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バグの遺伝子 ~AIの奴隷だった俺は異世界で辺境伯令嬢に買われ、AIチートを駆使して覇王になる~  作者: 緑豆空
第二章 男爵編

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第百九十六話 三百の騎士とオリハルコン鎧実装試験

 俺の元にパルダーシュから書簡が届き、そこに記された内容に従って、俺とメルナと風来燕が、オリハルコンの鎧を着て出かけていた。パルダーシュ領では近隣から兵士を集い、既に大規模な騎士団が結成されつつあるらしい。それらの一部を引き連れて、シュトローマン伯爵領に出現したダンジョンに行く事になったのである。


 合流してすぐ、ずらりと街道に並んでいる騎士を見てフィリウスに聞いた。


「今回、連れて来たのは何人だ」


「選りすぐりを三百連れてきている。残り七百は都市の護衛に残して来た」


 フィリウスとビルスタークとアランは、俺が送ったオリハルコンの鎧を着ており、数名の騎士が強化鎧を身につけているようだった。残りのほとんどは皮の鎧に身を包んでいる。


 歩きながら、馬車を指さして言う。


「魔石の替えはしっかりと用意して来た。思う存分暴れて大丈夫だ」


 するとフィリウスが小声で言う。


「実はなコハク。ほとんどが新兵なんだ。だからダンジョンで訓練をしたい」


「もちろんだ。せっかくのダンジョンだからな、有効に活用してほしい」


「助かる」


 隊列は順調に進み、一泊してダンジョンへと到着する。小屋には見張りの者達がいるが、必要最低限の人員しかいないようだった。


「たのもー!」


 ビルスタークが言うと、小屋の中からぞろぞろと騎士が出て来る。


「はは!」


 シュトローマン伯爵領の騎士達が、パルダーシュの騎士団を見て恐縮している。


「ダンジョンの掃除をしに来た。フィリウス・レイ・パルダーシュだ」


「はい! 辺境伯様のご到着をお待ちしておりました!」


「では我々が掃除をしてくる間、荷馬車の見張りをよろしく頼む!」


「は!」


 全員がダンジョン攻略の為の荷物を持ち、急勾配の斜面を下り始める。

 

 フィリウスが言う。


「随分急だな。気を付けろ! ゆっくり降りるんだ」


「「「「「はい!」」」」」


 慎重に下っていたが、数名が足を滑らせて滑落した。


「うわ!」

「おわぁ」


 ベントゥラが直ぐに追いかけて、回復薬をかけている。


 さっそく怪我人が出てしまったな。


《新兵と言ってました》


 そこで俺が言う。


「みんな止まれ!」


 皆がその場に足を止める。


「ベントゥラ! 縄を持って来てくれ!」


「おう!」


 ベントゥラは、自分の荷物から縄を取り出して俺に渡した。そしてガロロに言う。


「ガロロ! 縄の端を持て!」


「わかったのじゃ」


 縄を一杯に伸ばした。


「このまま降りる。不安な者はこの綱に捕まれ!」


 立ち往生している奴らが、縄に捕まって一緒に降りていく。俺とガロロが体制を崩す事は無いので、往復して全ての騎士を下まで連れて来た。


 アランが苦笑して言った。


「すまんな。うちの騎士の面倒をみてくれて」


「怪我をされても仕方がない」


「助かる」


 ダンジョンの入り口に行くと、木と岩で入り口が塞がれていた。中の魔獣が出てこないようにしたのだろうが、下層の奴が上がってきたらこんな物はすぐに壊されてしまうだろう。


 俺はジェット斧を取り出して、積み上げられた木と岩に振り下ろす。

 

 ゴッバァァァァン!


