「そうだな。我々の動き次第だ」
「そういうことだ」
三十分ほど進めば、森に少しずつ勾配がついて来る。ここを登れば、丘陵地帯にでる。
「よし! 急ぐぞ!!」
俺達は、更に加速し丘陵地帯を一気に駆け上がっていく。森を出たところで、神殿都市の向こう側に、青備えの部隊が走るのが小さく見えた。
アイドナが俺の視界を望遠にする。
《飛行ドローンです。本隊が見つかりました》
少し早い。
《敵がどのくらいで、出撃して来るのかが分かりません》
急ぐしかない。
「走れ! 走れ!」
青備えの鎧のおかげで、坂道も平地のように駆ける事が出来ている。更に重機ロボの牽引もあるので、平地をかけるよりもずっと早く走れた。想定よりニ十分早く、丘陵地帯の上まで上がりきる事が出来る。下を見下ろせば、神殿都市の全体が見渡せるようになっている。
パパパパパパ!
小さい銃声が届いて来た。どうやら、平地のほうで戦闘が始まったらしい。
「戦闘が始まった! フライングボードの荷物を捨てろ! 装備以外を全て外せ!」
ワイアンヌ以外の全員が、背負子や食料などの物資を全て放棄する。そして、言葉を発することなく、オーバース達からの合図を静かに待つのだった。




