第二百二十一話 不審な追跡者の陰
その階層の洞窟に点在していた背中の丸まった筋肉の化物を、ベントゥラがフェイスカバーに施された望遠魔法で見張る。俺の隣りではアーンが周りを見渡しながら、ぽつりと言った。
「洞窟に、人の手が加わってるんだっぺか?」
「だろうな」
この洞窟は自然なものではなく、加工された形跡がある。恐らくはあのロボット重機による仕業だと思うが、シュトローマン領のダンジョンよりも、更に手が加わっている印象だった。
《恐らくは削岩作業に人も入っていたのか、加工して何かに備えようとしたと推測されます》
いったいなんだと思う?
《防災用、鉱物資源を求めてなどが考えられますが、有力な推察は一つです》
それは?
《想像部の構造から考えて、住居にしようとした可能性が有力です》
地下にか?
《実際に住もうとした形跡も残ってました》
何故だと思う?
《地上に住めなくなることを想定したからでしょう》
今、住めているが?
《遠い昔という事です》
古代文明が、という事か。
《はい》
脳内でそんな話をしながらも、体は勝手に作業をして攻略準備が整った。
「それでどうするんだい? コハク」
ボルトが並んだ資材を見て言った。
「俺が敵を呼び寄せるから、フィラミウスに火をつけてもらって底に投げこめ」
「わかった」
皆は何が起きるか分かっていないようだが、俺は既にやる事が分かっている。そこから真っすぐに飛び降りて底に降り、大きな音を立てて近くの岩をジェット斧で叩いた。
ガギン! 大きな音が洞窟内に響くと、一斉に筋肉の塊がこちらを見た。
「おい!」
俺が叫ぶと、魔獣が一斉に穴や岩場を飛び出して、こちらに突撃して来る。それを確認した俺はすぐに後ろの崖を登り始めた。下を見下ろせば続々と魔獣が集まっており、俺は上に向かって叫んだ。
「投げろ!」
準備していた物資が上から落ちて来て、俺を通り過ぎて行く。
ドゴン!一個が魔獣の中に落ちると、それは大爆発を起こし魔獣を飛び散らせた。下を見れば、爆散した場所の魔獣が綺麗に居なくなっている。
「ギョェェェェェl!」
「ギャァギャ!」
「よし」
《爆裂魔法陣と火薬と魔石。やはりうまく融合しましたね》
そのようだな。
次々にやって来る魔獣達が次々爆散していくが、次第に奴らも学習し距離を取りはじめた。皆は強化鎧を着ているので、どんなに遠くに逃げようが魔法爆弾は到達する。俺も上に登り一緒に爆弾を撒いた。
「よーし。止めてくれ」
俺が言うと皆が投げるのを止める。次第に煙が消えていき、下に大量の魔獣の残骸が見えた。
「すげえ……」
「わし、魔法が使える訳じゃないのじゃが……」
「こんな兵器を隣国に見られたら、もっと警戒されていたでしょうね」
レイが言うのも一理あるようだ。そして俺は皆に号令をかける。
「ボルト、ガロロ、レイ、ビスト! 残りカスを自分達の手でやるぞ」
「「「「おう!」」」」
俺達は下に降り、逃げ惑う筋肉の塊を処分していった。既に怪我をしている個体が多く、目に見える範囲は全て片付ける事が出来た。この魔獣は、丁度いい大きさの魔石を保有していることが分かる。そこら中に転がっているのは、魔導鎧にも補充出来そうな大きさだったからだ。
「いいぞ! 降りて来い!」
メルナとフィラミウス、ベントゥラとアーンが下りて来る。そして散らばる魔石を見て、ベントゥラが残念そうに言う。
「爆発に巻き込まれると、魔石ごと壊れるのか……」
「無事な物だけを集めよう」
するとメルナが言う。
「いい大きさ!」
「これは掘り出し物かもな」
次々に魔石を背負子に放り込みながら、一連の流れを体験したレイが俺に言う。
「ほとんど魔力も体力も消費していませんね」
「こんなところで消費してしまうと後で困る」
「わかりました」
この階層はそれほど広くはない。だが万が一、前のダンジョンより深かったりすると、魔力の欠乏にも気を付けなければならないだろう。
しかし、この広さ……、何人位の人間が暮らせる事になるだろうな。
《それらの人間は、魔獣の存在を想定していなかった》
何でだと思う?
