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【完結】亜人の王 〜過酷な異世界に転移した僕が、平和なもんむすハーレムを勝ち取るまで〜  作者: 藤枝止木
19章 創世期の終わり

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第538話 古代への追憶


「あなたが、創造神様……」


 創造神の母神ジュバール。聖教において、創造の父神グルマフと共にこの世界を造ったとされる偉大な神だ。

 そう名乗ったシャムに似た老婦人を前に、僕は驚きよりも、すとんと腹落ちするような納得感を感じていた。


「あぁ、神よ…… 不信心な私をお許しください。今私の中では、貴方にお会いできた喜びより、貴方に問いかけたい気持ちの方が優ってしまっています……」


 一方ロスニアさんは、取り乱しそうになる自身を必死に押さえ込んでいるようだった。

 創造神様に向かって跪く彼女の両肩を、ゼルさんとキアニィさんがそれぞれ励ますように支えている。


「シュハル……? その名前、どこかで……」


「ヴァイオレット! シャムが眠っていた遺跡、あそこを作った研究者の名前であります!」


 ヴァイオレット様とシャムの会話に、僕もその事を思い出した。シャムが遺跡のコンソールを調べて、その名前を見つけてくれたんだった。あれ、でも……


「古代文明時代の研究者が、創造神様……? え、でも、この世界の全ては、亜人も含めて創造神様がつくたって話じゃあ……?」


 何か話がおかしくないか? そう思って創造神、シュハルさんの方を見ると、彼女は皺だらけの目尻を笑みの形に歪めた。


『うふふ…… 私について、良く調べてくれているのね。ここまで来てくれた貴方達とは是非色々とお話をしたいのだけれど……

 その前に少し時間を頂戴。私、本当に久しぶりに起きたようだから、まず今がどういう状況なのか把握したいの』


 シュハルさんがそう言って目を閉じると、カプセルにつながった装置から電子音が鳴り始めた。

 何らかの方法で、脳内に直接情報を取り込んでるのか……!?

 そのまま暫く時間が過ぎ、再び目を開けた彼女の表情は、深い悲しみに染まっていた。


『あぁ、なんて事…… レシュトゥ、私より先に逝ってしまうなんて…… そして貴方達は二プラトの、いえ、私たちの被害者という事ね…… あの子、もっとやり用が…… いえ、私が言って良いことでは無いわね……』


「シュハルさん……」


 この弱り切った老婦人を神と呼ぶのは酷な気がして、僕は彼女をそう呼んだ。すると彼女は、表情を少し和らげながら僕とシャムを見た。


『貴方が、タツヒト君なのよね。その子…… シャムが出会ったのが貴方のような優しい人で良かったわ。

 でも私たちは、そんな貴方達にとても酷い事をしてしまったわ……』


「酷い事…… そう、それです。多少の齟齬はあるようですが、二プラトはシュハルさんの指示に従って動いていたんですよね……?」


『そうね…… それは間違いないわ』


 彼女の言葉に、みんなが息を呑む。やはりこの優しげな老婦人が、あの戦争の本当の黒幕だったのだ。


「シュハルさん、教えて下さい…… なぜ貴方が創造神と呼ばれているのか、なぜシャム達を作ったのか、なぜレシュトゥ様と袂を分かったのか……

 そして、人の世界を破滅させる神威(イル・リムトゥ)とは、僕らの息子がその引き金になるという崩界(シャフルクトゥ)とは何なのか…… 始めから全部を、どうか教えて下さい……!」


『--ええ、もちろんよ。私は、貴方達にそれを説明する義務がある。でも、とても長い話になるわ……』


 シュハルさんはどこか遠いところに視線を向けながら、ゆっくりと語り始めた






***






 タツヒト達が生きている現代からはるか昔。

 古代と呼ばれる時代には、魔導と科学が融合した高度な文明が存在した。

 そしてこの時代。星を覆う魔素の量は現代ほど濃厚では無く、魔物の脅威も少なかったため、人々は人間同士で終わらない戦争に明け暮れていた。


 そんな時代、貧しくも善良な家庭にシュハルは生まれた。

 天才としてこの世に生を受けた彼女は、周囲の温かな人々に囲まれ、健やかにその才能を伸ばしていった。


「私大きくなったら、みんなが仲良く暮らしていくための研究がしたい!」


 幼き頃から繰り返し口にしていた言葉を実現するため、彼女は研究に打ち込んだ。

 そして、彼女が若くして工学分野の権威として脚光を浴び始めた頃、その男は現れた。


「初めまして、シュハル博士。僕はウルマフ。お会いできて光栄だ」


 聖教において、後に創造の父神グルマフと呼ばれるその人物は、物腰は丁寧で上品だが、表情というものが全く無い男だった。

 しかし、なぜかシュハルには分かった。その無表情の下に、強烈な悲しみと煮えたぎるような憎悪が隠されているのが。


 ウルマフはシュハルより半世代ほど上の天才で、生物分野における絶対的権威であり、著名な資産家でもあった。

 その資産の大半は早世した両親の遺産だが、それを狙った大人達のせいで、彼は壮絶な幼少期を過ごす事になった。そしてそれが原因か、彼が極度の人間嫌いで大の動物好きという話も有名だった。

