第530話 魔神の島
メームさんの交渉により、呪炎竜は僕らの運搬を了承してくれた。やはり財宝を渡すより、星を四分の一周もする長距離飛行の方が良いらしい。
魔神討滅に向かう面子は『白の狩人』のレギュラーメンバーとなった。ヴァイオレット様、シャム、キアニィさん、ロスにあさん、ゼルさん、プルーナさん、そして僕の計七名だ。
残りのみんなも同行を申し出てくれたけど、僕以外はヴェラドとの戦いのダメージがまだ抜けきってい。なので、子供魔竜と一緒にお留守番をお願いさせてもらった。
ゴォォォォッ……!
そんなわけで直ぐに王城を発った僕らは、現在空の上を高速で飛んでいる。
風を切る音と、呪炎竜が火魔法で飛行する轟音が耳を打ち、眼下には大海原が広がっている。この世界ではなかなか見られない光景だ。
「すごい、視界一面全部が海だ……! 星の丸みまでわかりますよ!」
「ふふ、そうだな。確かにここまでの高度を体験するのは方舟以来だ」
テンション高く景色を眺める僕に、ヴァイオレット様を始め、みんなが微笑ましそうな視線を向けてくる。ちょっと恥ずかしい……
高高度を高速飛行している中、何故こんなにのんびり過ごせているのかというと、プルーナさんのおかげだ。
彼女が作ってくれた客室コンテナの中は結構広く、座り心地のいい椅子や机、水晶製の窓まで付いている。居住性も眺めも抜群だ。
僕らはその客室コンテナに乗り込み、それを呪炎竜が持って飛んでいると言う状況である。
そんな快適な空の旅を続けること数時間、空の色は徐々にオレンジ色に染まり始めていた。
「そろそろ目的地が視認できるはずであります。陽が落ちる前に、それらしいものを見つけられればいいでありますが…… あっ……!」
シャムの視線の先を辿ると、大海原にポツンと島が浮いているのが見えた。
全く狂いのない真円の形をしていて、それだけでただの島でない事が伺えた。
「おぉ! 本当に島があったにゃ! しっかし、随分綺麗な形してるにゃあ」
「ゼルさんの言うとおり、まるで人工的に作られたみたいな形ですね…… あれで間違い無いでしょう。
呪炎竜! 前方に見える島に僕らを下ろして!」
前面の窓を叩きながら声をかけると、奴は首を回らせてこちらを覗き込み、コクリと頷いた。
すると徐々に高度が下がっていき、視界の中で島が大きくなっていく。
ゾワッ……
そして突如、凄まじい魔法の気配と共に島から光の帯が発射され、僕らの眼前に迫った。
『火よ!』
反射的に全力で行使した火魔法が、その光の帯の軌道をわずかに逸らす。
--ジュゥンッ!!
結果、光の帯は僕らの真横スレスレを通り、大気だけを焼き焦がした。
あ、危なかった…… 火魔法じゃなくて光魔法だったら、一瞬で全滅してた……!
「ギャ、ギャァァァァァッ!?」
熱かったのか、それとも単純にびっくりしたのか、呪炎竜が絶叫してコンテナが激しく揺れる。
「呪炎竜! ここで十分だ! 客室を離して--」
ガクンッ!
僕の台詞が終わる前に、コンテナは中空へ乱暴に放り出された。
窓からは、一目散に逃げ去る呪炎竜の後ろ姿が見えた。
「「……」」
全員で顔を見合わせる。いや、いいんだけどね? 子供魔竜も待ってることだし…… それよりも。
「みんな何かに掴まって! 僕は島からの追撃に備えます! プルーナさんは客室を!」
「わかりました! ちょっと揺れます! 『地よ!』」
プルーナさんの地魔法が発動し、コンテナが徐々に減速しながら落下していく。
そして警戒した追撃を受ける事も無く、ゆっくりと海に着水した。
「ふぅ…… なんとか凌ぎましたね……」
全員がほっと息と吐く。しかしそんな中、ロスニアさんが青ざめた顔で僕を見た。
「タ、タツヒトさん…… 今の光の帯、あれは、樹環国で目にした……」
「--ええ。その、すごく似ていました。光の大樹を焼き滅ぼした、天から光に……」
以前みんなで訪れた樹環国。そこではとある事情で、光の大樹と呼ばれる古代魔導具の起動が行われようとしていた。
その時、起動を諌める神託がロスニアさんに降ったのだけれど、樹環国の上層部は起動を強行。結果、天から降り注いだ裁きの光により大樹は焼失し、近くにあった街が半壊するという事件があった。
そして、あの島から発された光はその時の光に酷似していた。それは、つまり……
「そんな…… そんな、何故……!?」
「お、落ち着きなさぁいロスニア。まだ…… まだ決まった訳じゃありませんわぁ……」
「キアニィさん、でも…… でも!」
「--確かめましょう。上陸してみればわかる事です。プルーナさん」
「は、はい。客室を島に接舷させます」
プルーナさんの地魔法により、海に浮かんだ客室コンテナは島に向かって前進を始めた。
近づいてみると、それは島というより巨大な空母のような代物だった。
中央に聳え立つ巨大な塔、その周囲に林立する建物群、規則正しく張り巡らされた道路…… 全てが金属質の材質で作られていて、巨大な生きた古代遺跡という印象だ。
その後も攻撃を受ける事なく、客室コンテナは無事に港のような場所に接舷した。
