第百七十六話 ダンジョン潜入
やはり普通の冒険者の動きは遅く、皆が下に到着するまで待たねばならなかった。ダンジョン入り口で待っていると、まずはBランクの奴らが到着し、次にCランクパーティーが到着する。
Cランクパーティーのリーダーが言う。
「す、すまねえ! 遅くなっちまった」
ボルトは落ち着いて答える。
「滑落でもして死なれちゃ元も子もないからな、全員が無事に降りれたから問題ない」
皆がその言葉でホッと胸をなでおろしていた。そしてBランクパーティーのリーダーが言う。
「前にここに来た時は、地下一階にゴブリンが住み着いていた」
「変わっている可能性もあるだろうがな」
「だが三階層までは、俺達に任せてくれ!」
「わかった」
それはそれでありがたかった。もちろん魔石の魔力を消費しなくても行けるだろうが、ボルト達の体力を消費しないのはいい。
入り口からBランクパーティーの斥候が侵入していき、内部の確認をしつつ俺達に合図をする。スロープを下っていくと、地下一階層にはゴブリンが居て、冒険者に気が付くと石を投げつけて来る。
それを盾で防ぎながら、じわりじわりと進み距離を詰めて、一気に前衛の戦士達が飛びかかっていく。次々にゴブリンを斬り捨てて、あっという間に制圧してしまった。
それを見てボルトが言う。
「ゴブリンならCランクの敵じゃない。Eランクあたりにゃあ辛いだろうが、これだけ人数が居りゃ問題ないな。だがギルドがこれだけの人数をそろえたって事は、三階層あたりが危ないと踏んでるんだろう。下層から強いのが上がって来る可能性があるからな」
「考えての事なんだな?」
「そういうこった」
既に調べている一階の通路を抜けると、下に向かう坂道が出て来た。
「階層になってるのはどういうことだ? 人の手が入ってるのか?」
「実のところ良く分かってねえんだ。まあ、古代遺跡を見てからは、なんとなく昔の名残なのかなと思ってるけどよ。元々あったダンジョンの、最下層に強い魔獣が住み着くんだよ。そうすると人間が寄って来なくなるから、魔獣が増えていくんだ」
「なるほど。そうなれば周辺にも魔物が溢れるという訳だな」
「だな」
地下二階層も既に調べてるようで、スムーズに下に続く通路へと進んで行く。だがその歩みはゆっくりで、冒険者達はかなり警戒しているようだ。ランプや魔法使いの光魔法などで、照らしながら進んでいるものの奥は暗く何がいるか分からない。
地下三階層に進むと、確かにこれまでとは違う雰囲気に変わる。いきなり魔獣が出て来ずに、静けさが漂っている。だが角を曲がって広い空間に進むと、そいつらは待ちかまえていた。
「人が入って来たのが、分っていたようだな」
「二階層までに戦う音が鳴り響いていたからな。人間が入って来た事が分かっているのさ」
そこにいたのはオークの群れだった。広い空間にビッチリと集まっており、俺達の行く手を阻んでいる。だがそこでBランクパーティーのリーダーが言う。
「絶対に風来燕に戦わせるな。相手はオークだ、冷静にやれば全く問題ない!」
「「「「「「おう!」」」」」」
すると斥候の弓と、魔法使いのアイスランスが飛んでいく。それらがオークに刺さるが、致命傷にはならないようだ。
なるほどな。火魔法は使えないか。
《酸素が無くなりますから、こちらも危険にさらされます》
だろうな。これでは大きく敵を削る事が出来ない。
《もちろんそうでしょう。恐らくは敵をかく乱するための先制攻撃です》
そして盾を持つ者達が、前に出てその後ろに槍を持つ者が並んだ。盾隊にオークが近づいて来ると、槍がその隙間から突き刺す。
「ぎょおぇぇ!」
「ギャァゥゥ!」
次々に倒れていくオーク。すかさず弓隊と魔法使いが遠距離攻撃を繰り出す。
戦術が出来ているんだな。
《そのようです》
阿吽の呼吸で何をすべきかが分かっているらしい。
それを見てボルトが言う。
「EランクやFランクまざるとこうはならないんだ」
「やはり経験か?」
「そうだ。コハクのように魔獣と戦った事も無いのに、最善の方法が取れるのはありえねえんだよ」
なるほど。俺はアイドナに指示をされて動いているため、そんな動きが出来ているだけだが、彼らは経験でそれをカバーしているらしい。
そして地下四階への下り坂が見えてきた時、Bランク冒険者が言った。
「では、我々はここで駐留して待ちます。二日して戻らなければ、ギルドに救援要請を出しますが、他のギルドからの応援が来るまでは時間がかかるでしょう。二日で戻って来れるようにお願いします」
ボルトが答えた。
「ああ。まあ、もし帰って来なくても、皆はすぐ帰って良いぜ」
「えっ。それではあなた方が危険だ」
「なるべく二日をめどにするが、ダンジョンは何があるか分からねえ。だから無駄にここで待つんじゃなくて、きっかり二日で帰ってくれ。俺達を待たなくても良いってこった」
「……わかりました。ではこれが斥候が調べた、地下五階層までの道です」
ボルトが地図を受け取り、俺達は冒険者達に手を挙げてスロープを下りていく。地図は渡されているものの、四階層と五階層の魔獣を調べなければならないから、結局は広範囲に回る事になる。
地下四階に付いたので、俺がみんなに言った。
「走るぞ」
「「「おう」」」
俺は腰袋から、魔石に巻き付いたスクロールを取り出して暗がりに投げる。これはマージと俺が開発をした新しい魔法のスクロールだ。そのスクロールは魔石の魔法を使い、光を放って俺達の先を飛んでいく。そしてそれを追うように、走り出すのだった。
「うがあ!」
突然、壁に隠れていたオーガが剣を振り下ろして来た。
シュパン!
