第二百八十六話 生体動力のカラクリと囚われたサイバネティック・ヒューマノイド
王都古代遺跡の生体動力の深部に潜り、そこにある光を放つ核を見ていた。ガラスの中にあるそれは、光を放って脈打っているようだ。
《これがコアのようです》
上の階層で見えていた表層部分は、その心臓ではないという事か?
《そのようです》
これは直接触れるのか?
《危険でしょう。表核ですら容易に触る事は難しい》
どうみる?
《見る限りは、細胞分裂をしているように見えます。無限に増殖して、シナプスにそって流れる、そういったエネルギーの流れです》
無限増殖。
《はい》
前世にあったか?
《動力ではありませんが、似たようなナノマシン原理はありました》
自動治癒機関か。
《そうです》
俺の前世では、事故などで損傷した体を治す病院のような場所があった。そこには体内の損壊した部分や傷などを治す、素粒子ナノマシンを注入するロボットがいた。そのナノマシンの事を言っているのだ。
それが、この世界では生体で出来ているということか?
《アヴァリを検証した結果から見てもそうです》
動力から切り離すと風化するあれか。
《はい》
アイツらの文明の根幹には、これがあるようだな。
《そのようです》
どうしたらこれを、もっと詳しく検証できるかな。
《食べれば》
却下だ。それに、触るのは危険なんだろ。
《一つだけ方法が》
なんだ?
《確率の問題になります。触れれば暴走するかもしれません》
方法は?
《あなたの内部には殺処分の時に使われた、キラーマシンを隔離しています》
消えて……ないのか?
《はい、隔離してます。それをこれに入れてみる。そうすれば、これは機能停止する可能性が高いです》
方法は?
《あなたが、これに取り込まれる事です》
却下だ。
本末転倒。俺が死ぬことになる。
《いずれにせよ。これの停止はそれ以外にありません》
わかった。
そして俺はその場所を離れる。危険なのは作った奴らも分かってるようで、何重にも隔離されており、扉がいくつもある。俺は縦穴を上に登り、扉を開けて皆がいる場所に戻った。
「お師匠様!」
「もどった」
「どうだっぺ?」
「残念ながら、これを止める事は出来なそうだ」
「残念だっぺ」
オブティスマも残念そうにしていたが、そこで俺が言う。
「むしろ、これを使う事を考えた方がいいかもしれん」
「そうか」
「だが一つ分かった事がある」
「それはなんだ?」
「敵はみな同じ原理の下に動いている」
「同じ原理……」
「この動力も、未知の敵も、移動要塞も、全てが同じ原理で動いている」
俺の話を、必死に文官たちが書き記していた。
「そうか。何か出来る事はあるのか?」
「いや、今のところはない」
「そうか」
「弾き続き、調べてみる必要があるだろう。直ぐに、ガラバダのところに行ってみる」
「場所は……」
「わかっている。大賢者を連れて行く」
「わかった」
そして外に出ると、土魔法で壁を作っている魔導士の中に、メルナがいた。
「メルナ! 一緒にきてくれ」
「うん!」
墓地を抜けて俺とメルナ、アーンとワイアンヌが街を歩いて行く。街道を歩きながら、マージが俺に聞いて来た。
「どうだった? 中をみたんだろう」
「巨大な動力があった。あれの原理は厳密には分からんが、未知の敵も同じ原理で動いている」
「やはり作られた人間かい」
「そういうことだ」
「やれやれ」
そうして俺達は真っすぐに、ガラバダが捕らえられている牢がある裏町に入っていく。だがここにも沢山の騎士がいて、すでに牢をカモフラージュしている意味はなかった。前に俺がいた時の、奴隷商の建物の面影はもうなくなっている。近隣の建物も全て変わっており、騎士達の屯所になっているようだった。
「きたか」
そこにいたクルエルが声をかけて来る。
「状況は?」
「防壁を何重にもして、隔壁には結界が張り巡らされている」
「入れてくれ」
「ああ」
クルエルに連れられて、中に入るとそこに魔導士が居る扉があった。
「開けてくれ」
「は!」
扉が開くと下への階段が見えてくる。以前はこんな扉は無かった。階段を下りていくと地下牢に出る。だが、そこにあるはずの檻が無い。
「いない」
「さらに下だ」
「掘ったのか?」
「そうだ」
そこに扉があり、魔導士達が立っていた。
「入るぞ」
「は!」
扉が開き、階段を下りていく。かなり深く掘られているようで、やっと牢屋らしきものが見えて来る。そこには、魔導士が三人張り付いていた。
「ご苦労」
「は!」
「どうだ?」
「静かなものです」
「これから、囚人をおこす」
すると魔導士達はゴクリと喉を鳴らした。それがどれほど危険な事か分かっているのだ。
「開けろ」
鉄の重厚な扉の結界を解除し、ガゴン! と音を立てて扉が開いた。すると中には、鎖につながれたガラバダが眠っていた。そこでマージが、アーンに聞いた。
「牢屋は、どうだい?」
「出来れば、あちこちに魔法陣を刻んだ方がいいっぺ」
「それは、すぐにやったほうがいいさね」
