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亜人の王 〜過酷な異世界に転移した僕が、平和なもんむすハーレムを勝ち取るまで〜  作者: 藤枝止木
19章 創世期の終わり

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第519話 図書館デート


 アスルとカリバルの二人と海底で発見した代物、方舟の主機関魔導装置の存在を、僕はすぐに宮廷会議で共有した。

 お妃さん達もかなり驚いていたけど、特に重臣達の食いつきは凄かった。


「で、ではその装置が修理できれば、この方舟はもう一度空に飛び立つ事ができるのですか……!?」


「もしそうならば、また……」


「ああ! またあの静謐な星空の世界に還る事ができる……!」


 ラビシュ宰相を初めとした重臣達の圧力に、僕は思わずのけ反ってしまった。

 長年宇宙で星空を眺めて生きてきた重臣達に取って、朝と夜が目まぐるしく変化する地表の空はちょっと落ち着かないようだ。


「そ、それはまだ分からないが、試してみる価値はあるだろう。(いにしえ)の時代にあったと言う大災害。この方舟が宇宙へ避難する原因となった何かが、また起こらないとも限らないからな……」


 重臣達の熱量に押されたのと、もしもの時の備えとして、僕らは件の装置について修理を試みる事にした。

 もし完璧に直せなかったとしても、あれは強力な闇魔法の増幅装置だ。何かに別の用途に使えるかもしれない。


 その主機関魔導装置復活プロジェクトには、リーダーとして二人の人物が抜擢された。古代文明の申し子であるシャムと、天才的な地魔導士であるプルーナさんだ。

 フラーシュさんも古代文明に詳しい非凡な光魔導士なんだけど、妊娠中の彼女をあの深い海底に行かせるわけには行かない。今回はアドバイザーとして助言してもらう事になった。


