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亜人の王 〜過酷な異世界に転移した僕が、平和なもんむすハーレムを勝ち取るまで〜  作者: 藤枝止木
19章 創世期の終わり

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第528話 魔素の波動


 目を焼く雷光とほぼ同時。爆音のような雷鳴が耳をつんざく。


 バガァァァァンッ!


 --どうだ……!? アスル、ティルヒルさん、そして僕。手練れ三人の必殺の魔法を立て続けに喰らったんだ。流石の奴でも……!

 強烈な光と音によって麻痺していた視覚と聴覚が、徐々に回復していく。


「「なっ……!?」」


 そして目に飛び込んできた光景に、僕らは揃って呻き声を上げていた。


「う…… がぁぁ……!」


 強烈な落雷で石畳が弾け飛んでしまった場所の中心。そこにヴェラドは立っていた。

 ふらつく体の殆どは黒く炭化し、服は当然、髪や両手までもが消し飛んでいるけど、まだ生きて呻き声をあげている。


「あ、あの(あま)……! いい加減にせぇ! どんだけしぶといねん!」


 カリバルを担いで戻ってきたエリネンが、ヴェラドに怒声を浴びせる。


「いや…… 見て! 奴の屍山血河サングウィス・インダーティオが……!」


 僕らを取り囲んでいた血刃(けつじん)の大群、それらが震えながら崩壊してく。やがて。


 ドプンッ…… --ドザァァァァッ!


 血刃(けつじん)の大群はただの血液に戻り、赤い豪雨となって石畳に降り注いだ。


「もう、奴は瀕死なんだ…… 魔法を制御する余裕もない程に……!」


 おそらく、このまま放っておいても奴は死ぬ。けれどその間にも何をするか分からない。すぐにトドメを……!

 そう思って槍を握り直した時、周囲の家屋の影から、退避していた吸血族(きゅうけつぞく)達が続々と姿を現した。


「陛下! ヴェラド陛下、ご無事ですか!? 今の落雷は!?」


「あれは……!? 敵国の人間共がまだ生きているぞ! 屍山血河サングウィス・インダーティオが解除されたのに……! 陛下は……!?」


「まさか…… あの焼け焦げた人影が……!? お、おのれぇ……! 殺せぇ! 陛下の仇を討つのだ!」


 数百名の吸血族(きゅうけつぞく)が、憤怒の形相でこちらへ向かってきた。


「くそっ、こんな時に!」


 奴らはいずれもヴェラドが共連れに選んだ手練れだ。今のへとへとの僕らが相手をするには荷が重い。

 仕方ない。奴へのトドメは諦めて、一点突破して離脱する……!

 最後にひと睨みしてやろうと目を移すと、奴はがっくりと跪き、虚空に向かって腕を伸ばしていた。


「--まだ、だ…… まだ、吾輩は、終わらぬ……! 雷公の、極上の血を…… 我が復讐を…… 混沌たる世界を……

 魔神ニプラトよ…… どうか吾輩に…… 貴方の、忠実なる(しもべ)に、どうか、ご慈悲を……!」


 焼け焦げた喉で必死に紡がれた言葉は、ひどくひび割れていた。あのヴェラドがこれほどの信仰を捧げる魔神…… もしかして、実在する神なのか……? --いや、それを考えるのも後だ。


「みんな! 一点突破でここから--」


「え…… 何……!?」


 するとその時、フラーシュさんが明後日の方向を向きながら驚愕の声を上げた。


「フラーシュさん……!?」


「み、みんな! ヴェラドが、何かとんでもない事しようとしてる! 今すぐ逃げないと…… でも、もう間に合わないかも……! ど、どうしよう……!?」


 彼女はヴェラドと僕らを交互に見ながら、尋常でない程必死に危険を訴えかけてきた。

 その彼女の様子を裏付けるように、異常なほどに強烈な魔法の気配がヴェラドから放射された。

 まるで、奴の莫大な魔力を一気に解き放つような……


「これは……!? 『爆炎エクスフラム・ブレッド!』」


 ドンッ!


