表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
バグの遺伝子 ~AIの奴隷だった俺は異世界で辺境伯令嬢に買われ、AIチートを駆使して覇王になる~  作者: 緑豆空
第二章 男爵編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

171/338

第百七十話 魂に変化をもたらす香り

 石鹸の使用感ならば、俺が使ってみればいいだけのような気がする。だがこういった上品な香りのする石鹸は、女が使うのが普通らしく風来燕の男達にも配っていない。なんでも女のようないい香りをさせている男は、穿った目で見られるとか言っている。


 そして俺はボルトに聞いた。そこにはボルトだけがいて、他の奴らは外に出ている。


「なんで、いい香りの石鹸を男が使うのはおかしいんだ?」


「なんで…て、そりゃ、男がいい香りさせてたらマズいだろうよ。貴族様でもあるまいし」


「なぜ貴族は良くて庶民がダメなんだ」


「貴族様は香水を当たり前に使うが、庶民は香水なんて使わねえからな。いい香りなんかさせてたら、娼館に行って来たのか? なんて疑われちまう」


「しょうかん?」


「ああ」


「なんだそれば」


「はっ? お前、娼館も行った事無いのか?」


「ない。教えてくれ」


 するとボルトは何かを考え込んでいる。俺はボルトが何を話すのかをただ待った。


「……い、いやいや! コハクは結婚してるんだ。お嬢様の手前そんな事を教えるわけにはいかん。今の話は聞かなかったことにしてくれ」


「マズいのか?」


「マズい。いいかこれは非常にマズい話だ。誰にも言うんじゃないぞ」


「わかった」


 どういうことだ?


《ノントリートメントは動物であり、娼館は、ある欲求を満たすための場所として機能します。娼館で提供される実地体験は、人間の身体や脳に様々な影響を与えることが想定されます。あなたのようなヒューマンは神経VRシステムにより、擬似体験の脳内分泌が可能です。残念ながらノントリートメントには、VR機能がありません。よって、それらの施設を使う必要があります》


 そのデータがあるのか?


《前世の古代のテキストデータが残っています。娼館と酷似したもがあります》


 なるほど…それと石鹸がどういった関係がある?


《脳を刺激する為に、嗅覚を刺激している可能性があります》


 それを…体験すると石鹸の良さが分かるのか?


《体験せずとも、使用すれば石鹸の良さは分かると思われます》


 そうだよな。


 意味が分からんが、アイドナが言う分には使えば良さが分かるらしい。だが、マージはヴェルティカと一緒に体感しろという。屋敷の補修をやって一日が終わり、その日の夜にマージがまた俺に行った。


「いいかい、今日の夜に石鹸の効果を調べるんだよ」


「石鹸を持って、ヴェルティカの元に行けばいいんだな」


「そうだよ! 何を言っているんだい?」


「わかった」


 夜飯も一緒に食うのだから、わざわざ大袈裟に言う必要はないはずだ。


 その後で普通に、俺とヴェルティカとメルナが飯を食った。男爵家は主が飯を食う場所と、使用人が飯を食う場所が分けられている。風来燕も使用人達と飯を食い、時には自分らの部屋で食う事もある。


「ヴェルティカ。今日の夜は時間があるか」


「……はい……」


 ヴェルティカがおかしな雰囲気だ。だがこれで石鹸の使用感についての話が出来る。


 そして、いつもと違う物が食卓に置いてあった。それを飲んで俺が言う。


「アルコールか?」


「そうね。ワインね」


「なんでアルコールが?」


「なぜかしらね」


《アルコール成分を分解、発汗で排出します》


 ああ。


 いつもの通りだ。俺が酒を飲むとアイドナが、身体に影響を及ぼさないようにアルコールを全て排出する。飯を食い終わり、使用人達が食器を片付けた。


「じゃあヴェルティカ。マージが言うとおりに話をしよう」


「はい」


「どうした? 顔が赤いぞ」


「酔っぱらったみたい」


「そうか。話はできそうか?」


「はい」


 何だ……なぜか大人しくなっているようだ。


 するとマージがメルナに言った。


「メルナ。あんたは自分の部屋にお戻り」


「えー、なんで」


「二人はこれからの話をするんだよ。我慢しな」


「うん」


 可哀想だが、メルナは廊下の向こうの方に行ってしまった。俺とヴェルティカは階段を上がり、一番奥の二人の為にと用意された部屋に行く。部屋の扉を開けて、中に入るとヴェルティカがドアを閉めて鍵をかけた。