 で、快く仕事を請け負ってくれたシャムとプルーナさんは、すぐに海底の現場の視察に向かった。

 そこで装置の状況を(つぶさ)に調べ彼女達は、直すには自分達の知識が不足していると判断すると、今度は王城地下の禁書庫に篭ってしまったのだった。






 そして、シャムとプルーナさんが籠り始めて数日後の今日。僕は彼女達を労うべく、差し入れを持って禁書庫に入っていた。

 王城地下に広がる禁書庫は、一部の人しか入る事を許されない階層ダンジョンだ。

 地下五階までは安全で、各階層に古代の知識が収められた記憶装置群とそのコンソールが置いてある。

 しかし地下六階以降は広大なダンジョン部分が追加され、警備機械人形が出現する。油断すると普通に大怪我をするし、地下十階以降はかなり危険度も上がる。


 僕が二人を見つけたのはその地下五階だった。サーバールームのような雰囲気の部屋の中央。彼女達は集中した様子でコンソールの画面を覗き込んでいた。


「おーい、二人ともお疲れ様。差し入れ持ってきたよー」


 僕が声をかけると、まずシャムが顔を上げてくれた。


「あ、タツヒト! いらっしゃいであります! プルーナ、タツヒトが来たでありますよ!」


「--へ……? あ、タツヒトさん! もしかして差し入れですか? ちょうどお腹すいてたので嬉しいです!」


「それはよかった。ちょっと待ってて、今準備するから」


 僕はコンソールの側に大きめのシートを敷くと、その上に差し入れを広げ始めた。

 すると二人はいそいそとシートの上に乗ってきて、期待に満ちた表情で僕の手元を見つめ始めた。


「ふふっ、今日はサンドイッチと具沢山の汁物を持ってきたよ。さ、食べて食べて」


 バスケットに入った色とりどりのサンドイッチと、器に装った湯気を立てるスープ。それを目にした二人から歓声が上がった。


「わぁ……! この照り焼きマヨネーズ、絶対美味しい奴であります! 頂くであります!」


「じ、じゃあ、僕はこの卵の奴! あとは、あとは……!」


「あはは。ちゃんと各種三つ作ってきたから、そんなに慌てなくて大丈夫だよ」


 彼女達と出会って数年。最近はずいぶん大人びて来たけど、こうして時々見せてくれる子供っぽい部分が堪らなく可愛い。

 夢中で食べ進める二人を微笑ましく見ていると、シャムのほっぺたにソースがついているのに気づいた。


「シャム。ほっぺに照り焼きのタレがついてるよ」


 殆ど無意識にシャムのほっぺをハンカチで拭うと、笑顔でサンドイッチを頬張っていた彼女がぴたりと停止。頬を染めながら抗議の視線を向けて来た。


「あ、ありがとうであります…… でも、ちょっと恥ずかしいであります。シャムはもう大人の女性であります!」


「あ…… ごめんね。つい」


 ちょっと子供扱いし過ぎてしまったかも。反省。


「--あ、あー、本当に美味しいです。この卵のサンドイッチ。思わずがっついちゃうくらいに美味しいです」


 なんだか妙に白々しい声に振り向くと、プルーナさんのほっぺに大きめの卵のかけらが付いていた。

 顔を明後日の方向に向けながら、長い前髪の陰からチラチラとこちらを伺ってくる彼女に、ちょっとイタズラ心が芽生えた。

 僕は彼女の方に身を寄せると、ほっぺについた卵のかけらを口で取ってあげた。


「あわっ…… あわわ……!」


 するとプルーナさんは、顔を真っ赤にして俯いてしまった。

 今度はちょっとやり過ぎてしまったらしい。でも可愛い反応を貰えたから後悔は無い。


「むぅ……! タツヒト、シャムもがっついてしまったであります! ほら、ほっぺがべちょべちょであります! 舐め取って欲しいであります!」


「あ、いや、舐めとるの絵的にちょっと……」


 そんなふうに一悶着がありつつも、二人は僕の差し入れをとても喜んでくれたようだった。

 密かに用意していた、生クリームたっぷりのフラペチーノ的なデザートも、感激した様子で完飲してくれた。

 これだけ喜んでもらえると、用意した方としても嬉しい限りである。


「ふぅー。久しぶりのタツヒトのご飯、やっぱり最高であります。満足であります」


「ほんとだねー。ここに来てから、調べ物に夢中で保存食ばっかりだったから」


「二人とも、ほんとにありがとね。でも、あんまり根を詰め過ぎないで欲しいな……」


 満足げに食後のお茶を飲む二人に、僕は申し訳なさを感じながらお礼を言った。


「ちなみにだけど、今の時点で例の装置の修理に使えそうな情報ってあったかな? この地下五階までの資料だと、あんまり専門的な事はまでは調べられなそうだけど……」


「うーん…… 現時点だと、タツヒトさんが今言った通りという感じですね。

 当時の魔導技術の常識を知る上では有益なんですが、主機関魔導装置の修理に直接役立つような高度に専門的な知識となると……」


「だよねぇ…… やっぱり他のみんなにも手伝ってもらって、地下六階より下の階層まで調べに行く必要があるかぁ」


 プルーナさんの答えに僕が唸っていると、シャムが思い出したように声を上げた。


「あ、でも一つ収穫はあったであります。タツヒトは、樹環国で見た光の大樹の事を覚えているでありますか?」


「光の大樹って…… あの、天からの火で焼け落ちた奴? うん、覚えてるよ。忘れられる訳がないし……」


 以前、シャムの部品回収で訪れた樹人族(じゅじんぞく)の国、樹環国。そこではとある事情で太陽の光が殆ど得られない状況が続いていて、その対策のために使われた古代の魔導具が光の大樹だ。

 樹環国のとある都市の近くに根を張ったその木は、強烈な陽光を放ってその都市を照らした。

 しかし何かが創造神の逆鱗に触れたらしく、天から降ってきた強力な熱線のようなもので大樹は焼失。側にあった都市も半壊し、甚大な被害が生じたのだ。


「で、ありますよね…… この階層の情報に、断片的でありますが類似する魔導具の情報が載っていたであります。

 その情報から推測するに、光の大樹は地脈から大量の魔素を吸い上げて陽光に変換していたらしいであります。そこからさらに推測を重ねると……」


「……! そうか。地脈から魔素を大量に吸い上げる。その事が、創造神の逆鱗に触れた……?」


 僕の言葉に、シャムは神妙な表情で頷いた。なるほど、ありそうな話だし、めちゃくちゃ重要な情報だ……


「ね、ねぇシャムちゃん。多分、例の装置も魔素を大量に消費するから、修理しない方がいいんじゃ……」


「んー…… そうでもないかもであります。フラーシュによると、王城地下の龍穴からは今も魔素が吹き出しているであります。

 その湧出量と均衡する分なら、使っても問題ない気がするであります」


「あー、でもそうすると、装置による魔素の消費量を観測する方法が必要だね。ずっとフラーシュさんに見ていてもらう訳には行かないし……」


 その後僕らは、三人であーでもないこーでもないと議論を重ねた。

 以前三人で通っていた魔導大学時代に戻ったみたいで、とても有意義で楽しい時間だった。

 

大変遅くなりました。お読み頂きありがとうございましたm(_ _)m

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【水曜以外の19時以降に投稿予定】


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