第076話 御前試合(2)
翌朝。今日は女王陛下の生誕祭で、僕とヴァイオレット様は御前試合の本戦に出場することになっている。
領主様達の方も、陛下に寿ぐために城へ登る必要がある。
そんなわけで、僕らヴァロンソル侯爵家一行は王城に向かっていた。
王都に来た時と同じで、領主様達は馬車、僕やヴァイオレット様達護衛の面々は歩きだ。
僕らは人でごった返す大通りをノロノロと進み、なんとか予定時刻ギリギリに王城の前に着くことができた。
「よし、やっとついたな。我々はこっちだ。選手の二人は王城前広場にて係の者に従うように。健闘を祈る」
「お二人とも、我が領の威信を見せつけるのですよ」
「ヴァイオレット、タツヒト君。怪我をしないように頑張るんだよ」
領主様達、ヴァイオレット様のお母さん達とお父さんが、馬車から三者三様の激励を投げかけてくれる。
「はっ。お任せください、母上方、父上」
「承知しました。力を尽くします」
「うむ、ではな」
彼女達を乗せた馬車は、僕らを除く護衛達に囲まれながら王城の奥の方に進んで行った。
これから長い式典やらなんやらがあるんだろうな…… お疲れ様です。
近くに居た役人さんに声をかけると、僕とヴァイオレット様は広場の一角、出場選手用スペースに案内された。
すでにそこに居た選手の人達が僕らにチラリと視線を向けてくる。
これから試合をする者同士なせいか、ちょっとピリピリした雰囲気だ。
王城の方を見上げると、高くて遠い位置にバルコニーがあった。
役人さんによると、この後陛下からお言葉を頂けるらしいけど、あそこから話されても聞こえないのでは……
反対側、後ろの方を見ると、雲霞のごとく人が溢れていた。数千人はいそうで、馬鹿みたいに広い王城前広場が人で埋まっている。
しばらくヴァイオレット様と雑談していると、周囲の人たちがざわつき始めた。
彼女達の視線を辿るとバルコニーに人影があった。遠いしそもそも顔を知らないけど、あの方が女王陛下だろうか。
すると、突然バルコニーの上に人の顔が大きく映し出された。
空中に投影されたその姿は、ショートカットの金髪に気品溢れる顔立ち、そして輝く金の瞳をもつ馬人族だった。
おそらくバルコニーに立つ彼女の姿が拡大投影されているんだろうけど、光魔法の応用だろうか。
驚いて見ていると、拡大投影された人物が話し始めた。
『親愛なる民達よ。イクスパテット王国が女王、マリアンヌ三世である』
おぉ、かなり遠くにいる彼女の声がはっきりと聞こえる。風魔法の応用か何かで拡声しているみたいだ。
『余の生誕を祝う式典に足を運んでくれたことを嬉しく思う。
この通り余は壮健である。これまで通り、この国、そして諸君らの繁栄のために力を尽くすことを約束しよう。
また、今年は我が国の若き俊英達に集まってもらった。
彼女達がいれば、我が国が魔物共や蜘蛛共に屈することは決してないだろう。本日行われる試合で是非その勇姿を見届けて欲しい。
では、諸君らが今日の良き日を楽しむことを願う』
彼女が凛とした声色で一気に喋り終えた後、拡大投影も消えた。
そしてその一瞬後、広場に集まった民衆が大歓声を上げた。
「「おおおおおおっ!!!」」
「女王陛下、ばんざーい!!」
「騎士王陛下、いつまでも健やかにー!!」
歓声はいつまでも収まる様子が無い。
「すごい魔法技術、そしてすごい人気ですね……」
「ああ、圧倒されてしまった。さすがは王都、さすがは女王陛下だな」
しかし、魔物はわかるけど蜘蛛共……?
