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亜人の王 〜過酷な異世界に転移した僕が、平和なもんむすハーレムを勝ち取るまで〜  作者: 藤枝止木
4章 領軍魔導士団

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第067話 雷魔法:応用編


 魔導士団に入ってから2ヶ月ほどが経過して、仕事にもだいぶ慣れてきた。

 寒さも和らぎ、季節はそろそろ春に移り変わろうとしている。

 魔物を間引く騎士団との合同任務で必要な魔素放出も、訓練の成果により最近やっとできるようなった。

 これで騎士団との合同任務で肩身の狭い思いをせずに済むというものだ。


 騎士団といえば、この世界では結局位階がものを言うので、月に一度の頻度で騎士団と魔導士団が合同で魔窟に入ることになっている。

 領都の周辺にはいくつか管理された魔窟があって、そこに分隊単位、一組10人くらいで潜って魔物を倒すのだ。

 魔窟は深さと魔物の強さがある程度比例するので、そこらで魔物を倒すより安全マージンを確保しやすいという利点がある。

 そして位階は、自分より弱い魔物を倒した場合はあまり上昇しない。

 なので、同じくらいの位階のもの同士で組んで、同じくらいの位階の魔物を袋叩きにするのが一番効率的だ。


 そういう訳で、僕はよくヴァイオレット様の組に入れてもらっていた。

 彼女とは一緒にいるだけで楽しいので、魔物の飛び散る肉片や血飛沫さえも綺麗に見えてしまう。

 ちなみに管理されている魔窟では、魔窟の核を破壊してしまった場合は死罪もあり得るとのこと。怖い……

 

 堅果(けんか)焼きについては無事お店の方に固定客が着いたようで、行動糧食としても領軍への納品量が増えてきているらしい。

 僕の義理の兄の旦那さん、元パン屋で現在は堅果焼き屋のポーラさんはやはり腕がいいようだ。

 最近では配合や焼き方も洗練され、紅茶やシナモンのフレーバーなんてのも出してきている。

 ロメール隊長曰く、タツヒトくんのやつより美味しいとのことだ。

 聞いた瞬間に対抗意識が燃え上がりキッチンに走りそうになったけど、自作せずに済むためにポーラさんにお願いしたことを思い出して止めた。

 うん。すごくうまく行っていて誰も不幸になってないのだけれど、でもちょっと複雑。





 

 今日もいつも通り午前の訓練と昼食を終え、午後の魔法研究の時間となった。

 ロメール隊長への堅果焼きの納品がなくなったので、魔法研究のための時間はそれなりに確保できている。

 隊のみんながこの時間に何をしているかというと、既存魔法の改善、もしくは効率的な使い方の検証や、単に魔法習得の時間に充てているようだ。

 女体の研究をしている隊員もいるけど、あの先輩は例外だ。

 一応軍隊なので、魔法の運用上の工夫なんかに比重が偏ってる印象だ。


 ロメーヌ隊長みたいに魔導士の称号を持ってる人は、自身の属性の新しい魔法を開発したり、論文を書いたりもしているらしい。

 僕の属性、というか得意な雷魔法は、あまり使用者がいないのでそもそも既存の魔法というものが少ない。

 自然と新しい魔法の研究を行う形になり、最近はその成果も出始めていた。


 僕は自室に戻ると窓を開け、昨日ひとまず完成した魔法に関するノートを確認した。

 開け放たれた窓の外からは小鳥の囀りが聞こえてくる。


 「よし、やろう」


 僕は自室の開けた場所に立ち、心を落ち着けるように深呼吸をしてから詠唱を始めた。 

 はじめに、意識を切り替えて魔素に働きかけるるための起句を唱える。


 『告げる(ディーコ)


 日々の訓練の成果で、僕は起句を唱えた瞬間に軽いトランス状態となり、体からは橙色の放射光が溢れ始めた。

 次に詠唱の本体、呪文を唱える。


 『(いかずち)()(めぐ)れ、光の(ごと)く我が内界(ないかい)(めぐ)りて、瞬き(またた)永遠えいえんとせよ。

  (いかずち)よ強く起これ、烈火のごとく我が内界(ないかい)を満たし、剛力を与えよ。

  我が精神(こころ)は時を(また)ぎ、我が身体は何者も触れることを(あた)わず、我が力は如何(いか)なるものをも砕く、すなわち、我は(いかずち)なり』


 呪文を構成するそれぞれの言葉は、魔法に求める現象の詳細なイメージや、現象に対する正確な知識を想起させるものを選んでいる。

 できるだけ端的に表現するようにしているので、他人が呪文だけ聞いてもよくわからない抽象的なものに感じるはずだ。

 でも、背後にはここ2ヶ月くらいかけて組み上げた工程や理論が存在していて、これを唱えるだけで僕の脳内にそれらが再演される。

 呪文により自身の中に存在する魔力、魔素が励起されたことを感じ、最後に魔法を発現させるための魔法名を唱えた。


 『……雷化(アッシミア・フルグル)!』


 ……パリッ、バチチチチチッ!


