第百六十七話 AIが作る究極魔力回復薬
俺とマージは秘密研究所で、様々な試験をしていた。ここで採れる素材だけでも、ある程度の回復薬や解毒剤が作れる。だが、それにもまして俺達が目をつけているのは魔力回復薬と、山頂のカルデラ湖水深三百メートルで採れるオリハルコンだ。
手つかずの山脈にはこんなに豊富な素材があるのに、シュトローマン伯爵領のギルド冒険者は行き止まりの東には来ない。それはシュトローマン伯爵領から南に抜ける峠が近くにあり、そこに魔獣や盗賊が頻繁に出て、そちらが手っ取り早く金になるから。
今回、伯爵の町に行って、冒険者から聞いた情報ではそういうことだった。
マージが言うには次の通りだ。
・そもそもマギアの種を加工できる人が、シュトローマン伯爵領には居ない事。
・リンセは一匹から取れる毛皮が少なく、大量に集めて加工しないと何も作れず効率が悪い事。
・山の頂上付近まで登れるような手練れはおらず、軽石を取りに行くことが出来ない事。
・オリハルコンに至っては、水深三百メートルまで潜れる装備などが無いことが理由だ。
ようは素材があっても、それを価値のある物に加工する事が出来ないのである。
「まさに、コハクの為に用意された領地さね。ここは」
「まあ、マージが居なかったら、そこまでもならなかったろうがな」
「あたしの魂がいつまで魔導書に定着しているかわからないからね、出来るうちに出来るだけの事をやって、ヴェルに残してやるつもりさ。あの子は私が孫のように可愛がってきたんだ」
魂定着の事は俺しか知らない。マージがヴェルティカに心配させたくないからと言う理由で、俺にしか伝えていないのだ。もしかするとある日、ふと魔導書から声がしなくなるかもしれない。
そして俺達が話をしているところに、ノックが鳴り響く。
「ボルトだ」
「入れ」
風来燕とメルナが帰って来た。俺とマージがここで新しい魔法陣を開発している間、やる事がないからと風来燕達とメルナはリンセ狩りをしているのだ。
「ただいまぁ!」
「おう。頑張ったか?」
「フィラミウスから魔法を教えてもらったよ!」
「そうか。フィラミウスありがとう」
「こちらも勉強になるわ。さすが賢者様の教えが良いのね、すらすらと覚えるからびっくりしちゃう。最近は文字も読めるようになってきたのでしょう?」
するとメルナが言う。
「うーん。お勉強は好きじゃない。魔法は楽しい!」
「うふふ。でもお勉強は大事よ」
「うん」
風来燕と動くようになってから、メルナの魔法のタッチが変わった。強弱をつけたり取り消しが出来るようになってきたのである。まえはマージに言われた詠唱のみだったが、状況に合わせて微調整が出来るようになって来たのだ。
そしてガロロとベントゥラが狩って来た得物を運び込む。
「リンセじゃ。今日はニ十匹捕獲して来た」
「そんなにかい? 随分上達したものだねえ」
するとボルトが答える。
「魔法使い二人は贅沢な使い方だからな。上手く誘導して構えている網に入れてくれる」
「あたしが出る幕はなかったかもね。やはり現役冒険者は違うようだね」
「賢者様にそんな事言われると、くすぐったいでさあね」
「本当の事さね。じゃあ、リンセの加工をやってしまおうかね」
「「「おう」」」
風来燕の男三人は、奥にある魔獣の解体場に向かった。
「メルナもフィラミウスも魔力は残ってるかい?」
「うん。大丈夫だよ」
「私はもう少しですわ」
「メルナの魔力だまりも日に日に増えてるんだねぇ」
「メルナはもう私を超えていますわ」
「ということは…やっぱりお勉強が必要だねえ」
「えーーー!」
俺がメルナの頭を撫でて言う。
「メルナが頑張れば俺が助かるんだ」
「わかった。お勉強する」
「その調子だ」
そして俺達はマギアの種の加工に移る。既にマージから教えてもらった魔法陣はあったが、それにアイドナが複数の魔法陣を掛け合わせて改良したのである。大量にスクロールを作ったので、それに二人から魔力を注ぎ込んでもらうのだ。
「もう煮込んであるよ。スクロールに魔法を注いでほしい」
俺達は弱火でかけられた寸胴鍋の所にいき、スクロールに魔法を注いで鍋に投げ込んでもらった。
ぼぅ!
と燃えた火が、マギアの種と様々な素材を煮込んだ鍋に落ちる。
ホーーーーー!
