表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
亜人の王 〜過酷な異世界に転移した僕が、平和なもんむすハーレムを勝ち取るまで〜  作者: 藤枝止木
19章 創世期の終わり

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

509/528

第509話 賑わう地下街


 吸精族(きゅうせいぞく)の使節、ディーナさんは、一緒に来た使節団の面々と共に一週間ほど王都に滞在した。

 その間彼女は王都周辺を視察しつつ、ラビシュ宰相やお妃さん達全員とも顔を合わせた。

 ディーナさんと初対面の人達は、自分には実直な軍人として振る舞っていた彼女が、僕相手に豹変するのを見てかなり驚愕していた。

 事前に吸精族(きゅうせいぞく)の特性は説明してたのだけれど、アスルやカリバルなんかはかなりピリついてしまって大変だった……


 ちなみに、ディーナさんは吸精族(きゅうせいぞく)の中でも随一の自制心を持ち主で、仲間内からは堅物と呼ばれるほど真面目な方なのである。

 ならば一般の吸精族(きゅうせいぞく)の場合、男性相手に一体どうなってしまうのかというと…… それはもう大変なのだ。


 さておき、ディーナさんからもたらされた重要情報、鮮血の魔王ヴェラドの件については宮廷会議で協議済みだ。

 追加情報もある。吸血族(きゅうけつぞく)の国の新政権は、旧女王であるヴェラドの亡命先が判明した段階で帝国に引き渡しを要求したそうだ。

 しかし、ヴェラドはその時にはもう帝国の領主貴族に成り上がっていたので、新政権は現在に至るまで手出しできていないらしい。

 残忍で腕っぷしが強いだけでなく、他国でゼロから公爵にまで成り上がる政治力まで持つ…… その二つ名通り、彼女は凄まじいやり手のようだ。


 そんな人物が隣国の公爵をやっているのはやはり怖い。

 なので領民を喰い殺しているという噂の真偽確認も含め、キアニィさん達諜報部隊にはヴェラドに関する調査を依頼した。多分、一ヶ月ほどで調査結果が貰えるはずだ。


 そしてディーナさんが帰国した翌日。休みの取れた僕は例によってタチアナに変身し、非番のお妃さん達とデート出かける事にした。

 今日はゼルさんとエリネンが一緒に遊んでくれるそうで、二人の提案でお出かけ先は王都の地下街という事になった。

 連れ立って王城を抜け出した僕らは、王都を囲む三重防壁の一番外側、第三防壁付近に向かい、地下への階段を降りていた。


「そういえばアタイ、報告書は見てたけど実際に来るのは久しぶりだね」


 階段の終盤、もうすぐ地下街というところでそう呟くと、前を行く二人がちょっと得意そうに振り返る。


「にゃろうと思って誘ったにゃ! にゃふふ、きっと驚くにゃよ〜?」


「そうやで。おまはんが机に齧り付いとー間に、世の中は進んどったっちゅうこっちゃ」


「へぇ…… そいつは楽しみだね」


 王都の地下街は、その周囲をぐるりと囲む円環状の巨大地下空間だ。

 その目的の一つは都市防衛、地下からやってくる魔物への備えだ。強固な外壁で固めた地下空間に戦力を配置し、外壁を突き破ってくる魔物を都度迎撃するという形だ。

 一年ほど前にも、二体の強力な地竜(テラ・ドラゴン)が侵攻してきた事があったのだけれど、地下街に詰めていたキアニィさんとエリネンが仕留めてくれた事があった。


 そしてもう一つの目的は、地下性の住人への居住空間の提供だ。

 この住人というのは、主にエリネンと同郷の兎人族(とじんぞく)や、ティルヒルさんと同郷で土竜っぽい種族のナァズィ族の人達だ。

 最後に視察した時は、やっと地下街全域に空調や上下水道などのインフラが整って、ちらほらと人が住み始めたくらいだったけど……


 そんな風に地下街について思い起こしていると、いつの間にか階段を降り終えていた。目の前には地下街への大きな扉がある。


「よし、ついたにゃ! 今日はいっぱい遊ぶにゃよ〜……!」


「今日も、やろ。ったく…… ほれ、扉開けるで」


 エリネンがその扉を押し開く。すると--


「わぁ……!」


 扉の向こう側の光景に、僕は思わず素で感嘆の声を上げた。

 王都の地下街は、僕の記憶にある閑散とした場所から一変、大都市の繁華街顔負けの賑やかな空間に変貌していた。


 まず、とにかく人が多い。通りには浮ついた様子の人々が溢れ、王都の大通り並みに活気がある。

