第百七十七話 予想外のダンジョン攻略
ボルトが俺に言う。俺達がやっているのは、普通のダンジョン攻略とはかけ離れすぎていると。ダンジョン攻略というのは生息する魔獣や地形を調べて、一階層ごとにゆっくり地図を作って進むらしい。
しかしマップは走ればアイドナが自動作成するし、敵のステータスもアイドナが記録する。止まる事無く階層攻略出来ているのだ。何が出現したか、どのような強さだったかも全て記録されている。
もちろん風来燕の三人は、俺の内部でそんな事が行われているのは知らないので、普通じゃないと思っているだけである。一応マッピング作業はしているのだ。
「ははは…」
ボルトが力なく笑う。するとフィラミウスも力なく答えた。
「なんかダンジョン攻略を楽しみにしてたんだけど、想像と全く違ってるわね」
ベントゥラも頷いた。
「これじゃ斥候が要らねえじゃねえか」
するとそれに対して、マージが楽しそうに言う。
「スクロールと魔石の組み合わせも機能しているようだねえ」
「ああ。誘導魔法とやらが上手くいっているようだ」
「コハクが合成魔法陣の作成をしてくれたからねえ。誘導と光の組み合わせや、自動感知なんて良く考え付いたもんだよ」
「元の魔法陣の完成度が高かったからな。マージのおかげだ」
その会話を聞いてボルトが言う。
「なんだかなあ。走ってダンジョン攻略なんて聞いたことねえ」
しかし、それにもマージが言う。
「いつまでも昔通りじゃつまらないさね。こういう革新は、唐突にやってくるものなのさ。走ってダンジョン攻略だと荷物も少なくて済むし、とてもスマートでスタイリッシュじゃないか」
「す、スタイリッシュって」
「スタイリッシュダンジョン攻略だよ」
「スタイリッシュダンジョン攻略て…」
「新しい時代が来たのさね」
「あの…賢者様。こんなのはうちらだけの話だと思いますぜ」
「細かいことはどうでもいいんだよ!」
なにはともあれ、俺達はあっという間に地下十八階まで下りて来た。
「こんなに深いダンジョンも珍しいが、めちゃくちゃ物騒な魔獣も居たじゃねえかよ」
十階層を過ぎたあたりから、パライズバイパーのような主レベルの魔獣ばかりだった。各層全てを周ったわけでも、完全に討伐してきたわけでもないから、全てを網羅しているわけでは無いが、そのおかげで結構な量の魔石を確保できそうだ。各層の出口付近にまとめているので、帰りに皆で袋に入れて持ち帰るつもりだ。
「それに、このダンジョンはどのくらいの深さがあるのか。そろそろ折り返さないと、二日以内に帰れなくなってしまうぜ」
「次の階層が攻略できるかどうかさね」
「なら、目安はニ十階層という事にしましょうか?」
「そうだね」
そうして俺達は十九階層に降りた。その階層は深い谷のようになっていて、かなりの広さがある。
「だいぶ広いな」
ボルトが言うとマージが答える。
「どんな感じだい?」
「今までとは比べ物にならないほど広いでさあ。天井も高いっすね」
「…なるほどねえ。大型の魔獣を警戒したほうがいいだろうねえ。コハクや! 途中で採れた魔石で使えそうなものはあったかい?」
「あった」
「なら二人のを交換するべきさね」
「わかった」
ボルトとベントゥラの魔石を、途中で回収したものと交換する。
「あと、フィラミウスの魔力もそれほど残っていないから、ここでの深追いはやめておこうかねえ。そもそもこんな深部まで、単体パーティーで潜るなんて世界でも類を見ないんだから」
「了解だ。フィラミウスは魔力を温存、ボルトとベントゥラはフィラミウスの護衛に集中。もし魔獣を見かけたら、俺が単独で討伐を試みる」
「わかった」
「ええ」
「無理すんなよ」
「もちろんだ」
そして俺達が十九階を探索していると、アイドナが警告をしてくる。
《大型の魔獣が居ます》
「大型魔獣が居る。警戒しろ」
「「「おう」」」
マージが言った。
「隊列を組んだ方が良いだろうねえ。コハクが先行、風来燕は下がってついて行きな」
「「「おう」」」
俺が先行し、岩陰から奥を覗いた時だった。そこには羽の生えたデカい蜥蜴みたいな奴がいる。
「マージ。羽が生えたデカい蜥蜴がいる。角も生えてるし、なにより牙がやたらと長い」
「なんてこったい。こんな街道沿いの渓谷にそんな物が住み着いてるのかい。そいつは地龍だよ」
「地龍?」
「大きさは?」
「十メートルはある」
「なんだってぇ? グレーター級かい」
「王都で見たのよりは小さいし、羽も大きくはない」
「地龍は飛ばないんだよ。だけど魔力が多くて、土魔法攻撃をしてくるさね」
「魔法を回避すればいいんだな」
「簡単ではないよ。それに間違いなくダンジョンボスだねぇ。伝説級だけど、本当に大丈夫かい?」
アイドナどうだ?
