表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
バグの遺伝子 ~AIの奴隷だった俺は異世界で辺境伯令嬢に買われ、AIチートを駆使して覇王になる~  作者: 緑豆空
第二章 男爵編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

158/338

第百五十七話 盛大な挙式と演武

 パルダーシュの大礼拝堂。国中の貴族が集まり、俺達の入場を待ち望んでいる。辺境伯令嬢がなりたての男爵に嫁ぐ事自体が珍しいらしいが、王都で起きた事件を聞きつけた貴族達が俺を見に来ているのだ。公爵家も来ているらしく、まるで王族の結婚式のようだと騒ぎになっている。


 式が始まって、俺が大礼拝堂に入っていくと大きな喝采が起きた。俺は着慣れない、裾の長い上着の礼服を着せられ、フィリウスに教えてもらった通りに真っすぐに背筋を伸ばして歩く。


 朝からヴェルティカともメルナとも会っておらず、何をすることも無くこの時を待っていた。


「ヴェルティカ・ローズ・パルダーシュ嬢がご入場されます」


 再び喝采が起こり扉が開くと、真白でふっくらしたドレスを着たヴェルティカが、フィリウスに手を引かれて入って来る。


 するとまた会場がどよめいた。


「美しい」

「噂には聞いていたが、至宝と呼ばれるのも無理はない」

「とても品がある。男爵にはもったいない」


 それぞれに、言いたいことを言っているようだ。


 ゆっくりと二人が歩いて来て、フィリウスが手を放しヴェルティカが俺の元に歩いて来る。


 ドレスをひきずっていて転びそうだな。


《支えて良いでしょう》


 俺は階段の途中まで下り、ヴェルティカに手を差し伸べる。するとヴェルティカはにこりと笑って、俺の手を取った。階段を昇りきると、俺とヴェルティカが向かい合うように立つ。


 司祭が言う。


「月と星の神、大地と生命の神よ。二人が結ばれ、永遠の愛を育むことを祝福してください」


 そして司祭がこちらを向く。


「コハクよ、一生をかけて共に生き、支え合うことを誓いますか?」


「誓う」


「ヴェルティカよ、一生をかけて共に生き、支え合うことを誓いますか?」


「誓います」


 するとそこにメルナが指輪を持って来た。俺は指輪を取って、ヴェルティカの左の薬指にはめる。次にヴェルティカが指輪を取って、俺の左手の薬指にはめた。


「神を証人として、ここに二人を夫婦と認めます」


 すると会場から拍手がおきた。俺達が振り向くと、皆が立ち上がって拍手をしてくれている。俺達は会釈をするように軽く頭を下げた。そのまま手を繋いで階段を下りて行き、席の間を歩いて行く。


 大礼拝堂を出ると、そこにオープンの馬車があり、俺とヴェルティカは馬車に乗った。二頭の白馬が走り出すと、市民達から大歓声が上がる。


「おめでとうございます!」

「お嬢様! お幸せに!」

「英雄! 幸せにしてやれよ!」


 王宮騎士団が護衛をして、ゆっくりと市中を歩き回るらしい。


 これで経済効果があるんだな?


《人が集まれば金が動きます》


 パルダーシュの復興に大きく影響するわけだ。


《そうです》


 意味はあったな。


《大いに》


 そしてヴェルティカが、観客に手を振りながら満面の笑みで言う。


「みんなが祝福してくれているわ!」


「そのようだ」


「ふふ。コハクだけはいつも通りね」


 いつも通り? 変える必要があるのか。


《王覧武闘会でもそうでしたが、ノントリートメントは大きな式典では気分が高揚します》


 なるほど。どうすればいい?


《笑顔にしてください》


 俺は笑顔にした。


「えっ! コハク」


「なんだ」


「笑ってるの?」


「祝福されているからな」


「ふふっ」


 ヴェルティカが、俺の腕を両手で絡めとって体をもたれかけさせて来た。


《心拍数も上昇、気分が高揚しているようです》


 なるほど。


 それは不思議な感覚だった。なぜか俺の心が、いつもと違って高揚しているのだ。直ぐにアイドナがコントロールして感情は収まるのだが、気分が高揚したままなのである。


 気分が良いな。


《分泌物のコントロールはしてません》


 なぜだ?


