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バグの遺伝子 ~AIの奴隷だった俺は異世界で辺境伯令嬢に買われ、AIチートを駆使して覇王になる~  作者: 緑豆空
第二章 男爵編

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第三百九話 リンセコート領への行軍

 騎士達が恐れたように、都市を覆う光を眺め、俺達は手元で震える金盤を見つめて黙っていた。


 振動してる。


《何かを発動させるような動きではないようです》


 どういうことだ?


《システムの稼働が十分でないと考えられます》


 ということは、最後のシステムが動いてないという事か?


《はい。神殿都市の遺跡がまだ動いてないのでしょう》


 リンデンブルグがまだ持ちこたえてる?


《はい。持ちこたえているという証拠かと》


 俺は、分かった事を周りに説明した。


「恐らく全ての古代遺跡を稼働させなければ、これの本当の力は発動しない仕組みだ」


 それを聞いて、オーバースが頷く。


「リンデンブルグ帝国はまだ無事ということか……」


「という事になる」


 白い光のドームを見ていたフィリウスが、俺に聞いて来る。


「待てコハク」


「なんだ」


「我々のエクバドル王国と、リンデンブルグ以外は古代遺跡が稼働していると言ったな?」


「あの要塞の情報を読み取ったら、そうなっていた」


「……全大陸の都市が……こうなっているという事か?」


「そう言う事になるだろう」


 それを聞いたマージが、ボソリと言う。


「やれやれ、大陸中の大都市が消滅したという事かね」


「ということになるな」


 フィリウスがため息交じりに呟く。


「私のパルダーシュが滅びたよりも酷い……これでは草木一本も残らないだろう」


「ああ」


 惨劇という言葉では言い表せないほどの、コロニー科学の脅威だった。遺跡を守って来た、都市の人間ともども消し去ったという事になる。


 そこで、マージが言った。


「不幸中の幸いさね。コハクがいた事によって、エクバドル王都の人的被害は最小限に食い止められた。さらには、リンデンブルグ帝国も、まだ何とか持ちこたえていると言う事になるさね」


「ばあやのいう通りだ。青備えの鎧と、コハクの先読みが無ければ我々はひとたまりも無かった」


 フィリウスの言葉にオーバースも頷く。


「その通りだ。コハクを司令官にしていなければ、どうなっていたかすら分らない」


 俺は首を振る。


「いや。ここからだ。まだ脅威は去っていない、侵略者の対応もせねばならない」


 マージが淡々と言う。


「こうなった以上は、もう王都は放棄せねばなるまいて」


《マージのいう通りです。今は、一刻も早くリンセコートに戻り基盤を固めることです》


 そうか。


《それと並行しつつ、リンデンブルグへの援軍を送る必要があります》


 俺は声をはった。


「みんな! 聞いてくれ!」


 オーバースがもっと大きな、びりびりするような声で言う。


「傾注!!」


 一同がシンとして、こちらに顔を向けてくれた。


「こうなれば、既に王都は機能しない。我々はこのまま東に向かい、我がリンセコート領まで行軍する。まだ、最後の古代遺跡が動いてない事は分かっている。青備えは部隊を再編成し、リンデンブルグ帝国へと出兵する。時は一刻を争うが、ここに馬は無く徒歩での行軍となる。ここからだと、リンセコートまでは丸四日。その間に、先に出た市民達に追いつきそうだ。彼らも慌てて出て行ったから、食料が枯渇しているかもしれん! 一番の問題は、食料と水の確保となる。この周辺で食料を確保できないか?」


 すると、王都の騎士が手を上げる。


「少し、南に逸れますが、農業が盛んな村があります。そこで協力を仰ぐのはどうでしょう」


「よし。まずはそれに向けて動く、肉は俺達が魔獣を狩って回収しよう。すぐに出発だ」


「「「「「はい!」」」」」


 皆が荷物を持ち、列になって南へと進み始める。自然豊かな光景が広がって、人の気配が無くなった。


《村が無事な可能性は高いです》


 だな、荒らされた形跡はない。


 半日歩き、既に陽が沈みかけたころ、俺達の視界に村が入って来る。


「あそこです!」


 フィリウスが言う。


「大型の鎧と、四つ足のゴーレムにひかせている飛ぶ板は隠した方が良い」


「なぜだ?」


「村人が恐れる」


「わかった」


 重機ロボットと四つ足のドローンを置き、俺とフィリウスとオーバースとクルエルが村へ入っていく。すると村に居た子供たちが、逃げるように家に逃げ込んでいった。


 フィリウスが言う。


「それはそうなるだろう」

「こんな屈強な奴らが来たらな」


 するとそこに、重機ロボットから出て来たメルナのアーンがやって来た。


「コハク! 怖がるから、私が言ってみるね!」

「だっぺ! ウチも人間ならまだ子供に見えるっぺ」


「頼む」


 コンコン! 


