第三百十一話 帝国への出兵準備と新兵器試験
俺は改めて、ドワーフという種族の順応性の高さを知る。ドワーフ里は既にこの世界の水準にはなく、かなりの進化を遂げていた。それを結界が施された、ビルディングに見る。
《あなたの知恵と、コロニーの兵器技術、重機ロボットの加工などを経て進化したようです》
そのようだな。明らかに、この世界の文明レベルではない。
《完成度は高くはありませんが、実践投入に耐えられるレベルかと》
さらに俺達がドワーフの新兵器工場で見たものは、もはやこの世界の文明を超えたものとなっていた。高周波ソードと爆裂斧だけでもかなりのものだが、そこから更に改良を重ね新しい兵器を開発していた。
今は、それを持って、兵士の訓練場に出てきている。
アーンの父親が言う。
「それが、魔導砲だっぺ」
魔導砲とやらを装備しているのは、青備えを着たレイで、これから、その武器の試験をするところだ。
「なるほど……ふむ。で、どうするんだ?」
ライフルのような形状をしているが引鉄は無く、青備えの肩に載っている。レイがそれに手を添えて、荒野に向けて構えていた。
「今は、青く光ってるから撃てるっぺ」
「わかった」
ボタンを押すと、バシュッ! と何かを打ち出した。
ボン!!
着弾と同時にそれが爆発し、周囲の岩を飛び散らせる。
「爆裂魔法の魔石の応用だっぺ」
「まだ青いという事は、もう一発撃てるのか?」
「撃てるっぺ」
バシュッ!
そしてまた、荒野の岩をまき散らして爆発した。
「それが赤に変わると、魔石の交換だっぺ」
「凄い……魔法使いでもないのに、爆裂魔法を使っている……」
全ての青備えに装着できる分が、既に用意されているらしい。今度は、アランが持っているものに注目する。
「これは?」
「それは、あの敵の鎧を貫通させる武器だっぺ」
なるほど……パワードスーツに苦戦したからな。
《見ものです》
目の前には、分厚い鉄の鎧を着た案山子が置いてあり、アランは、それに槍のような物を向けた。
「青いランプの状態で打てるっぺ」
「こうか?」
分厚い鉄の鎧を着せられた案山子に向けて、槍の先を付ける。
「こんなに近くていいのか?」
「近い方が良いっぺ。撃ってみるっぺ」
カチッ! ズボオ!
鉄の杭が鉄の鎧の撃ちぬいて、その背中から飛び出してしまった。筒からワイヤーで繋がっている。
「おお! まるで身体強化で槍を使ったようだな」
爆裂魔法の応用で、鉄の杭を打ち出す構造になっているのか。
《パイルバンカーですね》
パイルバンカー?
《地面などに杭を打ち込む構造と同じです。硬い岩盤も打ちぬくでしょう》
なるほどな。
だが、アーンの父親が言う。
「それだけじゃないっぺ。アランさん、その状態でもう一つのボタンを押すっぺ」
カチッ。ドウッ!
パイルバンカーの鉄杭から、炎が出てきた。地面に転がったまま、周囲の草を焦がしていく。
「恐ろしい」
「貫通させた後、中に火を通すっぺ」
「なるほど。致命的だな」
今度アーンの父親は、装着するミスリルのアーマーを取り出した。
俺が尋ねる。
「青備えには、必要ないが?」
「ああ、これは、それだけじゃないっぺ」
そう言って、ミスリルの盾も取り出す。
「それが?」
「ガロロさんが着て、だれか剣を振り下ろしてほしいっぺ!」
「わかったのじゃ!」
ガロロがそのアーマーと盾を取り付けると、アーンの父親が指示する。
「これから戦いだという事を想定して、首の下のボタンを押すっぺ」
カチッ! ブゥゥゥン!
「なんじゃ?」
「オリハルコンには劣るかもしんねえけど、だれかこの剣を叩きつけて欲しい」
それに俺が答える。
「俺でもいいか?」
「お館様だっぺか……まあ、丁度いいかもしれないっぺな」
「わかった」
ガロロが構えて、俺がガロロに剣を振り下ろした。その剣が、鎧に触れた瞬間だった。
バギィィィン!