《ノントリートメントの感情エミュレートでは、自然な対応は難しいようです》


 これはなんという気分だ?


《楽しいという気分です》


 そうか。


 するとヴェルティカが言う。


「コハク。もっと素敵な笑顔になった」


「気分がいい」


「そっか。よかった!」


 俺達の馬車は市中を練り歩き、最後に辺境伯邸に戻って来た。そしてヴェルティカが言う。


「今日は忙しいわよ」


 ビルスタークやアランが騎士団を連れて、臨時で作った武闘場へと俺をつれていく。既に武闘場には大勢の貴族や観客が集まっていて、俺が来ると大きな歓声が沸く。


「きたきた!」

「王都には見に行けなかったからな!」

「いい戦いを期待しているぜ!」


 大歓声が鳴り響き、今日の仕合相手が入って来た。


 オーバースである。


 どうだ?


名前  オーバース

体力  296

攻撃力 280

筋力  317

耐久力 291

回避力 269

敏捷性 299

知力  103

技術力 531


 なるほどな。


《回避力、敏捷性、技術力はフロストより下です》


 だが体力、攻撃力、筋力、耐久力は、下手をすると魔獣並だ。どうする?


《人心掌握の為にも、良い試合をせねばなりません》


 魅せる剣か。


《はい》


 俺が会場に入る時、ウィルリッヒが俺に言う。


「君に賭けても、大した儲からなそうだよ。下馬評ではコハク優勢だ」


「なるほど」


「せっかくだから、観客を楽しませてやれ」


「そのつもりだ」


 するとフロストが言う。


「やれやれ……武神を相手に、楽しませてやれですか?」


 ウィルリッヒはもう一度俺に聞いて来る。


「勝てんだよな?」


「まあ見てろ」


 そして会場に立つと、オーバースも剣を持って歩いて来る。どっしりと構えて、ニヤリと笑う。


「本来は仕合で身体強化などは使わん。だがお前相手では少々分が悪い、遠慮なく使わせてもらうぞ」


「好きにしろ」


 するとオーバースは魔力を体に巡らせた。ばんっと一回り体が膨らんだように見える。


名前  強オーバース

体力  296→444

攻撃力 280→420

筋力  317→475

耐久力 291

回避力 269→403

敏捷性 299→448

知力  103

技術力 531


 なるほどな。基本的な能力が向上するのか。


《耐久力、知力、技術力は変わらないようです》


 強い魔獣並みになったぞ。


《それでもリバンレイで遭遇した二体よりも低いです》


 やってみるか。


 アランが審判に立って叫ぶ。


「両者! 準備はよろしいか!」


「ああ」

「おう!」


「はじめ!」


 オーバースはすぐには飛びかかって来なかった。


《相手は国内トップクラス。魅せるならば格下のこちらから仕掛けましょう》


 ガイドマーカーに従ってオーバースに走り寄っていく。一本の剣を右手に、もう一本は腰に収めたまま。だが瞬間的にアイドナが、アラームをならし上に飛ぶように指示を出す。


 カン!


 全く予想外の角度から、打撃が飛んで来た。


 なんだ?


《魔法でしょうか》


 反対側に降り立つとオーバースが大笑いする。


「嘘だろ! 今のをかわすかよ! いったいどうなってやがる!」


 めちゃくちゃ楽しそうに笑っている。


《演算の修正をします。当面はガイドマーカーに従い攻撃を》


 わかった。


 腰を低くかがめて、一気にオーバースに詰め寄る。剣が差し出されてきたが、それを避けて剣を入れようとした時、再びアイドナがアラームを鳴らした。ガイドマーカーに指示されたとおりに、俺は足の裏でオーバースの剣を蹴って飛び去る。


《服が破かれました》


 どうなっている? なぜオーバースがいる場所じゃない所から、衝撃が来る?


《未知の技があるようです》


 演算処理はまだか。


《推測は立ちました》


 どうする?


《遊びを持たせて攻撃を受けてください》


 舞うようにするという事か?