 岩と木々が飛び散り、入り口が出て来た。それをパルダーシュの騎士団が驚愕の眼差しで見ている。俺と風来燕が、岩を取り除き中を覗き見る。


「メルナ光を」


「うん」


 メルナが光魔法で中を照らした。音につられたのか、ゴブリンの赤い目がぽつぽつと見えて来る。


「フィリウス!」


「どうだ?」


「ゴブリンがいる。練習になるだろう」


「わかった。すまない!」


 そしてフィリウスは騎士団に号令をかけて並ばせた。念のため、ビルスタークとアランが先に入り、周辺を確認しつつ部下に言う。


「まずは周辺のゴブリンを狩れ! 三人一組で落ち着いてやるんだ!」


「「「「「「は!」」」」」」」


 不慣れながらも、ビルスタークとアランがきちんと訓練して来たらしく、三人一組で安全にゴブリンを狩って行った。冒険者とは違い、かなり連携が取れているようだ。


 ボルトが言う。


「流石はビルスタークとアランの旦那が仕込んだ騎士団だ。新兵といっても危なっかしくない」


 周辺のゴブリンを討伐し、むやみに隊を広げずに一カ所に戻って来た。


「点呼!」


「一! 二! 三!」


 どうやら脱落者を出さないように、点呼を取っていくようだ。冒険者とはこのあたりが違う。


 フィリウスが俺に謝る。


「すまんコハク。訓練通りにさせてもらっている。ちょっと時間がかかるかもしれん」


「いや。時間はいくらかかっても良い」


「そのため食料は全員に持たせている」


「ああ」


 その調子で一階層を全て綺麗にし、二階層、三階層と全てを討伐していく。以前来た時よりも個体数は少ないが、それでも新兵の訓練にはなっているようだ。


 四階に降りる前に、俺がフィリウスに言った。


「大人数だから討伐速度が速い。点呼を取りながらでも、冒険者達と来た時より速いぞ。流石はビルスタークの仕込んだ騎士団だ」


「そう言ってもらえるとありがたい。いって見ればこれが、初陣のようなものだからな」


 そこにビルスタークがやって来る。


「お館様。まだいけますが、騎士達に少し休みがいりますね」


「半日は経ってるからな」


 俺が答える。


「ならば騎士団は一旦休憩にすればいい」


 ボルトも頷く。


「初めての戦いだと、流石に神経がつかれるでしょう」


 騎士団にはそこで休憩を取らせる事にした。そして俺が言う。


「俺達が先行する。これだけ人数が居れば五階層あたりまでは行けるだろうが、ある程度、俺達が間引いて行く」


 それを聞いてアランが言った。


「団長。出来ましたら私も一緒に行きたいのですが」


「かまわん。隊は俺に任せろ。お館様と一緒に後から行く」


「ありがとうございます」


 するとボルトがにやりと笑う。


「アランの旦那と共闘ですかい! 王都での戦いを思い出しますな!」


「よろしく頼む」


 アランは強い。


《数値はボルトの方が上になってしまいました》


 俺との訓練プログラムの成果か?