 僕は少し離れた場所に火魔法で穴を掘ると、そこを指差した。


「みんな、あそこへ!」


 魔力切れで動けないフラーシュさんを抱えた僕に続き、みんなが穴の中に退避する。

 穴の中に完全に身を隠す直前、怒号を上げて走ってくる吸血族(きゅうけつぞく)達の背後で、ヴェラドの体が急速に膨張し始めたのが見えた。


「お゛ぉ…… ま゛じんよ、がんじゃじま゛ずぅ……!」


「やばい……! みんな防御を! 『八重垣(やえがき)!』」


海よ(マーレ)!』


風よ(ニルツァー)!』


 後衛の二人と放心状態のカリバルを真ん中に、身体強化を最大化させた前衛が周囲を固め、三重の水と風の防壁を張る。

 考え得る最大の防御姿勢をとった刹那、闇夜を照らす閃光と共に途方もない衝撃が襲ってきた。


 --ドォッ!! 


「ぐぅぅっ……!?」


 最初の衝撃波で、周囲の地面ごと一番外側の八重垣(やえがき)が吹き飛んだ。

 続く灼熱の爆風がアスルの水の防壁を蒸発させ、吹き戻しの烈風が最後のティルヒルさんの風の防壁を軋ませる。

 異様に長く感じられた数秒の後、ようやく爆風は収まった。


「--もぉ、だめぇっ……!」


 ティルヒルさんの絞り出すような声と共に、風の防壁が解除された。すると、辺りの景色は一変していた。

 建物群に囲まれた広場にいたはずの僕らは、巨大なクレーターの只中にいた。ヴェラドがいた辺りを中心として、防壁を張った場所とその背後以外の地面が深く抉れている。

 そのヴェラドも、吸血族(きゅうけつぞく)達も、建物も、都市防壁すらも、全てが消え去っていた。人口数万人の大きな港町が、跡形もなく消滅してしまったのだ。


 呆然と周囲を見渡していると、沖合に転覆した大きな船が見えた。あれが報告にあった船か。

 ヴェラドは血液を操っていたけど、その属性はおそらく水魔法だ。奴はおそらく、あの船と強力な水魔法によって、アウロラ王国の沿岸に張った結界を強引に突破して来たんだ。


「みんな、生きてる……?」


 みんなの方に向き直ると、ぐったりと座り込んだエリネンがニヒルな笑みを返してくれた。


「なんとか、な…… しっかし、えらい見晴らしがようなってしもうたなぁ」


「だね。まさかヴェラドが自爆するなんて…… そうだ、カリバルは……!?」


 みんなの視線がカリバルに集中する。しかし彼女は目を閉じて動かない。慌てて首筋と口元に手を当てると、呼吸と脈拍が確認できた。


「よ、よかった…… 意識を失ってるだけみたいです。きっと、ヴェラドが死んだ事で支配が解けたんだ」


「カリバル……!」


 目に涙を溜めたアスルがカリバルの体を抱きしめる。うん、本当によかった……


「ね、ね。あーしら、ヴェラドをやっつけたんだよね……?」


「うん……! きっと、三国の首脳部の支配も解けてるよ! だから……!」


 ティルヒルさんとフラーシュさんの言葉に、僕もゆっくりと頷く。


「ええ。このおかしな戦争も、これで終わりです……!」






 流石に直ぐには動けず、みんなで暫し呆然とクレーターを眺めていると、遠くから聞き覚えのある声が聞こえてきた。


「タツヒトー! み、みんなー! 何処でありますかぁー!?」


 声に振り向くと、クレータの外側に人影があった。暗いし離れているけど、それが誰だか直ぐに分かった。


「シャム! おーい! こっちだよー!」


 手を振って声を上げると、こちらに気づいたシャムが物凄いスピードで僕らの元へ走ってきて、そのまま僕に飛びついてきた。


「タ、タツヒトー!! みんなも、無事でよかったでありますよぉー……!」


「あはは、結構ボロボロだけどね。シャムも無事でよかった」


 号泣するシャムを宥めながら、僕らは港街での出来事を彼女に共有した。

 ちなみにシャムの方はというと、主機関魔導装置を仕上げた後、海底から王都に戻ったその足で僕らを追ってきてくれたらしい。

