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亜人の王 〜過酷な異世界に転移した僕が、平和なもんむすハーレムを勝ち取るまで〜  作者: 藤枝止木
19章 創世期の終わり

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第510話 孫の顔を見せに行くやつ:人類枠


 我らが愛息、アレクシスが生まれてから三ヶ月が経った。

 彼はすくすくと元気に育ち、早くも歯が生えて離乳食を食べ始めている。今の所好き嫌いも無いようで、なんでもぱくぱく食べてにこにこと笑う。

 ヴァイオレット様達と一緒に彼の成長を見守る日々に、こう、染み渡るような幸福を感じてしまう今日この頃だ。


 そんな成長著しいアレクシスだけど、ついにロスニアさんから遠出しても大丈夫だろうという許可が出た。

 僕らは早速支度を済ませ、主役のアレクシスと『白の狩人』のレギュラーメンバーで各地への挨拶回りに出かける事にした。


「みんな乗りましたね? --では、起動します」


 王城にある近未来的で無機質な内装の部屋。その中央の転移魔法陣に全員乗った事を確認し、僕は魔法陣を起動した。

 するといつものように五感が消失。少しして視覚などの感覚が戻ると、そこは転移前と似た雰囲気の別の部屋だった。

 移動が一瞬すぎて毎回実感が湧かないけど、ここはアウロラ王国から遠く離れた聖教の本拠地。聖都レームにある大聖堂の地下なのだ。


「--ふぇ…… ふやぁっ、ふやぁっ、ふやぁっ!」


「おっと。びっくりしたな、アレクシス。よしよし、心配ないぞ」


 初めて転移を体験したアレクシスが泣き出し、ヴァイオレット様が腕の中の彼を優しくあやし始める。

 僕は半ば反射的に彼女達の方へ身を寄せると、アレクシスの小さな頭をゆっくりと撫でた。


「あの感覚は大人でも来るものがあるからね。よしよし…… さて、上に行きましょうか。運よくお会いできるといいんですが……」


 全員で転移魔法陣の部屋を出て細い通路を通り、広間に続く扉を開く。すると。


「あ…… 猊下!」


「ペトリア! シャムが来たであります!」


 そこに待っていたのは、シャムと同じ顔を持つ金の長髪の妖精族(ようせいぞく)。世界的宗教組織である聖教を束ねる教皇、ペトリア四世猊下だった。

 彼女は僕らみんなのおばあちゃんのような存在なので、是非ともアレクシスに会ってもらいたかったのだ。

 しかし、なんだろう……? 僕らを見据える彼女が無表情なのは普段通りなのだけど、いつもの包み込むような優しい雰囲気が感じられない。

 どころか、何か張り詰めた空気すら感じられる。悪い時期に訪ねてしまったんだろうか……? 僕と一緒に声を掛けたシャムも少し戸惑っている。


「ペトリア……?」


「あ、あの、もしかして日を改めた方が良いでしょうか……? でしたら--」


「あむ……?」


 その時、アレクシスがぴたりと泣き止み、シャムと猊下を不思議そうに見比べ始めた。その様子が可笑しくて、僕らは思わずくすくすと笑い出してしまった。

 少しして猊下の方に目を向けると、彼女もまたアレクシスを見て微笑んでいた。彼女が纏う空気も元の優しげなものに戻っている。


「--皆、よくぞ参った。ここはその子には寒かろう。さぁこちらへ」


 猊下に促された応接室へ移動した僕らは、椅子に腰を落ち着けると改めて彼女に挨拶した。


「猊下、お久しぶりです。お会いするのはヴァイオレット様達との結婚式以来ですね。その後お身体は大丈夫ですか?」


 彼女はとある事情で、一時期寝たきり状態だった事がある。結婚式以降再発したという話は聞かなかったけど、一度あの伏せった姿を見てしまうと尋ねずにはいられないのだ。


「うむ、大事ない。 --タツヒト。其方の方こそ大変であったな。国を、民を預かる者の務めとはいえ、さぞ辛い決断であった事だろう」


「……! はい…… 自分の甘さを思い知り、王の重責を再認識させられました」


 猊下の心遣いに、内乱のあれこれを思い出してちょっと泣きそうになる。しかし違う。今日僕らは明るい話をするためにここへ来たのだ。


「あの……! こちら、僕とヴァイオレット様の子供のアレクシスです。是非猊下に会って頂きたくて連れてきました」


「猊下。どうかアレクシスを抱いてやって下さいませんか? この子も猊下が気になって仕方ないようです」


 僕とヴァイオレット様の言葉に、猊下がゆっくりと頷いた。


「--うむ、勿論だとも」


 ヴァイオレット様が嬉しそうに席を立ち、アレクシスを猊下に手渡した。

 彼女は手慣れた様子で彼を横抱きにし、その顔を覗き込む。するとアレクシスは猊下とシャムの顔を交互に見つめ、ご機嫌な様子で猊下のご尊顔をペチペチと叩き始めた。


「あむ! あむー!」


