第二百五十六話 重機ロボット戦闘試験と有効活用
山肌に転がる岩、山頂から風が吹き降りて俺達の頬を撫でていく。穏やかな日差しの下で、重機ロボットは静かにたたずんでいた。アイドナが全てのプログラミングをやり直して、自分で判断し思案するようにしてある。俺達は重機ロボットから離れたところで、運用試験を開始し始めたのだった。
「よし。メルナ、火魔法を食らわせてやれ」
「うん」
メルナが詠唱し、重機ロボットに向けて火炎魔法を放つ。銃弾とは違い、火炎魔法の射出速度は遅い。だが、着弾と共に火炎が広がり、一体が燃え上がる。
ゴウンゴンと音を立てて、重機ロボットは盾を前に出す。縦に当たって、バグン! と炎が広がるが、本体を避けるよう両脇に広がった。
「よーし! ワイアンヌは弓を! 」
俺達から重機ロボットを挟んで反対がわにいるワイアンヌが、地面に設置してある巨大ボウガンのレバーを引いた。
ビュン! と槍が飛び出すが、それもぐるりと上半身を回して盾で防ぐ。
《反射速度は良いようです》
よし。
次に俺がジェット斧を構え、地面に落ちている岩を吹き飛ばすように殴りつけた。バラバラになった岩が、一気に重機ロボットに飛んでいきそれも縦で防ぐ。それに合わせるように、山の上にいるアーンが背中で巨大な岩を押し出す。ドワーフなので、かなり力がある。
ゴロゴロと転がる巨大岩が、重機ロボットに迫るが、岩が当たる直前でぐるん!と体が回転し、巨大な斧を岩にぶつけた。バガーン! と岩が砕け、重機ロボットの左右へ飛び散った。ワイアンヌが岩に隠れ、俺はメルナの前にたって飛んできた岩を弾く。
《攻撃の種類に対しての判断は、出来ているようです》
それじゃあ、俺が行く。
《壊さないでください》
わかってる。
俺はジェット斧を構えて、重機ロボットに突進していった。俺を敵と判断するようにプログラムしてあるので、俺の姿を確認すると攻撃してきた。
ブーンと降ってくる斧。ジェットや爆裂魔法は組み込まれておらず、ただデカいだけの斧である。当たればただ事では済まないが、大ぶりの為に容易く避ける事が出来た。宙返りをしながらそれを避けるが、歯車のように上半身が一周して同じ方向から同じ攻撃が来る。
なるほど……近寄るのは難しいか。
そこで俺は、強化鎧のブースター機能を使い、上空に飛び出してみる。
上はどうか?
空中でジェット斧を噴射し、クルクルとコマのように縦に回りながら落ちて行った。
ガン!
重機ロボットのオリハルコン性の盾が、それを防ぎ俺は弾かれるように飛ぶ。
ゴウンゴウン!
重機ロボットが追いかけてきた。足場が悪いが、バランスを崩すことなく真っすぐに向かって来る。
そこにメルナとワイアンヌが、同時に攻撃を仕掛けた。右からは火炎魔法、左からは巨大なボウガンが迫っている。次の瞬間、重機ロボットは俺を追うのをやめて、ガシュン! と体を折りたたみ坂の下へと滑り落ちていく。その方が移動速度が速いと判断したのだろう。
火炎魔法とボウガンは、重機ロボットがもといた所に着弾した。そして下の方で、またロボット形態になり、こちらにそのカメラを向けている。
《非常事態に対しても、次の攻撃に備えて判断してます》
じゃあ、未知の敵対策が出来るか、俺のスキルを使ってみるか。
《はい》
今までの動きは、人間の軍隊を想定した場合の動き。これを止めるのは至難の業ではないだろうが、未知の敵に対してどの程度通用するかどうかが問題だった。
《龍翔飛脚》
俺はビュン! と重機ロボットに隣接した。
《瞬発龍撃》
ジェット斧を下からビュン! と振るう。盾を下ろしてくるが、間に合わずに俺の斧に弾かれてバランスを崩した。レーザー剣をだして、そのまま生体動力に向けて差し込んでみる。もちろんレーザーは出していない。
ガン!