《予測演算》
少し待つとアイドナが言う。
《共存しようとした可能性もあり得ます》
魔獣と?
《そうです》
理由は?
《蜥蜴が魔力の影響で、数百年かけて地龍になった。という事は、この魔獣達も変異で生まれたものです。もう一つはオークという魔獣、あれはイノシシなどの影響があるようです》
となると?
《もとは食用だった可能性が高い》
食用?
《はい。品種改良などを重ねていたのではないかと》
確率は?
《八十パーセント以上》
確かに魔獣を食べる文化はある。冒険者が魔獣を狩り、それがギルドに運び込まれて解体され食卓に並んでいる現状がある。これまでの世界の在り方を見ていると、食用だった可能性は否定できないだろう。
ベントゥラが言った。
「下の道だ!」
「下るぞ」
魔獣をしらみつぶしにした俺達は、下の階に降りていく事にした。それからも魔法爆弾を駆使しながら、体力と魔力を温存しつつ下りていく。しかも、鎧に組み込んだブラッディガイアの成分のおかげで、魔獣を倒せば魔石が補充されるため全員がずっと軽やかに動いている。
それから下るほどに強い魔獣が現れたが、仲間達の高周波ブレードと爆裂斧のおかげで、自分のスキル以上の力を発揮し撃破していく。
「お館様……まるで、自分が英雄になったような気分です」
レイが言うとビストも頷いた。
「本当にその通りです。あの、硬そうな甲羅を持つ虫型の魔獣もあっさり斬れました」
「どれほどの深さか分からないからな。ここからどうなるかは分からん」
「「は!」」
俺達がそのまま潜り続け、一日でニ十階に到達したがまだ古代遺跡は出てこなかった。
ボルトが言う。
「前より深いぜ」
「大型なだけはあるな」
「だが、余力はあるぜまだまだいける」
「魔獣も難なく撃破出来ているしな】
「確かに、地龍並みの魔獣も敵じゃなかった」
「だが、一旦ここで休むとしよう」
俺が、そう言うとベントゥラが答える。
「さっき休めそうな一角があったぜ」
「そこに行こう」
そして俺達はそこで、見張りの人間を立てつつ休むことにする。皆は排泄をし、食事をとって横になり始める。だが皆が寝静まった頃の事だった。アイドナのセンサーが何かを感知し俺に伝えて来る。
《メッセージ。我々以外に気配、気とられぬように距離を置いて一階層上にいます》
すると視界に、薄っすらと薄き緑の陰影が過去映像として見えた。エックス線とサーモグラフィでの表示だが、微かに人型の個体が動いた気配がする。
追うか?
《いえ。仲間を危険にさらします》
そうか……。
俺の気配にマージが気が付いたようだ。
「どうしたんだいコハク? 気が立ってるようだね」
「追跡者の可能性がある」
「なんだって……? あたしらが討伐したから、冒険者が迷い込んで来た……というわけではないだろうねえ。いくらなんでも、こんなダンジョンの深部に人はこないさね」
「ああ」
「どうするのさ」
「気が付かないふりをしておこう」
「なるほどね」
するとアイドナが言う。
《サーチモードを展開。あなたを深眠状態に入らせている間、こちらで監視を続けます》
了解だ。
全てはアイドナがコントロールをし、危機のレベルに応じて俺を覚醒させてくれるだろう。俺はアイドナに警戒を任せて、いざという時に長時間動けるよう深眠に入らせられるのだった。