「こ、こらアレクシス!」


「申し訳ございません! すぐにこちらへ--」


「いや、案ずるな二人とも。このままで良い」


 あわあわする僕とヴァイオレット様にそう言いながら、無表情でほっぺをペチペチされ続ける猊下。

 非常に肝の冷える光景だけど、同時にとてもシュールだ。


「や、やっぱりであります……! プルーナ! アレクシスが確かにシャムと言ったであります!」


「ふふっ、そうだねシャムちゃん。でもすごいなぁ、アレクシス君。もう顔の見分けがついてるんだもん。

 --いや、この場合は見分けがついて無いって言うべきなのかな……?」


 その後もしばらくビートを刻んでいたアレクシスは、徐々にそのペースを落とし、やがてそのままスヤスヤと眠り始めた。我が息子ながら、やりたい放題な子である……


「うむ。とても健やかで元気な子だ。顔付きはヴァイオレットによく似ているが、髪はタツヒト譲りか……

 感謝するぞ二人とも。(われ)にとって、友の子を抱かせて貰える事ほど幸福なことは無い」


 嬉しそうに微笑む猊下に、僕とヴァイオレット様も笑い合う。

 しかし、喜んでばかりはいられない。ここから、ちょっと込み入った話をしなければいけないのだ。


「猊下…… その、少し相談させて頂きたい事があります。その子、アレクシスは、実は少し変わった子供なのです」


「--ほう」


 猊下の眉がぴくりと跳ねる。今日の彼女はいつもより表情が豊かな気がする。さておき、僕はヴァイオレット様に目配せした。


「うむ…… 猊下。お目汚しとなり申し訳ございませんが、こちらを……」


 ヴァイオレット様が、おもむろにアレクシスのズボンとオムツを脱がせる。

 そして顕になった彼の下半身を目にすると、猊下は驚く様子もなく、ただ目を瞑って長く息を吐いた。


「----そうか…… やはりこの子は、()の子であったか……」


 やはり……? 猊下のそんな様子に、まずゼルさんが反応した。


「猊下、にゃんで驚かにゃいんだにゃ? ウチらにゃんてその子のアソコ見てぶったまげたにゃ」


「ええ、そうですわぁ。ロスニアの話では、聖教の歴史上も男の亜人はこれまで存在していなかったという話でしたけれど……」


 訝しげなキアニィさんの言葉に、猊下が頷く。


「うむ、ロスニアの言葉は正しい。(われ)の知る限り、これまで亜人の()の子が生まれたことは無かった。だが、少し予感がしたのでな……」


 予感、かぁ…… まぁ、猊下もかなり底知れない人だし、創造神様と唯ならぬ繋がりがあるっぽいから、そういう事もあるのかも。


「--あの、猊下。アレクシス君は健康なんですよね? 私の診断では大丈夫だったのですが、その、亜人の男の子を診るの初めてだったので……」


「案ずるなロスニア。先ほども申したが、この子は健康そのものだ。健やかに、そして立派に育つだろう……」


 猊下の言葉に、全員がほっと胸を撫でおろす。よかった。それが一番知りたかったんだ。


「--ところで、此度はフラーシュは来ておらぬようだが、もしや……?」


「あ…… はい、そうなんですよ! 実はもう一つ嬉しいご報告がありまして、フラーシュさんもおめでたなんです!

 ご本人は元気なのですが、一応、今は大事を取って城で安静にしています。子供が生まれたら、真っ先に猊下に見せに行くと言ってましたよ!」


 分かったのはつい最近で、その時は僕らも城の重臣達も大いに喜んだ。

 が、一番喜んでいたのはフラーシュさん本人で、号泣しながら狂喜乱舞し出した時にはみんなで必死に宥めた。

 まぁあれだけ喜んでもらえると、僕としても頑張った甲斐があるというものだ。うん。


「そうか、フラーシュも…… 実に、実に喜ばしい報せだ」


 吉報の連続に、猊下も喜んでくれている様子だった。最初に感じた怖い雰囲気は気のせいだったのかもしれない。


 その後は世間話も交えつつ、アレクシスの今後についてみんなで話し込んだ。

 ただ、将来彼の子供がどんなふうに生まれてくるかについては、猊下をしても予想がつかないとのことだった。

 この件については共に考えて行こうと猊下は言ってくれたので、またちょこちょこ相談しに来ようと思う。

 そうして楽しい時間は瞬く間に過ぎ、そろそろ次の訪問先へ移動しなければという事になった。

 僕らは次の目的地への転移魔法陣に乗りこみ、見送りに来てくれた猊下に別れを告げながら魔法陣を起動した。


「--あぁ、神よ……」


 転移による感覚消失の直前、猊下がそう小さく呟いたような気がした。


火曜分です。遅くなりましたm(_ _)m

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【水曜以外の19時以降に投稿予定】


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