そして慎重に島へ降り立った僕らを、一人の人物が出迎えてくれた。
『お待ちしておりました。観察対象の皆様方』
こちらに向かって礼儀正しく腰を折るその人の顔は、とても馴染み深いもの…… シャムと同じものだった。
「ま、また同じ顔であります……! でも、その体……」
慄くようにシャムが呟く。そう、僕らを出迎えたシャムと同じ顔の人物は、その首から下が彼女と大きく異なっていたのだ。
女性らしいシルエットをしているけど、体全体が金属の外装に覆われ、モーターの駆動音のようなものも聞こえる。
シャムは肩と股関節以外はほぼ人間と見分けがつかないけど、目の前の彼女はまさに機械の体という感じだ。
--こんな時なのに、僕は頭の片隅でこれはこれで良いな、などと考えてしまった。本当にどうしようもない。
「君は一体…… その体、なぜシャムと同じ顔を…… それに、観察対象……!?」
『--申し訳ございません。下位機能単位である当機には、観察対象からの質問に答える権限が付与されていません。
どうぞこちらへ。上位機能単位、個体名二プラトの元へ案内いたします』
仮称メカシャムの後に続き、僕らは言葉もなく島の道路の上を歩いた。
シャムは先ほどから僕の手を握って離さない。その手から彼女の震えが伝わってくる。
「シャム…… 大丈夫。何があっても、シャムは僕らの大切なシャムだよ」
「タツヒト…… ありがとうであります……!」
震えが止まり、シャムは力強く僕の手を握り返してくれた。
メカシャムはその間も足を止めず、島の中央に聳える巨大な塔へと入っていった。
塔の中の幅広で無機質な通路をしばらく進むと、僕らは大きな隔壁の前についた。
『この先へお進みください。任務完了につき、投機はここで待機いたします』
「……ありがとう。みんな、いくよ……!」
「「応……!」」
ガァァァァァ……
隔壁が開いたその先へ足を踏み入れると、そこは広大な円形の空間だった。
そしてその中心には四人の人影。半ば予想していたその人物達の元へ歩み寄ると、その内の一人が僕らを拍手で迎えた。
「皆さん、お待ちしていましたよ! それにしてもよくここが分かりましたね」
いつものように楽しげに笑うのは、シャムと同じ顔をもつ銀髪の妖精族。冒険者組合所属のやたらと強い受付嬢、カサンドラさんだった。
「カサンドラ殿…… どうして貴方がここに…… なぜ魔神の島にいるのだ!?」
ヴァイオレット様の絶叫に、カサンドラさんはただ笑みを深くした。
「無駄な質問をするな。すでに推測はついているだろう?」
それにぶっきらぼうに応じたのは、シャムと同じ顔の上半分を仮面で隠した赤髪の妖精族。魔導士協会長にして、魔導国が誇る魔導大学の長、アシャフ学長だった。
「アシャフまで…… じゃ、じゃぁやっぱり、やっぱり魔神は--」
「待って下さい! 猊下、ペトリア猊下! どうかお言葉を…… 私たちを導いて下さい! これは何かの間違いだとおっしゃって下さい!」
シャムの震える声を、ロスニアさんの悲鳴のような声が遮った。
その声に悲痛な表情を浮かべるのは、やはりシャムと同じ顔をもつ金髪の妖精族。創造神の元、全世界の人々を教え導く聖教の教皇、ペトリア猊下だった。
「すまぬ…… すまぬロスニア、皆よ。我には、止められぬのだ……」
「……!」
猊下の言葉に、ロスニアさんが顔面を蒼白にして絶句する。
--カサンドラさん、アシャフ学長、ペトリア猊下。みんな、僕らがこれまで非常にお世話になってきた方々だ。
そして、特にペトリア猊下は創造神とただならぬ繋がりがある。他の二人も同様だろう。
その三人が魔神の島にいる。先ほどの裁きの光、下位機能単位の存在で生じた疑念が、確信に変わった。
「--魔神二プラトは、猊下達、つまり創造神と繋がっていた…… つまり、僕らを排除しようとしていたのは……」
「そうだ。お前達の死は、創造神様が望んだものだ」
僕の呟きに答えたのは、またしてもシャムと同じ顔をした黒髪の妖精族だった。
この人物に対面するのは多分初めてだ。しかしメカシャムは言った。個体名二プラトの元へ案内すると。
「つまり、お前が魔神二プラトか…… お前のせいで…… お前がけしかけたヴェラドのせいで、一体何人死んだと思っている……!?
お前のせいで、僕が何人殺さなきゃいけなかったと思う!? 僕らを殺すだけなら、他にいくらでも方法があっただろ! なぜあんな真似をしたんだ! 答えろ!!」
僕の絶叫に、二プラトは苛立たしげに顔を歪めた。
「黙れ! 僕らだって、あんな手段は取りたくなかったんだ……! それにお前の息子がこれから引き起こす災厄に比べれば、そんなものはただの誤差だ!」
「……!? 一体、何を言っているんだ……!? お前に僕の息子の…… アレクシスの何が分かるって言うんだ!?」
「うるさい! お前さえ存在しなければ…… お前さえ……! --母様の望む平和な世界のため、お前達はここで死ね!!」
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