第二百九十話 敵の偵察部隊に遭遇する
風来燕は、ちょうど魔獣を狩って戻ってきたところだった。大きな魔獣を、三頭も狩ってきたらしい。ギルドの解体場に引き渡し、素材を全て提供したら金がもらえたそうだ。
「金つっても、こんな状況じゃ飯屋もやってねえ」
「市民が普通の暮らしに戻るのは、もう少し先になる」
「そうかい。まあ、そりゃそうだよな」
「狩りから帰ってきたばかりで悪いんだが、ベントゥラに用がある」
「あいよ」
「みんなも来てくれ」
そして俺は風来燕を連れて、回収物を収めた場所にくる。
「ちょっとこれを見てくれ」
「こいつは。エルフが使ってた……」
俺はベントゥラに、エルフの銃を使わせる事にした。長いライフルの形状と、未来的なデザイン。
「そうだ。これの認証をベントゥラにして使えるようにする」
「本気かよ。こんなあぶねえもん、俺が使うのか?」
「本気だ」
アイドナが組み替えたプログラム、そして初期化したシステムを起動させる。パネルが自動で開いて、ベントゥラの指を触れるように言う。
ピッピッ!
「なんか言ったぞ?」
「ベントゥラの指紋を認識した。次は話しかけろ。解除と言え」
「解除」
ピピッ!
シューっと小さな音がして止まる。
「次はロックだ」
「ロック」
ピピッ!
それは起動を停止する。
「終わりだ」
「これで終わり?」
「もうベントゥラにしか反応しない。使う時は解除で、止める時はロックだ」
「俺専用ってことか?」
「そう言う事だ。操作は弓とは違うが、狙いを定めて撃てばいい」
「そうかい」
「ボルトとガロロは今まで通りだ」
「了解」
「わかったのじゃ」
「フィラミウスは、魔法で全員の強化に努めてくれ」
「わかったわ」
そんな話をしていた時だった。王都の外から、ピューンと音がする。
「罠に何かがかかった。行くぞ」
俺は風来燕を連れて、北門を抜け外に出る。音がした方角の空を見れば、青い煙が立ち上っていた。森に入り、俺達がアラクネ糸の罠を避けながら進んでいく。そして、罠が発動した現場に来た。
「ここだな」
「なんだ? 魔獣が居ねえな」
「音で逃げたか……?」
「かもしれんな」
《いえ。なんらかの足跡があります》
ガイドマーカーで、赤い足跡が続いていた。罠に引っかかって、慌てて逃げた可能性もある。
「足跡だ」
するとベントゥラも頷いた。
「何の足跡だ?」
俺達はそれを追跡するようにして、森の奥へと進んでいく。するとその足跡は途中で切れ、俺の視界がサーモグラフに切り替わる。
《上です》
見上げれば、木の枝に何かがいる。それはじっとこちらを伺っているようだ。
《ステルス蜘蛛の魔獣。あれは王都で確認した個体と同じです》
俺は風来燕に、身振り手振りで伝える。四人は上を見るが俺が言う。
「目では見えないだろう」
「体を隠している?」
「俺は、あれを見たことがある。王都に出た蜘蛛か蟹のような魔獣だ」
風来燕がざわついた。
「通常の魔獣じゃねえって事か……」
がさがさと周りに、同じ奴らが寄り集まって来た。
「俺達は、おびき出された。罠は、わざとだ」
「なるほどね。俺達には見えねえが、どうしたらいいか」
「いや……ベントゥラ、その銃のスコープで見て見ろ」
「解除」
そしてベントゥラが、銃のスコープを覗き込む。
「おお、いるいる」
「あいつらは手の刃が武器だが、オリハルコンの鎧は切れない」
「なるほどね。敵の偵察か?」
《偵察でしょう》
「そうだ、王都の様子を見るため、敵が送った偵察だ」
「やはりそうか」
「ベントゥラ。丁度いい、あれを銃で撃て」
「なるほど、じゃあやってみっか」
ベントゥラが狙い、一体に向けて銃を撃ちこむ。
ドン!
パシィィィィ!
ジッジジ!
するとステルス機能が無効になったらしく、一体が姿を現した。
「出てきたぞ」
「つぎつぎやれ」
ドン!ドン!ドン!
流石はベントゥラ。超人的な弓の能力で、次々と射抜き魔獣の姿が丸見えになった。
「よし。とにかく狩れるだけ狩る」
「「「「おう!」」」」
ドン!
体の見える蜘蛛の魔獣は、もはや風来燕の敵では無かった。刃を振りかざして迫って来るが、オリハルコンの鎧は斬り裂けない。一方的に、返り討ちにしていく。
すると、全てを狩り終える前に、ザザザザ! と森の奥へと消えて行ってしまった。
「いよいよ、敵が動いたようだ」
「どうするコハク? 追うか?」
「いや。罠かもしれん。一度、王都に戻って知らせる必要がある」
「了解だ」
フィラミウスが、赤い筒を取り出して打ち上げる。
ピューン!
これで王都は、警戒態勢にはいるだろう。俺達が急いで、森を抜け王都に戻ると、そこにオーバースと騎士部隊が待機していた。
「敵か!?」
「ああ。どうやら魔獣を使って偵察しに来た」
「とうとう来たか……」
オーバースは騎士に伝令を出して、警戒レベルを一気に引き上げるように指示を出す。市壁の上には多くの監視兵が登り、ガーンと鐘が慣らされ、市民達が外に出ないように合図がなされた。騎士達が古代遺跡とガラバダの牢獄に向かい、北門と南門に騎士が集まる。
「外にいるレイたちが先に見つけるか、既に罠を掻い潜っている可能性もある」
「わかった。まもなく、精鋭部隊がそろう」
「敵はこちらの能力を値踏みしている」
「敵も警戒してるか?」
「かなりな」
「ふっ。面白いじゃないか。王の弔い合戦ができる」
「そのとおりだな」
「敵はどう出るか」
「二の手、三の手があるだろう」
精鋭の騎士達もそろい、王都は警戒態勢にはいっていく。陽が落ち松明が焚かれ、魔導士達が光魔法で照らした。
「くるならこい。もう我らの土地を汚させはしない」
「「「「オオオオオオ!」」」」
騎士達の声が、夜の空にこだまする。
そこにフィリウス達がやって来る。
「ぶっつけ本番での戦いか」
ビルスタークが言い、俺が答えた。
「ビルスタークとアランが居れば大丈夫だ」
アーンとメルナが、その後ろにある格好で居た。
「腕が鳴るっぺ!」
「そうだね!」
「マージ。彼らの連携を指示してくれ」
「冒険者時代の血が騒ぐねえ!」
騎士達が鼓舞するために、ザンザンと槍で地面を突く。俺はすぐに動けるような位置に付き、その時が来るのを待つのだった。