 そしてもうすぐ着くと言う所で、僕らが居るはずの西の港街が大爆発したのだ。僕らの姿を確認するまで、生きた心地がしなかったらしい。


「なるほど…… とにかくよかったであります。あ、来る途中、この街の避難民を見かけたでありますよ。彼女達は無事に隣町へ収容されたので、安心して欲しいであります」


「よかった……! 教えてくれたありがとう、シャム氏。爆発に巻き込まれたんじゃって、心配だったの……」


 シャムの言葉に、フラーシュさんをはじめとした皆が安堵の表情を見せる。


「どういたしまして、であります! あ、そうであります! フラーシュ。爆発の直前、その、指向性の魔素の波動のようなものを観測しなかったでありますか?」


「え……? あ…… うん! えっと、真西から十度くらい南寄りかな……? その方角から飛んできた魔素の束がヴェラドに当たって、その直後にあいつが自爆したの。

 でも、なんでシャム氏が…… あ、もしかして、首から下げてるそれ?」


「ふっふっふっ…… そうであります! これは携帯型の魔素観測装置であります! 主機関魔導装置復元時に得た知見を使って、こっそり開発してたのであります!」


 ふんすと胸を逸らすシャムの首元には、ゴツいゴーグルのようなものが下げられていた。

 流石シャム。人類で魔素を知覚できるのはフラーシュさんだけだったけど、彼女はその能力を魔導技術で手に入れてしまったらしい。


「フラーシュさんがヴェラドの自爆を直ぐに察知できたのは、そのおかげだったんですね。

 --あれ、でもそうすると…… 奴の自爆は、その魔素の波動を発した何者かが引き起こしたと考えるのが自然ですよね……?」


「何者か…… それはきっと魔神ニプラト。 奴は繰り返しその名前を口にしていたし、魔神に助けを求めていた。自爆してしまったけど……」


 アスルの言葉にみんなが頷く。それは僕も耳にした。


「ほーん…… ほんなら、その魔神ゆー奴がこの戦争の黒幕かもしれへんなぁ……」


 エリネンが発した言葉に、全員がハッと息を呑んだ。


「へ……? え、え。待ってエリぴょん、何でそーなるの?」


「ティルヒル、考えてみぃや。ヴェラドのアホは、三国のお偉いさんを操ってこのしょーもあらへん戦争を起こしてん。

 やから、その本人が操られとったとしてもおかしないやろ? 悪い奴の考えそうな事や」


 エリネンの説に反論する声は無い。推測に過ぎないんだろうけど、犯罪組織に身を置いていた彼女の話には妙な説得力があった。


「まいったなぁ…… エリネンの説が正しい場合、多分その魔神が僕らを狙ってるって事でしょ?

 ヴェラドが死んで、無事にこの戦争が終わったとしても、きっとまた別の形で僕らを攻撃してくるよ……」


「まぁ、そーなるやろな…… その魔神のヤサが分かれば、こっちからカチコミかけられるねんけど……」


 僕もみんなも困り顔で腕を組む。そこへ、シャムが元気よく腕を上げた。


「二人とも、それに関しては推定済みであります!」


「え…… 一体どうやって……!? いやそれよりも、何処なの!?」


「ふふん。シャムはフラーシュより離れた位置から、放物線を描いて飛来した魔素の波動を観測したであります。

 それだけでは情報が足らなかったでありますが、フラーシュによって波動の方角が判明したので、誤差範囲百キロル程で位置を推定できたであります!

 クレーターの爆心地から見て、真西から南へ十度。距離はおよそ一万キロル。そこが、波動の発射元であります!」


「真西から南へ十度、距離一万キロル……」


 僕は無意識にそれを復唱していた。きっとそこに全ての黒幕、魔神ニプラトが居る……!


遅くなりましたm(_ _)m

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【水曜以外の19時以降に投稿予定】


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