「こんにちはー!」


 メルナが声をかけてみると、カチャリとちょっとだけ扉が開いた。


「あの。作物を少し分けてもらいたいんです。代わりに、体を直すお薬あげます」


「あなた方は?」


「私達は、避難民です。実は、王都が炎上して逃げる途中です。彼らは王都の騎士です」


「きっ、騎士様?」


「はい」


 少し沈黙して、家から男が出て来た。


「村長のところへ行きましょう」


「ありがとう!」


 そして男と一緒に村を歩き、少し大きな家に行ってノックをした。


「村長!」


 すると口髭の生えた、痩せた老人が出て来た。


「な、なんじゃろうか?」


「王都の騎士様たちが、おいでなすったようだ」


「な、なんと!」


 メルナが振り向くと、村長の目線がオーバースに向いた。


「こっ! これは! 将軍様でねーの!!」


「すまんな。実は助けてもらいたいのだ」


「は、入って下せえ!」


「すまん」


 そして中に通され、オーバースが席に座り俺達は後ろに立った。


「ど、どうなさいました?」


 オーバースは、真正直に王都で起きた事を洗いざらい喋る。


《信じるでしょうか?》


 村長の反応は素直だった。


「それは大変な事ですじゃ! 国の一大事じゃな!」


「我々は平和を取り戻すために、行かねばならん。隣国は、酷い状況になってしまっているらしいのだ」


「わかりました!」


 そこでメルナが言う。


「怪我を直す薬、いっぱい置いて行くから、野菜とか欲しいの!」


「わかりもした。出来るだけ、協力させていただきます」


 それから村長と、一緒に来た村人が村中に声をかけてくれた。おかげで野菜を手に入れる事が出来た。代わりに、メルナが十数本の回復薬を差し出す。


「こないに、高価な物を」


「いいの。あとこれ」


 メルナは自分の首に巻いていた、リンセのマフラーを差し出す。


「さっき居た、あの子に」


 最初に声をかけた子供に、そのマフラーを渡した。子供は喜び、早速身に着けている。


「おねえちゃん、ありがとう!」


「他の子には無いんだけど」


 そこで俺が言う。


「平和を取り戻したら、リンセコートから大量に運ぶと約束しよう」


「いやいや、そんなことは」


「大変な時に、協力をしてくれたお礼だ。それに、荷馬車まで用意してくれた」


「そんな事はありません。あ、ありがたいお言葉ですじゃ」


「では」


 オーバースが丁寧に挨拶をし、みなで手を振って村人と別れた。


 フィリウスが言う。


「オーバース様。我々が、ここで踏ん張らねば、あの村もいずれは滅びます」


「だなフィリウス。俺達はやり遂げねばならぬ」


「はい」


 皆も深く頷いた。


 道中、風来燕と俺やオーバースが魔獣を狩って肉を確保した。四つ足のドローンには未知の敵である、キメラマキナが闇魔法をかけられて括られている。さらに、四つ足ドローンに荷馬車を括りつけている。フライングボードにも作物がのせられていた。すぐに肉をさばいて、荷馬車に乗せ始める。


「フィラミウス。凍らせてくれ」


「わかりましたわ」


 氷魔法で肉を凍らせ、腐敗を防ぐように対処した。夜間になり、四時間だけ休みを取る事にした。


「魔法師は率先して休め」


「見張りは」


「俺がやる。皆は寝ていい」


 俺が言うと、オーバースが答える。


「なら半分ずつにしよう」


「いや。俺はひととき、眠れればいい」


 アイドナによる、細胞レベルの休止で休みを取れる事は誰も知らない。俺の言葉に誰も疑いを持たず、オーバースも素直に頷いた。


「わかった。なら、一秒も無駄に出来んな」


 そう言って皆が、休息をとる。魔獣の気配も無く、三時間後にオーバースがぱちりと目を覚ます。


「よし。変わろう」


「オーバースは寝れたか?」


「浅くな。コハクも休んでくれ」


《では、深眠状態に入ります》


 カッと、一瞬で意識が遮断された。そして十分後きっかりにアイドナが覚醒させる。細胞レベルでの、休息のおかげで全開レベルで復活した。


「皆を起こす」


「だな」


 オーバースが盾を持ち上げて、こん棒でガンガンとならすと、皆が目を覚まして動き出した。


「まず腹に何か入れろ!」


 騎士達が焚火で肉を焼き、鉄の盾を裏返して、そこでお湯を沸かして芋を放り込んだ。もちろん塩気が無いので味はしないが、皆はだまって、魔獣の肉と芋を皮ごと齧る。


《騎士には騎士の知恵があるようです》


 そのようだ。


 食べ終わり、すぐに進軍を開始する。それから先に出た市民達に合流できたのは、二日後の事だった。シュトローマン伯爵領の、草原地帯を歩いてるところで追いつく。


「オブティスマ!」


「ど、どうしたのだ? オーバース! これは……」


 オーバースが、王都の消失について説明をした。


「そうか……そんな事が……」


「市民達の食料はどうだ?」


「既に残り少ない。ここから二日は、ほぼ何も食わずに進むしかない」


「それは良かった。多少の食料を確保した。市民達に全部分けてくれ」


「おお。そうか! 助かる、市民達は疲弊している」


「我々騎士とは違うからな」


「ああ」


 俺達はそこで休憩を取り、食事を市民達に配った。オーバースが、遅れて来た王都の騎士達に命じる。


「俺達は先に行く。市民達を無事に、リンセコート領に連れてきてほしい」


「「「「「は!」」」」」


「クルエルも頼めるか」


「任せろ」


 そこで俺が言う。


「青備えを渡した精鋭は、一緒に来てくれ」


「ああ」


 王都の青備えを着ている奴らは、戦力になるため連れて行く事にする。魔石が補助をしてくれるため、普通の騎士達よりも進行速度が速いからだ。


「これで、一日短縮できそうだ。休みなしで行こう」


「わかった」


 さらに一日進むと、ようやくリンセコート領の森が見えてくるのだった。

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