剣が途中で折れて飛び、半分が地面に突き刺さる。
「簡単に折れたぞ」
「高周波だっぺ。ソードに使った技術をミスリルアーマーに付与したっぺ!」
「……凄いな。高周波アーマーか……」
「あの、銃とやらではミスリルでは、貫通されるっぺよ。それを防ぐために、工夫してみたっぺ」
「弱点を補ったという訳か……」
「問題は、魔石が切れると、普通のミスリル鎧になる事だっぺな」
「いや。これは……凄い技術だ」
俺が素直に喜ぶと、アーンが父親に言う。
「よかったっぺな! 父ちゃん! お館様に認めてもらえて」
「いんや……お館様の技術があってこそだっぺ。こんなこと、思いつきもしなかったっぺ」
「思いついたからと言って、普通は作れないだろうが、作ってしまうんだからな」
「嬉しいっぺ」
一連の流れを見ていた、オーバースとフィリウスが、興奮気味に言った。
「まさに、ドワーフ! 神のごとき技術」
「そのようですね! 敵を凌駕できそうです」
「お館様の前でそれを言われると、ちょっと恥ずかしいっぺ」
それから、小道具みたいな装置を紹介された。丸い鉄の塊で、投げつけると鉄の針が飛び出すものや、籠手の先から剣の切っ先が飛び出すものなど、試作品ながらも使える物ばかり。
「これらは、実戦で使えそうだ」
「よかったっぺ」
兵器の試験を終わり、俺達はすぐにアヴァリが閉じ込められている牢獄に向かった。
「他の三体も入れたのか?」
「それぞれに分けてるっぺ」
アーンが魔法陣を施し、隔離しているそうだ。地下深くに潜っていくと、更に地下牢も進化していた。目の前には、アロガンシアを閉じ込めてある透明なドームがある。
「これは?」
「魔晶石の入れ物だっぺ」
「どういうものだ?」
「外とは完全に切り離されて、中には外の影響を一切受けないっぺ」
それを見たフィリウスが言う。
「まるで、陳列……呉服屋のショーウィンドウだな」
「状態をいつでも確認できた方が良いっぺ?」
「そのとおりだ」
そして、フィラミウスが聴く。
「淡く光っているようだけど」
「これは、都市を守る結界石の応用だっぺ。あれらが、これらの侵入を拒むとお館様がいっていたので、それを応用して、彼らを捕えるのに適した入れ物を作ったっぺ」
俺が尋ねる。
「輸送にも使えるのか?」
「使えるっぺ」
「それは凄い。実はリンセコートに、市壁を儲けようとしているのだが、その技術を応用できるか?」
「もちろんだっぺ」
「頼みたい」
「わかったっぺ! お館様の頼みとあらば、想像を超えてみせるっぺ!」
「父ちゃん! そのいきだ!」
「おうよ!」
ガラバダもヴァナも同様の状態らしい。これならば、敵に奪還される可能性は少ないだろう。
俺は振り向いて、オーバースに言う。
「全部使えそうだな。今日見た兵器を全て使う事を想定して、部隊編成をしたい。明日を準備の日とし、明後日には出陣するつもりで動けないだろうか?」
「よし。それならば、俺とクルエルとオブティスマが仕切ろう」
「頼む。あと、オブティスマの腕は俺が今日作る。到着したら、実装できると伝えてくれ」
「わかった」
そしてフィリウスが言う。
「私達はどうすればいい?」
「俺の直轄で動いて欲しい」
「了解だ」
「では、取りかかろう!」
「「おう!」」
七十人の青備えの部隊編成は、オーバース、クルエル、オブティスマの三人に任せる事にした。俺の部隊は、風来燕の四人、レイたち四人、メルナとアーンの巨大鎧二機と、ビルスタークとアランはセット。フィリウスを参謀につけて、ワイアンヌには魔道具の運用をしてもらう。
すぐ俺が街に様子を見に出ると、プルシオス王子が王都の騎士を率いて、街の整備をしていた。
「殿下。どうですか?」
「もちろん不満などはあるようだが、市民を広場に集めて状況は説明した。もう王都に帰れない以上は、ここで生活基盤を整える必要がある事、そして元の職業を生かし、商人にはドワーフ製の荷馬車を与え、都市内の流通を頼む事にした。むしろ肉や野菜は王都より豊富だからな、贅沢品は無いにせよ暮らしには困らん。あとは、農地を拡大するために、農民を集めて地元の農夫たちと一緒に話し合いだ」
「流石です。では、統治はお任せします」
「君らも、無事に帰って来てくれ。我々だけでは、あの敵はどうにもならん」
「分かっております」
するとプルシオスが、拳を握って俺に突き出した。
なんだ?
《拳を合わせろと言う意味でしょう》
コツンと拳を合わせる。そしてプルシオスが、にやりと笑って言った。
「リンデンブルグ帝国には、ウィルリッヒという怪物がいる。だが、われわれにはコハクがいる。我が国はまだまだ、負けてはいない」
「そうですね。いずれ世界は復興するでしょう」
「だな。力を合わせて頑張ろう」
「はい」
そして俺は、プルシオスの下を離れた。
俺が言わなくても、皆が役割を担ってくれている。
《ノントリートメントには、感情という名の結束があるようです》
どれほどひどい状況になっても、まだ諦めていないようだ。
《あなたがいるからです》
俺が……か。
《生存確率を上げるうえでは、ノントリートメントの力は不可欠》
だな。奴隷だったときとは、全く状況が変わってきた。
《ですが、十日後の生存確率が極めて低いのは事実です》
覆すしかないさ。未来演算も出来ない彼らが、勝つのを信じて戦っている。この力を持っている俺が、何とかその勝率を上げるしかない。
《まるでノントリートメントのような考えです》
アイドナに言われてふと思う。俺は、彼らと何が違うのだろうか? この言い知れぬ高揚感と、周りを生かしたいという気持ちの説明がつかない。ただいつまでも、皆の顔を眺めて生きていたいという願望だけが、俺の気持ちに残るのだった。