「わかったっぺ。あとで道具を持ってくるっぺ」
そして、俺がクルエルに言う。
「魔導士を待機させてくれ」
「ああ」
クルエルが指示を出している間に、マージがメルナに詠唱を唱えさせた。それがガラバダにかかると、ピクリと動きはじめる
「ガラバダ。久しぶりだな」
「う、うう……」
ガラバダが、項垂れていた顔を上げる。
「てめえ! コハク! こんな所に閉じ込めおって!」
「元気じゃないか。どうやらお前は、その状態でも生きていられるようだな」
「馬鹿め。いずれ、仲間が助けに来る」
「……お前は気が付いてないのか」
「なにがだ?」
するとマージが言う。
「闇魔法で落ちている時間は、コイツには分からないのさね」
「なるほど」
するとガラバダが声を荒げる。
「なにをごちゃごちゃと」
「お前達の目論見は、だいたい分かった」
「お前達のような、下等生物に分るわけがない!」
「いや。お前らは、宇宙から来たんだろう」
それを聞いて、ガラバダがピクリと固まった。何も答える事は無く、ただ俺をじっと凝視している。
「お前らは、宇宙のコロニーから来たんだろう?」
「おま、なぜ……」
「どうやら、そのようだな。おしゃべりなお前の事だから、動揺すると思った」
「きさま」
《挑発しましょう》
「お前の仲間をいっぱい殺したぞ。アヴァリも死んだ」
「な……」
「グラド、ルクステリア、イラ、トリス、アヴァリ。俺が全部殺した」
いきなり、ガラバダの目が血走った。
「きっ、きさま! 嘘をつくな。あんな強い奴らが! お前に、そんな力があるわけがない」
「嘘じゃない」
そう言って、俺はアイツらから奪った武器を見せる。
「そ、そんな。うそだ」
「お前を回収しに来たと思われる、耳の長い人間も十六人ほど殺した」
「……貴様。よくも……」
「いや、お前はヴェルティカの執事を殺して成りすました。そしてヴェルティカを傷つけた。俺はまだやり足りない。お前の仲間を殺して、ヴェルティカの心の傷を埋める」
「下等生物めが!」
「その、下等生物に捕まってるのがお前だ」
「くそ!」
「そして、お前達に精神支配は効かない事もわかった。だから、お前達から情報が取れない事もな」
「……」
やはり、こいつらはエルフとは違っている。
《もしかすると、話をする権限が無いのかもしれません》
設定ということか?
《そうなります》
後はコイツから何の情報をとるか。
《未知の敵の数を誘導出来れば》
「お前達はキメラ・マキナと言うんだろう?」
「そんなことまで……」
「キメラマキナは、地上に何体いる?」
「知らん」
「答えろ」
するとガラバダは俺たちの目の前で、わさわさと変わり始める。あっという間に、ヴェルティカになり声も同じになった。
「コハク。どうしてこんな事をするの、酷いわ」
コイツは馬鹿なのか?
《ノントリートメントならば、効果があるのでしょうが、意味はありません》
俺はガラバダを無視して、話し続ける。
「まあいい。全部殺す」
「な、きさま!」
ヴェルティカの顔と声で言うが、イントネーションと真の声までとらえられていない。それに、ヴェルティカは「きさま」などとは言わない。
「言い残す事は無いか?」
「くそ! ここからだせ! 下等生物め! 地上に生きる奴らはいずれ一掃される!」
ようやく情報を吐いた。
「地上にいる奴がなんだって?」
「全て養分だ! そして、支配者が変わる! ばかめ! お前の命はそこまでだ!」
「どこから支配者が来る?」
「……」
言い過ぎた事に気が付いたらしい。ガラバダはすぐに黙り込み、そしてもう話さなかった。
「むなくそ悪いっぺ! ヴェル様のお姿で!」
「本当です!」
だが俺は、二人の前に手を出して制する。
「殺すのはまだ早い。コイツは使えるかもしれん」
「わ……かったっぺ」
アーンもワイアンヌも納得がいっていないようだ。そこでマージが言う。
「大丈夫さね。ではメルナや」
「うん」
そしてメルナが強い闇魔法を発動すると、ガラバダが黒い闇に包まれた。それが晴れた時、ヴェルティカの姿からガラバダに戻り、俯いて気を失っていた。
そこで、ようやくクルエルが言う。
「恐ろしいな。こんなバケモノ」
「人の心を操る力がある」
「愛する人、信用する人に化けるか……とき放ってはイカンな」
「そう言う事だ」
「俺も、騙された」
「仕方がないクルエル。コイツには、未知の力があるんだ」
「そうか……」
俺達はガラバダの牢をでて、魔導士達が結界をはった。俺達はそこをぬけて、いくつかの扉を通り抜け地上に出る。そして俺は、クルエルに言った。
「ここも最重要防衛拠点だ。絶対に敵の侵入を許してはならない」
「お前がつけてくれた兵がいる」
「ああ。だが、彼らは装備が良いだけで、その力は王都の騎士達には敵わんだろう。盾として使いながら、ここを守るしかない。後は、ワイアンヌの魔道具で呼んでくれ」
「わかった」
クルエルにその場所を任せて、俺達は南の正門へと向かうのだった。