 そんな彼が訪ねて来たのは、シュハルにある依頼するためだった。


「シュハル博士。僕はこの戦争に満ちた時代を終わらせたい。そのためには人類という集団そのものの性質を変化させる必要がある。

 その方法だが…… より強い力と理性を兼ね備えた新たな人類種、亜人(あじん)を創造し、古い人類種である只人(ただびと)と共生させることで、争いの少ない平和な社会へと変えていくのだ。詳しく説明すると--」


 ウルマフは、その壮大で遠大な企みをシュハルに説明した。

 彼女には、ウルマフの言葉の中に嘘が混じっている事が分かったし、提示された計画も非現実的に思えた。


「この計画の実現には、工学分野の天才である君の力が必要だ。貴方の論文やコラムは全て拝見している。僕らの目的は近いはず…… どうか協力してほしい。報酬は言い値で払おう」


 しかし、シュハルにはその誘いを断ることが出来なかった。

 彼の計画は確かに彼女の目的に合致していたし、何よりウルマフを一人にしては駄目だと思ったからだ。

 このあまりにも自分と正反対で、孤独で寂しげな男を、放っておく事ができなかったのだ。

 彼女はウルマフの冷たい手を両手で包み込むと、笑顔で計画への協力を承諾した。


「--分かりました、協力させていただきます。ただし報酬は要りません。ウルマフ博士の目的は、まさしく私の目的でもありますから。これからよろしくお願いしますね!」


「そ、そうか…… 感謝する。こちらこそ、よろしくお願いする」


 ウルマフは、ほんの少し無表情を崩しながら彼女の手を握り返した。






 シュハルの協力を得たウルマフは、最初に、経済破綻したある国をその莫大な財力で丸ごと買い上げた。

 そしてそこへ人や資源を集約し、法を整備し、亜人(あじん)に関する研究と実践の環境を完璧に整えた。

 その後二人の天才により、亜人(あじん)研究は凄まじい速度で進んだ。

 まず、シュハルとウルマフの遺伝子をベースに、いくつもの生物の因子を組み合わせた最初の亜人(あじん)、始祖妖精族(ようせいぞく)のレシュトゥが誕生した。

 そこから研究はさらに加速し、多様性に富んだ様々な種族の亜人(あじん)が造られていった。


 この時に造られたのは全て女性型の亜人(あじん)であり、男性型の亜人(あじん)は絶対に生まれないように何重にも保護が掛けられていた。

 これは、人類社会の崩壊シナリオの一つである、崩界(シャフルクトゥ)を防ぐための処置である。

 もし亜人(あじん)の男女が揃い、亜人(あじん)のみで繁殖が可能になってしまうと、亜人より弱く社会性も低い只人(ただびと)は邪魔になる。

 そうなれば壮絶な絶滅戦争の果て、只人(ただびと)亜人(あじん)によって淘汰されてしまうと予想されていた。

 これが崩界(シャフルクトゥ)であり、シュハルは特にこれを恐れていた。

 自身の子供に等しい亜人(あじん)達が、只人(ただびと)を絶滅させる…… そんな悲劇を絶対に避けたかったのだ。


 そうして亜人(あじん)研究が順調に進む中、世界情勢は悪化を続けていた。

 最悪だったのは、戦争で使用するエネルギーを確保するため、各国が競い合うように地脈から魔素を吸い上げる技術を使い始めた事である。

 この技術は、使いすぎれば星そのものを死に至らせる上、地脈と融合した七柱の神獣の逆鱗に触れることは明らかだった。


 ウルマフとシュハルの二人は、亜人(あじん)研究を一時停止してまでこの流れを止めようとした。

 各国に魔素の過剰利用の危険性を説き、神獣の中でも人類に友好的な個体、蜘蛛の神獣(アラク・イルフルミ)勇魚の神獣(ナヒィル・イルフルミ)にコンタクトを取った。

 しかし得られた結論は、破滅は回避できそうに無いというものだった。


 そこで二人は、人類全体の破滅を回避するため、方舟計画を始動させた。

 これは、ウルマフが買い上げた国そのものを地上から離陸させ、一時的に宇宙に退避させるという計画だ。

 この頃になると、レシュトゥが生まれた事もあり、シュハルとウルマフの二人の関係はただの協力者とは違うものになっていた。






 しかし、方舟の準備が順調に進む中、二人の関係はある日突然破綻をきたした。


「ウルマフ博士…… この計画書、博士の記憶領域から偶然見つけてしまったものなのですけれど、これは一体何ですか…… なぜ、男性型亜人(あじん)の製造計画が存在しているんですか!?」


 研究施設の一室に、シュハルとウルマフ、そしてレシュトゥは集まっていた。

 男性型亜人(あじん)崩界(シャフルクトゥ)を引き起こす。ウルマフも、その危険性は認識しているはずだった。

 まだ幼かったレシュトゥは、激昂して詰問するシュハルを宥めつつ、おずおずとウルマフに訪ねた。


「か、母様、落ち着いて…… 父様、何か理由があるんですよね……?」


「--その計画書が存在している理由か…… それは勿論、この地上から只人(ただびと)を一掃するためだ」


 しかし、ウルマフがいつもの無表情で語ったのは絶望的な答えだった。彼は最初から、人類を憎悪し、その抹消のために動いていたのだ。

 そして、驚愕と悲しみに固まるシュハルとレシュトゥを、更なる悲劇が襲う。


 バンッ!