あぁ、大森林にいるっていう蜘蛛人族のことか。やっぱりこの国と仲が悪んだな。
色々とインパクトが大きかった演説の後、諸々のルール説明を受けた僕は、選手控え室で出番を待っていた。贅沢に個室である。
御前試合の本戦は、予選を突破した八名によるトーナメント方式だ。
ルールは予選の時とほぼ変わらないけど、決着の判定だけが大きく異なるようだ。
女子の部は午後からなので、ヴァイオレット様は領主様達のいる観客席に向かわれた。
別れ際に「君ならば勝てる」とハグしてもらったので、気合い十分だ。
観客は多いだろうけど死ぬ心配はほとんどないので、自分でも驚くほど緊張していない。
軽く槍を振りながらイメトレしていると、係の役人さんが呼びに来てくれた。
「失礼致します。ヴァロンソル侯爵領のタツヒト様、出番にございます。こちらへどうぞ」
「はい、今行きます」
いよいよ初戦だ。
役人さんの後ろについて半地下の廊下を歩く。廊下の先には試合場に続いているであろう階段があって、外から明るい光が差し込んでいる。
進むほど外から聞こえる歓声は大きくなり、役人さんが階段の前で立ち止まった。
「ここでお待ちください。お名前を呼ばれましたら、この階段を登り、開始線までお進みください」
「はい」
するとすぐに、先ほどと同じ拡声魔法を使ったアナウンスが聞こえ始めた。
『只今より、第二試合を開始いたします! 東より、ドゥルエ伯爵領、領軍騎士団分隊長、アラン選手!』
歓声が大きくなる。先に相手選手が呼ばれたみたいだ。
『続いて西より、ヴァロンソル侯爵領、領軍魔導士団所属、タツヒト選手!』
僕の名前がアナウンスされ、役人さんが声をかけてくれる。
「ご武運を」
「ありがとうございます!」
そう答えて階段を登ると、目の前に直径30mほどの試合場が現れた。
その周囲には魔導士らしき人たちが何人もいて、マイクのような魔導具を持った審判らしき人もいる。
闘技場を取り囲むように大規模な観客席が設けられていて、数万人はいそうなお客さん達が熱狂している。
右手の方には広く空間が取られた場所があり、おそらくあの辺が貴賓席だろうな。
やばい、今になってちょっと緊張してきたかも。
僕はあんまりキョロキョロしないように相手に目線を固定し、歓声を浴びながら開始線まで進んだ。
10m程の距離で相手と睨み合う。
相手のアラン選手は、板金鎧にブロードソード、そして盾といったオーソドックスな装備だ。本戦に来るだけあって佇まいに隙が無い。
僕はというと、いつもの槍と魔導手甲、そして軽鎧を装備して魔導士団のローブを着ている。
『両選手位置につきました。魔法陣を起動して下さい』
審判のアナウンスを受け、魔導士達が試合場に向けて魔力を込め始めた。 すると、試合場を半球状に透明な何かが覆い、ついで僕と相手選手の体もその何かで覆われた。
そして相手選手と僕の頭上に、馬の蹄を模った豪奢な意匠のアイコンがそれぞれ5つ投影された。
これがこの御前試合を成り立たせる安全保証システムだ。
事前に受けた説明によると、円形の試合場そのものが魔法陣で、主に二つの機能を持つらしい。
一つは障壁による選手と観客席の保護。よほどのことがない限り障壁は突破されないらしい。
そしてもう一つは、アイコンの投影によるダメージ量の可視化だ。
その選手がダメージを受ける程の攻撃が障壁に加わると、蹄が減っていく仕組みだ。
最終的に相手の蹄を全損させた方が勝者となる。
原理が想像しきれないけど、多分光魔法とか闇魔法とかの抽象魔法を、高度かつ複雑に組み合わせているんだと思う。
もしかしたら、この試合場は古代遺跡から引っぺがして来た物なのかも。
『準備が整いました。では両選手、構えて下さい』
アナウンスを受け、僕と相手選手が臨戦体制に入る。
『……第二試合、開始!』
開始の合図と同時に、僕は先手必勝とばかりに全速力で相手に突進した
相手は魔法を警戒したのか盾を前に押し出していて、僕の動きを追いきれていないようだ。
……このまま盾の脇から槍で喉を突こうと思ったけど、ちょっと怖いな。
僕は相手の目の前、そして真横でステップを踏み、一瞬にして後ろに回り込んだ。
そして。
「シッ!」
振り向きざま、相手の後頭部に向かって槍を薙ぐ。
槍が後頭部に迫り、見えない壁に阻まれるような強い抵抗を感じる。
しかし、勢いが止まらず、槍の柄がアラン選手の後頭部を強打してしまった。
……ッガァン!!
……やべ。
アラン選手はがくりと膝をつき、彼の頭上にあったアイコンが全て消失した。
彼は後頭部を押さえて呻いているので、どうやら大事には至っていないようだ。
よ、よかったー…… これ穂先で喉を突いてたらえらいことになってたな。
障壁による保護はあまり過信できないみたいだ。
『……! ア、アラン選手、蹄を全損! 勝者、タツヒト選手!』
「「おぉぉぉぉぉぉぉっ!?」」
「すげぇ、只人であんなに早く動くやつ初めて見たぜ!」
「男子の部にいるってことは、あれって男なのか……? 嘘だろ、あんなに可愛いのに」
勝利宣言と同時に大歓声が巻き起こる。一部変なことを言ってる人がいるけど、気にしないことにする。
僕は開始線まで戻ると、まだ呻いているアラン選手と、念の為貴賓席にもお辞儀してから試合場を後にした。
控え室に戻る途中、チラリと魔導士さん達の方を伺うと何やら慌ててる様子だった。
すみません、できれば次回からもっと強い障壁でお願いします。
ともあれまずは一勝。ヴァイオレット様の期待に応えるためにも、このまま優勝をかっさらいたいところだ。




