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亜人の王 〜過酷な異世界に転移した僕が、平和なもんむすハーレムを勝ち取るまで〜  作者: 藤枝止木
19章 創世期の終わり

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第521話 孤立


 宣戦布告。今グラツィアが行ったそれに、僕らは全員言葉を失っていた。その様子を満足気に見渡した彼女は、こちらに布告文を差し出しながら最後にこう付け加えた。


「開戦は三日後。我ら三国にて貴国を攻め滅ぼさせて頂くので、どうかお覚悟召されよ」


 三日後、だって……!? 早すぎる。いや、そもそもこの状況、一体何が起こっているんだ……!?

 僕の内心はそんな風にめちゃくちゃだった。けれど、曲がりなりにも数年間王様業を務めてきた経験が生きた。

 心の乱れを何とか分厚い面の皮で隠すと、努めて冷静に隣に立つ宰相へ語りかけた。


「宰相、使者から布告文を」


「--はっ……! はい、陛下……!」


 宰相がおぼつかない足取りでグラツィアの元へ向かい、書類を回収してくる。

 その間に考えをまとめた僕は、宰相から書類を受け取るとグラツィアへ冷めた視線を投げかけた。


「ふむ…… 帝国、馬人族(ばじんぞく)の王国、魔導国の三国が、我が国を攻め滅ぼすか…… 布告の内容は理解したが、その中には大きな誤りがあるな。

 我は魔神などという存在を知らないし、もちろん邪法を行なってもいない。人々を食い殺しているのは、我ではなく帝国のヴェラド公爵の方だろう」


「その様な悪質な噂話が出回っている事は存じております。しかし、我が偉大なる主君が清廉潔白であることは明白……! 真実は先の布告文の通りでございます」


 グラツィアが嘲笑うように頬を歪め、謁見の間に不安気なざわめきが広がっていく。 --ちょっと揺さぶってみるか。


「やれやれ。自らの悪行をそのまま他人に擦り付けるなど、誇りも気概も無い卑怯者の所業。ヴェラドとは取るに足らない小物だったか……」


「貴様……! 男風情が、我が主君を愚弄するかぁ!?」


 瞬間。牙を剥いたグラツィアが勢いよく立ち上がり、強烈な殺気を僕に向けてきた。

 巻き添えで殺気に晒されてしまった宰相とフラーシュさんが、苦し気な悲鳴を上げる。このっ……!


 ズッ……


「……!」


 迎え撃つように僕が放った殺気に、グラツィアは僅かな怯えの表情と共に後ずさった。

 横目で宰相とフラーシュさんを伺うと、彼女達は奴の殺気から解放されて安堵の表情を浮かべていた。


「落ちつくのだグラツィアよ。公的な場でのそのような振る舞い…… それこそ貴殿の主君の器が知れるというものだぞ?」


「--グルルッ……!」


 グラツィアは悔し気に唸ると、乱暴な動作で再び跪いた。


 予想以上の反応に焦ったけど、グラツィアのヴェラドに対する忠誠心は確認できた。そのグラツィアが帝国の使者としてきているあたり、今回の宣戦布告はヴェラドの筋書きだろう。

 皇帝が元からヴェラドの言いなりだったのか、それとも既に殺されたりしているのかは分からないけど、帝国はヴェラドの意のままと考えたほうが良さそうだ。くそっ……!


「少し話は逸れたが、帝国の主張は分かった。ヴェラドは随分重用されている様だな。だが他の二国、イクスパテット王国とレプスドミナ王国にはその意図を問いただしたい。

 我らは、自国民を食い殺しているヴェラドを取り除くため、同じ思いで動いていた筈だ。それが一体どうした事だろう。いつの間にかヴェラドの側に寝返っているではないか。

 この決定は、本当にヴィクトワール女王とエメラルダ女王の意に沿ったものなのか?」


 馬人族(ばじんぞく)の王国と魔導国。これまで極めて友好的に国交を結んできた二国の使者にそう問いただすと、彼女達はやはり感情を感じさせない様子で答えた。


「もちろんです。私はヴィクトワール陛下の使者としてここに参じております。悍ましい真実に、陛下は帝国と協力して貴国を討つ決意をされたのです」


「同じく。エメラルダ陛下も、断腸の思いで採決を下されました。全てはエウロペアの平和の為、創造神様の名の下に貴国へ正義の鉄槌を下すと」


 --やっぱり、いくら何でもおかしい…… 使者達の様子もそうだけど、馬人族(ばじんぞく)の王国と魔導国が僕らに敵対する理由が思いつかない。

 まさか、僕が魔神とやらに生贄を捧げていると本当に信じているのか……!?


