表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
バグの遺伝子 ~AIの奴隷だった俺は異世界で辺境伯令嬢に買われ、AIチートを駆使して覇王になる~  作者: 緑豆空
第二章 男爵編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

169/352

第百六十八話 渡りに船の理解者

 装備屋がリンセの毛皮を加工し、コートを作ってみたが一着作るのに十五頭分必要だった。作り方はアイドナが記憶し、ガロロも裁断や加工方法を覚える。そのコートを持ってヴェルティカの所に行ったが、ヴェルティカはあまりいい顔をしなかった。


「だめか?」


「無骨だわ。軍人が着るみたい」


「装備屋から作ってもらったからな」


「うーん。なんか王都で売ってるような、スマートな形にならないのかしら?」


「ヴェルティカの持っているコートはどうだ」


「私のは古臭いわ。私の部屋は魔獣襲撃で燃えて、お母様のを貰って来たのだから」


「なるほど」


 するとマージが言う。


「あたしは見えてないからねえ。どんなものが出来上がったのやら」


「ばあや。売ろうと思うなら流行のデザインが大事よ」


「まあそうだろうねえ」


《この世界の流行をインプットしておくべきでした》


 まだコートを着る季節じゃなかったから見ていないぞ。


《前世には流行はありませんでした。画一的なデザインで統一されておりましたので》


 たしかに。皆が似たようなものを着ていたな。


《そもそも毛皮などは全面禁止です》


 ああ、見たことがない。


《見ればコピーできるのですが》


 なかなか思う通りにはいかないものだ。やる事は山積みで、男爵領の経済を活性化する道はなかなか果てしない。そう思っていたのだが、その課題を解決出来そうな奴が向こうの方からやって来た。


 ドアがノックされ、メイドが来て言う。


「すみません。お館様に、お客様がお見えになっております」


「お客様? だれかしら? お隣のおば様?」


「いえ。男性がお二方」


「商人かしら? 応接にお通しして」


「はい」


 メイドが出て行く。


「コハクは約束してた?」


「いや。ヤギ飼いか村長じゃないのか?」


「そうかもしれない」


「とりあえず客というからには、俺が出て行かないといけないだろう」


「一緒に行くわ」


 俺達は急いで応接に行って、ドアをノックして開ける。するとそこには、知った顔が二人座っていた。俺達を見るとスッと立ち上がって、丁寧にあいさつをしてくる。


「やあ。久しぶりです。コハク」

「久しぶりだな!」


 そこにいたのは、コートを着たリンデンブルグ帝国の王子ウィルリッヒ・フォン・リンデンブルグと、剣聖フロスト・スラ―ベルだった。


 するとヴェルティカが慌てて、スカートを掴んで膝をついた。


「殿下! このような僻地へようこそおいでくださいました!」


「ああ。ヴェルティカ嬢…いえ、奥様! 畏まらないでいただきたい! 何卒、友好的に」


「大国の皇族様がいらっしゃっているのです。そのようなわけには」


「とにかくコハクは友人なのです。友人としてお話していただけないでしょうか」


 俺もヴェルティカに言う。


「そう言ってくれているのだ。それでいいんじゃないか」


「コハク…」


 今度はフロストが言う。


「そうですヴェルティカ様、殿下やコハク殿の言うとおりです」


「……わかりました。そうさせていただきますわ」


「ありがたい」


 ようやく落ち着いて席に座る。そしてヴェルティカがウィルリッヒに尋ねる。


「恐れ入ります。殿下、突然のご訪問で何もお出迎えの準備は…」


「こっちが悪いのです。気軽にお願いします。ここには誰の目もありませんのでざっくばらんに」


「わかりました」


「それに奥様、殿下はおやめください。私の事はウィルとでもお呼びくださいませ」


「そのような」


「お願いいたします」


「では、ウィル。今日は何をしに?」


「いいですね! そんな話し方でおねがいします!」


「はい」


 するとウィルリッヒとフロストが顔を合わせた。ウィルリッヒが少し真剣な顔をして言う。


「私はてっきり、もっと良い領地を下賜されているのかと思いましたよ」


「ここで充分ですわ」


「そうですか?」


「ええ」


「農業もそれほど盛んでは無さそうですが」


「この領地では麦と芋を作っておりますわ」


 そこにドアがノックされ、メイドがお茶とお茶請けを持って来た。もちろん素朴な焼き菓子で、ヴェルティカが作った手作りである。お茶はパルダーシュから持ってきた物なので高級品だ。


「んん。いい香りだ。菓子も美味い!」


「お茶はパルダーシュから持って来たものです」


「いいですね」


 二人はゆっくりとお茶をすすり、ほっと一息ついているようだが、まだ来訪の理由を言ってない。そこで俺は違う質問の仕方をする。


「馬車一台と御者一人、それと二人だけでこんなところへ?」


「むしろ。この方が良いんだ。誰も私が王子だとは思わない」


「で、なぜ来た?」


「まずは、コハクがどんな暮らしをしているのか見に来た」


「こんなもんだ」


「やはり国内の風当たりは強いようだ。貴族達は元奴隷に良い領地を渡さないんだな」


「こればかりは仕方がないようだ」


 するとウィルリッヒとフロストが、また顔を合わせ声のトーンを変えて言う。


「コハク。奥方。どうでしょう? 我がリンデンブルグであれば、更に大きな領地…いえ公爵と同等の地位を用意すると言ったら、あなた方は私達の国においでいただけますか? 価値が分からぬ者に従っていても意味がないのでは?」