「危険はないぞ」


「あ、念の為よ」


「そうか」


 そして俺はテーブルの上に石鹸を置く。


「マージが使用感を確かめろと言うんだ」


「ええ…言ってたわね」


 そこで俺はタライを取って、水がめから水を注いだ。するとヴェルティカがその石鹸を取って、手に水をつけて泡立たせ始める。


「コハク。手を貸して」


「ああ」


 ヴェルティカが泡を俺の手に付けて、優しく滑らかに手と手首を洗ってくれた。それはウィルリッヒにした時よりも長く、念入りにしばらく手を撫でまわされる。


《やはり回復の成分が含まれています。そしてこの香りには、若干の覚醒作用があるようです。皮脂の汚れを取り除きつつ、必要な水分は残すようになっているようです》


 それをヴェルティカに告げた。


「回復の成分。恐らくは山頂の湖の水の効果と、マージが作った薬草の成分だろう。そして充分な保湿効果があり、汚れだけをしっかり落とすように設計されているようだ」


 俺がそう言うと、ヴェルティカがポカーンと俺を見ている。


「違うか?」


「あ、そうね! そうよね! きっとマージが計算して作ったんだわ。コハクの言うとおり」


「流石は賢者というところだ。しかもこの滑らかな感覚は、粉をかなり細かくしないと再現は無理だろう。これは、あの魔道具を使ったやり方だ」


「ははは…そうね。そうだと思うわ」


 なんだ? 何か不思議な反応だ。


《ヴェルティカの表情筋が引きつってます。何か不具合があったのでしょうか》


「なにかマズかったか?」


「う、ううん。何でもないわ」


 俺はどうしていいか分からず、とりあえずパシャパシャと水で洗い流す。


 そこでヴェルティカが言う。


「体温で温まって来ると香りが変わるのよ。それが凄くいい香りになるわ」


「そうか?」


「嗅いでみる?」


「ああ」


 するとヴェルティカは自分の髪の毛を持ち上げて、首筋を俺に見せて来た。俺がそれを見ているとヴェルティカがもう一度言う。


「首筋の香りで分かるわ」


「なるほど」


 俺が首筋に鼻を近づけてスーッと香りを嗅いだ。その瞬間…何か俺の感覚に変わったことが起きる。


 何だ……。


《ドーパミン、オキシトシン、β-エンドルフィン、アナンダミドが抽出されました。抑制いたします》


 すると、すぐにそのおかしな気持ちが収まる。俺は首筋から鼻を離してヴェルティカに言う。


「いい香りだ。そして……」


「なあに?」


「なにか不思議な感覚になった。なぜか、もっと嗅いでいたくなるようなそんな気分だ」


「そう……コハクは旦那様なんだから、ずっと嗅いでいていいのよ」


「それではヴェルティカの自由が無くなってしまう」


「私の全てはコハクのものだから、コハクが束縛をしても良い事になっているのよ」


「…ヴェルティカの自由を俺が奪ってはダメだ」


「ううん。私が私の自由を奪ってほしいのよ」


 おかしなことを言う。自分の自由を差し出してまで、人に匂いを嗅がせるのは理に反している。だが本気でそう言っているように見えた。


 俺は言った。


「俺は、俺の自由とヴェルティカの自由、そしてメルナの自由を勝ち取るために戦う。だからヴェルティカは自由にしていいんだ」


 するとヴェルティカが言った。


「自由にしていいと言うなら、もっと私の香りを嗅いで頂戴。それが私の自由だわ」


「わかった」


 そして俺は、またヴェルティカの首筋に鼻をつけてかぐ。


 やはり不思議な気持ちになった。


《ドーパミン、オキシトシン、β-エンドルフィン、アナンダミドが抽出されました。制御いたします》


 直ぐに気持ちが収まる。だが俺は止めずに首筋の香りを嗅ぐ。


《ドーパミン、オキシトシン、β-エンドルフィン、アナンダミドが抽出されました。制御いたします》


 どういう事だ。アイドナがその気持ちを強制的に解除して来る。


「ヴェルティカ。どういう気持ちか分からない、なんでヴェルティカにくっついていたくなるんだ?」


「…ふふっ。それはコハクが私の旦那様だからよ。ゆっくり理解していけばいいと思う」


 ヴェルティカがとても優しい目で笑った。


「ヴェルティカ。今日は一緒に眠ろう、俺はなんだかそうしたい気分だ」


「もちろん。旦那様がそう決めたなら私は従うわ」


 そうして俺達は靴を脱いでベッドにもぐりこむ。俺がヴェルティカの首筋に顔をうずめていると、珍しく急速に眠ってしまうのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