「「……!?」」


 突然部屋に踏み込んできた武装集団が、彼女達に向かって銃弾をばら撒いた。


 ガガガガガッ!


「うぐっ……!?」


 しかし凶弾はシュハル達には届かず、彼女達を庇ったウルマフの体で止まった。


「ウルマフ博士!?」


「父様!? このっ…… 『闇よ(ネブラ)!』」


 グシャッ……!


 レシュトゥの咄嗟の反撃に、武装集団は一瞬で潰された。

 後で分かった事だが、この武装集団はシュハル達の亜人(あじん)の製造技術を盗みに来た工作員だった。以降、彼女達は度々こうした工作員に狙われる事になる。


 血まみれのウルマフを抱き抱え、シュハルが涙を流しながら問いかけた。


「ウルマフ博士……! なぜ私を庇ったんですか……!? 貴方は只人(ただびと)を憎んでいたんじゃないんですか!?」


「--分からない…… 人間は嫌いだ、僕も含めて、一人残らず死滅するべきだ…… だがシュハル、君は嫌いでは無かった……」


「……! 博士…… 私も、博士を……!」


「父様、死なないで! 父様!」


「レシュトゥ。僕は君に、何もしてやれなかった。すまなかった…… どうか、幸せに--」


 ウルマフの目は永遠に閉ざされ、残された二人は悲嘆に暮れた。






 ウルマフの死により、彼とシュハルが率いていた国や組織は大きく揺れた。その混乱は激しく、自国の中でもシュハルとレシュトゥは安全が確保できないほどだった。

 彼女達は自身の安全を確保し、国内で進行中の方舟計画を他国の目から逸らすため、世界中を逃げ回ることにした。


 シュハルは、自分とウルマフの子供である亜人(あじん)をずっと見守っていたかった。しかしこの頃、彼女は自身の老いを感じ始めていた。

 なので彼女は、少数の腹心達と世界各地を転々とする中、半永久的に稼働できる自身の複製である機械人形(きかいにんぎょう)の研究を始めた。


 そして、後にシャムと呼ばれる最初の機械人形(きかいにんぎょう)が完成間近となった時、当時の隠れ家を他国の工作員が襲撃した。

 シュハル達はやむを得ずシャムと拠点を放棄し、自国へと逃げ帰った。

 その時すでに、国家間の戦争と魔力消費量はエスカレートし続け、いつ破滅が起こってもいつ起こってもおかしくない状況だった。

 彼女達は人々を可能な限り集めると、完成していた方舟を宇宙へと離陸させた。


 そしてその僅か数日後。地上を破滅が吹き荒れた。

 星の魔素を際限なく食い潰す人類を絶滅させるため、神獣達が一斉に攻撃を始めたのだ。

 結果、方舟に退避した以外の人類はほぼ死滅し、地脈の流れが乱れによって魔素濃度は激増。地上は魔物に溢れた人の住めない環境となってしまった。


 方舟の存在は当然神獣に知られていたが、蜘蛛の神獣(アラク・イルフルミ)勇魚の神獣(ナヒィル・イルフルミ)の慈悲により見逃されていた。

 この大災厄は後に神威(イル・リムトゥ)と呼ばれ、地脈の魔素利用は絶対の禁忌とされた。


 以降、シュハルは方舟で研究を完成させ、調停者(ちょうていしゃ)と呼ばれる四体の強力な機械人形(きかいにんぎょう)を製造した。

 合わせて、その技術を利用した自身の機械化と延命にも取り掛かった。


 それから長い年月が経ち、地上はようやく人が住める程度の魔素濃度に戻った。

 そこでシュハル達は、方舟で世代交代が進んだ亜人(あじん)只人(ただびと)達の大部分を、地上に戻す事にした。

 ただし、地上に戻った人々の知識は、シュハルの方針で意図的に中世程度に制限されていた。

 そんな彼らを助け、監視するため、三体の調停者(ちょうていしゃ)が派遣された。彼女達は後に、それぞれ魔導士協会、冒険者組合、聖教を立ち上げる事になる。


 その後、亜人(あじん)を含めた人類を永遠に見守っていこうとするシュハルと、人類は自分達の庇護無しでもやっていけると考えるレシュトゥとの間に確執が生じた。

 その溝は埋まることは無く、争いを嫌ったシュハルが残りの一体の調停者(ちょうていしゃ)と共に方舟を下船。周囲に人の姿の無い洋上に人工島を建造し、人類の監視を継続した。


 こうしてさらに時代は流れ、今、世界を見守り続けて来たシュハルの前に、タツヒト達が現れたのである。


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【昼と夜に投稿予定】


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