《問題ありません》
名前 地龍
体力 3741
攻撃力 2840
筋力 2419
耐久力 4866
回避力 12
敏捷性 20
知力 不明
技術力 不明
なるほど。王都で見た岩蜥蜴よりは強いが、龍と比べれは半分以下だな。
《単独討伐が可能です》
俺は振り向いて言う。
「王都で見た龍よりは強くない。俺が単独討伐する」
「む、無理はすんなよ!」
「これを使うさ」
そう言って背中のジェット斧を見せる。今までこれを使わずに攻略して来た。ここまで主級の魔獣を十体近く葬ってきたため、膨大な魔力が俺に備わっている。
「それでも、相手は伝説級の龍だ。油断するな」
「わかった」
するとアイドナが俺に身体強化を施した。
《金剛不壊。防御力最高値》
鎧の中の俺の体が変わる。硬くなっているようにも感じる。
《剛龍降臨 龍の力発動》
鎧も武器も全く重さを感じなくなった。
《敵に対峙してください》
俺が岩の陰から無造作に出て行くが、地龍はまだ俺の存在に気が付いていない。フロストやオーバースの言うところの、殺意というものがないからだ。敵は俺を黙視するまでは、俺の存在に気が付きづらいようだ。
《ジェット斧を構えてください》
ジャリン! と背中から外して斧をかまえる。今の音でようやく地龍が俺の存在に気が付いた。物凄い目つきで俺を眺めている。
《飛んで下さい》
ボッ! とジャンプすると、俺がいた場所の地面に尖った岩が生えている。
なるほど地魔法という奴か。
《そのようです。魔力の流れが足元に来ました》
発動までが早いようだが?
《魔法使いとは比較にならないほどの発動条件のようです》
まるで地面を自分の体のようにしているようだ。
《既に魔力が周辺の地面に流れています。どうやらここは完全な地龍のテリトリーです》
そして俺がスッと動くと、直ぐにアイドナが言う。
《飛んでください》
ジャンプすると、下から尖った岩が生えて来る。
動けばあれにやられるというわけだな。
《若干のタイムラグを確認》
しかし、龍までは結構な距離があるぞ。串刺しにされるんじゃないか?
《地龍の魔法の発動よりも、早く地龍を撃破すればいいのです》
俺から地龍までの距離は、八十メートルほど。それを一瞬で詰める必要がある。
俺が動かないでいると、地龍が自分の足元を蹴飛ばし、尖った岩の槍を飛ばして来た。これらを回避させて、地面からの土魔法で串刺しにするつもりなのだろう。
《ガイドマーカー展開。スキル龍翔飛脚 魔力開放》
ドッ!
飛んで来る岩の棘をすり抜けながら突進する。俺が走りすぎるあとの地面から土の槍が生えて来た。
あと数メートルという時、アイドナが更にスキルを発動した。
《閃光一閃、魔力最大開放》
俺が踏み込んだ次の瞬間、ジェット斧を振り地龍の腹を突き破って尻尾の先から出ていた。目の前に岩肌が迫って来る。俺は慌てて右足でその岩壁を蹴って激突をくい止めた。
ズッズゥゥゥゥン!
振り向けば地龍が倒れていた。そして俺が戻ると、風来燕達も恐る恐る近づいて来る。
「もう終わったのか?」
「ジェット斧が利いた」
「のようだな…」
「魔石を取るぞ」
俺の視界がエックス線で透過され、魔石の位置を確認する。
「大きい…」
そして俺がレーザー剣を使って、地龍の体を解体していく。すると体の中心からバカでかい魔石が出て来たのだった。
するとベントゥラが言う。
「おい。コハクが蹴ったところが崩れて、下に続く通路が出て来たぞ!」
俺達が振り向くと、ベントゥラが穴から下を見ている。そこに行って見ると、地下に続くスロープが見えて来た。
「どうする?」
「見るだけ見てみようかね」
そうして俺達は、ニ十階層に降りていく。だが、スロープは途中から階段に変わった。
「階段だと…明らかに人の手が入ってるようだ」
「こんな所でかい?」
その階段の下には、なんと鉄製のドアが設置してあったのだった。