「これは何の音だ?」
「精製してるのさね」
「なるほど」
そして中の汁はみるみる紫色に変わっていく。
「紫色になった」
だがマージは不思議そうに言う。
「ほう。普通の魔力回復薬だねえ。コハクが魔法陣を改良したんじゃなかったのかい?」
「したはずだが、効力が違うんじゃないのか?」
「どうかねえ?」
アイドナが言う。
《計算上は一番効率の高い魔法陣を組みました》
色が普通だって。
《そうですか》
その時メルナが言う。
「あ。まって!」
「どうした?」
「色が変わって来た」
「本当だ。どんどん深くなっていく」
しゅぅぅぅぅぅ!
マージが聞いて来る。
「どうなった?」
「えーと、真っ黒!」
「なんだって? そんな薬聞いた事無いよ」
「でも真っ黒…」
アイドナが俺に言う。
《成功した可能性は百パーセントです》
「成功だ」
「だ、だれか飲んでみようかね」
だがメルナもフィラミウスも眉を顰めて言う。
「真っ黒で苦そうだよ」
「焦げてるんじゃないかしら?」
心配そうだ。
《あなたが手本を》
俺が小さな柄杓でそれを掬い、一口飲んだ。
全く変わらん。
《あなたは魔力を生成できません》
なるほど。そして苦い。
《それは分かりません。ですが毒性はゼロです。カフェインに似た覚醒効果はあるようです》
そして俺は二人に行った。
「確かに苦いが。毒はないぞ」
するとフィラミウスが言う。
「なら私がいただくわ」
フィラミウスはスッと掬って飲む。
「うっ。に…苦い…けど。これは…」
「どうかね?」
「凄いですわ。漲って来る…恐らく魔力はいっぱいになりました」
「なんだって!」
「初めて飲みました」
「ちょ、ちょっとメルナも飲んでみな!」
「苦いのきらーい」
「いいから」
「うん…」
こくり。
「にがーい!」
「どうだい!」
「フィラミウスが言っているのが分かる! 疲れが全くなくなった!」
「おお!」
マージだけが喜んでいるので、俺が聞いてみる。
「何をそんなに驚いている?」
「普通の魔力回復薬は一瓶飲んだところで、満タンになんかならないんだよ! それこそ何本も飲まなきゃね。そしてお腹がいっぱいになるから、そんなに飲めないんだよ!」
それを聞いてフィラミウスが言う。
「私も、こんな魔力回復薬は聞いた事ございませんわ」
「そうかいそうかい。だけど…こりゃ売り物にはならんかもしれん」
「何故だ? マージ」
「こんなもんが世に流通したら、世界がひっくり返るよ。魔法使いが物凄い力を持つということになるからねえ」
「なるほど。どうすればいい?」
「簡単さね。あのオリハルコンの湖の湧き水で、うーんと薄めて売るんだよ」
「ほう」
「とにかくこの事は、ここだけの秘密にしておくれ」
「分かった」
「うん!」
「わかりましたわ」
凄いものが出来てしまったらしい。アイドナによる効率化も、ほどほどにしないと大変な事になる事が分かった。
「でもこれなら…凄いことになるねえコハク」
「オリハルコンの加工か」
「そうさね! メルナとフィラミウスの魔力が枯渇しないなら、オリハルコンの加工スクロールに使う魔石が作り放題じゃないかい」
「確かにそうだ」
「忙しくなるよー! 魔石を大量に集めないとねえ!」
マージが言うと、メルナとフィラミウスも嬉しそうだ。
「うん!」
「もっとお役に立てるのですね!」
「そうと決まれば、魔石集めを優先させておくれ」
繋がって来たな。
《神殺しが特別依頼される魔獣はきっと強い個体でしょうから、大きな魔石が取れる事でしょう。これは、かなり効率のいいフローが出来ます。未来予測で予測した未来に近づいてきています》
想定通りか。
《男爵領の下賜と、ヴェルティカとの婚姻は必須。ヴェルティカにはマージがついてきますから》
そういうことか。
《ジェット斧とレーザー剣の解析は済んでますので、あとは兵器の製造機関をどうするかです》
工場部品製造には大量のスクロールが必要になる。
《経済が安定したら、スクロールの紙を数百万枚単位で大量に仕入れるべきです》
わかった。
そんな事を考えている時、本邸から使いが来た。
「旦那様。装備屋がいらっしゃいました」
「きたか」
そして俺は魔獣解体場に行って、風来燕達に言う。
「装備屋が来た! リンセの毛皮を持って行くぞ」
「はいよ」
風来燕と俺は、リンセの毛皮をリヤカーに載せて森を降りていくのだった。