《終了です》
ヒュゥゥゥゥゥン……。
それが攻撃終了の合図となり。重機ロボットは動きを止めた。
「やはり難しいか……」
《質量がありますので、これ以上のスピードは出せないようです》
そして止まった重機ロボットから離れ、俺は三人に手を振った。メルナとアーンとワイアンヌが寄ってきて、開口一番アーンが言う。
「凄いアイアンゴーレムだっぺ! 動きが早いっぺ」
「ああ。人、相手なら十分に活用できそうだ」
「お師匠様的には不満だっぺか?」
「不満はないが、未知の敵には対応できない事が判明した」
「なるほどだっぺか……」
だが、そこでマージが言う。
「それでも充分さね。この大物では、あれらを相手になど出来ないのは想定済み。それよりも、雑魚を掃討する為に使える事が分かったんだ。それが五体もあるとなれば、リンセコート軍は既に王軍の力を越えただろうさ」
「それが目標ではない」
「それはそうさ。だけどね、雑魚を抑えられるというのは大きい。無駄に領民に被害を出させずに済むだろう? それに、このアイアンゴーレムの使い方は決まってるじゃないか」
「ああ」
そう。俺は、このアイアンゴーレムを仮想未知の敵として、リンセコート軍の軍事訓練に使用するつもりなのである。これに集団ででも対応できるようになれば、未知の敵一体に対して中隊規模で対応できるようになると思っている。
「という訳で、後は壊されないように加工しようじゃないか」
「そうだな。敵に壊される前に壊れたんじゃ意味がない」
「そうさね」
簡単に壊される事は無いと思うが、俺は五台分のオリハルコン装甲を作っていた。メインパネルや関節部分、そして生体動力部分はオリハルコンで防御する予定である。
それから俺達は山を下りた。重機ロボットはまた俺達を乗せ、そりをひいて山を下りていく。いままでは物作りに特化させていた重機ロボットが、戦闘に耐える事がわかった。
そして秘密の研究所に戻り、重機ロボットの武器をすべて外す。
そのまま新たに作った工場へ向かうと、他の四台の重機ロボットが動いていた。ここでは、数種類の素材の加工をさせている。人間が入れば、イレギュラーが起きるといけないので、全てを重機ロボットに任せていた。俺達はガラス越しに、その作業を見ていた。
俺が依頼し、マージとワイアンヌが話し合って、あるものを加工しているのである。
「だいぶできてるな」
ワイアンヌが答えた。
「はい。炎晶石の生成、ロックサラマンダー火油の生成、カズラバクの毒を生成してます。これ以外にも、人体に有毒な物の生成をして行く予定です」
「どれも危険なものさね。コハクや……本当に使うつもりかね」
「そのつもりだ。未知の敵にどこまで有効か分からんが、戦局は有利に出来る」
「……わかったよ」
マージに言われるまでも無いが、人体には有毒な物ばかりだ。俺達はこれを、兵器に転用しようとしているのだった。人間が装備するわけにはいかないが、重機ロボットならば害はないだろう。
《化学兵器は特に人体に有効です》
どうなるかは想定できているか?
《大量に無力化出来ます》
わかった。
アイドナが言うとおりに、戦局を有利に進めるための兵器開発を進めている。これがどう作用するのかは分からないが、アイドナはぜひ作っておきたいと言った。実際に戦争などした事などは無いが、それらがどのように作用するのかは、使って見なければわからない。
アイドナは効率的に物事を進めているが、経験した事の無いことの判断は任せるしかないのだ。着々と進む戦争準備に、何故か俺は少しの不安を感じるのだった。