 アイドナが言う。


《どうやら、あなたを自分達のもとに置きたいのでしょう》


 メリットがないのにか。


《彼らはそうは思ってません》


 ヴェルティカが何かを話しそうになったが、俺はヴェルティカを制して言う。


「いかない」


「なぜです?」


「メリットがない」


「「……」」


 二人が黙る。そしてウィルリッヒが言う。


「メリット…ですか? 公爵と同等の地位は魅力じゃないと?」


「俺が行ってどうする?」


「どうする…」


 するとフロストが笑い始めた。


「くっくっくっくっ! あーっはっはっはっ! だから言ったでしょう。無理に決まってますって!」


 ウィルリッヒも口角を上げて笑っていた。


「まあ、分かってた事だ」


「まあ物は試しですからな!」


「もちろんそんなちっぽけな物じゃ、来てくれるとは思わないさ。それこそ国を差し出すぐらいじゃないとダメだと思ってた」


 それを聞いてヴェルティカがあっけに取られて言った。


「そのような大それたお話をしに来たのですか?」


 すると頭を下げてウィルリッヒが言う。


「申し訳ありませんでした。試すような真似をして、今のはほんの冗談としてお許しください。本当は他の理由で来たのです。ここからが本気の申し出ですがよろしいですか?」


 俺とヴェルティカは顔を見合わせた。


 お茶が冷めてしまったので、ヴェルティカは呼び鈴を鳴らす。


「すみません。あまりの事にお代わりの用意も忘れて」


「いえいえ、お気になさらずに」


「お茶を煎れ直してください」


「はい」


 メイドがやってきてお茶を煎れ直す。二人がお茶を飲み改めて話をした。


「我が国としてではなく、リンデンブルグ家であれば、貴国の貴族の影響も我が国の貴族の影響も受けません。出来ましたら私達が優先的に貴殿らと取引させていただき、陰で後ろ盾する事をお許しいただけませんか? きっとコハクの事ですから、何か素晴らしいことを考えておるのでしょう?」


「大したことは考えていないが?」


「ふふっ。コハクにとっては大したことなくても、我々にとっては大きな脅威になりそうなんだ」


「俺は別に交渉の材料など無いぞ」


 するとウィルリッヒが言う。


「そう言わずに」


 なるほどな。本気だったか。


《そのようです》


 そこで俺が言う。


「なら、あんたが着て来たそのコートと、俺が作ったコートを交換してくれ」


「へっ?」


「だから、コートを交換してほしいんだ」


「構いませんが」


 するとヴェルティカが立ち上がって礼をする。


「少々おまちを」


 そして俺達が作ったリンセのコートを持って来た。ウィルリッヒがコートを脱いで渡して来たので、俺がリンセのコートを代わりに渡してやる。


「これは…随分毛並みの良い。見た事の無いコートですね」


「試作品だ。そこから洗練させていくつもりだ」


「着ても?」


「どうぞ」


 ウィルリッヒがリンセのコートを着る。そして目を大きく見開いた。


「凄い! 温かい! 発熱しているのかいこれは!」


「そうだ」


「我がリンデンブルグの冬は寒いからね、これはいい!」


「気に入ってもらえたかな?」


「良いよ!」


 そこでヴェルティカが言った。


「装備屋に作らせていて、そこに優先的に卸しています。その店を通じて貿易をすることは可能でしょうか? 貴国とのお取引が可能となれば、装備屋をこの領地に招き入れる事が出来るのです」


「えっ!いいのですか! こんなすごいのに?」


「もちろんですわ。国内ではやっかみや利権などが絡みますが、店を介しての貴国との裏取引なら何も問題にならないです」


「喜んでそうさせていただきます。コハクとのパイプが出来るのでしたらと思っていましたが、これなら我々にも大きな利益が出ます」


「ただ、着ていただいて分かると思うのですが、これは非常に希少な物で高額になりそうなのです」


「ご心配なさらず、わが国にも金持ちは大勢おりますよ。これを王家が独占して輸入すれば、それはもう良い結果が生まれるでしょう」


 そして俺は言う。


「正直な所。ここだけの話にしてほしい。それに俺は、エクバドル王国でもリンデンブルグ帝国でもなんでもいい。我が領に利益をもたらすのならば、どことでも取引をする」


 ウィルリッヒもフロストもニヤリと笑う。


「そう言うと思いました」

「睨んだ通りでしたな」


「どういう事だ? まるで予想していたようだが」


 フロストが言う。


「いやいや、そんな大したもんじゃないよ。ただ国なんて物を出しても、コハクには小さすぎるだろうと話していたんだ。我々はコハクにもっと大きなものを見たんだよ。その価値が分るものは、なかなかいないだろう。恐らく、この国でそれに気が付いている人は、オーバース将軍くらいだろうね」


 ヴェルティカの口角が薄っすらと上がっている。


「お目が高い。やはり分かる方には分かるようですね。それではこれからの、秘密のお取引に関してのお話をしてまいりましょうか? リンデンブルグという大国であれば、商売の話も大きくなります」


「流石は奥様、分かってくださいましたか」


「そうでなければ、このような田舎の男爵領にお忍びではいらっしゃらないでしょう?」


「ありがとうございます」


 そしてそれから、リンデンブルグ王族と田舎男爵の秘密会談が行われるのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