第三百十話 変わり果てたリンセコート領
久々に帰ってきたリンセコート領は、俺が出て行った時から、かなり様変わりしていた。
「かなり、住居が増えているようだな」
「だっぺ」
このあたりは草原だったはずだが、木造の小屋が果てしなく建っていた。ドワーフが作ったであろう、しっかりした作りで、区画がきっちり整理されており、住民がせわしなく歩いている。
市民がこちらを振り向いて、大きな声で言う。
「青備えが帰ってきた!」
「本当だ! 青備えが帰ってきたぞぉぉぉ!」
「「「「オオオオオオォォ!」」」」
人達が外に溢れてきて、俺達を出迎えてくれる。
「オーバース様!」
どうやら王都の市民達が、この村に住んでいるらしく、オーバースを見つけて周りに群がる。
「ここまで、来てくださったのですか!」
「ああ。だが、詳しい話は後にな」
「はい……」
ちょっと曇るオーバースの表情に何かを察したのか、市民はそれ以上聞かなかった。道の脇に集まり、まるで凱旋パレードのように進んでいく。
「ドワーフたちは、あちこちで建設してるようだな」
「そうだっぺな。お師匠様、もっと街を強く囲う必要があるっぺ」
「そうだな。市壁を作る必要がありそうだ」
「人がいるから、岩を削って持ってくるのを、手伝ってもらえばいいっぺ」
「そうだな。平行で進めつつ、都市の防衛を考えて行こう」
かなり歩き続けて、ようやくドワーフの里の壁が見えて来る。俺達が行くと、門が開かれた。
「お館様! お帰りだっぺ! アーンも無事でよかった!」
ドワーフたちが、俺達を迎え入れて中に入る。そこには、木や岩を削るドワーフたちがいた。
「頑張ってるようだな」
汗を垂らして、男のドワーフが言った。
「とにかく追いつかないっぺ!」
「ヴェルティカはどこにいるか?」
「案内するっぺ!」
いつの間にか、ドワーフの里がもっと発達していた。工場が連立しており、そこでは建設用の鉄などの加工をしている。さらに進むと、行く前には見ていなかった工場が出来ていた。
「面白い建物が出来てるようだ」
アーンが答える。
「指示をして言ったっぺ」
「なにをだ?」
「青備え用の武器や、ゴーレム用の装備を作ってるはずだっぺ!」
「そうか」
更には、ヴェルティカがいるであろう建物……。
《ビルディングのようです》
本当だ。
この世界の住居の形ではなく、四角いビルが出来上がっていた。
「アーン!」
アーンの父親がやってきて、俺にも挨拶をしてくる。
「凄い建物だな」
「だっぺ、お館様! 王都から来た人たちから、いろいろと話を聞いて防御力を上げたっぺ。結界魔法を施せるように、あちこちに魔石が埋め込まれている建物だっぺ!」
「ということは?」
「アーンが魔法陣を掘れば、魔法攻撃や、弓、槍は通らないっぺ!」
アーンが父親に言う。
「やってくれてたっぺな!」
「当然だっぺ。娘が言うことをやるのが親父の責務だっぺ」
外の騒ぎを聞きつけて、ヴェルティカが入り口から飛び出してきた。
「コハク!」
ダッっと走ってきて、バッと俺に抱き着く。
「いま帰った」
「よかった! 無事で!」
「恐ろしい敵だった」
「だった?」
「すべて捕縛して来た」
「えっ! 連れて来たの!」
後ろから、大きな咳払いが聞こえる。
「こ、こほん!!」
「あ、兄さん。いたの……」
「人の前で抱き着くのは、はしたないぞ。それに、随分な言いようだな。ヴェル」
「ごめんなさい。気が付かなかっただけ! オーバース様も無事でよかったです!」
「お嬢の、旦那のおかげでなんとかな」
「コハクの! それは良かったです!」
「ヴェルティカ。伝えなくてはいけない事がある。王子は?」
「建物におります」
俺達がビルに入っていくと、プルシオス王子と母親の王妃がいた。オーバースとフィリウスが、跪こうとするがプルシオスがそれを制する。