ガイドマーカーに従い、一瞬で首を飛ばす。
そのまま振り返らずに、俺達は走っていく。すると明らかに体の大きなオーガと、数体の普通のオーガが広い空間に居た。なんとそいつらは灰狼を飼っているようで、俺達に向かって解き放って来る。
マージがいフィラミウスに言う。
「アイスニードルで牽制」
「はい」
細く尖った氷の棘が、物凄いスピードで灰狼に降り注ぐ。Bランクパーティーの魔法使いとは違い、その氷の棘は灰狼を貫通してしまう。灰狼はドサドサと地面に落ち、俺達はそのままオーガに迫った。
ベントゥラが至近距離から放つ弓が、正確にオーガの目から脳に到達する。
俺は普通のオーガを無視して、一気に大きな個体に飛びかかった。そいつは斧で振り払おうとしたが、俺の片手剣が眉間から後頭部に抜ける方が速い。そのままそいつを蹴飛ばして剣を抜き、その反動で今来た道を戻るように飛ぶ。剣を振り上げているオーガの後頭部から剣を刺し、その剣を抜きざまにもう一本の剣を抜いて、こちらに向かってきているオーガの眉間に投げる。ドス! それが刺さりオーガが倒れ、抜いた剣で左からかかって来たオーガの顎の下から頭に突き刺した。
ドサドサドサ!
一気に沈黙する。俺は投げた剣を回収し、その間にボルトとベントゥラが倒れたオーガにきっちりととどめを刺していった。
そしてボルトが言う。
「知恵のあるオーガだったな。灰狼を先兵として仕掛けて来た」
「奥のはオーガコマンドだった。大したことは無かったが」
それから俺達は四階層を彷徨うが、オーガコマンド以上の個体はいなかった。地図を頼りにして、俺達は地下五階の入り口に到達する。
ボルトが言う。
「俺は、まだ…強化鎧を使ってねえ。なんか俺達、強くなってねえか?」
するとフィラミウスが言う。
「賢者様から魔法を教えていただいてからは、魔法の精度も威力も格段に上がったわ。こんなに自分が強くなってるなんて思わなかった」
それを聞いてベントゥラも言う。
「俺はコハクとの手合わせが始まってから、自分が凄く動けるようになったと実感してる」
最後にボルトが答えた。
「だよなあ。なぜか俺の攻撃も、勝手に致命的なとこにしか当たらなくなってる。だから討伐速度がかなり上がっているみたいだ」
なるほど。アイドナのプログラムが上手くいっているようだ。
《無駄をなくし効率化させています。それを無意識に出るように微調整した訓練を施しました。それにより魔石の消費を抑える事に成功してます》
確かにな。魔石の消費をしないのはありがたい。
《はい》
地下五階に降りても、俺達は光のスクロールを投げてそれについて行くように走る。すると今度は人の鎧を着た大量の魔獣がビッチリと立っていた。冒険者などの装備を盗んだのか、そいつらはまるで人間のような装備を持っていた。
《百体以上いるようです》
そのようだ。
するとボルトが言う。
「アンデッドナイトだ」
「どんな奴だ?」
「基本死なない。魔石を破壊しないとダメだ。それに元人間だから、攻撃が魔獣より正確だ」
「魔石を破壊すれば止まるんだな?」
「そうだ」
「なら、ここは俺に任せろ」
「分かった」
エックス線透過、サーモグラフ展開。
俺の視界には、エックス線で透過したアンデッドが見えた。
《どうやら人間でいう所の、心臓の部分に魔石があるようです》
壊すのは勿体ないが。
《ですが壊さねば機能停止しないようです。かなりの数がいますので破壊しましょう》
俺はすぐにアンデッドの大群に突っこんでいく。二本の片手剣を全て正確に、鎧の隙間から突きさして行った。一瞬にして五体を倒し、俺に向かって周りの奴が剣を振るって来る。
バッ!
空中に飛び上がり、上空から降りざまに魔石を全て貫く。
オーガより簡単だ。
《数が問題なのでしょう》
なるほどな。だがこんな紙切れみたいなものであれば、何体いても問題にはならん。
《ノントリートメントにはガイドマーカーがありません》
まあミスをすれば危険かもしれんが、サポートのおかげで問題ないようだ。
《はい》
百体ばかりのアンデッドを行動停止にし、振り向くと風来燕達がやってくる。
「強化鎧の力を使ったのか?」
「いや。まだ使っていない」
「さすがだぜ」
「これからが問題だからな」
「ああ」
そして俺達は、未踏の地下六階へと降りていくのだった。




