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バグの遺伝子 ~AIの奴隷だった俺は異世界で辺境伯令嬢に買われ、AIチートを駆使して覇王になる~  作者: 緑豆空
第一章 AI人間の異世界転生

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第百六話 謀反人を追い詰める

 眼下に集まった王や出場者の中から、ボルトンは俺に目を止めて『おかしい』と言った。『おかしい』が何を指しての言葉なのかは分からないが、その事で俺もようやく確信を持つ。あれの中身はボルトンで、間違いなく俺の事を知っているのだと。そして騎士の一人が言う。


「貴様! 降りて来い!」


 だが、それに素直に従うとは思えず、案の定ボルトンは意に介さずに続けた。


「ドルベンスの代わりはいくらでもいるぞ!!」


 それを聞いて一同がざわつき、距離を取っていた市民達がささっと後退りした。


 フロストが叫ぶ。


「どういうことだ!」


「そのまんまだ剣聖よ。ドルベンスのような強い個体はいくらでもいる」


「なんだと…」


 そして下卑た笑いを浮かべながら、ボルトンが下にいる俺達を指さして言った。


「ひいふうみい、より取り見取りだなあ。お前らで軍隊を作ったらさぞ面白いだろうなあ」


 その言葉を聞いて、場が一瞬怯んだように見えた。


「うひひひひひ! その顔! いいねえ、その怒りと不安と疑念が入り混じったような顔!」


 皆が黙っていると、ボルトンがくるりと俺に顔を向ける。


「…だが! おまええええ!」


 そう叫んでボルトンが俺を指さした。もちろん俺は何も答えない。


「……」


「その一ミリも動揺しないその表情! 怒りも疑念も不安も感じていないようなその表情ぉ! 気に入らない! 気に入らなぃぃぃぃ!」


 そう言い、ボルトンが下品な表情で頭を掻きむしっている。だが俺が常に冷静に動けるように、素粒子AIが俺の分泌物を司っているのだ。自動でこうなっているのだから仕方ない。


 その時。唐突に、ここにはいない人の声がした。俺達だけが知っている人の声が。


「久しいねえボルトン、いや本当の名前は違うのかねえ…」


 今まで完全に優位な表情で、俺達を脅していたボルトンだったが、はっきりと表情を変えた。


「け、賢者?」


 だがメルナのバッグの中なので、俺達以外は誰もその声の主に気が付いていない。


「見た目を変えたから、気が付かないと思ったのかい? 馬鹿者が」


「ど、どこだ! 賢者! マジョルナ・ルーグ・プレディアぁぁぁぁ!」


「あら? あたしのフルネームを憶えていたのかい? 記憶力はあるようだねぇ」


 ボルトンは明らかに動揺し、目を血走らせてぎょろぎょろと探している。


「ばばあ! 殺したはずだああああ!」


「詰めが甘かったねえ。それに『ばばあ』は失礼だね」


 するとボルトンの視線が、ヴェルティカに向かった。


「だからか…だからパルダーシュの小娘が生きていたのかぁ! しかも毒で死んでないぃ!」


「察しが良いんだか悪いんだか…まったくどうしようもない」


「くそぉ! そこの奴隷も!騎士団長も副団長も! 雁首揃えて生きてやがったのは、ババアが生きてやがったからかぁぁぁぁ!」


「パルダーシュを襲わせたのは、あんただねえ? ボルトン?」


「どこだ! 姿を現わせ! 賢者!」


「残念ながら、それは無理な話だね」


「……」


 ボルトンが沈黙した。俯いてなにかブツブツ言っている。次第にその声が大きくなってきた。


「…そが…くそが! くそがあああああ! パルダーシュが陥落しなかったのは、そういうことだったかぁぁぁぁぁ! 完璧だったのにぃぃぃ!」


「案外あっさり白状するもんだねえ。馬鹿というのは、さも御しやすい」 


 その時だった。客席に集まっていた騎士達が、壁に座るボルトンに走り寄って来た。マージの時間稼ぎに引っかかったボルトンへ、こっそりと騎士達が近寄っていたのだった。その事に気が付いたボルトンが慌てて立ち上がる。


《直線距離二十メートル、ガイドマーカー展開》


 アイドナが再び俺の体に強力な身体強化を施した。そして俺は剣を構え、走り寄る騎士に気を取られているボルトンに跳躍する。


 だがボルトンは、最初に剣を振り下ろした騎士の真上に飛び宙返りして、トンッ! と、背中を前に押す。その事で俺は、騎士を避ける行動が必要となる。ボルトンは一気に集まって来た騎士を、一瞬で飛び越えて市民の間を走り出した。俺も同時に騎士達を飛び越え、ボルトンの後を追いかける。


 市民達が逃げ惑う中をボルトンが突っ走っているが、アイドナはその動きを見失う事は無かった。逃げる方向にガイドマーカーがひかれ、俺が辿ってひたすらボルトンを追いかける。そして通路の角を曲がろうとした時、ガイドマーカーが上に伸びていた。


 咄嗟に横に飛ぶと、上からボルトンが短剣を下ろして落ちて来る。


「だから、なんで逃げる事が出来る!」


 もちろんAIのガイドが無ければ、今ので俺は死んでいただろう。だが如何にボルトンが姑息な真似をしようとも、素粒子AIの予測演算を上回る事は出来ない。


《ジャングルリーパー魔力で身体強化》


 ジャングルリーパーとは、山岳地帯で遭遇した巨大バッタの魔獣。その跳躍はすさまじく、ひと跳躍で何本もの大木を貫くやつだ。


 だがその瞬間、目の前の扉を開けて一般市民が飛び出す。ボルトンがその背中を思い切り蹴り飛ばしてきたので、俺がそれを避けるとボルトンは既に遠くに走り抜けていた。


《強力な身体強化は、一般市民を巻き込む可能性があるようです。市街戦向けに調整した予測演算を開始します》


 俺が追っている間に、アイドナが再調整し始める。


《演算終了》


 俺が追っているとアイドナが言う。


《ボルトンの思考および行動予測により、退路を予測》


 俺の頭の中に、闘技場の立体地図が現れ赤い線でボルトンの退路予測が表示された。


《このまま左の壁際に行ってください》


 ボルトンが逃げた方向とは、全く違う方向にガイドマーカーが出るが、俺は躊躇せずにそれに従う。するとそのガイドマーカーは、二階の通路の外に向かっていた。


《飛び降りてください》


 真っすぐに全速力で走り、手摺を飛び越え落下していく。下にも市民がたくさんいたが、俺はその中に降り立った。


「なんだ!」

「人が落ちてきたぞ!」


《グリムボアの身体強化を使います》


 無視してその場を去り、ガイドマーカーに従った。丸い闘技場の周りをまわるように走ると、市民でごった返している。だがアイドナは全市民の行動パターンを予測し、その隙間を抜けるように身体強化で走り抜けた。


 すれ違う人の服がなびき帽子を飛ばし、子供を飛び越え荷馬車の下をくぐり、アイドナが止まれの指示を出す。俺が急停止した時だった。


 バッ!


 俺の正面に、右側の入り口からボルトンが出て来た。


「うおっ!」

 

 ボルトンは急停止し転びそうになる。


「なんでここにぃぃぃ!」


 次の瞬間、剣を構えた俺はボルトンに斬りかかるのだった。

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