「まず話を聞こう」
「「は!」」
奥の会議室に通され、俺、オーバース、フィリウス、プルシオスが席に着いた。王妃はヴェルティカと共に、少し離れた場所に腰かけて座る。オーバースとフィリウスが、王都の詳細を全て伝えると、プルシオスはガクリと肩を落として黙る。王妃がわなわなと震えて、ヴェルティカが慰めていた。
「王都が……」
そして、オーバースが更に告げる。
「この大陸全土、リンデンブルグ帝国を除いて、既に、全て壊滅している事も分かりました」
プルシオスがダッと立ち上がると、ガラン! と椅子が倒れる。
「そんな……」
「恐らくはもう、何処の国も機能しておりません。あのゴルドス国も利用されて、捨て駒としてこの国に連れて来られたのです。じきに、他の国からも未知の敵が来るでしょう」
「恐ろしい……」
「そして、また新たな敵、侵略者の情報もあり、あと十日とちょっとでそれが来るそうです」
「侵略者とは?」
「あの、星の人の真の敵で、我々人類の敵にもなりうると言う事です」
「そんな……」
「人の社会は、ほぼ崩壊してしまいました」
すると部屋の端から、ヴェルティカの切羽詰まった声がする。
「王妃殿下!」
どうやら、今の話を聞いて血の気が引き、倒れそうになっているみたいだった。
「ヴェルティカ。人を呼んで休ませてやってくれ」
「ええ」
ヴェルティカが人を連れて来て、王妃が連れていかれ、プルシオスは何とか正気を保っている。
「それで、どうするのだ?」
「それは、総司令であるコハクから聞いてください」
「総司令……」
「殿下、コハクが全てを率いるのが、正しいと判断し、クルエルもオブティスマも同意しました」
「将軍達が……そうか。なら、何も言うまい。それで、コハク、どうする?」
「部隊編成をして、リンデンブルグに援軍を出します。かの国も、恐らくそう長くは持ちません」
「そうか」
「それに、早く情報を教えねば、神殿都市にいる人間が全滅する」
「わかった。では、私も全力で手伝おう」
「ありがとうございます。では、ここに出来上がった都市を、統治する必要があります。それを、プルシオス殿下に一任しますので、何とぞ市民達を統制していただきたい」
「そうしよう」
「我々はすぐに動かねばなりません。時は一刻を争う」
「そのようだ」
俺達もプルシオスも、すぐに行動を始める。悠長にしている時間は無く、まずは青備えに食事と休息を取らせて部隊編成をしなければならない。
外に出ると、ヴェルティカがもういなかった。
そこにいたドワーフが、俺に言って来る。
「ヴェル様なら。青備え達のところへ行ったっぺ」
「わかった」
俺達はヴェルを追うようにして、ドワーフの里の中心に行く。するとそこではすでに、青備えの騎士達に対し飯が振るわれていた。
「あ。コハク」
「準備をしようと思ったのだが」
「さっきの話を聞いたら、しなくちゃいけない事くらい分かるわ。まずは青備えに食料と休息でしょ?」
「そのとおりだ」
「コハクは、気にせずに戦いの準備をして」
「分かった……」
するとフィリウスが得意げに、オーバースとプルシオスに言った。
「どうです! これが、私の妹です!」
二人は微妙な顔をして、苦笑いしていた。
「兄さん。私はコハクの妻です。彼の妻をやるなら、これくらいの先読みが出来ないとつとまらないの。いつまでも、辺境伯令嬢じゃないのよ!」
「あ、ああ! わかっている。わかっているさ」
「じゃ、忙しくなるわね」
そうして俺達は、すぐにリンデンブルグに進軍する為に、準備を始める事にする。
「まずは、ドワーフたちのやっている兵器開発だな」
「行こう」
アーンが指示を出していたという、青備え用の武器開発の工場に向かうのだった。