《その通りです》


 俺は男爵領に来てから風来燕に、効率重視の戦い方をアイドナのプログラミングに従い教えて来た。そのおかげで、風来燕の戦闘力はかなり上がったのである。


 四階層の魔獣と相対し、アランも含めて戦っていく。だが想像していたのとは違い、アランもかなり強くなっているようだ。


 数字に現れないのか。


《オリハルコンの義手と義足の補正が強いです。それを使いこなすように訓練してきたようです》


 アランは、俺にこれを見せたかったのか。


《そのようです》


 次々と階層の魔獣を討伐し、あっという間に十階に到達する。


 ボルトが言った。


「コハク! 一旦休憩だ」


「了解だ」


 そして俺達は腰を落ち着け、干し肉を食べて水を飲んだ。そしてボルトがアランに言う。


「流石はアランの旦那だ。相変わらず強い」


「俺はボルト達に驚いているよ。前よりだいぶ強くなっている」


「そいつは、コハクとの組手のおかげです。定期的に組手をやって、俺達の無駄を全部省いて行くんで。そのおかげで、無駄な動きが無くなって来たみてえです」


「ふふっ。そうか、コハクがか」


「本当に面白い男です」


「そうだな、それにこの青い鎧。自分の強さが何十倍にもなる」


「そうなんですよ。いつまでも動いていられます」


 二人が鎧を見ている。するとメルナが、ちょこんと俺の膝の上に座った。


 マージがみんなに話す。


「前は走っての攻略だったけど、じっくりやってみてどうだい?」


 それにベントゥラが答える。


「この鎧のおかげで、全く問題ねえ」


「そうかいそうかい」


「それに貴重な素材が大量にある。前回は全部置いて言っちまったが、今回はどうなるかな?」


 それにはアランが答えた。


「うちの騎士団を使ってくれていい。ヴェルティカお嬢様からの書簡には、根こそぎ持ってきてほしいと書いてあった。だから、あんなにいっぱいの荷馬車を引いて来たんだからな」


「そいつはうれしいねえ。ギルドじゃ手に入らない素材が山ほどある」


「ですが賢者様。コハクには他の目的があるのでしょう?」


「そうさね。古代遺跡の物を運ぼうって思ってるのさ」


「うちの騎士団に見せても良い物なんですか?」


「かまわないさ。どうせ見たって誰も分からないんだ。コハクしかそれを使えない」


「なるほど。聞けば聞くほど不思議な男ですね」


「預言の書の通りさね」


 俺達はそこで一休みし、再び下層へと進み始める。そしてマージが言った。


「ここらから、メルナとフィラミウスの魔法強化鎧の見せ所だよ」


「うん」

「分かりました。ここまででも、まるで戦士になったかのような錯覚です」


「身体強化も兼ねているからねえ」


 そして俺達が十一階層に降りると、五つの首を持つ巨大な蛇が現れた。アランがそれを見て驚く。


「ヒュドラ……」


 ボルトが答える。


「ヒュドラが十一階層に住む魔獣です」


「みんな随分落ち着いてるな」


「…まあ、見てれば分かります」


 俺達が武器を構えてみていると、スッとフィラミウスが前に出る。


「フィラミウス一人か?」


「ヒュドラは、一気に首を狩らないとまた生えてくるんでさあ」


 フィラミウスはオリハルコンの鎧で構え、ヒュドラに向かって魔法を放つ。


「ウィンドカッター!」


 するとフィラミウスの杖から、何十もの風の刃が飛び去る。それがヒュドラに襲い掛かると、五つの首が一気に落ちた。


 ズッズゥゥゥン!


 アランが目を見開いて言う。


「フィラミウスの魔法は、これほどだったか?」


 するとフィラミウスが答えた。


「賢者様の教えと、強化鎧のおかげですわ。魔法が何倍にも増幅されるようになっていますの」


「なんと……」


 そしてボルトが言う。


「それに今、フィラミウスは魔力をほとんど使ってねえんですよ」


「どういうことだ?」


「魔石を仕込んであるんでさあ」


 フィラミウスが言う。


「私は補助的に魔法を発動させるだけ。微力な魔力であれだけの力が出せるのです」


「これは…革命だ」


 するとマージが言う。


「それだけじゃないよ。コハクは完全回復の魔法薬を作っちまったんだ。だから携帯している魔法薬が続く限り、さっきのような魔法は撃ち放題という事になるのさね」


「は、はは……パルダーシュの騎士団は、本当に荷物運び要員だったのですね」


「そう言う事だよ。まあ少しは残してやるから、せいぜい練習する事さね」


「なんと言っていいやら」


 アランが苦笑いしていた。


 魔力量の少ないフィラミウスでもあの威力が出せるが、マージが直々に仕込んで来たメルナはそれ以上。オリハルコンの強化鎧のおかげで、以前来た時とは討伐速度が違う。


 そして俺達はあっという間に、各層の魔獣を討伐して最下層に到達するのだった。

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