 体の表面から静電気のような音と光が連続して発生し、部屋の中をストロボのように照らした。

 よし、発動は成功。

 窓の外に目をむけ小鳥を注視すると、囀りは発動前より遅い周期で聞こえ、羽ばたく様子もスロー再生のような速度で認識でいた。

 さらに机の上に置いてあった鉄の棒を曲げてみたところ、いつもより簡単に曲げることができた。

 

 「よし、効果の程も問題ないな」


 今発動した魔法は、雷魔法を応用した身体強化魔法だ。 

 僕の脳内、脳から筋肉、皮膚や眼球などの感覚器官から脳へと流れる電気信号の伝達速度を加速させることで、思考や反射能力の高速化を可能としている。

 さらに、脳から筋肉へと向かう電気信号を増幅させ、普段の身体強化を超える速度と力を発揮することを可能とする。

 理論やイメージをこねくり回し、呪文を作り直すこと数百回、やっと実践で使えそうな水準に到達することができた。


 よし、早速上司に報告しに行こう。ついでに明日騎士団のところに遊びに行く許可も貰ってしまおう。

 魔法込みで僕が今どれだけ近づけたのか、ヴァイオレット様にぶつけてみたい。






 ロメーヌ様に雷化(アッシミア・フルグル)の魔法を見てもらったところ、論文化と自分も見学することを条件に、騎士団への出稽古の快諾を貰う事ができた。

 だいぶ食い気味で原理などについて質問されていたので、結構いい魔法を作ることができたみたいだ。


 翌日の午後、僕はロメーヌ様と一緒にヴァイオレット様のいる騎士団の屯所にお邪魔した。

 以前からたまに出稽古には来させて貰っていたので、今回もスムーズに屯所の中に入れてもらう事ができた。

 訓練中のヴァイオレット様に強化魔法込みの立ち会いをお願いすると、すぐに快諾を得られた。

 そしてギャラリーが見守る中、僕は(じょう)、彼女は木製のランスを持って相対した。


 「さてタツヒト、いつでも来るといい」


 「はい、行きます!」


 僕は雷化(アッシミア・フルグル)を発動し、ヴァイオレット様に肉薄した。

 予想外の速度だったのか、ヴァイオレット様は驚いた表情を見せながらランスで僕の(じょう)を逸らそうとする。


 ガッ!


 「ぬぅっ!?」


 これも予想外の膂力だったのか、逸らしきれななった(じょう)がヴァイオレット様の身体にかする。

 これはいけるかも!?

 そう思った瞬間、ヴァイオレット様の体から緑色の放射光が発せられた。

 そこからは防戦一方だった。


 凄まじい速度と膂力を持ったランスが、研ぎ澄まされた技を伴って僕に襲いかかった。

 以前は全く目視する事ができなかった彼女の突きは、強化魔法によりかろうじてその軌跡を認識できるまでに至っていた。

 しかし、それに対応できる速度と膂力とを今の僕は持ち合わせていなかった。

 十数合撃ち合った結果僕の(じょう)は弾き飛ばされ、眼前にぴたりとランスが突きつけられた。


 「……参りました」


 「--おぉ〜、彼すごいね。魔導士団の人なんでしょ?」


 「え、ほとんど見えなかったけど、タツヒト君、ヴァイオレット卿といい勝負してたの?」


 「いや、いい勝負どころじゃないですよ。騎士団でヴァイオレット中隊長に勝てるのは団長くらいで、中隊長とまともに戦えるのは大隊長のお歴々ぐらいです。二人ともあの若さで信じられませんよ」


 勝負がついた瞬間、ギャラリーの人たちが口々に感想を語り始めた。

 ーー届かなかったか。でも、ヴァイオレット様の本気の一端を引き出す事ができたのは大きな前進だ。

 彼女の領域に、確実に近づく事ができたはずだ。

 ヴァイオレット様は槍を引くと、とびきりの笑顔で笑った。


 「素晴らしい! 素晴らしいぞタツヒト! まさか本気の身体強化をせざる得ないほどとは、君ほど強い只人を私は他に知らない。

 君と出会ってまだ半年も経っていないはずだが、もうここまで来るとは……!」


 ヴァイオレットはテンションも高く僕の肩をバシバシ叩いている。

 いつもだったら嬉しいスキンシップだけど、今はちょっと止めてほしい。


 「あ、ありがとうございます。でも、ちょっと今触られると厳しいです」

 

 「ん、すまない、どこか痛めたのだろうか?」


 「いえ、この魔法、使った後の反動が大きくてですね…… 今は身体中が痛くてまともに動けないんです。触れらるたびに悲鳴が漏れそうです……」


 「な、なるほど。魔法の方はまだ改良が必要だな」


 ヴァイオレット様はさっきまで叩いていた僕のかたを、今度は労わるように撫で始めた。

 --もうちょっと痛がってようかな。


お読み頂きありがとうございました。

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【日月火木金の19時以降に投稿予定】


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