《来ます》


 今度はオーバースの方から仕掛けて来た。物凄いスピードだが、もっと早い魔獣はいた。それを交わした時、ガイドマーカーが左下方からの打撃を告げた。左剣をするりと抜き、腰でその攻撃を受けつつ右へ飛ぶ。


 その反対側からオーバースの剣が襲ってきていた。


 押されたな。


《回ってください》


 右手剣を刺し出したまま、スッとジャンプする。すると剣が撃たれた勢いで、俺の体はくるりと空中に舞い上がる。


《攻撃が来ます》


 ガイドマーカーに指示されるように、左手剣と右手剣を立てて錐揉み回転をする。


 カカカカカカカン!


 剣と剣がぶつかる音が何回も響いた。


 そのまま勢いで飛ばされて、ゴロゴロと転がるようにして着地する。


《数値以上のパワーがあります》


 凄いものだな。


《ですが演算は終了しました》


 そうなのか?


《はい》


 オーバースが俺に言った。


「なぜ飛んでいる状態でもかわせるのか…面白い」


 そして俺はまたオーバースに向けて走り出す。だが今までとは違う場所にガイドマーカーが出て来たので、何もないところに左手剣を差し出す。何故か左方向からの打撃がきたが、その打撃に逆らわずに受けると俺の体が回る。右手剣を後ろから降りぬくようにオーバースに振るうが、そこにオーバースの剣があって防がれた。


《詰みです》


 着地してその左手剣を突きだすと、オーバースが後方に下がった。だがそこに空から剣が降って来る。


 ガツッ!


「グッ!」


 オーバースの左肩に、上から落ちて来た剣が強くぶつかった。その剣はオーバースがそこに動く事を予測して投げられた、俺の右手剣だった。それでオーバースに一瞬の揺らぎが出る。だがそれぐらいで止まる事は無いと思っていた。


 オーバースが右手で剣を大振りしてきたのだ。しかし意表を突いた上空からの剣の打撃で、一瞬の気が乱れた隙を、アイドナは見逃さずにガイドマーカーを表示する。オーバースの剣よりも先に、俺はオーバースに体を密着させて左手剣を喉元に突き付ける。


 オーバースは立ったまま固まった。


「ふははははは! 参った参った! こんなバケモノだとはな! 訳が分からん!」


 それを聞いたアランが言う。


「そこまで! 勝者! コハク!」


 うおおおおおおおおお!


 物凄い大歓声が上がった。


「すげえぞおお!」

「とんでもないものをみせてもらたあああ!」

「こんなの見た事無いぞぉぉ!」


 そして俺とオーバースは離れ、オーバースがゆっくりと頭を下げたので俺も頭を下げる。そしてオーバースが俺の所に来て、俺の右手を高々と上げた。


「武の将軍として言う! 彼こそが武の神に見初められた男だ!」


 どわああああああ!


 大歓声の元に幕を閉じる。そしてパルダーシュの面々や風来燕が場内に入ってくる。


 オーバースがフィリウスに、ボソリと耳打ちをした。


「ここで、しっかり売り込んでおけ」


「ありがとうございます!」


 そうしてパルダーシュ領主のフィリウスの話が始まるのだった。


 なるほどな。


《こういった意図があったのですね》


 オーバースをも下す俺の元だからこそ、辺境伯領から嫁に出すのだという発表をする。俺とパルダーシュ領の深い関係性を現わし、貴族達にどちらとも交流を結んだ方が得だと言っているのだ。


 全てが終わり俺達が皆の元に来た時、ウィルリッヒがオーバースに言った。


「あなたも、彼の資質を見抜いているお一人なのですね。国の将軍がその立場をも賭けて、こんなことをやるとは」


「殿下。あなたの判断もとても正しいと思います」


「お互いこれから大変になりそうですね」


「まあ。それも定めでしょう」


 俺には分からない会話がなされるが、周り人間もいまいち理解していないようだ。ヴェルティカが俺の所に来て微笑みながら言う。


「さ、行きましょ! 旦那様!」


 ヴェルティカはメルナにも手を伸ばす。


「おいでメルナ。行こっ!」


「うん!」


 盛大な結婚式が終わるが、市中の祭りは三日三晩行われる。これからパーティーで貴族達をおもてなしするのだという。俺達は皆で辺境伯邸へと急ぐのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