 今が夕方で、地下街のかき入れ時なせいもあるだろうけど、それを差し引いても驚きの熱気だ。

 人種も様々で、只人(ただびと)妖精族(ようせいぞく)以外に、馬人族(ばじんぞく)兎人族(とじんぞく)牛人族ぎゅうじんぞくなんかもいる。

 建物もかなり増えていて、近くには屋台や健全そうな遊技場、奥の方には賭博場や大人の店などが所狭しと建っている。

 お客を呼び込む声がや人々の話し声がそこら中から聞こえてきて、まるで祭りのような雰囲気だ。


「すごいね……! 数字や文字で見るのとは全然違うよ! ここまで活気に溢れた街になってたなんて……! まるで魔導国の首都の地下街みたいじゃないかい!」


「にゃはは! まだあの賭博都市とまでは行かにゃーけど、確かに人も店もめっちゃ増えたにゃ!」


「その分警備すんのもしんどいけどなぁ。ま、今日のウチらは非番や。仕事は下の(もん)らに任せて楽しもうや」


「「おー!」」


 それから僕は、地下街における二人のおすすめスポットを案内してもらった。

 エリネンお勧めの怪しい屋台で買った謎肉串は意外に美味しく、出所不明な品を扱う雑貨屋宝は冷やかすだけで楽しかった。

 ゼルさんは行きつけの賭博場でいつものように大金を掛けまくり、その上で負けまくっていた。その場に居合わせた人達は大いに沸いていたけど、彼女自身はずっと泣いていた。


 大人のお店の通りもちらりと覗いて見たのだけれど、本日休業の看板がかかった所がいくつか見られた。

 通りにいたお兄さんに聞いてみたら、それらは吸精族(きゅうせいぞく)の使節団御一行が「視察」に来たお店なのだとか。

 金払いも良くて死人も出て無いらしいけど、相手をしたお兄さん達はまだ起き上がれないらしい…… 彼女達は随分熱心に「視察」したようだ。


「にゃっはー! やっぱり、一人で回るよりおみゃーらと一緒に遊んだ方が楽しいにゃ! もうずっとこうしてたいにゃ!」


 一通りお店を回り終わった所で、ゼルさんが満面の笑みを浮かべながらそう言った。あんなに負け続けたのに、実に楽しそうで素敵な笑顔だ。悔しいけどちょっと見惚れてしまう。


「ははっ、そいつは無理やろ。おまはん、もうそろそろ財布が空なんとちゃうか?」


「にゃっ……!? そ、そんにゃはずは…… --ほ、ほんとだにゃ…… まだ行きたい賭博場があったのに…… うにゃぁ〜……」


 涙目になるゼルさんに僕とエリネンは苦笑いだ。


「そりゃあ、あんだけどかどか賭けてたらねぇ…… ゼル。地下街がこんだけ栄えてるのは、実はアンタのお陰なんじゃないかい?」


「しょぼくれた顔しよってからに…… わかった、次の店はウチが掛け金出したるわ。これで最後にせーよ?」


「……! エリネン、ありがとーだにゃ! おみゃーはウチの心の友だにゃ!」


「だー! やめーや、うっとーしー!」


 感涙して抱きついてきたゼルさんを、エリネンがちょっと楽しそうに引き離そうとする。

 なんだか混ざりたくなったので、僕は二人に歩み寄って両方まとめてハグした。


「お? どうしたにゃ、タチアナ」


「ちょ、ちょおやめぇや。恥ずかしい……!」


 ゼルさんは平気そうにしているけど、エリネンはちょっと顔が赤い。いまだにこういう反応をしてくれるから嬉しいよね。


「ふふっ…… アンタらがあんまり仲良いから、ちょっと妬けちゃったのさ。さ、次の店に行くんだろ?」


「にゃ、そうだったにゃ! 借りた金でやる賭け事が一番ひりついて楽しいんだにゃ! 二人とも、あっちだにゃ!」


 ハグから抜け出したゼルさんが、物凄い台詞を吐きながら賭博場へと走っていく。

 僕とエリネンは、思わず真顔で顔を見合わせてしまった。


「--あいつ、一回思い知らせた方がええんとちゃうか?」


「そうしたい所だけど、多分無理だね。何たって借金奴隷になっても治らなかったからねぇ……」


「そ、そうやったな…… しゃあない。また奴隷落ちしたらかなわん。いくで」


「うん。しゃあないね、全く……」


 僕らは小さく笑い合うと、賭博場の前で手を振るゼルさんの元へ走った。


月曜分です。遅くなりましたm(_ _)m

よければ是非「ブックマーク」をお願い致します。

画面下の「☆☆☆☆☆」から評価を頂けますと大変励みになります!

【水曜以外の19時以降に投稿予定】


※ちょっと下に作者Xアカウントへのリンクがあります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