第二百七十二話 敵の占領軍を発見
フィリウス達と別れて夜の道をしばらく先に進むと、パルダーシュ領に入る直前の草原が見えて来た。ここまでの道中で敵に接触する事は無かったが、俺達はそこでいったん止まり様子を見る。
「この草原を超えればパルダーシュ領地です」
ワイアンヌには、しっかりとした土地勘があるらしい。そこで俺がみんなに言った。
「ここで休もう。みんな装備を降ろせ」
ガチャガチャと装備を降ろし、皆がその場に腰を下ろした。
《夜の侵攻はないでしょう》
パワードスーツの連中には、関係ないんじゃないのか?
《ゴルドス兵士は、無休では動き続けられません。敵地への侵攻は肉体的にも、精神的にも消耗します。敵もノントリートメントですので、敵国での待ち伏せも警戒するでしょう》
なるほど。あのエルフたちだけでは、進軍してこないという事か。
《キメラ・マキナと呼ばれる、サイバネティック・ヒューマンの消息を掴めずにいると推測。あの未知の敵を撃退された可能性を考慮すれば、不用意に進軍はしないと考えられます》
確かにそうか。敵も、舐めちゃいないってことだ。
《だからこその、二万の将兵を引き連れての進軍です》
そういうことだな。
そして俺は皆に聞いてみる。
「敵は、どのあたりにいるだろうか?」
するとマージが言った。
「不用意には侵攻してこないさ。ゴルドス国から奥に入れば入るほど、兵站線を確保しなくちゃならないからね。まずはパルダーシュの都市に拠点を作って、それからになるさね」
「だと、敵はパルダーシュの都市に巣くっている?」
「そうとも言えないねえ。あの、要塞があるからね。もしかすると、要塞を拠点にゆっくりと、兵を進めている可能性はあるだろうね」
《マージのいう通りです。とにかく、敵も警戒はしている状況でしょう》
あの要塞が、都市に止まっている可能性はあるか。
《十五パーセント程度の確率です》
要塞がいない場合は?
《ノントリートメントだけなら、百パーセント都市に滞在するでしょう》
なるほど、あの要塞とパワードスーツが起点になるのか。
《主導権はエルフにあるかと》
駒として使うなら?
《無理をさせるでしょう》
そしてワイアンヌに聞く。
「このあたりで、兵を休ませるには、どこになるだろう?」
「この先に雑木林があり、その先には農地があります。そこであれば、野菜なども確保できるので、そこに滞在している可能性はあります」
するとマージが言う。
「ああ、コハク。ワイアンヌの勘はよくあたるさね」
「勘?」
「ああ、魔力が少なくても活躍できるのは、その統計能力にあるからね」
「ふむ」
《ワイアンヌはノントリートメントではありますが、経験則というものがあります。それを加味し再演算した結果、この先に敵がいる確率は七十八パーセント》
なら……やってみるか。
《有効かと》
そして座っているみんなに言う。
「よし! ここで待機! 食事をとれ」
「「「「おう」」」」
皆が馬に括り付けた背負子から、保存食を取り出して配る。そこで、俺はボルトを呼び出す。
「ボルト!」
「おう!」
「俺はやる事がある。くれぐれも、ここから先には進むな」
「ん? 何するんだ」
「行って見なければ、わからん」
「なるほど、行かなきゃいいんだな」
「そして、馬は目立つから置いて行く」
「了解だ」
するとメルナが俺に言う。
「一人でなにするの?」
「ああ、ちょっと試したい事があるんだ」
「危ない事?」
「どうだろうな? やってみなくちゃ分らん」
「だったら、あたしも行く」
「メルナ。お前とフィラミウスは仮眠をとれ。ボルト達も交代で見張りを立てて、仮眠をとるんだ」
「わかった」
「……うん」
するとフィラミウスが、俺に干し肉を持ってきた。
「精が付きます。テリオスの肉です」
「すまない」
「何かあれば、ヴェルティカ様に申し開きのしようがありません。何卒ご無事で、お戻りなられるようにお願い申し上げます」
「死にはしない」
俺が干し肉を齧っていると、ガロロがビンを渡してくる。
「果実酒じゃ、多少体があったある」
「わるい」
噛んだ干し肉を、グビリと果実酒で流し込む。だが、直ぐにアイドナが分解してしまった。
《判断力に影響する可能性があります》
せっかくガロロがくれたのにか。
《エネルギーは吸収しました》
そうか……。
するとベントゥラが、苦笑しながら言う。
「なんか前もゴルドス国が攻めてきた時、同じ様な事があったな。俺が途中までつれていったりしてよ」
「そう言えばそうだったな。あの時は、敵の魔導士部隊をやった」
「だが、あの時は数千。今回は二万だ」
「そうだな。だが、それだけに敵も油断もするさ」
「一人で大丈夫か? 今回はあの機械の鎧までいやがるぜ?」
「いや、あの時と同じだ。問題ない」
「そうかい……コハクがいうなら、そうだ」
皆が心配そうにしている。要塞とパワードスーツと二万の兵が、彼らを緊張させている。
アーンが言う。
「無理だと思ったら、引き返してくるっぺ! お師匠様がいなくなったら大変だっぺ!」
「問題ないよアーン」
その俺の覚悟に、もう心配の声を上げるものはいなかった。
そして俺は念を押す。
「くれぐれもこれ以上前進するな」
「ああ」
「じゃ、行って来る」
そして俺は、光の無い草原の暗闇に溶け込んだ。身体強化をかけ、暗い草原を北へとひた走る。三十分もしたころに、ワイアンヌが言った通りの雑木林があった。俺は草むらに潜み、じっと目を凝らす。
ワイアンヌが言った通りだ。
《聴覚強化》
すると話し声が、風に乗って微かに聞こえてきた。
敵か?
《そのようです》
俺は道を通らず、雑木林に潜り込む為の進路をとる。
《サーモグラフ》
雑木林の木の上に、人がまばらに移り込んだ。どうやら、こちらが攻めて来るのを雑木林の上で見張っているのだろう。木の上に乗ったり、木の間に立ってこちらを監視しているようだ。
どうするか。
《無視します。迂回してやり過ごします》
ああ。
《暗蜘蛛隠》
俺はステルスで消え大きく迂回し、街道から離れた所からそっと雑木林に侵入した。敵に見つからないように静かに、一気に雑木林の反対側まで抜けた。
するとそこに、凄い数の天幕があった。
《敵兵です。その中央をみてください》
あれを中心に囲んでいるのか?
その兵士達の天幕の中心には、大気圏突入ポッドが鎮座するかのように佇んでいたのだった。