「では二国とも…… 先の宣戦布告を取り消すつもりはないと?」


 僕の祈るような最後の確認にも、馬人族(ばじんぞく)の王国と魔導国の使者は無表情に頷くばかりだった。


「--そうか。非常に残念だ…… では、これで話が終わりならばお帰り願おう。少々急ぎの用事ができたのでな」


「言われずとも。タツヒト王…… 戦場で(まみ)える事を楽しみにしております……!」


 吐き捨てるように言い放ったグラツィアを先頭に、使者達は謁見の間から立ち去った。

 みんなが呆然とそれを見送った中、僕は王座を蹴倒す勢いで立ち上がった。


「宮廷会議を招集せよ! 大至急だ!」






 僕の緊急招集を受け、他の場所で勤務中だった重臣達とお妃さん達も全員会議室に集合してくれた。

 そこで先ほどの顛末と布告文を共有すると、全員一様に驚愕の表情を浮かべていた。


「さて…… 皆はこの状況をどう見る?」


 僕の言葉に最初に反応したのはラビシュ宰相だった。


「わ、分かりませぬ…… 何が起こっているのやら…… その、陛下は随分落ち着いておられるように見えますが、この事態を予想されていたのですか……!?」


「そんな訳なかろう。其方らだから言うが、我も内心は皆と変わらない。まさに混乱の極みだ。だが、敵国に弱みを見せるわけにはいかないからな」


「敵国…… そ、そうだよね。あのグラツィアって人すごく怖かったもん。殺されるかと思った……」


 フラーシュさんが下腹部を抑えながら体を震わせる。宰相も先ほどの事を思い出したのか、青い顔をしている。


「王妃、そして宰相よ。先ほどは巻き込んでしまってすまなかった。グラツィアのヴェラドへの忠誠心を試そうと思ったのだが、軽率だった……

 しかしヴェラドの手腕を見誤った。まさか帝国そのものだけでなく、他の二国まで動かすとは、いったいどうやって……」


 それから僕らは、この事態の原因や経緯を理解しようと議論を進めたのだけれど、なぜこうなったのか分からないと言うことがハッキリしただけだった。

 シャムによると、グラツィア以外の使者のバイタルは正常すぎるほどに正常で、薬物当の使用の可能性は低いらしい。


 ではその使者達の主君、ヴィクトワール女王とエメラルダ女王はどうかというと、みんなから見ても今回の彼女達の行動は理解できないらしい。

 僕もお二人には会ったことがあるけれど、彼女達が人喰いのヴェラドに味方するのが想像できないし、簡単に騙される様な人達でもない。

 あと有難い事に、彼女達の国、馬人族(ばじんぞく)の王国と魔導国では、過去の経緯で僕は救国の英雄という事になっている。その英雄の国にいちゃもんをつけて滅ぼすとなると、国民からの反発は必至だろう。

 そんな風に議論が煮詰まり始めた頃、ヴァイオレット様が口を開いた。


「--みんな。この事態の原因などに関する議論も重要だが、今は対策の方が重要だろう。

 三日後に三国が攻めてくるなら、急ぎ(いくさ)の準備を進める必要がある。

 帝国に面した南方は、幸い以前から備えが進んでいる。馬人族(ばじんぞく)の王国に面した東方は、彼の国に近い王都から戦力を抽出すればいいだろう。しかし、魔導国に面した北方はかなり手薄だ。すぐに動かなければ……!」


 彼女の言葉に全員がはっとした。あまりの事態に、全員少し現実から目を背けてしまっていたらしい。


「ヴァイオレット妃の言うとおりだ、急ぎ防衛計画の立案、戦力や物資の配置を進めよう。メーム妃、物資の調達関しては頼っていいだろうか?」


「ええ、俺の商会に任せて下さい。あの内戦以降、備蓄は大量に確保してあります。国内の街道や運河もかなり整備されて来たので、なんとか間に合うでしょう」


「うむ、助かる……!」


 宮廷会議の議題は三正面防衛戦争の準備へと移り、先ほどまでとは違ってあらゆる物事が素早く決定されていった。

 そんな中、今回の件について、聖教を束ねる聖国のペトリア猊下や魔導国のアシャフ学長に相談してみようという話がでた。

 アシャフ学長はシャムと同じ顔を持つ妖精族(ようせいぞく)で、極めて強力な魔導士だ。魔導大学の学長と魔導士協会の会長を兼任していて、魔導国においては正直女王陛下よりも強い発言力を持つ。

 開戦まで三日しかない。あのお二人でも戦争を止めるのは難しいだろうけど、何より今は彼女達の深い叡智に頼りたかった。


 けれどトラブルは続く。早速聖都へ飛ぼうと王城の転移魔法陣に乗った僕らは、驚愕に目を見開いた。

 いくら魔力を込めても魔法陣が発動しなかったのだ。ここに来てまさかの故障である。

 不安が、僕らの心を満たそうとしていた。


火曜分です。大変遅くなりましたがm(_ _)m

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【水曜以外の19時以降に投稿予定】


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